たけ 下に平和な暮しを楽しんだ。われらが漁師たちは、はるかにの周辺一帯に猛り狂い、イギリスの悪魔どもの中より一人の もと もたら じゅじゅっ 南の方のイギリスの悪魔どもの消息を齎し、ときには彼らの呪術師をわれらが許に吹き寄せた。全く意識を失って、半 この徴によってわれ ばまで溺れたも同然の状態であった 白い巨船がチエサピークを北上してゆくのを見かけることも よみ あったけれど、われらが島にも近くの本土にも、彼らが上陸らは、神々がわしの即位を嘉し、わしの治世を加護するもの することは絶えてなかった。とにかく彼らに対するわが父のであることを知ったのである。この呪術師が悪魔であって、 怒りは大きかった。産気づいたわが母、王妃ポカトワタッサわれわれみすからのごとき人間ではないことを部族の者一同 トーテム 、もしも生れた子が白かったならば、二人の子と に信じ込ませるために、わしはわれらが表象柱を差しのべて あが へそお はいえ、臍の緒を切る前に殺してしまう旨を誓一言したくらい彼にこれを崇むべきことを命じたところ、悪魔である彼はこ つば ーリンゲーム二世れに唾を吐きかけた。よってわれらは彼に、死を宣告せられ である。そして彼は、わしにヘンリー ふん 呼ぶときにはアハチフープの名をた者に与える特権を与え、翌日あれなる裁きの庭において焚 と名付けたのであったが、 クアサペラの 用いてチカメクと言った。毎日〈イギリスの悪魔の本〉を読刑に処したのであった。おまえたちもまた むのを習わしとなしたばかりでなく、アハチフープの者たち兄弟なる者を除きー、ーすべてが同じことになるであろう」 あお 「お待ち下され ! 」工べニーザーが声を上げて口を挿んだ。 を煽り立てて、彼らが手中に落ちた白人は、なんびとといえ どもこれを殺害するように説いておった。わしが二十六歳の彼は先刻来、年代と過去の記憶とを付き合わせながら、その 年に彼は死んだのであるが、最後の息を引き取る間際に彼は、整理に苦しんでおったのである。「スミス船長が航海を行っ われらが民に語りかけて、タイヤク・チカメクが彼らの部落たのは一六〇八年、あんたがそのイギリスの悪魔を殺害した をイギリスの悪魔どもより守るであろうことを告げると共に、のは二十六の年であったという。それでは、クアサペラ、あ 人 わしに誓わせて、われらの間に姿を見せる肌白き者は、たとれなるあの櫃は、彼の言うその呪術師の持ち物ではなかった へいしト ` う えわが妻、わが嬖妾の胎内より現れた場合といえども、必のか、彼に尋ねてくれぬか ? ・ の 草 その質問が通訳せられたところ、それを肯定する答えが返 ずこれを殺害するという大いなる誓一一一一口を立てさせたのである。 れ ってきた。 叱「彼の逝去を悼むアハチフープ族の悲嘆の声は大きかった。 酔 「それならば、今ひとっ尋ねたいことがあるーーータイヤク・ よってわしは、父に代ってウェロウアンスとなったときに、 おんちょうしるし 丿ンゲームの他にも息 神々がその加護を語る因」寵の徴を下したまわんことを祈っチカメクには、わが友ヘンリ あらし たのである。するとたちまちにして、すさまじい嵐がわれら子がおるのではないか ? 」彼はイエズス会士のトマス・スミ おば ひっ
321 酔いどれ草の仲買人 あふ 胸に溢れる愛情に心を奪われていたエベニーザーは、それ この無垢の身はかりそめの贈物にはあらで にもほとんど気付かぬ風で、後手を組み、熱に浮かされた者 贈らるるや返しのきかぬしろもの のように大股に部屋の中を歩き廻りながら、初めて経験する 宝の山からたまさかに取り出したる月並の珠玉とはこと この感情の力と深さを推し量っていた。「おれは今三十年間 なり の眠りからようやく醒めたところなのか ? 」彼はわれとわが 身に問いかけた。「それとも、今こそが夢の始まりというに 取り出さるるやつぐのいの叶わぬ珠玉 とうぜん 過ぎないのだろうか ? 醒めていながらこうも蕩然とした夢 守りきたりしわが無垢はまたわが身を守りて 見心地を覚えるはずはないし、さりとて夢を見ながらこうも みなぎ はつらっ 人生を時を死をそして歴史を遮り 漫剌とした生命が身内に漲るというのも不可思議だ ! これなくしてはわれもまた人間の限りある息吹きを呼吸 あ ! 歌だ、歌だ ! 」 せねばならず 彼は書き物机に駆け寄ると、あわただしく鵞ペンを取り上 たど 生の道をーーそしてまた死の道を辿りそめねばならぬ げ、すらすらと次のような歌を書き記した いとお 書き終った彼は、その末尾に、イギリスの桂冠詩人、紳士 毀たれしトロイの町を愛しむプリアモスの情も 工べニーザー・クックと書き記した。そう書き記されたその 跳びはねる吾子をめずるアンドロマケのなさけも おも 操堅くその身を守るベネロべをしのぶュリシーズの想い姿を眺めてみるために、試みに記しただけのことであったの だが、その結果に彼は満足であった。 うれ つぶや なんじ 「あとは時間の問題に過ぎんな」嬉しそうに彼は呟、こ。 いとしのジョーンよ汝に寄するわが愛には如かす 「全く、賢者はおのれの何たるかを知るというところだ。も ごと め しもジョーン・トーストを相手にあくまでも踏みとどまらな さわれエンデイミオンを賞ずるセメレの如く心静かに かったならば、おのれの何たるかを知らずに終ったかもしれ 生さぬ仲なるヒポリトスの女を知らぬ清らなる姿を いとおしむパイドラの、ことくに ない。あの態度は、あれはおれが自分で選びとったのかな ? 願わくばわがいと いや、あそこに〈おれ〉などというものが入り込む余地はな しの君よ かった。先に選択があって、おれはそのままに動いたのだ 汚れなきわが身のこの純潔をこそ愛したまえ おおまた
「ところがおれに言わせれば、あのとき飲んだのはマデイラかね ? 」 じゅんしよく 「記憶しておる事柄すらも潤色されがちであるということ」 であった」 4 ・ エ・ヘニーザーは笑った。「その点ならば、あんたの記憶よ ーリンゲームは答えた。「テセウスが迂余曲折のたびごと ス かっ におのれの残した糸を巻き戻して、もっと見てくれのよい恰 りも僕の方が信用できる。何しろあれは、僕が生れて初めて ぶどう 好に改めて置き直すようなものだ」 飲んだ葡萄酒であって、名前を忘れるはずがないもの」 「そういう風に難点を指摘されてはもはや致命的だな」工べ 「それはそうだろう。しかし、そもそもの名前が正しいかど うかが問題だ。おれの方でも、君の最初の酒だというのでよニーザーは言った。「グレーテルが森に入るみちみち落して からす く注意していたのだし、マラガとマデイラの違いも、い得てお行った豆が、四羽の黒い鴉にことごとく食べられてしまった るが、君にとってはどっちにしたって初めてのもの、名前のようなものだっ ' = 行細一一壑。の」話 ) 」 「いやいや、いま言ったことは弱点に過ぎない、致命傷では したがって混同もしやすいわけだ」 違いなんそ意味がない。 「それはそうかもしれない。でもあれはマラガであったと僕ないよ。途はそのために消滅するわけではない。曖昧になる だけだ。ゆえにわれわれがいかに努力しようとも、確証は掴 は確信している」 ーリンゲームは言った。「要はめないわけだ」バ ーリンゲームは微笑しながら「ところがだ 「どちらでもよろしいが」ノ にいま一つ難点があるのだ。つまり、記憶しておる だね、記憶というやつは、互いに一致しない場合に論争してね、ここ みても、往々にしてこれを解決する手段がないんだな。これことがそのまま難点になりかねないということ」 や 「なんだって ! 思わせぶりは止めて、そのものをすばり一言 が第二の弱点さ。そして第三に、われわれはたいてい望まし うてくれないだろうか」 いことは思い出して、その他は忘れるという点だ。たとえば ーリンゲー 「おれの記憶が信任状だ、そう君は言ったな」バ 君の四行詩、君の口からあの昔の詩句を聞くまでは、あれを しし彳オムは説明を始めた。「おれの記憶はぞんざいに使たものゆ 作っている君を残して、こっそりと二階へ女を買、こ一可っこ ことなど、おれはきれいに忘れておった。一つには、そんなえに曇っていて不完全であるし、君の記憶もまた御同様では ーリンゲ 形で君を一人にしたことを恥じる気持が、はやばやとその事あるが、双方に一致する点があるために、おれがバ ームであると君に納得させるには足りる。他の方法によって 実を僕の意識の外へ放逐してしまったからだ」 あんしよう これを証明するてだてはないのだけれど。しかし、ときどき 「いやはや、わが北極星は遂にわれを暗礁こ導、 工べニーザーは嘆声をもらした。「それで、第四の難点は何あることだが、この記憶の糸が完全に失われたとしたらなん
バース 928 「なぜだ ? 」言葉鋭くエベニーザーが尋ねた。 れすべてが死なねばならぬのであってみれば、奴ら邪宗の と - もみ ~ ら 「ここの奴らは、奴らの二人の頭領がひそかにチエサピーク輩を喜ばせるために、十倍もの苦痛を味わわねばならぬい を渡って来るのを待っておったのだ」マキヴォイは言った。われがどこにあろうか ? 」 「一人は黒人の頭領、今一人は蛮族の王の中でも最強の王で「あんたは何をしようというのだ ? 」工べニーザーが尋ねた。 あったものを、総督によってその座を追われた男。数日前に 「自殺か ? わたしは喜んでみすからおのれの命を断って結 ン一丁イ・レ 丿ーが、この小屋の壁越しに囁いて、それだけの着をつけるものであるそ」 ことを教えてくれた。今まではあれほど声を張り上げて存分「わしたちはそれをやるべき手立てを持っておらぬ」船長は に歌ったためしがないところからすれば、いよいよ両陛下の言った。「しかしながら、即死をするか、もしくは全員が一 御入来に間違いなし、歓迎の催物の開始も間近というところ団となって死ぬかする途は、なおわしたちにも残されておる であろう」 であろう。もしも奴らがわしたちをこのままひとまとめにし 事実また、新しく到着した者たちが列を作って広場に繰りて外へ運び出すのであれば望みはないけれども、来たときの 込んで来るや、部落の者たちも彼らの歌の仲間に加わり、熱 ごとく首に縄をかけて繋いでおいて、足は自由にして歩かせ 狂的な声を張り上げると共に、太鼓を打ち鳴らして拍子をとるのであるならば、わしたちはみんながいっしょになって駆 やり り出し、囚人たちが、聞えて来るものより判断した限りにおけ出すのだ。あとは奴らが槍と矢を放ってわしたちを阻止す いても、どうやら焚火を囲んで何か勇壮なる踊りでも始まつることを祈るばかりだ」 うめ たような様子であった。バートランドは息を呑んで呻き、エ 「それは決してうまくゆくまい」マキヴォイはせせら笑った。 ば、っち。よう べニーザーはひとりでに身体が震え出すのを押さえることが 「こっちは追いっかれて連れ戻されて、奴らの肉切り庖丁の えじき できなかった。マキヴォイすらがいささか落着きを失うあり餌食になるばかりだよ」 ばりぞう′ ) ん さまであって、声を殺しながら罵詈雑言の数々を噛んで吐き バートランドが悲鳴を上げた。 ふんまんしようそう 出すがごとくに並べ始めたのである。いわば、憤懣焦燥の 「その上に」マキヴォイが附け加えた。「おれは模範的な教 かっこう うちに主の祈りを捧げておるような冾好であった。 区民でないとは申せ、カトリック教徒に違いはな、。、ゝ その中にあって船長のみはあくまでも冷静を保っていた。 る場合にあっても、われとわが命を断つような真似はするわ 「奴らの拷問をひたすらに待っておるのは愚というものであけにまいらぬ」 ろう」真剣な面持で彼は言った。「とどのつまりは、われわ「それならば、ここにさらに良い一案がある」船長が言った。 こや の
ったがために離れるわけにゆかす、〈ロウ氏〉はまた、今し を捧げねばならぬ ! 」 「もうよい」トマス卿が命令した。「よいか、大佐、この所ばらくこの重要証人の傍に是非ともおらねばならぬいわれ 。し力に、も があると一一一一口うて、残ることになった。アンドルーま、 領にはメリーランドそのものが大きな関、いを持っておること を忘れるな。そもそもわしが当地に参ったのは、この地の事離れ難い様子であったが、エベニーザーはそれを慰めて、 しさい 清を仔細に調べるためであった。総督にもしもその意がある「お互いに語るべきことは山はどありますけれど」と言った。 「それを語る時間もまた、何年もありましようから。差し当 ならば、クック氏も帰って来たことであるし、今日この日に も、その問題について審理を開始することができるであろってのわたくしは、食物と睡眠とに死ぬほど餓えておる気が う」重ねて彼は、その場の面々、とりわけリチャード・サウ致します」 「わしがスープを持ってまいろう」ロごもりながらそう一一一一口う ターに対して、事態の決着を見るまでは、この地を離れるこ と、父親は部屋を出て行った。 とが禁じられておる旨の注意を喚起したのであった。 ローマの聖女。肓目の殉教者。ォルガン 工べニーザーは深い溜息をもらしながら「ヘンリー 「聖セシリア ( ) のオルガンにか を発見したと伝えられ、音楽の守護聖 けて断言する ! 」サウターが抗議の言葉を放った。「それはあんたの正体を父に伝えてくれ。僕はもう正体を偽ることに ヘイビアス・コルバス 〈人身保護法〉を侵犯するもの ! 閣下、われらはあなたをは飽き飽きした」 ーリンゲームもそれは約束した。「おれもよう 「エすよ」ハ 法廷に引き出しまするそ ! 」 「それはおまえの権利だからな」トマス卿は答えた。「それやく、おのれが何者であるか、分ったのだからな。それにし までクック岬を離れてはならぬ。ロウ氏がトリップ少佐と連ても、エベン、まさに奇蹟と一一一一口わねばならぬ ! すぐにもお 父はそ 絡をとって、今朝すでに当所の敷地には民兵が配置してあれは、父のその本を手にして見たくてたまらない れを何と呼んだのであったかな ? 〈イギリスの悪魔の本〉 買る」 まき、に大可唄 か ! アハチフープ族の王であったとは ! の このしらせに一同は驚愕を禁じ得なかった。ロボタム大佐 ひげ れはしきりと髭をひねり、サウターは公僕がそのような挙に出だ ! 」彼は教師らしい仕草を見せて、人さし指を立てながら 、ど 二世紀中頃の。ー「会の ) 微笑を浮かべた。「でも、今はいけないよ、エ、、ヘン。さよう、 るのは横暴であるとして、聖ヒギヌス ( 長 酔 聖ヨハネの弟子。一五六年に殉教したスミ 今はまだアンドルーには知らせるわけにゆかぬ。おれはでき ) に呼びかけ や聖ポリカルプス ( ルナの主教。「ビリピ人への手紙」で有名 いてトマス卿は一同の退るだけ早く、プラズワス島に赴くつもりでいるーーわれわれ ながら、その非を鳴らし続けこ。 出を要請したが、アンナはすでに兄の看取りの役を勤めておの仕事が、今日この場において解決を見るならば、明日にで
する案を持ち出したのである。その裏面には、クードが官職て何の益がありましよう。せめてヴァージニアまで、無事に にあった短し尸し員 、司こ、オ産を没収し、人を裁判にかけたときの送り届けて下さりませ。そのときには書類をお渡し致します 記録が記されておると信じられている、あの部分である。桶る」 ふたたびバー リンゲームは、総督とトマス卿とを相手に、 屋はすぐさまその交換を承諾したけれど、サウターがそれを 声をひそめて協議を行った。 引き止めた。 もたら 「それが齎す結果のことを考えてみろよ、ビル ! 」相手を戒「総督閣下の御勧告によれば、両者の恙ない脱出を保証して めて彼は言った。「あんたがその書類を手放したことがジョやれとのお言葉であった」改まってヘンリーは宣告した。 ひとっき ン・クードの耳に入ったならば、おれたちは果して一月も生「ただし、最初に申し入れたことを受諾させるための条件と もしも、スミスが当所領にす きのびられるか、怪しいものであろう ? その上、おれたちして申し渡すものではない る一切の権利を放棄するならば、明朝、両名をメリーランド に対してそのようなことを申し入れてくるからには、総督に より脱出せしめるであろうということである」 とってその文書がよほど大事なものであるに相違あるまい ? 「ああ、何とありがたいことであるか、閣下 ! 」アンドルー 〈十一ペンスで売れるものなら、一シリングで売ることは は感極まった声を上げた。 易々たるもの〉と一言うではないか : せっしよう 「そんな殺生な ! 」サウターは抗議した。「おれたちの血の 「守衛官、この両名を引っ立ててまいれ」有無を言わさずニ おまえを失望させるのは最後の一滴までも絞り取るつもりなのか ! 」 コルソンが命令した。「ヘンリ ニコルソンはにやりと笑いながら「しかも連れて行く先は おまえの祖父の日誌を手に入れるために、 本意ではないが、、 ヴァージニアではなくして、ペンシルヴェニア。ヴァージニ 謀反人どもとこれ以上取引をしておるわけにはまいらぬ」 買「お待ち下さい ! 」とたんにサウターが声を上げた。「あんアは今でもわしの敵の数に不足はないのでな」 「そのおまえをカトリックとは、あれは真赤な偽りなのだ な書類なんそはお渡し致しまするが、ただ閣下の保証を文書 ののし 草 な ! 」ウィリアム・スミスは声張り上げて罵った。「おまえ れ に認めて頂きたい : ど なんぞはキリスト教徒の名にすらも値するものではない ! 」 ニコルソンは頭を振った。「わしはそのような愚か者では ためいき 酔 サウターが溜息まじりに言った。「おれたちにはあれこれ オし」 「ああ、これはしたり ! では、閣下、せめてこれだけでも言える立場ではないよ、ビル。あの書類を持って来たまえ、 渡の証書を作成しよう」 ジョン・クードに殺されては、われら両名、取引したとおれが土地譲、 つつが
ーリンゲームの他には、一人としてこの一一一一口葉の真意を解 たび罕びの庭の木の実によって腹を満たすや彼は、その罰と うめ した者がなかったけれど、農場主たちはしかしながら、これして胸を焼く絶望に呻き、し 、と暗き死の影の射す中に、さ を聞いて陽気に浮かれ出し、競い合って桂冠詩人のための酒さやかなるおのれの道を探らねばならなくなったのである」 ス を買った。 ーリンゲームは肩をすくめた。「それはこのおれが もんちゃく 「あんたはテイムの操った喩え話に悶着をつけておった」 「待たれよ」桂冠詩人はきめつけるように言った。「おれの 「さようか ? ならば彼には気をつけさせるがよい。〈カー 話はまだ終っておらぬ ! 」工べニーザーにわれから進んで酒 ーリンゲームではあったものの、このアルコール ドが操れるとてトランプができるとは限らぬ〉のと同じで、を勧めたバ ライム ライム によって促進された教え子の雄弁には、明らかにこれを持ち 韻が操れるとて詩人とは限らぬからである。韻を踏むのは、 おもてそむ うまくできたとしても、せいぜいのところ、詩の女神の下穿扱いかねるもののごとく、面を外向けておのれの杯を口に運 メタファー ス きの縫い取り飾りに過ぎないけれど、暗喩こそはその下穿きんだ。そしてまた客人たちは、それから先の展開を期待しな がら、面白そうに互いに肱で突っき合ったのである。 を織りなす生地そのものーー・と一一 = ロうも過言ではあるまい」 ひゅ 「今夜の君には無理というもの、一晩かけても思い出せはせ「あんたが軽率にも結びつけたあの比喩において忘れられて ぬよ」ハ ーリンゲームは言った。見るからに浮かない表情でおるものは」工べニーザーは言った。「すなわち、人祖アダ りん 1 」 ある。 ムが食らった林檎の種類に他ならぬ。一切の根幹となるもの 「いや、思い出したぞ」工べニーザーははしゃいだ声で言っ いかなる知識であるか ? 人間に死の種を ま た。一座の者たちは微笑を浮かべ、話し出す前にまず杯を乾播くものま、、ゝ 。し力なるまがまがしき経験であるか ? みずか せとしきりに彼を促した。 らその身の膨らむほどに種を蓄わえ、東西両半球にわたる畠 「あんたは僕をアダムになそらえた、あれに僕は異議を唱えの数々にその種を播きちらしてきたあんたにして、なおこれ たのであった」彼は衣服の袖でロを拭うと、酒卓にこばれたを失念するとは、どうしたことであろうか ? テイムよ、そ ひじ れは取りも直さず官能の知識、肉の経験、これが人間の堕落 酒の上に、かまわず肱をついた。「思うにわが友ティモシー つみびと もしもこのおれがアダムならば、おれは は、われらが人祖アダムが罪人であったこと、並びにその原を将来したのだ ! 罪が知識と経験にあったことを忘れておる。あの罪の実を食イヴなきアダム、〈アダム・イヴレス〉は不滅にして堕落を らう前のアダムは、経験に学ぶことなく、死もまたこれを知知らぬ。これを要するに、ティモシーどの、わが領土は失わ らぬ、獣のごとき不滅の存在であった。しかしながら、ひとれたといえども、われみずからは失われておらぬ。以上終 そで ズロ
いきなりズボンのポケットに押し込んだのである。時はすで ンドが声をひそめて言った。 「これを持って行け」王はそう言いながら一人一人に小さなに午後もたけて、海岸ははや崖の影に包まれておったからし せきつい 魔除けの護符を与えた。大きな魚の脊椎を彫ってこしらえたて、二人は黒人の巨漢とクアサペラとにねんごろに別れをつ ものであるらしい 淡い青みを帯びた白い中空の円筒形のげると、蛮族の少年を道案内に、林の方へと崖を登った。そ して、裸足のゆえに心もとない足どりながら、とにもかくに 骨で、幅が四分の三インチばかり、直径はその半分ぐらいも あろうか、背中の方と腹の方へのびる肋骨をそれぞれ切り落も北西の方角をめざして歩き出したのである。 うれ 「おまえ、同朋のところへ行くというのに、あまり嬉しそう した跡が、小さな突起となって残っておって、全体が半透明 ートランドを顧みてエベニーザーは一一 = ロ 。バートランドは失望のな様子ではないな」バ に近いところが魚の骨の特徴である つつ ) 0 色を隠さなかった。「わしの命を救ってくれた返礼にしては、 「黄金の都だとても、このような具合に、やすやすと探しに ささやかにも見えるであろう」クアサペラは厳しい面持で一一一一口 そうくっ った。「しかし、ウオレンがわしを釈放したのは、それと同行けたものを、海賊の巣窟に出かけるのでございますもの、 嬉しいわけがございませぬ」従僕は答えた。「それにあの蛮 じのを一つ、奴に与えたがゆえであった」 あほう 「ウオレンという奴は阿呆とみえるな」バートランドはロの人の王さまとの取引にしても、ドレークベッカーと魚の骨二 つぶや っとの交換とあっては、とうてい上出来の取引とは申せませ 中で呟いた 国王はバートランドを相手にせすして、エベニーザーに言ぬし」 というてまた、贈物をしたわけでも 「あれは取引ではない った。「それを指輪としておまえの指にはめるがよい か死神の手が迫ったときに、その指輪が死神を追い払うであない」詩人は言った。「あの国王がおのれの命を救ってくれ たというてわれらに恩義を感じておったとすれば、われらの 買ろ , つ」 工べニーザーもまた、その贈物には、いささか失望を禁じ命を救ったことでその恩義はすでに帳消しになっておる」 の しかしながら 、バートランドの不満は、そのような一一 = ロ葉ぐ 草得なかった。ぞんざいな彫刻は装飾と呼ぶことすらも躊われ ていちょう 、ど るくらいである。しかしながら彼は、鄭重にそれを受けるらいで簡単にはおさまらなかった。 酔 「正直に申しまして、旦那さま、わたくしは何もおのれの利 と、指輪にしては厚味があり過ぎてぎごちないゆえに、田、 ひもつる 益を計るつもりも、不敬を働く所存も、ございませぬけれど 生皮の紐に吊して首にかけ、シャツの下にそれをおさめた バートランドはまた、それとは対照的に、そんざいそのもの、も、従僕の身にして神さまになれるとは、千載一遇とも申す ためら
なになになる咽喉をこそ、その刃をもって切り裂くがよい、 不可解とも何とも奇怪に思えたものは、その文句が ( その積 りになって思い返してみれば ) 蛮人の一一 = ロ葉ではなくして、歴愚か者めが、というのであった。 キングズ・イングリッシュ とした純正の英語であったではないか 「誓って一言うが」工べニーザーは言った。「あの声は前にも わが美しの君の my-y la-a ・ dy weep 〉 ( ) そう彼は歌っているのでわたしは聞いた覚えがある ! 」 涙するを見たり あった。そしてそこで息をついで、ふたたび歌は続いた。 「おそらくはおまえさんが言うた何とか船長の亡霊であろ ••tO be advanced so•• う」吐き棄てるように船長は言った。 〈 And Sor ・ row proud•• 〉 ( 年老いしこ らかなる 「違う、ああ、あれはーー」彼はその先を続けるつもりであ 悲しみを 「何だ、也にもイギリス人がおったのか ! 」 ったのだろうけれど、話を終えたインディアンが、そのとき 「あの男にとってはそれがなおさら禍のもとだ」船長が答捕虜たちの首を縛って繋いだ引き綱を、いきなりぐいと弖い えた。「われらにとってもありがたいことではないがな」 たゆえに、それは妨げられて、彼らはそのまま、怒気を含ん だテノールの声が響いている当のその小屋の方へ引かれて行 「〈一 n those fai 「 eyes> ( 瞳にし 0 ') 」と歌はなおも続く。 カス 「〈一 n those•• ••fair eyes•• った。その入口のところで彼らは首の縄を解かれ、独木舟に て 「よくもまあ歌など歌う勇気があるものだな」感に堪えたるて運ばれたときと同じように、ふたたび一人一人が別々に手 かせあしかせ 面持でバートランドが言った。「それとも監視の者の許しを枷足枷を施された。その間もエ・ヘニーザーは、信じられぬと まゆね 言いたげに、眉根を寄せ、首を振りなどしておったけれども、 得て歌っておるのであろうか ? 」 しかしながら、この後者の見解は少なくとも当を得てお武器を携えた今一人のインディアンが、その小屋の中から姿 らなかったようである。というわけは、「〈 Where all perfec ・を現したとたんにふたたび始まったテノールの歌声をあらた うめ 欠くるところなき美徳の 人 tions keep ・ と、思いのたけをめて聞くに及び、詩人はふたたび「ああ、あれは ! 」呻くよ こと」とく宀佰りし : 買 うにそう一言うと、全身をわなわなと震わせたのである。 仲こめた次の歌詞を彼が歌い出したところで歌声は止み、歌と 草はおよそ似つかわしからぬ罵りの言葉と変ったからである。 続いて二人の男が、小屋の入口に最も近く立っていたバー からだ ひぎまず 叱要するにそれは、これこれしかじかなる蛮人どもが、死を待トランドの身体に手をかけると、力すくで彼を跪かせ、槍 酔っぱかりの哀れなるだれそれに、なになになる歌を歌うことの穂先を使いながら、悲鳴を上げて抗議を行い慈悲を乞うの すら許さず、そのこれこれしかじかなるロ短調の調べに短刀も委細かまわす、小さなその入口から否も応もなく中に匍い を突っ込むというのであれば、し、 、っそ今のこの瞬間に、その込ませてしまった。監禁の身が今や目前に迫った船長もまた、 わざわい
おのれの教師の姿を見出した彼は、おのれの意のあるところておるのか知っておるか ? 貴下よりも一段としたたかな腹 ひれき あざけ ふうし を十二分に披瀝したい気持にいよいよ駆り立てられたのであ黒い卑劣漢といえども、嘲りのめす諷刺の詩の棘はさすがに っこ 0 応えて降参しておるのであるそ ! さあ、不法きわまる目に あ 「裁判長どの、わたしの名はエベニーザー・クック、ポルテ逢わされて、その救済を天に向かって哀訴しておるあそこの ィモア卿チャールズ閣下によって、この地方全体の桂冠詩人あの気の毒な原告に、貴下は正義を行う用意があるか ? し に任命せられし者、ただ今提起された評決は、正義に似て正かして、被告人並びにそこの二枚舌を操るいかがわしき自堕 ひばう 義に非ず、公正なるメリーランドの法の名誉を汚すものなれ落女さながらの証人には、根拠なき中傷誹謗のゆえをもって、 ば、あくまでもこれに異議を申し立てるものである ! 」 相当の罰を加える所存があるか ? それとも桂冠詩人の怒り じゅうりん 「ヒア、ヒア ! 」聴衆の間からこれを囃し立てる歓声もいくをわれとわが身の上に招き、それとともに、正義を蹂躙せ つか上がったが、同時に「カトリックなんそ追い出してしま られた民衆の怒りをも併せて、その身に招く所存である え ! 」と喚く声もまた少なくない。工べニーザーは、彼が先か ? 」 とつはく の宣一一一一口を行ったとたんに、バ ーリンゲームが、全速力で駆け 一方スパーダンスは、色を失って顔面蒼白となっておった て来たその足を急にとどめて、額を片手で軽く叩き、肩をすが、群衆が互いに顔を見合わせてがやがやと私語する中を判 きゅうだん くめ、そのままその場に坐り込むのを眼にとめた。 事の席まで歩み寄ると、詩人のこの重ねての糾弾を聞きな 「ほ、ほう」小馬鹿にしたように判事は言った。「そこまでがら、彼の耳もとに何事かを囁いた つめ ひどく言われるほどのものではあるまいがオ」彳。耳 ゝよ皮ま衆に向「彼が何者であろうと、わしは爪のクソほども意に介する者 かってあからさまに片眼をつぶって見せながら「べン・スパ ではない ! 」判事はスパーダンスに向かって威勢よく断一言し あがな 人ーダンスとしても、あれ以上の評一一 = 〔を購うゆとりはないであた。「これはわしの法廷である。あくまでもおのれの正しい 「つ , つ」 と信ずるところに従って、誠実にこれを指揮するつもりだ。 の 草 ーリンゲームの警告を眼にしたとき、桂冠詩人はその自金を出しておらぬ者に評決の権利を与えるわけにはまいら れ 、ど 信に動揺をきたしたのであったけれども、今となってはもはぬ ! 」 とどろ 酔 や、退くに退けない状况であった。そして、不安はむしろ彼「よかろう ! 」群衆の笑い声を圧して詩人の声が轟き渡った。 あがな 「この地方の正義が、目下のところは、金によってこれを購 を駆って、その声に新たなる怒気を加えしめたのである。 だれ ろう う者の手中に帰するとあれば止むを得ない、 この際はわたし 「判事は誰に向かってさような人を小馬鹿にした一一 = ロ辞を弄し ひ はや