237 ビール・ストリ トにロあらば 「で ? 」フランクが一一 = ロ , つ。 るが、心の奥底からこわい 「気を確かに持ってくれよ、いやな知らせをぶちかますから 「いっ決まるんだ ? 」 「明日にも、明後日にもだ」ジョゼフは次の一 = ロ葉を一言わ、さる な。裁判は延期だ。あのプエルトリコ女が流産して、ついで 「ただし ーになっちまったらしい。で、どこかプエルトをえない に頭の方もバ リコの山の中に連れてかれて、動かせねえし、誰も会えなく 「ただしどうした ? 」 なっちまったのさ。ニューヨークに来るなんてとてもできや「奴らが俺たちの請願を聞き入れりやの話だ。奴ら、保釈を しないから、市は裁判を延期してくれってわけだーー女が来認めなくてもいいんだからな」まだ言わなければならないこ 「それに られるようになるまでな」フランクは何も言わない。「分るとがある こいつはまあ大丈夫だとは思うが、 か、俺の一言ってること ? 」 最悪の場合ってのも考えといた方がいいからなーー奴ら、フ フランクはワインを少し飲み、静かに言う。「ああ、分る アニーに対する訴因をもっと重くするかも知れない。あの女 が流産したってことと気がふれたらしいってこととでな」 台所の娘たちのひそひそ声が二人の耳に届き、二人を気が 沈黙ーー・・台所の娘たちのきやっきやっという笑い声。 わき 狂わんばかりに苛だたせる。 ジョゼフは腋の下を掻きながらフランクを見守る。ますま フランクは、「すると、奴ら、その女が正気に戻るまで、す不安がつのるのだ。 ファニーを牢屋に入れとくってことか ? 」またワインに口を 「するてえと」やっとフランクが一 = ロう。ひやっとするはど静 つけ、ジョゼフを見ると、「そういうことなのかい ? 」 かな声。「俺たち、やられちまったわけか」 「なぜそんな ? フランクの表情の何かが、ジョゼフをおびやかしはじめて 難しいには違いねえが、まだまだ終ったわ け - じゃ、ない」 一いるが、ジョゼフにはそれが何かは分らない 「まあなーーー奴らはそうしたがってるけど、俺たちはファ一一 「いや、も , つおしまいよ」とフランク。「駄目だ。ファニ ーを出してやれるかも知れない 保釈で」 は奴らにつかまってる。奴ら、さあこれでいいって用意がで フランクは何も言わない。台所で娘たちのくすくす笑い きるまで、あの子を放したりするもんか。その用意がまだで 「保釈っていくらいる ? 」 きてねえんだ。俺たちは手も足も出やしねえ」 「分らん。まだ決まったわけじゃねえから」ジョゼフはビー ジョゼフはどなるーーー恐怖からの声である。「なんとかし なきゃいけねえんだ ! 」自分の声が壁にぶつかり、台所の娘 ルに口をつける。ますますこわくなっていた。漠然としてい
と。赤ちゃんはまだしばらく水の中。でも変身に備えて支度息子でもある。つまりフランクは自分の兄弟なのだ。 しているところ。私もそうしなければ。 二人とももう五十に近い大人であり、二人ともひどい災難 の渦中にある。 「いいの、大丈夫。こわくなんかない」私は言った。 すると姉は微笑んで、「よし、じや出かけようね」 が、二人ともそうは見えない。。 ショゼフはフランクより肌 まびさし が黒い。目は黒く、深く落ち窪み、目庇の陰になったよう。 後で分ったことだが、その時父のジョゼフとファニーの父厳しく無ロな感じ。額は高く、左側に血管が浮き出、脈を打 のフランクも、 ーに坐っていたのだった。二人の間ではこ っているが、あまり高い額なので寺院を連想したりする。唇 んなことが起きたのである はいつもわすかにゆがめ、このゆがんだ唇が笑いを示すのか、 ジョゼフがやっと気がっきはじめたこと と言おうか、愛情を示すのか、怒りを示すのか、見分けがつくのは、ジョ かぎ やっとかんぐりはじめたことなのだが、ジョゼフにはフランゼフを知り、愛する人だけなのだ。見分ける鍵は額に脈うつ クにない一つの強味がある。つまり、男の子がないというこ血管である。唇はほとんど変化を見せないが、目は始終変る。 うれ とだ。ジョゼフも昔から男の子をほしがっていた。おかげでジョゼフが嬉しくて笑う時は、一種完全な奇蹟のようなこと 被害甚大だったのは、私より姉のアーネスティンである。私が起きる。そういう時のジョゼフは、もう髪は灰色になりは 折言っ が生れるころには、父もあきらめていたからだ。男の子を持じめているというのに、十三の少年にしか見えない てば、もうとっくに死んでいたかも知れないし、あるいは牢て本当だ。以前私は、若いころの父に会わなくて助かったわ、 屋の中かも知れぬ。 ーレムのレノックス街のバーでさし向などと思ったことがあった。、、ゝ、 カお前はそのジョゼフの娘じ いになった二人の男は、ジョゼフの娘たちが街角で客を引く ゃなしカーー・そう考えると、私はただばかんと黙りこくるだ きせき 女にならなかったのは奇蹟でしかないことがよく分っているけ。こりや大変、と思ったものである。 し、フランクの家の女たちの惨状については、お互い知りた フランクは肌色がもっと明るく、痩せている。私の父のジ ス くもないことまで、ましてやとても口には出せないことまでヨゼフを二枚目と一一一口うことはできないだろうが、フランクは 知っているのである。 二枚目と一言える。二枚目呼ばわりしたからといって、にし フランクは酒のグラスを両手でぎゅっとっかみ、目を落す。やみにはならない。あの人の顔はすでにひどく高い代償を払 フランクには男の子があるのだ。ジョゼフはビールをちびちわされ、今も払わされつつある顔なのだから。人の顔立ち び飲みながら相手を見守る。フランクの息子は、今や自分の そしてまた人が自分自身でそう思っている顔立ちーー」は、 ートにロあらば
なあ、あんた」とフランクは父に向かい、「俺は自分の息子 魂をゆだねるように仕向けるなさり方なのかも知れない の命を、あんな白んばのキンタマ抜けたようなおたんちんど 「かも知れないねえ」母は言う。「主は不思議ななさり方をもに任せたかねえな。そのくらいなら、釜ゆでにでもされた 方がましだ。奴は俺の一人息子なんだぜ、後にも先にもたっ することがあるものね」 「そうですとも、本当」とハント夫人が言い、「主は人にった一人の。だが俺たちみんな白人に首根っこを押えられてる。 らい思いをおさせになるかも知れないが、絶対に主の子供たそれに黒んばの中にだって、すましやがってぜんぜん信用で きねえのもいらあな」 ちを放っておおきにはならないから」 「でも私がしよっちゅ , つ一一一一口ってるでしよ、しよっちゅ , つ」と 「あんた、あの人はどう思う ? 」と母。「あの弁護士さんの これ ハント夫人が大声を出す。「そういうあれもいけない、 こと。ヘイワードさんっていったね、家のアーネスティンが もいけないって態度こそ危険なんだって ! あなたって人は 見つけて来た人」 「まだ会ってないのよ、私。あっちの方に行く鰕がないもの贈しみで一杯なんだ ! 人を憎めば人からも憎まれるんです よ ! あなたがそういうロのきき方をするたびに、私の胸は だから。でもフランクは会ってるーーー」 張り裂けちまう。私は息子のことを思って震えおののくんで 「フランク、あんたはどう思 , っ ? 」母が聞いた。 フランクは肩をすくめ、「先生、白人でな。法科を出て、す。暗い牢屋の中に入れられて、神の愛におすがりするほか、 学位とかなんとかを持ってる。でもな、そんなもの、言わす出ようにも出られないんだ、あの子は。フランク、あなたも し息子がかわいいなら、その憎しみをお捨てなさい。あなた らと知れてるだろ、ウンチほどの役にも立ちゃしねえ」 ロ「あなた、女の人と口をきいてるんですよ、一一一一口葉に注意しての贈しみは、あの子の上に振りかかって、あの子を殺してし まうんだから」 ください」とハント夫人は一一一一口った。 「フランクは別にナニが憎いカニが憎いなんて言っちゃいな 「分ってら。たまに女とロきけるのはありがてえや。とにか ス いのよ、奥さん」と母が一言う。「フランクはこの国に生きる く今一言ったように、そんなものはウンチほどの役にも立たね 、もんかど , つか、 ~ 屯に ってどういうことなのか、本当のことを言ってるだけ。それ え。あの人にこの先も頼りつづけていい やっ にフランクが取りみだしてるとしても、そりや無理もないで ビは分らないな。しかし、白人としたら悪い奴じゃない。今の す 奴さんは腹空かしてるから、いやらしいところも少ねえが、 「ムは神を信じます」ハント夫人は一一一一口い、「神は私のことを そのうち腹が一杯になりやいやらしさも一杯かも知れねえさ。 やっこ
取ってきて、それでダニエルを殺してやるなんて、ファニー はファニーを母親の手に委ねることができたのだった。ファ に言った覚えがある。でもあの人は、私は女の子だし、今度ニーが街に出てやっていることは、ちょうどフランクがお店 の喧嘩には関係ないと言うのだった。 や家でしていることと同じだったのだ。ようするに悪い子で 日曜になると、ファニーは教会に行かなければならなかっ いるってこと。フランクが最後まで仕立屋のお店を手ばなそ 本当に行かなければならないのだ。もっともあの人は うとしなかったのもこのためだし、ファニーが血を流しなが 母親が気づいているより いや、そんなことは気づきたくら帰って来たとき、フランクが介抱してあげたのもこのため。 なかったのかも知れないけどーーーずっとたび重ねて母親に一それに父と子二人そろって私を愛してくれたのも、このため 杯食わせてはいたが。 あの人のお母さんは、後で私もおなじ だったのだ。このこと自体は別に不思議でもなんでもないけ みになり、これからそのお話をするつもりだけれど、前にもれど、人間というものにはいつも必す何か不思議がまつわっ 言ったように「聖別」派の信者で、夫を救済できないなら、 てしまう。後になって、ファニーのお父さんとお母さんには せめて子供だけは絶対救うという決意である。ファニーは夫愛の行為があったのかどうか疑わしくなり、あの人に聞いて と自分の子じゃない、自分だけの子だからというのだ。 みると、こういう返事ー・ー ファニーがあんな悪い子だったのはきっとそのせいだと思 「あったとも。でもあんたと俺のとは違う。聞いてたんだ、 う。そしてまた、あの人が、いざ知りあいになってみるとい俺。お袋が汗びっしより、もうろうとして教会から帰ってく い人であり、何かひどく悲しいものを抱えた本当に優しい人る。くたくたでもう動けないって感じで、服も脱がずに・ヘッ ら だということも、きっとそのせいなのだ。フランク、つまり ドに伸びちまうーーーまあ、靴に帽子ぐらい脱ぐのがやっとこ あ ロお父さんのハントさんも、特に父親としての権利を主張しょた。いつもハンドバッグをどこかに放りだしたつけな。あの うとはしなかったが、 ファニーを愛していたし、今も変らす音がまだ耳にこびりついてる、どすんという重い音、中に銀 に愛している。二人の姉さんたちは正式の「聖別」派という貨か何か詰めた重い物を放りだすみたいな音が。お袋はこん スわけではなかったものの、実際は信者同様で、いすれにせよなことを言ってるーー今夜は主がたつぶりと私の魂を祝福し 母親似だった。というわけで、フランクとファニーだけが残てくださった、ね、あんた、あんたはいつになったら自分の おやじ ビってしまう。ある意味では、フランクはファニーを、ファニ 命を主に捧げる気になるの ? すると親父がーーー親父は横に ーはフランクを互いに一週間自分の物とし合っていたわけで、なって一物を突っぱらしてるんだ、まず間違いなくな。それ 二人ともこれを知っており、だからこそフランクは日曜日に に、あんたにこんなこと話すのは気の毒だけど、お袋の方だ ゆだ
ポールドウイン 196 人に代償を支払わせすにはおかないので、時が人の顔に書きフ。 つけるものは、その両者の衝突の記録にほかならない。フラ フランクは相手を見上げるが何も言わない。目だけで尋ね ンクはかろうじてこの衝突を切りぬけ、生きのびたのだ。フている。 てのひら しわ ランクの額には、掌同様に皺が刻みこまれているーーー何も もう一度ジョゼフは聞く。「今まで金持ったことあるのか 読みとることのできない皺が。灰色になりかかった髪はふさ ふさとしており、生えぎわから上に向かい、猛烈に縮れて立 フランクはやっと答え、「ねえな」 ち上がる。唇はジョゼフほどぶ厚くなく、ジョゼフの唇のよ 「じゃ、今さらなぜ金のことなど心配するんだ ? 」 , つに踊りまわったりはしな、。、 しつもこの唇をぎゅっと引き フランクはふたたび相手を見上げる。 ほおばね しめ、唇など消えてなくなれと思っている感じだ。頬骨は高「何とか今まで子供たちを食わせ、育ててきたんじゃないか、 、黒い大きな目がファニーに似て釣り上がっているーーフそうだろ ? 今さら金の心配など始めたら、俺たちの負けに アニーの目は父親ゆすりなのだ。 なって、子供たちを失くしちまうぜ。白人の野郎はな , ーー白 ジョゼフはその娘ほどこういうことに気づくわけはないが、人などきんたまがしなびて、けつの穴が腐っちまえばいし 黙ってフランクを見すえ、無理やり相手の視線を上げさせて 白人めは、俺たち黒いのが金の心配することを願ってや しき弩っ がるのさ。白人の手口はまさにそこなんだ。でも、俺たちは 「どうしたらいい、俺たち ? 」フランクが聞く。 ここまで金なしにやってきたんだから、これから先もやって 「まず第一にしなけりゃならんのは」ジョゼフはきつばりと いける。俺は金の心配などしちゃいねえーー白人にはそもそ とが 一一 = ロう。「お互いを咎めあったり、俺たち自身を咎めたりするも金持っ権利などないんだ、俺たちからくすねた金なんだか のをやめることさ。そいつをやめなけりや、あの子を牢から らな。白人の野郎どもは、ありとあらゆる人間をだまし、く 出してやることなどできはしないぞ。俺たち自身ががたがたすねてきやがった。なら俺にだってできる。くすねてやる。 になっちまうわけだからな。この場に及んでがたがたになる強盗だってしてやる。俺がいったいどうやって娘たちを育て しし。いかないせ。分るだろ、俺の言うこと ? 」 てきたっていうんだ ? べつ」 「で、どうする、金の工面は ? 」フランクは特徴のあるかす が、フランクはジョゼフとは違う。ふたたび酒のグラスに かな微笑みを浮べて言う。 目を落してしまい 「あんた、今まで金なんか持ったことあるかい ? 」とジョゼ 「これからど , ついうことになるんだろう ? 」 おれ
ドリアンはひどく遠い所から私を見ている感じーー内心、弟私はフランクの顔を見ながら、「この頂上会談は私が開いた の。お父さんに頼んで、皆さんを呼んだのは、今日の午後フ の点数をまたまた大きく減点しているのだ。うずうずしてい ーに言わなけりゃならなかったことを、皆さんにもお話 るのがさっきから見え透いていたが、やっと煙草に火をつけ とんなわしするため。ファニーが父親になるんです。私たち、赤ちゃ ると、念入りのすまし方で煙を空中に吐きだした。。 こんりんぎい んができたの」 けがあろうと、金輪際、こんなお話にならぬほど下等な人間 たちにかかすらわってたまるものか、と無一言の決意を固めた フランクの目は私から離れ、父の目を探った。そしてこの 二人の男たちは、私たちから遠ざかってしまった シーラとアーネスティンが戻って来た。シーラはこころも坐ったまま、一人は椅子の上、一人はソフアの上にいながら ちおびえ顔、アーネスティンはけわしい中にも小気味よさそにして。二人は一緒に発ち、一緒に奇妙な旅をしたのだ。旅 うな表情。姉はハント夫人には約束のアイスクリーム、エイ に出たフランクの顔は荘厳そのもの、道端の石を拾ってはま ドリアンの側にはコカコーラを置き、父にはビール、フランた元に戻し、目は今まで夢見さえしなかった地平線の彼方を クにはジンを割ったセヴンナップ、シーラにはコカコーラ、 いやおうなしに見はるかしている。が、父と道連れのまま、 母にもジン割りセヴンナップ、私には。フランデー、自分には旅から戻って来た時の顔はすっかり柔和になっていた。「あ ハイボールと配ると、「無事着陸を祝って」とはしゃ いだ声んたと俺は、出かけて飲もうや」と父に言う。そこでフラン を出して坐り、ほかの皆も腰を下ろした。 クはにやっとしたが、その笑顔がファニーそっくりだった。 うれ それから妙な沈黙が訪れた。皆で私を見つめている。ハン 「 ~ 嬉しいそ、ティッシュ、俺はとても ~ しい」 じやけん ト夫人のますます邪慳でますますおびえた視線を感じた。夫するとハント夫人が、「で、誰が面倒見るの、その子は ? 」 人はアイスクリームに突き立てたスプーンを片手でぎゅっと 「父親と母親が」私は言った。 握りしめ、身を乗りだした姿。シーラは恐れおののいた顔。「少くとも聖霊じゃねえことは確かだ」とフランク。 けいべっ 夫人は夫をにらむと立ち上がり、私の方に歩み寄った。の スエイドリアンは唇をねじ曲げて軽蔑の微笑を浮べると、乗り にプ」ロ、刀二一尸し、刀。レ / 、刀 フランクがおどすように敵意のころのろと、息をとめているような感じ。私も立ち上がり、部 屋の中央に出た。私も息をとめていた。 もった片手を上げ、これを制した。今度はフランクが乗りだ みだ す。 「あんたは自分が淫ら心でやったことを愛情だなんて呼んで 私の知らせはつまるところフランクのためのもの。だからるんだろうけどね」夫人は言う。「私は違いますよ。前から ートにロあらば
この自由で 男が見当らないのだった。もっとも、二人ともニューヨークもう他人にへいこらする黒んばなんかじゃない ーレム娘ございとうぬばれてるお国では、それは罪なんだ。誰かにヘ 市立大までは出ているけれど、じつはごく平凡なハ いこらする黒んばでいなけりやいけないんだ。誰にもへし ンでしかない。大学生活でも何も起こらなかった。まったくの ゼロだった。学位を持った黒人仲間の男たちは、二人には目らしない黒んばは悪い黒んばなんだ。ファニーが下町に引っ ウ ルもくれない。黒い女性が欲しい男は黒い女性を求め、白いの越した時、警察もそう決めこんだのだった。 ポが欲しければ白いのを求める。というわけで二人は売れ残り、 からだ じゅそ それを全部ファニーのせいにしているのだ。呪詛といった方アーネスティンが骨張った身体を抱えて帰って来た。お父 がいい母のお祈りと、セックスの陶酔といった方がいい姉たさんをからかっている声がする。 姉さんはマンハッタンのずっと南の方にあるセッルメント ちの涙の間にはさまれては、ファニーはまるで立っ瀬がない おこまよ・ のである。フランクだって、この三人の變相手ではとてもで子供の面倒を見る仕事をしているーーー大体十四歳以下の子 かなわす、ただ腹を立てるだけという始末だったから、ファ供で、ありとあらゆる肌色、男の子も女の子もいる。とても もっとも好きでなけりや つらい仕事だが、姉は好きらしい ニーの家に飛びかうどなり声の凄まじさはおよそ見当がつく できない仕事なんだろう。人間って妙なものだ。小さいころ というもの。フランクはと , っと , っ酒浸りになりはじめたが、 みえばう これも無理ないと思う。フランクは時々、ファニーを探してのアーネスティンはきわめつきの見栄坊だった。いつも髪は いるふりをして、私の家にやって来るようになった。フランカールさせ、さつばりしたドレスを着て、鏡の前にかじりつ いているーー、まるで、自分で自分の美しさが信じられないみ クの方がファニーよりつらい立場だったのだ。仕立屋の店を 失ったフランクは、今マンハッタンの女性衣料店街で働いてたいな様子。私は姉が大嫌いだった。私よりほとんど四つは いる。昔ファニーがフランクを頼りにしていたように、今で年上のこの姉は、私などかえりみるに値しないと思っていた からである。二人で犬か猫みたいに喧嘩したつけ はフランクがファニーに頼るようになりはじめた。二人とも、 当然ながらほかに行く家がない。フランクはバー通いをして二匹の雌犬の喧嘩といった方がびったりするかしら。 お母さんは、あまり心配しないように、いがけていた。「市 いるが、ファニーはバーが嫌いだった。 さん」と私が呼んでいたのは、一つにはじかに名前を呼ばな ファニーを救った情熱が、同時にファニーを災難に巻きこ いようにするため、一つにはたぶん姉を私の物にしておきた み、牢屋行きの破目となった。ファニーは自分の中に自分自 しん かったためだが、母は内心この「姉さん」は芸能界向きで、 身の芯を見つけることができ、それが態度に現われたのだ。 すさ
これで裁判は御破算、検察側は自滅して一番大事な証人をが知らせに行くほかなかった。しかも、フランクと父はこの 失ってしまった。私たちの方はまだダニエルにかすかな希望ところ、仕事の時間がまったくちぐはぐなので、父はフラン をつなぐことができるけれども、ダニエルの居場所は分ってクの家へ出かけて行って伝えざるをえない破目になる。 ン いるのに誰も会うことができない ニューヨーク州の北部に 父は一言も発せずに、姉と私がハント家の人たちに話すこ ある刑務所へ移されてしまったのだ。。 タニエルの事件も手がとを、びしやりと禁止してしまったのである。 一けることにしたヘイワードが、今調べている。 夜の十二時ごろのこと。 ゅ、つよ 検察側は時間の猶予を求めるだろう。我われは告発の取り ハント夫人は寝床の中。ェイドリアンとシーラは外から帰 下げと、事件の却下を求めるつもり。でも州がそれを認め、 ったばかりで、ナイトガウン姿で台所にいる。ココアドリン 私たちにお金が工面できるなら、保釈で手を打つほかあるまクを飲みながら、何やらくすくす笑いあう。ェイドリアンの しり お尻はだんだん大きくなりつつあるが、シーラの方はもう望 「よし」父が言い、立ち上がると窓辺に行って母と並んで立みなしだ。シーラは深夜テレビの古映画でお目にかかったマ ったが、母の身体には触れず、そろって二人の島であるマン ール・オペロンという気の抜けた女優に似てると言われ、似 まゆげ ハッタンを見下ろしている。 せて眉毛を刈りこんでみたものの、とても本物ほどの効果は 「大丈夫か、お前 ? 」父は言い、煙草に火をつけて母に渡す。上がらない。オペロンは少なくとも、気味が悪いほど卵そっ 「ええ、大丈夫」 くりの顔でお金を稼げたのだが。 「じゃ、寝るとしようや。お前はくたびれてる。留守が長か ジョゼフは朝早く波止場に出なければならないので、手間 取ってはいられない。フランクも早く下町に出勤しなければ 「お休み」姉がきつばりした口調で言い、母と父は互いの身 しレないから、これまた同様である。 体に腕をまわすと、廊下を自分たちの部屋へと向かう。ある フランクはジョゼフにはビールを出し、自分にはワインを 意味では、姉と私が父と母の目上になったのだ。また赤ちゃ 少し注ぐ。ジョゼフはビールに口をつけ、フランクはワイン んが蹴る。時が : に口をつける。互いに顔を見つめあう。こわいような一瞬。 台所で娘たちが笑っている声が、二人とも耳につく。フラン しかし、今度の出来事が、ファニーの父のフランクに及ばクは娘たちを制止しこ、。ゝ、。 オしカショゼフの目から視線を外らす した影響は、とてつもない、完全に破壊的なものだった。父ことができない かせ
197 ビール・ストリートにロあらば 「俺たちがするようになるさ」ジョゼフはまたきつばりと言分る立場なんだから。もう一つ言っとくことがある。あんた おやじ の息子は俺の娘が産む赤ん坊の親父なんだ。なのにあんた、 どうしてそんな所に坐って、できることなど何一つねえなん 「一一一戸つのは簡単よ」とフランク。 子供が一人、この世に生れ出よう 「本気で一一 = ロうのは簡単じゃないぞ」とジョゼフ。 て顔してられるんだい ? 長い沈黙があり、二人はそろって黙りこくっている。ジュ としてるんだよ。あんた、俺にぶん殴られたいのか ? 」猛然 と一一 = ロうジョゼフだったが、 しばらくするとにつこりして、 ークポックスまでが黙りこくる。 「俺はな」やっとフランクが一言う。「ファニーがこの世の中「分ってるよ、俺だって」それから慎重な口調になると、「よ の誰よりもいとしいんだよ。顔向けならねえ気がしちまうく分ってる。でも俺もお前さんも奥の手の一つや二つは心得 があるんだ。奴らは俺たちの子供なんだからな。なんとして あいつは本当に優しくって、しかも男らしい子だった。 こわい物など何一つない子だったーーー母親だけは例外かも知も自由な身にしてやらなけりや」ビールを飲み干すと、ジョ れねえが。奴にはお袋が理解できなかったんだ」フランクはゼフは、「さ、酒を干して御出陣だ。やらなけりゃならねえ 一度口をつぐんでから、「俺はどうしたら良かったのか分らことが山のようにある。しかも大至急にな」 フランクも酒を飲み干し、しゃんとなると、「あんたの一一 = ロ 女じゃないものな、俺。子供にしてやることの中には、 うとおりだ。何とかやってのけよう」 女親にしかできないことがある。俺は女房が奴をかわいがっ てるものとばかり思ってたーーー昔、俺を好いてるように思え ほほえ ファニーの裁判の予定日は、ぐるぐる変りつづける。逆に たと同じことでな」フランクは酒を一口飲み、微笑もうと試 この事実が、私にヘイワードの事件に対する関心が本物であ みる。「俺は奴にとっていつばしの父ーー本当の父らしい父 めれぎぬ だったことがねえんじゃないかと思う。今奴は濡衣着せることを悟らせるのだった。ヘイワードは今度のファニーの られて牢屋にはいってるってのに、俺ときたらどうやって奴ような事件を手がけた経験はなく、すべてアーネスティンが、 を出してやるか、見当もっかねえんだものな。御立派な男だ若干は経験から判断しながらも、主として勘に頼って、いや おうなしにヘイワードに引きうけさせたのである。が、一度 よ、俺」 「いやいや」とジョゼフ。「ファニーは本当にあんたが立派首を突っこんでしまうと、あまりにも悪臭ふんぶんなので、 な男だと思ってるんだよ。あんたを愛し、尊敬してる。忘れへイワードも後へは引けず、ほじくりかえす手がとめられな くなったのだ。例えば、すぐ明らかになったことだが、依頼 ちゃいけない、俺はそういうことならあんたよりずっとよく やっ
分ってたんだ、あんたって人はきっと息子の身の破滅になるめかみから額を揉んだ。帽子はあらかじめていねいに脱がせ だろうって。あんたには悪魔が宿ってる。ーー昔つからちゃんてやり、シーラに手渡した。 ジョー」母が一一 = ロう。「ここはあなたが 「 ~ 打ってらっしや、 ンと分ってましたよ。神様がもうすっと昔にそれを唐らせてく いなくてもいいの」 ウだすった。あんたのお腹の子供は、聖霊が干し殺しにしてく 二人の男は出て行き、ドアが閉まって、六人の女だけが残 ルださる。でも私の息子にはお許しが。私のお祈りで救われる たとえほんのしばらくにせよ、互いに相手をしなけ んだ」 ポ たわけてはいたが堂々とした夫人の態度だった。夫人は荘ればならない六人だった。ハント夫人はゆっくりと立ち上が 厳な証言を行ったのである。が、フランクは声を立てて笑い、り、自分の椅子に歩いて行き、腰を下ろした。夫人が何か一言 彼女に歩み寄ると、手の甲で横殴りに殴り倒してしまった。おうとする前に、私は、「さっきはひどいことをおっしやっ たわね。あんなひどいこと聞かされたのは生れて初めて」 そう、夫人は床に倒れている。帽子はすっかりあみだになり、 「お父さん、何もお母さんを打っことなかったのに」とエイ ドレスは膝の上までまくれあがってあられもない姿。フラン ドリアンが一一一一口う。「お母さんは本当に、い臟が弱いんだから」 クがその上に立ちはだかっていた。夫人もフランクも一言も 「弱くなってるのは頭の方よ」母はそう一言うと、夫人に向か 口をきかない のうみそ い、「あんた、聖霊のおかげで脳味噌が柔らかくなっちまっ 「この人、心臟が ! 」母がつぶやくと、フランクはまた声を のろ てるのよ。あんたが呪ったのは、フランクの孫なんですよ、 立てて笑った。 私の孫にもなるんだからね、いわすと 「大丈夫、まだ動いてるさ。でも、俺はこんな物を心臟とはそれをお忘れかい ? 心臓とやら 知れたこと。この世の中には、あんたのその弱い 呼べねえな」そう一言うとフランクは父に向かい、 こいつの始末は女衆に任しといて、俺と一緒に行こう」父がを切りとって、罰に地獄行きでもなんでも喜んで引きうける 男や女がいるんだよ。お茶か何か飲む ? プランデーがちょ ためらっていると、「さ、さ、頼むから行こう」 うどいいんだけど、あんたは聖女すぎて駄目なんだろうね」 さあ」母が言った。 「一打ってらっしや、 シーラが母親の側にひざまずき、エイドリアンは灰皿で煙「家の母の信心をせせら笑うなんて、ひどいわよ」シーラが 一一一一口った。 草をもみ消すと立ち上がった。浴室からアーネスティンがマ 「およしよ、そんな世迷い言」アーネスティンが言い、「あ ッサージ用のアルコールを持って出て来、シーラの横にひざ ますくと、脱脂綿に含ませたアルコールで、ハント夫人のこんた、自分の母親が狂信者なのが恥しくって、どぎまぎしち ひざ