バス 974 工べニーザーは不抜の決意を固めて言った。「もしもタイ一語一語誤解の余地もないほど入念に力をこめて、身振りを ヤク・チカメクがわたしの三人の友を殺害に及ぶならば、わも交えながらーーーわたしは。ーーヘンリー もと たしはヘンリー ーリンゲーム三世の許にいかなる伝一一一一口を世をー・ーこの土地に連れて来て。ーーチカメクに会わせる。チ 手口 カメクとーー・ヘンリー 一も断じて運ぶものではない。わたしは彼らと共にここにおい ーリンゲーム三世とは は、なし て死ぬ覚悟であるからである。このことを彼に伝えてくれ」 はなしをする。クアサペラ無し。ドレバッカも無 し。チカメクとヘンリー ーリンゲーム三世とが 話す。 「兄弟よーー」クアサペラは諫めの言葉を放ったが、ドレ。ハ ふんめ ッカはその宣一一一一口をそのままに通訳した。チカメクの眼が忿怒そして、諸侯たちょ、わたしの誠意を示さんがために、さら きら ーリンゲ に附け加えて約束しようーーーわたしはヘンリー の煌めきを放った。 ーム三世に告げるものであるーーー兄コハンコウブリツツを探 「さりながら」詩人は言葉を続けた。「もしもタイヤク・チ リン カメクが、賢明にして勢威ゆたかな同僚の王たちの慈悲に満すーーさがすーーさがし出すべきこと。ヘンリー ちたる意見に同意して、われら四人の者を釈放するならば、 ゲーム三世は、コハンコウブリツツを見付け出して話 はなしをするであろう、そして、おそらくは、コ、 わたしはここに堅く誓約するものであるーー必ずやヘンリ き一と ーリンゲーム三世の許に赴いて、彼の王家に連なる出ンコウブリツツに、その生き方の誤りなることを諭すであろ 生と、父によって命を救われた事実を伝え、あまっさえ彼をう。 し力がかな、老侯よ、この考えは ? チカメクはこの地 この島のこの地に伴い来って、タイヤク・チカメクに対面さ にあり、コハンコウブリツツもこの地に、ヘンリ せるであろうと。彼はピスカタウェイやナンティコークの一一一口 ンゲーム三世もまさにこの地に現れるのだ ! 」 葉を解する者、父と子と、通訳を交えす二人きりにて、直接チカメクにその条件の意味するところが了解されたか否か に話を交すことができる」 は知らず、なにがしかむところはあったものと見えて彼は、 しゃべ この一一一一口葉には、クアサペラもドレバッカも、驚き呆れてすクアサペラに向かい、 しきりと何事かを喋り出したのである。 くには一一 = ロ葉もないありさま。通訳もぎくしやくとしてぎごち「あんたの気に入らぬはずはないであろうが」真剣な面持で なく、互いに不安げな視線を交しておった。工べニーザーはエベニーザーは言った。そしてふたたび腰を下ろした。彼は きしムうカく ゆが しかし、彼らの驚愕や懸念によっておのれの一 = ロ葉が歪んでクアサペラに向かって附け加えた。「しかし、彼に伝えてく おそ 伝えられることを惧れ、いきなり起ち上がると、眼の前の老れよ、あくまでもわれら四人の全部であるか、さもなければ 一人も無しか、二つにひとつであると」かくして、いわばお 王に直接話しかけたのである。はっきりとした声で、丁寧に あき つか 二一一口
いる」工べニーザーは言った。「もし僕の四行詩を知ってお らなかったら、あんたがヘンリーとはとうてい分らなかった ろう ! 僕があの詩のことを話したのは、ヘンリーを措いて 。しかも、十五年前のあのときにただの 他には一人もいない 一度だけだ」 「おれが君をセント・ジェームズ公園からうちへ連れて戻っ たときであった」へンリ ーが後を続けた。「真夜中過ぎで、 すべ マラガのおかげで君の舌の辷りはなめらかであった。なのに め 「まさか ! 」工べニーザーは眼をしばたたき、頭を振り、連君は、セント・ジャイルズに着かないうちに、おれの肩に頭 れの面上に何か手がかりになるものでも探すかに、首を鶴のを載せて、寝込んでしまったであろうが ? 」 「そうだ、そうだったね ! すっかり忘れていた」エ・ヘニー ように長くのばして顔を突き出した。 ーリンゲームの腕 ザーは向う側の席まで手を差しのべて、 「そうだよ、おれだよ。おれを見損なうなんて恥かしくない を堅く握った。「とうとうあんたを見つけたんだね、ヘンリ のか。アンナにしても同じことだ ! 」 「だってヘンリー あんたはすっかり変ってしまった。信じ ひげ 「では、これを僕だと信じるのだな ? 」 られやしない ! 無鬘で、鬚を生やしてーー」 「疑ったりして悪かった。人間がこんなにも変るものとは知 「七年も経てば人間は変るさ」バ 1 リンゲームは微笑した。 らなかったものだから。いや、考えたことさえもないよ」 「おれはもう四十歳だそ、エベン」 ーリンゲームは教師の仕草で人さし指を振り立てながら 人「その眼だって ! 」工べニーザーは言った。「それからその 「世界は人間をすっかり変えることができるのだよ、エベン。 話し方 ! 声そのものが違うし、態度も違う ! あんたはバ 草 ーリンゲームを装っておるセイヤ 1 なのか、それともセイヤあるいは人間が自分を変えると言ってもよい、本質そのもの れ ど までもな。童貞にして詩人という君の本質にしても、あのと ーの振りをしておるバーリンゲームなのか ? 」 だれ 酔「振りなものか。実際のセイヤーを知っておる者なら誰でもきの君がそうであったのではなくして、あのとき以来君は、 そのものになろうと、おのれみすからを証人にして、決意し 証一言してくれるよ」 みち いや、人間は墓場へ急ぐ途すがら、 ーリンゲームを知ってたのではなかったのか ? 「しかもこの僕は本物のヘンリ 3 桂冠詩人、ビーター・セイヤー大佐の正体 を知る つる
バス 962 あってそのようなことを尋ねるのだ ? 」 を裏切ったというに過ぎぬのであろうか ? 「実を言うと」 ドレ。ハッカは年長の同僚の一一一口葉に耳を傾けておったが、続思い直して彼は言った。そして、言いながら、その言葉がお いてエベニーザーに次のごとくに言うて聞かせた。「おまえのれの実清を伝えておることを感じていた。「わたしの友人 一の言うその男はヘンリ ーリンゲーム三世。しかしてあはわたしの羅針儀によっては測ることのできない錯雑した領 の本の」と、小屋の隅の櫃の方を指さしながら「太った男は域に入ってしまった。そして彼の姿をわたしは見失ってしま ったのだ」 リンゲーム一世、おまえの友人の父親の父親 に他ならぬ」 この一一 = ロ葉の意味はしかし、博識なるドレバッカをもってし 「まことか ? ヘンリーが最初より望みながらも遂に証拠をてもなお、翻訳することが不可能であった。初め彼はバー 掴み得なかったものは、他ならぬその事なのであるそ ! 」彼ンゲームは死んだという意味に通訳したのである。 「わた は皮肉の色を漂わせながら笑った。「この情報を伝えて友人「しかし、大事ない」 詩人は微笑して言った うれ の心を喜ばせることができたならば、さぞや嬉しいことであしは今もなお彼を愛しているし、わたしの発見したこの事を ろう , しかしながら、ヘンリーがわたしの友人であったと彼に伝えたく思う。だが、 待てよーーー祖父と孫とは掴んだら きには、わたしは彼に与えるべき情報を持たず、この驚嘆すしく思えるけれども、その中間に来るべきものはどうなった べき情報を持つに至った今は、それを伝えるべき友人を持たのだ ? ヘンリーが向うのチエサビーク湾に浮かんでおると ーリンゲームがおのれを裏切っ ころを発見されたいわれは何か ? タイヤク・チカメクに尋 ぬ。何となれば たばかりでなく、正義の道すらも踏み躙った旨を言わんとしねてくれ、 ーリンゲーム二世とは何者であるか、彼はいか たのであったが、ポルティモアとジョン・クードの両者が、 になったのであるか ? 」 かりに実在するものと仮定するにしたところで、正義は果し ドレバッカがその質問を取り次ぐ必要はなかった。〈バ てポルティモアにあるか、それともジョン・クードにあるか リンゲーム二世〉という一一 = ロ葉を耳にするや、それまでひたす すら、今となっては定かでないことに思い至って、おのれをらに耳を傾けておった老チカメクが、野太い声を放ちながら うんめん 制したのであった。否、裏切りを云々するのであるならば、頷いたのである。 1 」、つ なまり ーリンゲーム二世」毫もインディアンの訛を ーリンゲーム、もしくは〈現実〉が、彼を裏切ったのでは めいせき や なかったか、もしくは反対に彼がそれらを裏切ったのか、そ感じさせぬ明晰な英語で彼は言った。そして痩せ衰えたおの おやゅびたた ーリンゲーム二 れとも何かしら彼みすからの深奥にひそんでおったものが彼れの胸を拇指で叩きながら「ヘンリー うなず
ーリンゲームのこと 「名則だと ? さよ , つか、ヘンリー る彼の身体はゆらぎ、両の腕ももどかしげな動きをしている。 か ! 」工べニーザーは狂ったもののように笑い出しながら、 チカメクの眼がちらりと動いたとたんに、警固の男が二人、 みさ」 うみたか 鶚すなわち海鷹を思わせる炯々たる大きな眼を顰めて、食 槍を立てたままに前へ歩み出た。ドレバッカとクアサペラと が目くばせをした。 い入るがごとくに彼を見つめる老王の方へ身を乗り出した。 ーリンゲーム ! 」声張り上げてふたたびその 「兄弟たちょ、答えはないのか ? 」そう一一一一口う詩人の声は悲鳴「ヘンリー ほお アディ に近かった。「しからば、わが兄弟のクアサペラよ、さら名を繰り返す彼の頬を、涙が伝って滴り落ちた。「おまえは ちなまぐさ ば ! おまえの身には幸運を、おまえの血腥い企てには凶彼の名を聞いたことがあるのだな、そうであろう、人殺し ? ふんそう アディュ アディュアデ ーリンゲームそ 運を祈る ! さらば、わが兄弟のドレバッカよ、さらば、さそれとも、おまえみすからが扮装を施したバ らば ! おまえがわが友ヘンリー ーリンゲームに遇う折の人であって、これもまた音に聞えた彼の芸当の一つである というのか ? 」興奮の極に駆り立てられた彼は、ほとんど卒 を持たなかったのは残念であった。おまえと彼との間ならば、 倒せんばかりであった。口が力なく開き、倒れまいとすれば さそやこまやかなる友情が生れたことであろうものを ! 」 くずお たきび 焚火を躍り越えようと身構えた彼の筋肉の盛り上がるのがそのまま地面の上に頽れるしかなかったのである。 ふたたびチカメクの鋭い問が発ぜられた。 見えたくらいであったけれど、危うくそれを押しとどめたも 「そのヘンリー ーリンゲームとは何者であるか ? 」アナ ーリンゲームの名を耳に捕えたチカメク であった。彼はクアサペラに向かってとめどなき質問の矢をコスティンの王が通訳をする。「おまえの友人であるか ? 」 口をきく力すらないままに、エ。へニーザーはただ黙って 放ち続け、その中にヘンリー ーリンゲームの名が幾たび うなず か繰り返されたのである。 「ここにおるのか ? 」クアサペラが尋ねる。「違う ? それ 買「待ってくれ、兄弟 ! 」クアサペラはエベニーザーに鋭く声 こおるのだな ? 」 をかけると、興奮して問い続ける年上の同僚の言葉に入念なでは白人の部落し それを肯定するエベニーザーの仕草を眼にした老チカメク れ耳を傾けた。一方工べニーザーは、勇を鼓した瞬間が過ぎて、 レ」 は、さらに興奮を高めながら、インディアンの一一一口葉を吐き続 身構えた身体はゆらぎ、全身より汗が吹き出してきた。 「タイヤク・チカメクは今のおまえの言葉の中に何かの名前けた。それがエベニーザーのために英語に改められたものに ーリンゲームが往年の彼の教師であったこと があったはずであるが、今一度その名前を繰り返してくれと答えて、彼はバ を語り、実際の生年月日も、生誕の場所も、両親も知らされ 一一一一口うておる」 ュ
にあるデュークス劇場へ行き、家に帰ったのは真夜中をとっ 前にもましてきつく抱きついてきたものだからして、いささ くに過ぎてからであった。あの日一日の経験だけで僕は十歳 圏か当惑ぎみでもあった。道をゆく人たちが、町角に立っピー ター・セイヤーもを含めて、振り返って彼らを見つめるのでも年を取ったような感じで、全部を君に知らせることなど、 ス よそ 逆立ちしてもできないような気持であった。他所で食事をし ある。別れを惜しむ恋人同士と映ったことに間違いはない。 たのもあのときが最初なら、劇場へ行ったのも最初、プラン 同時に彼は、当惑を覚える自分が恥かしくもあった。彼は、 あまりひどい誤解はされたくないと思って、駅馬車のすぐ近デーの味を知ったのもあれが初めてであった。それから何週 間もの間、僕たちの話といったら、もつばらあの日のことば くまで歩み寄り、アンナの抱擁を予防することをもいくらか かりだったではないか。それでもなお、小さなことで君に伝 意図しながら、彼女の片手をとった。 え忘れていることが思い出されてくるのだ。それを思うとっ 「あなた、昔のことを考えることある ? 」アンナは尋ねた。 らくなって、しまいには僕だけ ~ 打ったことが悔まれるよ , つに 「あるよ」 なって、ヘンリ ーにもそう一一 = ロうた。だって、あの日以来、君 「よかったわね、あの頃は ! 覚えているかしら、ミセス・ は、僕にいつまでたっても追い着けなくなったような気がし トウィッグがランプを消して行ったあと、何時間もお話した ものだったわ」彼女の眼にはまた涙が湧き出てきた。「エベたからな」 さび 「わたしだって、あの日のことは、先週のことのように覚え ン、本当に淋しくなるわ、わたし , たた ている」アンナが言った。「あなたの方こそ忘れてしまった 工べニーザーはアンナの手を軽く叩いた。 ためいき 「僕だって」と彼は言った。それは心からの一一一一口葉であったが、のではないかと、何度も何度も疑ったものよ」彼女は溜息を しくら もらした。「わたしは遂に追い着けなかったわね , 同時に気まり悪くもあった。「あれは僕たちが十三の年だっ とら 問いただしたところで、一部始終を捉えることはできないの たけれど、君は熱を出して寝ていなければならなくて、ウェ ストミンスター寺院の見学に、僕はヘンリーと二人だけで行ですもの。わたしが現場にあって直接経験してないという動 かし難い事実は、どうしてみようもないことなのね ! 」 ったことがあった。君とまる一日離れて暮すのはあれが最初 工べニーザーは笑いながらロを挿んだ。「驚くではないか、 だったものだから、昼の食事の頃にはもう、君がいないのが 今頃になって、また一つ君に話し忘れていたことを思い出し 淋しくてたまらなくなって、このまま家に帰ろうとヘンリー た ! あの日、ベル・メル街のどこかの酒場でタ食をすませ にせがんだのだ。でも、反対に僕たちは、それからセント・ ジェームズ公園に行って、夕食の後では法曹学院競技場の中たあと、僕を独りテーブルに待たせておいてヘンリーは、何 ころ わ
ここにその真の姓名を用いて彼を当法廷の書記に任ずるもの とあるであろう」 である。その名はすなわちへンリー ーリンゲーム三世 「書記のことでございまする」工べニーザーは言い続けた。 これこて司違、よ、 「当面の問題は錯雑を極めたものでありまする上に、各人の ーリンゲームはふたたび頷いて、それがおのれの本名で 正体がはなはだ重要な要素となることも考えますならば、最あることを承認したが、しかし彼の視線は、双生児の兄妹の 初に確乎たる原則を樹立しておく方が賢明であろうと考えるそれと共に、アンドルー・クックの上に注がれておった。ア 攣とつはく ものであります。すなわち、関係者全員の間違いのない正真 ンドルーの顔は、その名を耳にしたとたんに、蒼白に変った 正銘の素姓に基づかぬ限り、法廷は一切の判決を下さず、証のである。 一一一一口もまた、これを取り上げるものではないということであり 「あきれたな、もう ! 」場所柄を忘れてマキヴォイは笑った。 ます。当法廷の決定の合法性こ、 . しいささかの疑惑すらも影を「本当にあんたなのかね、ヘンリー 近頃は、どこまで奇 せき 落さぬことを願うからに他なりませぬ。それゆえにわたくし蹟が続くものやら、きりがないね、全く ! 今のを聞いたか は、閣下に対し、書記をその実名によって任命し、当人の保よ、ヘンリエッターーー」 証を求められるよう、要請するものであります」 ヘンリエッタは彼を制して口を噤ませた。ぎごちなく身を アンナはこの提案の真意を見抜いて驚いたが、他の者たち動かして立ち上がったアンドルーカノ ーリンゲームを睨みつ とりわけアンドルー けている。 は当惑を禁じ得なかった。しか あふ しながら、ニコルソンとトマス卿とは、いずれも、おのれに 「天上の神も照覧あれ ! 」と彼は切り出した。が、感情が溢 からつばの 有利に作用する先例をまず作っておこうとする詩人のこの戦れて言葉にならず、そのまま彼は、二度、三度、空唾を呑ま ーリンゲームもまた、 買術を多としたことは明らかであり、 ぬことには後が続かなかった。「必すや貴様を地獄に送って ねら ーリンゲーム 別なところを狙ったエベニーザーの意図を察知して、それをくれるそ、ヘンリー れ承認した印に小さく頷いて見せた。 彼はテープルに向かって一歩踏み出した。工ペニーザーは ど 「いかにもそれは賢明至極な手続である」ニコルソンも賛身を乗り出してその腕を捕えた。 酔 意を表明した。そして一同に向かって言明したのである。 「お掛けになって、父上。ヘンリーに腹を立てられるのは的 めんば 「みなも承知おき願いたいが、ニコラス・ロウとはわれらが外れと申すもの、それは昔とても変りませぬ。父上の面罵を ノム・ド・ゲル 良き友人の、いわば芸名のごときもの、よってわれわれは、浴びねばならぬものはこのわたくし、ヘンリーでもアンナで 「言いたいことがあるならば、一一一一口うべき時間は後にたつぶり かっこ
た。そして食事が終り、あらためてバイプに火がつけられるふたたび工べニーザーを振り返り「さらにひとつの推定をあ や否や、彼は吐息をもらしながら言ったのである。「ロンドえて試みるならば、あなたとあなたの仲間の者とは、何らか たの ンを離れて以来、これほど諭しい時を過したことはなかったの形において、わたしの父の手中に落ちたものであろう、し しかしわたしのこのしさには、罪の意識もっきまとっ かしてあなたは、父の古くから行方の知れぬ息子か、あるい ている。わたしがこの場にあって長々と手足をのばし、マキはもっと最近になって姿をくらました息子か、もしくはその ヴォイはまた、新しくできたおのれの愛人に愛を囁いておる双方を父の許に連れ戻し、これにアハチフープ族を統率せし そのときに、わたしたちの命と引き換えに人質となった二人め、もって彼らを戦いに赴かしめるという、そのことを誓約 の仲間たちは、プラズワス島の小屋において震えているのだすることによって、みすからの命を救ったものであろう。そ カらな」 / イ。 皮ま承認を求めてビリーを顧みながら「あなたの許うではないか ? 」 しを得て、友よ、わたしはこれからおのれの任務を語りたい 「その通り」詩人はそれを肯定した。「タイヤク・チカメク と田 , つ」 はあなたの怠慢にいたく心痛の態であったが、われわれを救 ビリーは肩をすくめた。それはバー 丿ンゲームの仕草にそうたものは、わたしの伝えたヘンリ ーリンゲームの消 つくりであって、アンナの手にした葡萄酒の杯がかすかに震息であった。かようなことを口にするのは厚顔無恥の譏りを えたくらいであった。「それは聞くまでもなく予測ができそ免れまいが、あなたの祖父のヘンリー卿は、何らかの方法を うに思う」ビリーはそう一一一一口うと、アンナに現下の事情を淡々用いて、おのれの欠陥を乗り越えた折が一度はあったものに いき、つ と語って聞かせ、最後におのれの両親の経緯を明かすと共に、 違いない。ポカトワタッサンによってあなたの父上をもうけ 二人の兄弟の運命をも告げたのである。「わたしの父は非常るに至ったのだから。それゆえにチカメクもまた信じるのだ、 買な年寄りであって」最後に彼は言った。「体力においても貫ヘンリー卿 の欠陥がその孫たちの身に伝わったごとくにして、 禄においても、ドレバッカやクアサ。ヘラに肩を並べることは必すやこれを癒す秘術もまた れできない。加うるに彼は、おのれの息子たちによって二重の 「〈聖なる玉子もどきの秘法〉か」ビリーは微笑しながら言 レ」 不幸を背負わされた。すなわち彼らは、それぞれの血統を後 った。「あれはいやらしい迷信に過ぎないのではあるまいか 世に繋ぐことの叶わぬ運命にあったばかりでなく、おのれのとにかく、わたしはそのようなものの心得はな、 残念至 民族に背を向けて、まさに星を掴まえようとするにも似た高極であるけれど ! 」 い竈れに身を焦がすに至ったからだ」そう一一一口うてから彼は、 「いや、しかし、あなたの弟のヘンリーは、い得ておるかもし 「あ一一が
ジョン・サイモン・グッゲンハイム財団と その秘書ヘンリー ・アラン・モー氏から 私に与えられた寛大な援助に 感謝の意を捧げるものである T) ・ Z2
バス 664 シャロップ それを懐中にしたまま軽船の船上において厚板渡りの刑に処ろで、彼があんたの祖父上かもしれないという、繋りの可能 せられたことなどを話して聞かせた。「証拠が失われたこと性が生れるだけの話に過ぎないがな」それから彼は、ミーチ がパウンドにもちかけた話ー - ー自分がもしもポルティモアで はメリーランドの不運と言わねばならぬ」そう言って彼は、 一おのれの話を締めくくったが、くやしがるバーリンゲームにあったならば、議事録はスミスの姓を名乗る仲間数人の間に 分散して預けるであろうと言った、あの話を思い出した。 あらためて笑顔を向けながら「元気を出せよ、ヘンリー そのような貴重な獲物を手にした僕が、二分と経たずして表「眠りが足りなくて死ぬ思いを味わっているのでなければ、 もっと阜・くに思いつくところなのだけれども、しかしバウン の側を読み終えたとは思わないか ? 」 ドは、その議事録のことを口に出さなかったらしい。それほ 「亠め。り・・【かに。し こいつ、人を嬲ることまで覚えやがっ - 一うむ ど彼はクードの勘気を蒙っておるということであろう」 「あるいはその勘気をすすぐ一助にもと、クードに報告して それから先は余計なやりとりを挿むことなくエベニーザー ーリンゲームは立ち上がって、のび は、夜明けが近づいておりはしたものの、チエサピーク湾をおるかもしれないぞ」バ 北上したジョン・スミス船長の秘められた探険行について語をした。「いすれにしてもおれたちは、残りをすぐさま手に てんまっ どんらん り、ヒクトピークの貪婪きわまる王妃をめぐる潁末をば、多入れるのが一番だ。とにかく少し眠るとしよう。そして夜が 明けたところで計画を立てるのだ」 少の当惑を覚えながらも、逐一語り聞かせたのであった。 桂冠詩人はミッチェル船長が恐ろしかったけれども、今は 「よかった、よかった ! 」聞き終ってヘンリーは言った。 がスミスといっしょにバウハタンの町か眠りたい一心の方が立ちまさり、二人は寝静まっておる母屋 「それでヘンリー卿 ら無事に脱出して、チエサピークの探険にもいっしょに随いを通って、数時間前に彼があわや純潔を喪失しそうになった て行ったことが分った。その上に、今聞いたところから判断あの寝室に立ち戻った。バートランドの姿はなかった。 ふため バートランドを見かけたのだ」へンリー すれば、二人の仲はよろしからす、互いに相手の不為をこそ「おれは最初に君の そう′ ) う は言った。「いやはや、自分の眼が信じられなかったよ , 願っておるらしく見える。しかもスミスの『綜合史』にはバ となると、ス彼から君もここにおるのだと聞いたので、君と二人きりで話 ーリンゲームにふれたところが一つもない をしようと思い、奴には召使たちのところへ行って寝ろと一一 = ロ ミスは彼を片付けてしまったのかな ? 」 って追い出した。夜が明けたら奴をうちの誰かといっしょに 「そうなる前にヘンリー卿が令息をもうけておってくれたら よろしいのだが」工べニーザーは言った。「それにしたとこ馬車でセント・メリーズへやって、君の旅鞄を受け取らせた っ つなが
非とも聞かせてもらいたい。それに、わたしの妻の問題も、のように思われたのである。溜息と共に彼は語り出したけれ 向うに到着する前に、、いおきなく話し合った方がよろしかろど、それは、これから語る話が、おのれに常ならぬ喜びを与 うと思う。しかし、その前に、そのような重大きわまる問題えることを信じて疑わぬ者のもらす溜息であった。彼は、み を、乾いた咽喉で語るのは無理というもの、まずは〈小樽がずからの懐疑や留保や落胆や驚愕などには一切言及せすに、 姫〉のロ開けとゆかずばなるまい ーリンゲームがサモン船長によって助けられたことから語 「なるほどね」工べニーザーは笑った。「あなたはヘンリ り始め、船乗りからジプシーの一行にまじって旅興行をして ふたご ーリンゲームのただの兄ではなくして双生児の兄では廻った末に、ケンプリッジの学生となった少年時代のこと、 ないのか , 彼の場合も、こちらは彼の知っているしらせがセント・ジャイルズ・イン・ザ・フィールズに家庭教師の職 きようだい 聞きたくて、もしくはこちらの知っていることを伝えたくて、を得た彼に、双生児の兄妹が愛着したこと、さらには政治 身を焼く思いでおるというのに、大きな豚の背肉を食い終る上の密偵として植民地に入り、または心ならすも海賊となっ いくたび まで、その満足を味わわせてもらえなかったことが幾度あって舐めた冒険の数々、ラセックスの女たちを救うた経緯、家 たことか ! 」 系探索の努力は実を結ぶに至らなかったこと、そして最近に 二人は小樽のロを開けて初物の味を試みた。そして詩人は、至って詩人みずからがその謎を解くことができたことなどを はらわた ほうじゅん 腸を焼くジャマイカ・ラムの芳醇な味に大いなる満足を語ったのである。 ひぎか 覚えたのである。インディアンにも彼のためにも膝掛けの備「問題は」話の結末近くになって彼は語った。「ヘンリ まと えがあったので、これを纏った二人は、風が無い上に、ラムとヘンリー三世との間に来る者は果して誰かということであ にも温められて、今が十二月もおし詰った頃とは思われす、った。それからへンリー卿の『私記』にも、ジョン・スミス 船長の『秘録』にも、 買あたかも四月であるかのような央い馬車の乗心地であった。 丿ンゲーム令夫人に関する言及は 凍てついた道をゆく馬たちの歩みものどかに、霜を砕く車輪ひとことも見当らぬのに、わたしの友人がイギリス人の誰に なへん ゆだ れの鋭い音も快い。馬車の発条の揺するがままに身を委ねてい も劣らぬ白い肌を持つに至った理由は那辺にあるか ? あな レ」 いき、つ るエベニーザーには、バ リンゲームの探索行の経緯や、おたの国の人々が〈イギリスの悪魔の本〉と呼んでおるあの たど のれみすからが辿って来た複雑きわまるこれまでの来歴を、 『秘録』の最後の部分、あれをもってしてもこれらの謎は解 けなかった。ヘンリー卿とポカトワタッサンとの間の子供な またあらためて繰り返すのが、前にははなはだ気が進まなか たの ったのに、この場の状况においてならば、むしろしいこと らば、イギリス人とアハチフープ族との混血でなければなら なそ