閣下 - みる会図書館


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1. 集英社ギャラリー「世界の文学」19 -ラテンアメリカ

たちは、彼の個人的な指導のもとに、また例のとおり主権者た、閣下は真相から遠ざけられ、ただ、その善意を悪用され たる国民の意志を体して、この記念すべき日の深更、残虐こていたのだ、と噂しています、群衆はまだ、公安局の拷問係 たちをネズミのように追いまわしております、閣下のご命令 の上ない一人の民間人による恐怖政治に終止符を打ったこと を告げたのだった。大衆の盲目的な正義によって裁かれたホにしたがって、連中を軍の保護下からはすしておきました、 うら セ・イグナシオ・サエンスⅡデⅡラー ーバッラ。あのとおり奴おかげで民衆も積年の怨みを晴らし、多年の恐怖から逃れる ことができるというものです。なるほどそうか、と大統領は は殴り殺されて、アルマス広場の街頭に逆吊りにされていま うなずいた。楽しげな鐘の音や、解放を祝う音楽や、感謝の す、睾丸を口のなかに押しこまれて、万事、閣下のお命じに なったとおりに運ばれました、奴が逃げこむのを防ぐために、 声などに感激しながらである。アルマス広場に集まった群衆 あんこく 大使館のある通りを封鎖するように言われましたね、民衆はは、恐怖の闇黒からわれわれを救った寛仁なお方に、神のご 石を投げて奴を追いつめたのです、もっともその前に、群衆加護を、と描いた大きなプラカードを掲げていた。栄光を誇 が奴の住居兼用の事務所を襲ったとき、四人の市民のはらわっていた時代のこの一時的な再現に気をよくした大統領は、 こつけいしゅ、つ たを食いちらし、七人の兵隊に重傷を負わせた、例の獰猛な漕刑囚なみの権力の鎖を断つ手助けをしてくれた、士官候 犬を射殺しなければなりませんでしたが、群衆は窓から、ま補生を中庭に集めた。そしてその場の思いっきで指名しなが だ製造元のラベルのついた二百着以上のチョッキを、外へ放ら、疲弊し尽くした政権下の最後の最高司令部をでっち上げ こうてつ りだしました、まだはいていないイタリア製の。フーツを、三た。更迭の対象となったレティシア・ナサレノとその子供の 殺害犯人たちは、バジャマ姿でいるところを逮捕された。大 千足も放りだしました、三千足ですよ、閣下、奴はこんなも のに公金を使っていたのです、襟につけるガーデニアの無数使館に逃げこもうと画策していたらしいのだが、それはとも かく、大統領自身は彼らの顔の見分けもっかなかった。名前 の箱や、奴の筆跡で書き込みのされている、総譜付きのプル あ ックナーのレコードも全部、おなじ憂き目に遭いました、群も忘れてしまっていた。死ぬまで絶やすまいと努めてきた憎 秋衆はさらに、地下室から囚人たちを連れだしたあと、昔はオ悪のほむらを心のうちに探ったが、もはや掻き立てるまでも とこへでも ない、傷ついた自尊心の灰しか見出せなかった。。 長ランダ人が経営していた精神病院の拷問室に火をつけました、 大統領バンザイ、バンザイと叫びながら、男のなかの男であ消えろ、と彼は命令した。彼らは、哀れな男たちは最初の船 るお方がやっと真実に気づいてくださった、というわけですで放逐され、二度と彼らのことを思いだす者はいなかった。 うわさ よ、みんなは噂しています、閣下ご自身は何もご存知なかつ新政府の最初の閣議にのそんだ大統領は、新しい時代の新し ゾ」、つも , っ やっ

2. 集英社ギャラリー「世界の文学」19 -ラテンアメリカ

れんびん もするのだが、呪われた愉楽の最後の数滴を味わいつつあるという間に消えてしまった。恐怖のものとも、憐憫のものと のだという奇妙な確信を抱きながら、プレゼントの品物を寝も、あるいは脱のものとも見分けのつかない表情をちらと 室まで運ぶ手伝いをした。悲嘆が深まれば深まるほど、耐え見せただけで、二人は肉の奪い合いの渦の底に沈んでしまっ がたい不安から逃れるために考える手段のすべてが、それをた。。 ヒロードの造花のスミレで飾られたレティシア・ナサレ しりぞけるために打つ手のすべてが、あの恐ろしい不幸な水ノの帽子だけが、渦の表面にただよっていた。野菜売りの女 曜日へと容赦なく彼を押しやるのだという確信が強まった。 たちは熱い血しぶきを浴びて、恐怖のあまりトーテムのよう ばうぜん やがて訪れたその日、彼はとんでもないことを考えた。畜生、に呆然と立ちすくみながら、つぶやいた、ああ神様、大統領 もうたくさんだ、、、 とうせそうなるのなら、早くそうなってく閣下がお望みにならなかったら、あるいはせめて、ご承知で れ、と考えた。例の有無を言わさぬ突発的な命令ではないけ なかったら、こんなことは起こりつこないわ。大統領直属の れど、彼がそんなことをちらと思った瞬間だった。二人の副 護衛たちの面目は丸つぶれだった。一発も弾丸を撃たなかっ 官が執務室に駆けこんできて、恐るべき事実を報告した。レた彼らは、血で汚れた野菜のなかから骨しか助けだすことが ティシア・ナサレノとその子供が市場をうろついていた犬 にできなかったのだ。これだけであります、閣下、見つかった 八つ裂きにされ、食われてしまったというのだ。生きながらのは、ご子息のこの勲章と、飾り緒の失くなったサーベル、 食われてしまったのです、閣下、しかし、いつも見かける野それにレティシア・ナサレノさまのコードバンの靴だけでし ' とういうわけか、市場から一リーグほど離れた湾に浮、 犬ではありません。それは、おびえたような黄色い目とサメた、。 のようにすべすべした肌をした、狩猟犬の群れだった。何者ておったのです、ほかに色付きのガラスのネックレスと、ネ かぎ ットの財布があります、この三個の鍵や、黒ずんだ金の結婚 かが、青ギッネを見たら襲うように訓練したものだった。見 ゅびわ 指環や、十センターボの銅貨五枚といっしょに、確かにお渡 分けのつかないほどよくにた六十匹の犬が、誰も気づかぬう ちに八百屋のカウンターをおどり越えて、レティシア・ナサしいたします、閣下。彼にきちんと数えてもらうために、銅 貨はデスクの上に並べられた。これですべてであります、閣 秋レノとその子供に襲いかかったのだ。二人に当たるのが心配 おば 下、お二人があとに残されたのは。あとに残されたものがそ 長で発砲することもできなかった。まるで水に溺れるように、 族 二人は犬たちといっしょに凄まじい渦のなかに巻きこまれてれ以上であろうと、それ以下であろうと、彼にとってはどう いった。われわれに向かって差し伸べられる手が、一瞬ちらでもよいことだった。もちろん、この運命的な水曜日の記憶 と見えただけで、八つ裂きにされた体のほかの部分は、あつを跡形もなくぬぐい去るためには、長くて困難な歳月が必要

3. 集英社ギャラリー「世界の文学」19 -ラテンアメリカ

かん て、それよりも閣下、このさい、真実に目を向けられたらい 一一 = ロ葉よりもむしろ、恩知らずな態度のほうが剃にさわった。 かがです、ほんとに心のなかで思ってることを閣下に言った 結構な王様暮らしをさせてやったのは、このわしだぞ、誰に もしてもらえなかったことを、わしはしてやった、女まで貸人間は、一人もいないんですよ、みんなが、閣下が聞きたが ハトリシオ・アラゴネス オし力と一一 = 日っと、 っているなと思うことを口にする、閣下の前ではペこペこし、 してやったじゃよ、ゝ、 おおづち は答えた、その話はやめましよう、閣下、大槌で金玉をつぶ後ろではアカンべ工をしている、むしろこちらが、感謝して もらっても、 しいくらいです、閣下にいちばん同清しているの されるはうが、まだましですよ、仔牛に焼き印を押すわけじ は、このわたしなんですよ、閣下ににている、この世でたっ ゃあるまいし、あんなばばあたちを床に転がしたって、しょ た一人の人間ですからね、世間の連中がなんて噂しているか、 うがありません、あの情の薄い、下品なばばあたちは、熱い 鉄棒をあてがわれたって、ぜんぜん感じないんですからね、正直に言いましようか、閣下は大統領なんてもんじゃない、 うめ 仔牛のように脚をばたばたさせたり、もがいたり、呻いたり、閣下自身のカでそうなったわけでもない、その座に据えたの しり そんなことはしやしません、尻から煙も出なきや、焦げた肉はイギリスだし、アメリカの戦艦の弾丸が後ろ楯になったお これじゃとても、いい女とは言えませんよ、 かげだ、そう噂しているんですよ、わたしもこの目で、気お の臭いもしない、 めうし くれした閣下が何を命令したらよいのか分からす、ゴキ。フリ 奴らと来たら、くたばった牝牛のような体をこちらの思いど おりにさせながら、手だけは休めないでジャガイモの皮を剥よろしくあっちへうろうろ、こっちへうろうろするのを見ま いんばいや いたり、そばにいるほかの女に、悪いけど台所をのそいてみしたよ、アメリカ兵たちは言いました、この黒人の淫売屋は て、ここでひと休みしてるんだけど、お米が焦げちゃうと困貴様にまかせる、おれたちなしでやっていけるかどうか、高 るわ、なんてわめいたりするんですよ、閣下くらいのものでみの見物だって、あのときもそうですが、これまですっと大 しよう、あれが愛だ、恋だと思ってるのは、閣下はあの程度統領の座にとどまり続けたのは、閣下に下りる意志がなかっ たからじゃありません、下りようにも、下りられなかったか のものしか知らないんだ、ほんとの話。これを聞いて大統領 あ は、黙れ、この野郎、黙らないと、ほんとに痛い目に遭わせらです、そうでしよう、私服を着て街を歩いている閣下を見 の るそ、とどなったが、バ トリシオ・アラゴネスはまじめな口たら、とたんにみんなが、犬のように飛びかかってくること 長 族調でしゃべり続けた、いい え、黙るもんですか、痛い目に遭が、閣下にも分かっていたんですよ、サンタ・マリア・デ 、よう一い ル・アルタルの大虐殺や、港の要塞の濠に生きたまま投げこ わせるといったって、せいぜい、殺すくらいのものでしよう、 えじき ところがわたしは、もう長い命じゃない。そしてさらに続けまれてワニの餌食になった囚人や、生身の皮を剥がれてみせ

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トリック教徒を虚言をあやつり扇動しておるとのこと。弁護留学許可を大統領閣下に願い出ております。 ーレ、よ、つか 士アベル・カルバハルの友人であるウルキホ神父の存在が、 乢当市にある娼家〈甘き陶酔〉の同居人アデライダ・ペ 重大なる結果をもたらす惧れもある故、大統領閣下にご報告ニャルが、手紙にて大統領閣下につぎのとおり報告してきて ス ア申し上げる由。 おります。モデスト・ファルファン少佐が酔って話したとこ ウ 当市在住のアルフレド・トレダノは、不眠症にて寝つろによれば、エウセビオ・カナレス将軍は、同少佐が軍隊で スきがいつも遅いこともあって、大統領閣下のご友人であるミ出会ったたった一人の真の将軍であり、今回の災難は、有能 ゲル・カラ・デ・アンヘルが、 政府に対しいつも批判的なエなる指導者に対する大統領閣下の恐怖心によるものである。 ウセビオ・カナレス将軍の弟、ドン・ファン宅を、烈しくノしかしながら、革命は勝利するであろう。 ックするのを目撃したとのことであります。これは大統領閣 へネラル病院、サン・ラファエル病棟べッド番号十四 に入院中のモニカ・ベルドミオの述べるところによれば、同 下の関心事と判断し、ご報告申し上げる由。 比セールス業ニコメデス・アセイトウノの報告によれば、女のべッドが患者フェディナ・ロダスと隣接しており、同患 貯水池付近にて大統領閣下のお名前を損傷したる人物は、計者がうわごとでカナレス将軍の名を口にするのを聞いた由。 理士ギジェルモ・リサロで、当人は酩酊状態にあったとのこ頭の状態がすっきりしていなかったため、同患者のうわごと とです。 は理解できなかったものの、同患者に気を配り、ノートをと カシミーロ・レベコ・ルナよりつぎのとおり申し立てれば有益であろうとのこと。現政府に賛同するもののひとり がありました。第二分署に拘置され、間もなく二年半となる。として、以上、大統領閣下にご報告申し上げる由。 しんせき ハべリがアルケリーナ・スアレス嬢との結婚 貧乏であり、間に立ってくれる親戚もないため、大統領閣下トマス・ ロわれている罪は、 を発表、大統領閣下への献身を表明しております。 に釈放してくださるようお願いしたい。門 四月二十八日。 聖具係をしていた教会の内扉から、大統領閣下のご母堂の記 これが政府に敵対す 念祝賀会の案内をとりはずしてしまい 悪女たちの家 る勢力の指示であったというものである。これは事実ではな 字が読めないために、ほかの案内をとりはずそうとして、 「インディオの・ピ、おんな・。ハ ! 」 誤ってそうしたとのことであります 「あたいが・ポ ? そんなこと・べ、言ったって・ボ、べっ なルイス・バレーニョ医師が、妻を同伴の上、外国への おそ

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そで も勝てなかった。ヾ ノトリシオ・アラゴネスはシャツの袖で額い世界にとどまっていられるのも、そう長くはありませんよ、 の汗をぬぐいながら、申訳ありません、閣下、わたしも死にわたしの勘では、近いうちに、深い深い地獄の底で顔を合わ スたくはないので、と弱々しい声で言った。それを聞いて大統せることになりそうです、わたしはこの毒のおかげで、ドジ け領はカードを掻き集めて小さな木箱にしまいながら、教科書ョウも顔負けするくらい背骨がひん曲がった、そして閣下は マ を読みあげる教師のような口調で言った、わしだって、ドミ自分の頭を手にかかえてうろうろという、おたがいぶざまな ア ノのテーブルの上で死ぬわけにはいかん、生まれたとき水占姿で。そしてさらに続けて、このさいですから、閣下、遠慮 シ 加いの巫女が予言したとおり、そのときが来たら、べッドの上なく言わしてもらいます、閣下はどう思っているか知りませ はっきりそ で大往生を遂げるつもりだ、いや、よくよく考えれば、これんが、わたしは閣下を愛したことは一度もない、 ひそ も怪しいな、べンディシオン・アルバラドがわしを産んだの う一一一一口えます、閣下に捕まったあのときから、わたしは秘かに、 は、水占いの予言にしたがうためではない、 この国を治めるどんな死にざまでも、 しいから閣下が死ぬことを祈ってきまし みじ ためだ、要するに、わしはわしであって、お前ではない。さ た、わずかに許された、この孤児同然の惨めな暮らしにたいす ふくしゅう らに続けて、この勝負がただの遊びだったことを、神様に感る復讐ですよ、まず、閣下のように居眠りしながらでも歩 うすきね 謝することだ、と笑いながら言ったが、 そのときの彼は、こ けるように、この足を臼の杵で平らにつぶされました、それ の悪い冗談が現実のものになるとは夢にも思わなかったのだ。 から、ヘルニアになるように、靴屋の千枚通しで金玉をぐさ ノトリシオ・アラゴネスの部屋に入っていく 大統領がその夜ヾ りとやられました、それから母が苦労して教えてくれた読み ひんし と、彼は瀕死の状態にあった。もはや手の施しようがなかっ 書きを忘れるように、これは容易に忘れられませんでしたが た。生き延びる見込みはまったくなかった。神の救いがあるね、テレビン油を飲まされました、それにしよっちゅう、閣 ように、祖国のために死ぬのだ、たいへんな名誉じゃよ、 オしか、下の気が進まない公式の行事に無理やり駆りだされましたよ、 と大統領は、手を差しのべてドアをくぐりながら言った。二それはなにも、ご自身でおっしやるとおり、祖国が閣下を必 人っきりで部屋にこもった大統領は、じわじわと迫る死と闘要としているからじゃありません、どんなに勇敢な男でも、 っている彼のそばに付きっきりで看病に当たった。苦痛を和 いつどこで死神に襲われるか分からない状態で、コンテスト トリシオ・アラ代表の美女に王冠を授けるとなると、けつの穴が冷たくなる らげる水薬を手ずからスプーンで与えた。バ ゴネスは、、、 へつに有難そうな顔もしないでそれを飲み、ひと ほど怖いからですよ、ざっくばらんな話、とパトリシオ・ア ロごとに一一 = ロった、お先に行きますが、閣下がこのいまいまし ラゴネスは不満をぶちまけた。しかし、大統領はこの無礼な

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いる。なお、砦用砂袋の積み出しをすでに依頼済みとのこと ニコメデス・アセイトウノが下記の通り書面にて報告 であります。 してきております。いつもの通り、商用旅行を終え、首都に 生ファン・アントニオ。マーレスは、大統領閣下のご配戻る途中の道路で、大統領閣下のお名前が書いてある貯水池 慮により、医者の診察を受けられたこと、深く閣下に感謝しの看板が、ほば完全に破壊されており、文字が七つひきちぎ ております。ふたたび任務遂行が可能な健康状態になりましられ、他は汚されていました。 たので、弁護士アベル・カルバハルの政治活動について、閣 法務総監の命令により中央刑務所に収監中のルシオ・ 下にご報告いたしたきこと多々ある故、首都への出張許可を ハスケスが、閣下への謁見を認めていただくよう、嘆願して 願い出ております。 おります。 5 ルイス・ラベレス・がつぎのとおり述べております。 & カタリーノ・レヒシオの報告はつぎのとおりです。当 現在病気療養中なるも、回復の手段がないため、米国へ戻り、人はエウセビオ・カナレス将軍所有の農場〈ラ・ティエラ〉 いずれかの共和国領事館に奉職できるようお願、しこ、。 , しオしたの管理人であるが、昨年八月、同将軍がある日友人四人の訪 だしニュー・オルリーンズ以外の場所であること、さらには 問を受け、酔ったついでに、もしも革命が現実に起こった場 前回と同条件ではなく、大統領閣下の真の友人としての地位合、二つの歩兵大隊を自分の命令で動かすことができると客 を希望する。一月末、謁見予定名簿に記載されるという多大 し話した。一隊は客人のひとりファルファン少佐の指揮下に あずか の栄誉に与りましたが、控えの間におりましたところ、参謀あり、もう一隊はある中佐が指揮するものであるが、その氏 本部側になにか不信の念をいだかれ、名簿の順序を変更され名についてははっきりと口に出さなかった。革命のうわさが たらしく、番が廻ってきたとき、将校が彼を別室に連れて行 しきりに流れており、大統領閣下に直接お伝えするため、何 き、彼は無政府主義者のような取り調べを受け、その理由と度も謁見を申請したものの果たせす、文書にてここ にご報告 して、弁護士アベル・カルバハルに買収され、大統領閣下暗するとのことであります。 閣殺のためにやってくるとの情報があったためだと言われた由。 メガデオ・ラョン将軍により、アントニオ・プラス・ 戻ってみるとすでに謁見はとりやめになっていた。書面では クストディオ司祭から受け取った手紙が回送されてまいり、 大 不都合なことがらについてご報告するため、閣下とお話しでそれによりますと、ウルキホ神父が、大司教の命により、サ -4 ・ きるよう、その後最善をつくしたものの、叶えられなかった ン・ルーカス教区に配置替えされたことで同司祭を中傷しお とのことであります。 り、ドーニヤ・アルカディア・デ・アユソの手を借りて、カ とりで まわ

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い世代からえらび抜かれた連中もまた、薄汚れたフロックコかレ ナに、相変わらすだが絶えず襲ってくるハリケーンのひと ートを着た、意気地のない、代わり映えのしない大臣であるつで、めちやめちゃに破壊されたスラム街が広がっているの ことをしみじみと感じた。ただ、この連中は権力よりも名誉がわしの目に入らないように、波打ち際までヤシの並木路が ス ケに飢えていた。惨めな裸同然のこの国の売れそうなものを全延びていたそ。懐かしい母べンディシオン・アルバラドがコ マ部売ってもまだ足りない外債に関するかぎり、前任者のすべウライウグイスの色付けに使ったものだが、腐りかけの水で アてよりさらに無能であり、さらに小心かっ卑屈だった。しか世界が美しくいろどられているのを、大統領専用車の窓から りようわき ルし閣下、もう手の施しようがありません、というのはつまり、見てもらうために、線路の両脇に香りのよい草花が植えら 高地を走っていた最後の列車もランの茂る絶壁から転落してれていた。けれどもそれは、まだ栄華の名残りが感じられた す しまっていたのだ。ヒョウたちがビロード張りの椅子で眠り、時代のロドリゴ・デⅡアギラル将軍がやったように、彼をあ ぎんがい 外輪船の残骸は水田あとの湿地帯に打ち捨てられ、手紙は郵 ざむきながら歓心を買うためではなかった。また、愛情より 便袋のなかで腐り、海牛のつがいは愚かにも、大統領のキャ はむしろ同情からレティシア・ナサレノがしたように、らち かんしやく ビンの鏡に映った陰気なアイリスの茂みで人魚を産むことをもない剃癪を起こさせないためでもなかった。それはむし 夢みていたのだ。彳 皮ひとりがそれを知らなかった。秩序のなろ、緑のレモンの木に止まった、小さな赤い鳥、という学校 かの進歩を信じきっていたのだ。当時の彼の実生活との接触の唱歌も、すでに晩年には現実のものとは聞こえなくなって は、御用新聞で読むニュースに限られていたからである。新 いたのだけれど、中庭のパンヤの木蔭のハンモックに老い疲 とり - 」 聞は、もつばら閣下のために発行されているのです、閣下のれた身を横たえた彼を、彼自身の権力の虜の状態にいつまで お気に召すようなニュースや、閣下が見たいと思っておられもとどめておくためだった。しかし、このいかさまも彼には る写真や、午睡のために目の前に差しだされたものとは異な通じなかった。それどころか彼は政令を出して、国家の繁栄 る世界を閣下に夢みさせる広告などを掲載した、たった一種にとって不可欠なキニーネその他の薬品の独占権を回復する の新聞は、閣下のためにだけ発行されているのです。信じらことで、現実との和解をはかろうとした。しかしその現実は、 れんことだが、わしはその世界を、この目で確かめることが確かに世界は変化しつつあるが、生はいまだに権力の背後で できたのだ。。 カラスが陽に照り映えた省庁の建物の背後には、営まれていると教えることによって、ふたたび彼を驚かした。 港を取り巻いて、黒人たちの色とりどりのバラックがそっくキニーネなんてもうありません、閣下、カカオもありません、 あい りそのまま残っていた。おなじようなポーチが並んだ別荘の藍もありません、閣下。事実、まったく何もなかったのだ。 ひ

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をついてしまいました、延滞利子の利子を支払うために、さている。ハンツでさえ借り物ではありませんか、閣下。しかし らに別ロの借款を受け入れなければなりませんでしたし、当五時になると、彼はいつものように階段のところまで大使を あいさっ 然、代償が必要です、閣下、まず最初に、イギリスにたいし見送り、挨拶がわりに肩をばんとたたいて言うのだった、こ ス いつだけはだめだよ 、バックスター君、海を失うくらいなら けてキニーネとタバコの独占権を、ついでオランダにたいして マゴムとカカオの独占権を、ついでドイツにたいして高地の鉄死んだほうがましだ。ところで彼は、あのホセ・イグナシ ア道と河川航行の利権を、そして密約にもとづいてアメリカにオ・サエンス日デⅡラー ーバッラの生きていた不幸な時代から、 すべてを与えてきました。、、こが、 オ彼がこの密約のことを知っ水面下のように自由に歩きまわることのできる、墓場そっく ガ たのは、ホセ・イグナシオ・サエンス日デⅡラー ーバッラの派りな建物のなかの荒れ方を非常に気にしていた。彼のとんだ 手な失脚と評判の死のあとのことだった。あいつめ、さぞか眼鏡違いであの男は、人類の首という首を刎ねながら、レテ いま一ろ おおなべ し今頃は、地獄の底の大鍋でぐっぐっ煮られているにちがい イシア・ナサレノとその子供のテロ犯人の首を刎ねそこなっ か ) ) よい。彼は、ハンプルクの銀行家たちにたいする負債のモラた。おかげで籠のなかの小鳥たちは、、 しくら声を良くする薬 トリアムを宣言した困難な時期から、すべての大蔵大臣のロをくちばしから注いでも、頑としてうたおうとはしない。あ を通しておなじ文句を聞かされてきたのだ。われわれには何れつきり、隣の学校の女学生たちも休み時間に、緑のレモン も残っておりません、閣下。あのとき、ドイツ艦隊は港を封の木に止まった、小さな白黒の鳥の歌をうたおうとはしなく 鎖した。イギリスの戦艦はわずか一発だが警告のために艦砲なった。牛小屋でお前に会う時間が待ち遠しくて、しよっち を発射し、大聖堂の塔に穴を開けた。しかし、彼は叫んだのゆういらいらしているんだ、アラブヤシの実のような、お前 だった、ロンドンの王様なんぞくそ食らえだ。降伏するくらの小さいおつばいや、ハマグリみたいな、お前のあそこが拝 いなら、 いっそ死んだほうがましだ、と叫んだのだ、ドイツみたくてな、とつぶやきながら、バンジーの匂うあずま屋の 皇帝なんぞ、くたばっちまえ。あわやというところまで行き下で、彼はひとりで食事をした。暑い午後二時の照り返しの ながら彼が救われたのは、ドミノ仲間のチャールズ・・ なかをただよいながら、時折りうとうとしたが、テレビ映画 ラックスラー大使の涙ぐましい働きのおかげだった。トラッ の筋を追うことは忘れなかった。彼の命令で、その映画のな クスラー大使の本国政府が、わが国の地下資源開発の半永久かでは万事が実人生とは裏返しのかたちで進行した。しかし、 的権利と引き替えに、ヨーロッパの外債を保証してくれたのすべてを心得ているはずの元首も知らないことがひとつあっ て、あのホセ・イグナシオ・サエンスⅡデ日ラー ーバッラのま ですよ、あのとき以来、われわれはこのざまなのです、はい

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ているという報告が入ったときである。銅像ひとつない広大ものと言っていいでしよう、奇跡をでっち上げ、お金で釣っ 刀な領土の人跡末踏の地まで、美々しい行列を組んで遺骸を運て虚偽の証言をさせた連中は、閣下の取り巻きなのです、連 ぶように命令したときである。徳を積んだ結果がどういうも中は、。 こ母堂べンディシオン・アルバラドのありもしない花 ス いしよう けのか、みんなにとくと、知ってもらいたかったからだよ、長嫁衣裳を作って売ったのです。なるほど。。 フロマイドを印刷 マいあいだ苦労して、少しも報われなかったんだ、さんざん小 し女王姿の肖像入りのメダルを造ったのも、おなじ連中なの - も・つ ア鳥の色付けをして、なんの儲けもなかったんだ、他人を愛しです。なるほど。。 こ母堂のカールした髪の毛でしこたま儲け わきばら ただけで、慈悲を受けたこともないんだ、おふくろよ、当然ました。なるほど。脇腹からしみでたお水入りの小瓶もあり ガ じゃ . ないカ 、しかし、あの命令からとんでもないべてんが生ます。なるほど。心臓に手をあてて横になった若い娘の柔ら すいしゅ まれるとは、正直、わしは考えもしなかったよ、にせの水腫かい肉体をドア用のペンキで描いた、綾織りの経帷子もあり の患者たちに金をやって、みんなの見ている前で水を吐かせます、これはインド人たちの市場の店の奥で、ヤードで切り たそうだ、にせの死びとに二百ペソを払って、墓穴から抜け売りされたそうです、このとてつもないべてんを支えていた きようかたびら ださせ、ポロポロの経帷子にロいつばいの泥という格好で、 のは、大聖堂の会衆席に長蛇の列をつくっている民衆のむさ 大勢の見物人のあいだを、ひざまずいて歩かせたらしい、あばるような目で見つめられながら、遺骸は依然として腐敗し るジプシー女には八十ペソを与えて、奇跡騒ぎはお上のたく ないという仮定なのですが、真相はまったく違います、閣下、 らんだいかさまだと言ったその罰で、頭の二つある赤子を通ご母堂の遺体はその徳によって保存されていたのではありま りのど真ん中で産むことになったという、猿芝居を打たせたせん、閣下がただ子としての見栄からお命じになったバラフ そうだ、そういう連中ばかりで、金をもらっていない証人は インによる修理や、化粧品によるごまかしのおかげでもあり 一人もいなかったそうな。しかし、この恥ずべき陰謀をたくません、科学博物館の動物の死体とおなじように、下手な職 はくせし らんだ卑屈な連中の狙いは、デメトリオス・アルドウス猊下人によって剥製にされていたのです。大統領が確かめたとこ が調査に手をつけたばかりのころに推測したのとは違って、ろ、事実、そのとおりだった。わしはこの手で、おふくろよ、 こつつば カラスの骨壺 息がかかっただけで喪章が崩れてしまったが、。 大統領に喜んでもらおうという、純粋なものではなかった。 とんでもない、閣下、これは閣下の側近たちがしくんだ汚いの蓋を取った、仔馬のたてがみのように硬い髪の毛が、聖遺 ビジネスですよ、閣下の権力のかげでいろいろと悪事が行な物といって売るために一本残らず根本から抜かれている、か ばうとくてき ずがいこっ ホロポロ われていますが、そのなかでもとくに怪しからん、冒漬的なびの吹いた頭蓋骨から、レモンの花の冠を取った、・、 - も - っ ふた

10. 集英社ギャラリー「世界の文学」19 -ラテンアメリカ

こうかつどんよく やたらとそこらをうろっき回った。狡猾で貪欲な男に変わっの毒か何かが入っていたのじゃないか、それとも、悪い風に た。女の不意を襲ったり、服を着たまま、枕もなしで、うつあたったのか、と尋ねた。するとバトリシオ・アラゴネスは 伏せになって寝る生活にも馴染んだ。若いころの自尊心をき答えて言った、いいえ、閣下、もっと厄介なことです、土曜 ス けつばり捨てて、鮮やかな手つきでガラス瓶を吹いて作るだけ 日のことですが、カーニバルでえらばれたミスに王冠を授け マ のことだけれど、父親ゆすりの天職もすつばりあきらめた。 たあとで、この娘と最初のワルツを踊りました、じつは、こ ア 政敵の土地に出かけて、二つめが積まれるはずのない場所し この記憶が頭にこびりついて、忘れようにも忘れられないので シ す 最初の礎石を据えたり、落成式のテープを切ったりという、す、しよせん、わたしには手の届かない高嶺の花、絶世の美 ガ 女です、閣下、閣下にもお見せしたいくらいです。それを聞 権力者につきまとう恐ろしい危険にも果敢に立ち向かった。 おも たかね あんど しよせん高嶺の花、という想いに苦しめられて夜もろくに眠いて大統領は安堵の吐息をつきながら言った、なんだ、そん ためいき れす、カなく溜息をつくことが多かったが、 手が触れないよ なことか、惚れた男によくあることだ。大勢の美しい女を愛 ゅ、つかい うに気を遣いながら、移ろいやすい美を誇る大勢のミスに優妾にするとき使った手だが、そのミスを誘拐しろ、と大統領 勝の王冠を授けた。つまり彼は、自分のものではない他人のはすすめた、四人ほど兵隊をやって、娘をカずくでお前のべ 運命を生きるという、ばっとしない境遇に喜んで甘んじたの ッドに連れこませよう、連中が手足を押えているあいだに、 だった。ただし、それは欲得ずくでもなければ、確固たる信そのでかいスプーンで、手早く、あそこを掻きまわしてやれ、 念によるものでもなかった。月額五十ペソという名目的な俸無理やり手籠めにしてしまえ。さらに大統領は言った、ど 給と引き替えに、また、現実にそうだという不便を伴わない なに堅い女でも、じたばたするのは初めだけだ、そのうちに 王侯暮らしの特典と引き替えに、身を売って、公式の影武者と女のほうから、閣下、やめちゃいや、これじゃまるで、実の いう終身職ーー・こんなうまい話があるかね , ーレ亠—> ノ はじけかけたフトモモよ、なんて一言うに決まっとる。しかし、 ハトリシオ・アラゴネスの望みはそんなことではなかった。 からに過ぎなかった。誰が誰やらかいもく分からぬこのまぎ らわしさは、大風の吹き荒れたある夜、その極に達した。大もっともっと大きなもの、相手からも愛されたいということ 糸領がたまたま見かけたパトリシオ・アラゴネスが、ジャスだった。閣下、あれは素姓の正しい女ですよ、閣下だってひ ミンの芳しい香りのただようなかで、海を眺めながら溜息をと目見れば、びんと来るでしよう。そう打ち明けられた大統 ついていたのである。当然のことながら大統領は不審に思っ 領は、少しは気がまぎれるだろうというので、愛妾たちの部 あしもと て、足許がふらふらしているようだが、 食い物にトリカ。フト屋へかよう夜の道を教えてやった。このわしになったつもり