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検索対象: ノルウェイの森 下
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1. ノルウェイの森 下

んてなんとでも一一一一口えるのよ。大事なのはウンコをかたづけるかかたづけないかなのよ。私だって トトになることはあるのよ。私だって泣きたくなることあ 傷つくことはあるのよ。私だってへへ るのよ。なおる見こみもないのに医亠名がよってたかって頭切って開いていしくりまわして、それ を何度もくりかえし、くりかえすたびに悪くなって、頭がだんだんおかしくなっていって、そ、つ いうの目の前ですっと見ててごらんなさいよ、たまらないわよ、そんなの。おまけに貯えはだん だん乏しくなってくるし、私だってあと三年半大学に通えるかどうかもわかんないし、お姉さん だってこんな状態じゃ結婚式だってあげられないし」 「君は週に何日くらいここに来てるの ? ーと僕は訊いてみた。 「四日くらいね」と緑は言った。「ここは一応完全看護がたてまえなんだけれど実際には看護婦 さんだけしやまかないきれないのよ。あの人たち本当によくやってくれるわよ、でも数は足りな いし、やんなきゃいけないことが多すぎるのよ。だからどうしても家族がっかざるを得ないの e よ、ある程度。お姉さんは店をみなくちゃいけないし、大学の授業のあいまをぬって私が来なき のやしかたないでしよ。お姉さんがそれでも週に三日来て、私が四日くらい。そしてその寸暇を利 用してデートしてるの、私たち。過密スケジュールよ」 ル「そんなににしいのに、どうしてよく僕に会うの ? 」 「あなたと一緒にいるのが好きだからよ」と緑は空のプラスチックの湯のみ茶碗をいしりまわし ながら一言った。

2. ノルウェイの森 下

のはロクでもないところでばちほちと生きていくしかないんだっていうことが。革命が何よ ? そんなの役所の名前が変るだけしゃない。でもあの人たちにはそういうのが何もわかってないの よ。あの下らない言葉ふりまわしている人たちには。あなた税務署員って見たことある ? 「ないな」 「私、何度も見たわよ。家の中にすかすか入ってきて威張るの。何、この帳簿 ? おたくいいカ 減な商売やってるねえ。これ本当に経費なの ? 領収書見せなさいよ、領収査なんてね。私た ち隅の方にこそっといて、ごはんどきになると特上のお寿司の出前とるの。でもね、うちのお父 さんは税金ごまかしたことなんて一度もないのよ。本当よ。あの人そういう人なのよ、昔気質 で。それなのに税務署員ってねちねちねちねち文句つけるのよね。収入ちょっと少なすぎるんし ゃないの、これって。冗談しゃないわよ。収入が少ないのはもうかってないからでしようが。そ ういうの聞いてると私海しくってわ。もっとお金持のところ行ってそういうのやんなさいよって どなりつけたくなってくるのよ。ねえ、もし革命が起ったら税務署員の態度って変ると思う ? 」 の「きわめて疑わしいね」 「しゃあ私、革命なんて信しないわ。私は愛情しか信しないわ」 ウ 「ピース」と僕は言った。 「ピース」と緑も言った。 「我々は何処に向っているんだろう、ところで ? 」と僕は訊いてみた。

3. ノルウェイの森 下

ではパジャマ姿の病人が三人でやはり煙草を吸いながら政治討論会のような番組を見ていた。 「ねえ、あそこの松葉杖持ってるおしさん、私の脚をさっきからちらちら見てるのよ。あのプル ーのパジャマの眼鏡のおしさん」と緑は楽しそうに言った。 「そりや見るさ。そんなスカートはいてりやみんな見るさ」 どうせみんな退屈してんだろうし、たまには若い女の子の脚見るのもいし 「でもいいじゃない。 ものよ。興奮して回復が早まるんしゃないかしら」 「逆にならなきゃいいけど」と僕は言った。 緑はしばらくまっすぐ立ちのばる煙草の煙を眺めていた。 「お父さんのことだけどわ」緑は言った。「あの人、悪い人しゃないのよ。ときどきひどいこと 一一 = ロうから頭にくるけど、少くとも根は正直な人だし、お母さんのことを心から愛していたわ。そ 、弓 ) ところがあったし、商 れにあの人はあの人なりに一所懸命生きてきたのよ。性格もいささカ号し 売の才覚もなかったし、人望もなかったけど、でもうそばかりついて要領よくたちまわってるま わりの小賢しい連中に比べたらすっとまともな人よ。私も言いだすとあとに引かない性格だか ら、二人でしよっちゅう喧嘩してたけどね。でも悪い人じゃないのよ」 緑は何か道に落ちていたものでも拾うみたいに僕の手をとって、自分の膝の上に置いた。僕の 手の半分はスカートの布地の上に、あとの半分は太腿の上にのっていた。彼女はしばらく僕の顔 を見ていた。

4. ノルウェイの森 下

ふりしほって起きあがって「止めて、お願い ! 』って叫んだの。 でも彼女止めなかったわ。その子、そのとき私の下着脱がせてクンニリングスしてたの。私、 恥かしいから主人にさえ殆んどそういうのさせなかったのに、十三の女の子が私のあそこべろべ ろ舐めてるのよ。参っちゃうわよ、私。泣けちゃうわよ。それがまた天国にのばったみたいにす ごいんだもの。 「止めなさい』ってもう一度どなって、その子の頬を打ったの。思いきり。それで彼女やっとや めたわ。そして体を起こしてじっと私を見たの。私たちそのとき一一人ともまるつきりの裸でね、 トの上に身を起こしてお互いをしっと見つめあったわけ。その子は十三で、私は三十一で でもその子の体を見てると、私なんだか圧倒されちゃったわね。今でもありありと覚えてい るわよ。あれが十三の女の子の肉体だなんて私にはとても信しられなかったし、今でも信しられ ないわよ。あの子の前に立っと私の体なんて、おいおい泣きだしたいくらいみつともない代物だ ったわ。本当よ」 何とも言いようがないので僕は黙っていた。 「ねえどうしてよってその子は言ったわ。「先生もこれ好きなんでしょ ? 私最初から知ってた のよ。好きでしょ ? わかるのよ、そういうの。男の人とやるよりすっといいでしょ ? だって こんなに濡れてるしゃない。私、もっともっと良くしてあげられるわよ。本当よ。体が溶けちゃ うくらい良くしてあげられるのよ。 しいでしよ、ね ? 』でもね、本当にその子の一三ロうとおりなの

5. ノルウェイの森 下

145 しく感じられたのはそれが初めてだった。 「楽しかったーと緑は言った。「また今度行きましようね 「何度見たって同しようなことしかやらないよ」と僕は言った。 「仕方ないでしよ、私たちだってすっと同しようなことやってるんだもの」 そう言われてみればたしかにそのとおりだった。 それから僕らはまたどこかのハー ーこ入って酒を飲んだ。僕はウイスキーを飲み、緑はわけのわ からないカクテルを三、四杯飲んだ。店を出ると木のばりがしたいと緑が言いだした。 「このへんに木なんてないよ。それにそんなにふらふらしてちや木になんてのばれないよ」と僕 は一一 = ロった。 「あなたっていつも分別くさいこと言って人を落ちこませるのね。酔払いたいから酔払ってるの よ。それでいいんしゃない。酔払ったって木のほりくらいできるわよ。ふん。高い高い木の上に のば 0 てて「べんから嬋みたいにおし「こしてみんなにひ 0 かけてやるの の「ひょっとして君、トイレに行きたいの ? 工 「そう」 ウ 僕は新宿駅の有料トイレまで緑をつれていって小銭を払って中に入れ、売店でタ刊を買ってそ れを読みながら彼女が出てくるのを待った。でも緑はなかなか出てこなかった。十五分たって、 僕が心配になってちょっと様子を見に行ってみようかと思う頃にやっと彼女が外に出てきた。顔

6. ノルウェイの森 下

よ。本当に。主人とやるよりその子とやってる方がすっと良かったし、もっとしてほしかったの よ。でもそうするわけにはいかないのよ。『私たち週に一回これやりましようよ。一回でいいの よ。誰にもわからないもの。先生と私だけの秘密にしましようね ? 』って彼女は言ったわ。 でも私、立ちあがってバスロープ羽織って、もう帰ってくれ、もう一一度とうちに来ないでくれ って言ったの。その子、私のことじっと見てたわ。その目がね、いつもと違ってすごく平板な の。まるでポール紙に絵の具塗って描いたみたいに平板なのよ。奥行きがなくて。しばらくしつ と私のこと見てから、黙って自分の服をあつめて、まるで見せつけるみたいにゆっくりとひとっ ッグからへア・プラシを出し ひとっそれを身につけて、それからピアノのある居間に戻って、 て髪をとかし、 ( ンカチで唇の血を拭き、靴をはいて出ていったの。出がけにこう言ったわ。 『あなたレズビアンなのよ、本当よ。どれだけ胡麻化したって死ぬまでそうなのよ』ってね」 「本当にそうなんですか ? と僕は訊いてみた。 レイコさんは唇を曲げてしばらく考えていた。「イエスでもあり、ノオでもあるわね。主人と のやるよりはその子とやるときの方が感じたわよ。これは事実ね。だから一時は自分でも私はレズ = ビアンなんしゃないかと、やはり真剣に悩んだわよ。これまでそれに気づかなかっただけなんだ ルってね。でも最近はそう思わないわ。もちろんそういう傾向が私の中にないとは言わないわよ。 たぶんあるんだと思う。でも正確な意味では私はレズビアンではないのよ。何故なら私の方から 女の子を見て積極的に欲情するということはないからよ。わかる ?

7. ノルウェイの森 下

曜日は御主人が家にいるからあなたと会えないの。違う ? 「なかなか面白い線をついてるね」と僕は言った。 「きっと体を縛らせて、目かくしさせて、体を隅から隅までべろべろと舐めさせたりするのよ ね。それからはら、変なものを入れさせたり、アクロノ ヾットみたいな格好をしたり、そ、つい、つと ころをボラロイド・カメラで撮ったりもするの 「楽しそうだな」 「ものすごく飢えてるからもうやれることはなんだってやっちゃうの。彼女は毎日毎日考えをめ ぐらせているわけ。何しろ暇だから。今度ワタナベ君が来たらこんなこともしよう、あんなこと もしようってね。そしてべッドに入ると貪欲にいろんな体位で三回くらいイツちゃうの。そして ワタナベ君にこう一言うの。『どう、私の体つて棲いでしょ ? あなたもう若い女の子なんかじゃ 感しる ? でも駄目 満足できないわよ。ほら、若い子がこんなことやってくれる ? どう ? よ、まだ出しちゃ』なんてね」 「君はポルノ映画を見すぎていると思うね」と僕は笑って言った。 「やつばりそうかなあ」と緑は言った。「でも私、ポルノ映画って大好きなの。今度一緒に見に い、刀か ( い ? ・ 「いいよ。君が暇なときに一緒に行こう」 「本当 ? すごく楽しみ。のやつに行きましようね。ムチでばしばし打ったり、女の子にみ

8. ノルウェイの森 下

ぐしょぐしょに濡れてたんで、私バスタオル持ってきて、あの子の顔やら体やらを拭いてあげた の。パンツまでぐっしよりだったから、あなたちょっと脱いじゃいなさいよって脱がせて : : : ね え、変なんじゃないのよ。だって私たちすっと一緒にお風呂だって入ってるし、あの子は妹みた いなものだし」 「わかってますよ、それは」と僕は言った。 「抱いてほしいって直子は言ったの。こんな暑いのに抱けやしないわよって言ったんだけど、こ れでもう最後だからって一一 = ロうんで抱いたの。体をバスタオルでくるんで、汗がくつつかないよう にして、しばらく。そして落ちついてきたらまた汗を拭いて、寝巻を着せて、寝かしつけたの。 すぐにぐっすり寝ちゃったわ。あるいは寝たふりしたのかもしれないけど。でもまあどっちにし ても、すごく可愛い顔してたわよ。なんだか生まれてこのかた一度も傷ついたことのない十三か 十四の女の子みたいな顔してね。それを見てから私も眠ったの、安心して。 , ハ時に目を覚ましたとき彼女はもういなかったの。寝巻が脱ぎ捨ててあって、服と運動靴と、 それからいつも枕もとに置いてある懐中電灯がなくなってたの。ますいなって私そのとき思った わよ。だってそうでしよ、懐中電丁持って出ていったってことは暗い、っちにここを出ていったっ ていうことですものね。そして念のために机の上なんかを見てみたら、そのメモ用紙があったの よ。『洋服は全部レイコさんにあげて下さい』って。それで私すぐみんなのところに行って手わ けして直子を探してって言ったの。そして全員で寮の中からまわりの林までしらみつぶしに探し

9. ノルウェイの森 下

包帯を巻き終ると、彼女は冷蔵庫から缶ビールを一一本出してきた。彼女が一缶の半分を飲み、 僕が一本半飲んだ。そしてハッミさんは僕にクラブの下級生の女の子たちが写った写真を見せて くれた。たしかに何人か可愛い子がいた 「もしガール・フレンドがはしくなったらいつでも私のところにいらっしゃい。すぐ紹介してあ げるから」 「そうします」 「でもワタナベ君、あなた私のことをお見合い紹介おばさんみたいだなと思ってるでしよ、正直 言って ? 」 「幾分」と僕は正直に答えて笑った。ハッミさんも笑った。彼女は笑顔がとてもよく似合う人だ 「ねえワタナベ君はどう思ってるの ? 私と永沢君のことを ? 「どううって、何についてですか ? 」 森 の「私どうすればいいのかしら、これから ? 」 工「僕が何を言っても始まらないでしよう」と僕はよく令えたビールを飲みながら言った。 「いいわよ、なんでも、思ったとおり言ってみて」 「僕があなただったら、あの男とは別れます。そしてもう少しまともな考え方をする相手をみつ けて幸せに暮しますよ。だってどう好意的に見てもあの人とっきあって幸せになれるわけがない

10. ノルウェイの森 下

「病院のせいよ」と緑はぐるりを見まわしながら言った。「馴れない人はみんなそうなの。匂い 音、どんよりとした空気、病人の顔、緊張感、苛立ち、失望、苦痛、疲労ーーそういうもののせ いなのよ。そういうものが胃をしめつけて人の食欲をなくさせるのよ。でも馴れちゃえばそんな のどうってことないのよ。それにごはんしつかり食べておかなきや看病なんてとてもできないわ よ。本当よ。私おじいさん、おばあさん、お母さん、お父さんと四人看病してきたからよく知っ てるのよ。何かあって次のごはんが食べられないことだってあるんだから。だから食べられると きにきちんと食べておかなきや駄目なのよ」 「君の言ってることはわかるよ」と僕は言った。 「親戚の人が見舞いに来てくれて一緒にここでごはんを食べるでしよ、するとみんなやはり半分 くらい残すのよ、あなたと同じように。でね、私がペロッと食べちゃうと「ミドリちゃんは元気 でいいわねえ。あたしなんかもう胸いつばいでごはん食べられないわよ』って一言うの。でもね、 看病をしてるのはこの私なのよ。冗談しゃないわよ。他の人はたまに来て同情するだけじゃな ウンコの世話したり痰をとったり体拭いてあげたりするのはこの私なのよ。同情するだけで ウンコがかたづくんなら、私みんなの五十倍くらい同情しちゃうわよ。それなのに私がごはんを 全部食べるとみんな私のことを非難がましい目で見て『ミドリちゃんは元気でいいわねえ』だも の。みんなは私のことを荷車引いてるロバか何かみたいに思ってるのかしら。いい年をした人た ちなのにどうしてみんな世の中のしくみってものがわかんないのかしら、あの人たち ? ロでな