ートは一生変わらないそうだ。 割り当てられたパ 腰まきの男衆が大勢で声をはりあげる。日本で見たのよりも荒々しいケチャック・ダンス。 続いてトランス・ダンス。 年若い女の子がトランス状態になって踊る。最後がファイアー・ダンス。 馬に乗ったという設定のはだしの男が、火をけちらして踊り回る。火傷をしないのは気合 いたろうか この三つのダンスはセットになって演しられる。レゴン・ダンスよりも野性味と宗教色が 強く、陰の力を感した。 荒々しい太古の神たちの力。 終わってから歩いていると、なんだか道が真っ暗で、足元も見えない。かわりに星がよく 見える。 すると突然、田んばをはさんだ遠くの家や店の照明が、クリスマスの飾りのようにちかち かと順番に灯りはしめた。やがて私たちの歩く道にも明かりがついた。遠くで人々の拍手 と歓声があがる。 「停電だったんだ」と私たちは理解する。 しいものを見てしまった。
ていけるなら、自分は消えてもいし と真摯に思っていた。その人格たちが実在の人物であ るかどうか、専門家でもない私にはわからなかったけれど、その愛情のあっさには、胸打た れた。はんとうにいる人たちに感しるみたいに親しさを感した。治療が進むにつれて、マリ カ本人が外に出てくることが多くなるにつれて、他の人格たちは薄れていった。マリカの人 格に統合されていったのだという。 最後に残ったのは、オレンジだった。オレンジはマリカにとって、双子の兄弟であり、は かない初恋のポーイフレンドのような存在でもあった。父親に虐待されたマリカは、まだ濃 厚でない性を持っ年齢の、知的な少年を大切に胸に育てたのではないだろうか。 夫が家にいる時はす マリカは私の夫にもなかなかなっかなかった。やきもちを焼いたり っとぐすんぐすん泣いて私の気をひこうとしたり、オレンジになって感じの悪い態度を取っ たりした。でも、夫はそういう意味ではとても素朴で親切な人で、事情をよく知っていたの で、マリカが遊びに来ている時は、私とマリカを二人きりにするように心がけてくれた やがてマリカがよくいる、ということかあたりまえになると夫はそれに農れてきた。入院し ていることが多かったマリカにとって、うちに来ることかできる時間は短かったということ や、私たち夫婦には子供ができにくいということがわかったことも、マリカが長年をかけて 自然に少しすつなしんでいった理山の一つだろう。よくなるにつれて、マリカはほんとうに
116 そうだった。 ここでお詫びにということだろう、変な ~ 果子がつめあわさった箱がくはられる。退屈して たのと飢えていたために、むさばり食ってしまう。 そして腹がいつばいになってしまう。 空港側としてはあんまり出歩いてはしくないようすだったが、退屈して強引にゲートを抜 け、ショップを見て回った。 インドネシアものであろうドレスとか、なぜか阪神のマークがついた虎の壁かけとか。 これからのことを考えながら楽しく見る。石原氏は、これからのことを考えながらここで も買物をしていた。 さて、八時二〇分。やっと出発。 私たちがのんきにしている間に、他の乗客は全員乗り込んでいた。ひんしゆくをかいなが ら、恥すかしく駆け込む。 さっき食べてしまった ~ 果子のせいで、待ちに待った晩さん、「オードプル盛り合わせ、チ キンカレージャワスタイル、ココナツッライス、パイナップル添え、スモークサーモンとビ ッグアスパラのサラダ、タルト、コーヒー」が腹に苦しかった。くー
幻 0 泳ぎながらすわりながら、景色を見て飲めるなんてすごい。水が好きな私には答えられな 水につかりながら椅子にすわって、カウンターの中には普通のバーみたいに何でもあっ て、 ーテンが楽しげに飲み物を作っている。 この島の人たちは働くということとまだ蜜月状態にあるのだ。いいなあ。われわれは少し 行き過ぎてしまっているから。 : といってもにこち 原画伯と鴨下嬢が、買物から帰ってくる。ついに鴨下嬢も変な服 : らふうの服だけれど、を着ている。私と田出が二日目からもう変なセンスになってきていた のに彼女だけは持ちこたえていたのだった。 指一本すっ違うマニキュアもしている。 せつかくこんなになったのに帰るのはもったいないというものだ。 夕方がとてもきれい。この日の夕暮れは格別だった。ホテルの窓という窓にタ空が鏡のよ うに映り、金という金を反射し、ともるライトかフールの水面をらし、飛行機が美しく光 りながら飛んでゆく。刻々と変わりゆく空は贅尺だった。 暗くなるまですっと見ていた。 夜はまたしても買物などにはまリながら、レギャン通りをひたすら歩く。石原氏と山口氏 いろいろなものを見た。 か骨董の陶器にはまっていて面白い。
部屋に帰って、暑かったので私は水着に着替えてフールに行った。 小さなフ ールには私しかいなくて、水は冷たくて、極楽だった。体中の熱が甘く吸い取ら れてゆく 時は刻一刻と流れ、西の空がはんのり赤くなり、陽 永遠かと田 5 、つくらいにフー が傾いて金を帯びる。 静かなタ方の風 建物のシルエット、 プールを出て、少し散歩をした。椰子のシルエット、 の音。 ロスメンのすぐ脇に池がある。池のなかに茂る、森みたいなロータスの花や葉の向こうの 小高いところに、茶の寺院の門が鮮やかに見えた。 行ってみようかな、と思ったのはその寺院が高潔なたたすまいを見せていたからだ。 ロスメンの外壁についた小さな木の扉を開けると、さっきいたロータスの池を見降ろし、 ア そこはもう静かな寺の中だった。すべてがひそやかでおごそかで、造られた時のまま時間が フ 6 静止しているようだ。 カ 私はゆっくりと歩いた。 マ 誰もいなくて鳥たちだけが、 小さくさえすっては行きかっていた。 古くて清潔な芝をそっと踏んで、こけむした塔のまわりをめぐる。きれいな風が吹きわた
バリ夢日記 203 が冷えるがすはらし ) すぐにタ暮れがやってきて、みんなで買物をしつつ、中華を食べにいくことになる。 クタの・夜は明るい。 昨日までいたところが別世界に田 5 える。でもいきなりのこのにぎわい は、嫌いではない感しだった。 すごくおいしい中華料理屋「 z z 」でタ食。おいしさを見込んでカノリ 以外の味に飢えていたのか、みんな気が狂ったようなオーダーをする。十人前をはるかに超 えた量の料理が次々に並び、店の人も驚く。 その後はいっふう変わった大宴会となる。 それぞれが人格を露呈し、面白い クタの夜は美しい 夜中、五軒くらい向こうの部屋の原画伯が大音響で灰皿を落っことした音が響きわたる。 まだ起きていて話をしていた私と田出は、あれは酔った原画伯がなにかを落としたのであ ろう、という正しい推理をした。 しはらくすると美しくライティングされたホテルの庭をふらふらと歩いてゆく原画伯をⅢ 出が目撃。
る。 いちはんえらい神はいつも山ぎわだ。ここでは山は神聖なもので、神様に近いのだ。私は お堂をまわって、山がわに歩いていった。 すると誰か小さい影が、最高神の塔のふもとにすわっているのに気ついた マリカだった。 彼女は黒い ()* シャツにパン、芝にこしかけて空とロータスを見ていた。バリ絵画のよう に濃く細密な光景だった。 彼女はタ闇がせまるうす青の空の下、私を見上げた。 目が合った時、その中にひそむ誇り高い表情を見て、ああ、これはマリカではない、オレ ンジが出てきている、と知った。 「先生、先生、久しぶり。」 オレンジは立ち上がり 私に近づいてきた。 草を踏みわけて、大またの足取りで。 目にはマリカのたたえる柔らかい光は消え、代わりに鋭い知の光が宿っていた。無垢だ けが共通の資質として映る。 マリカの姿をしたオレンジは満ちたりた表情をたたえて、鮮やかに笑っていた。
132 みなさん、カード更新のときは新しいカードのほうを処分しないようにね。とくにハサミ できつばり切らないでくださいね ( 私だけですね ) 。 気をとりなおして、男湯から出てきた石原氏と合流。「キンタマの裏までもまれた」とま ことしやかにいう石原氏。 まだ風呂から出てこない原画伯を置き去りにして、ホテルへと急ぐ。 夜道ま生日、ゞ、 ( 旧しカ湯上がりの私たちには気持ちがいい 歩いていると、 ンに乗った若いお兄さんが、暗がりで寄ってきて「乗っていけという。 石原氏がむげに断ると、彼は笑って「迎えに来たんだよ、僕だよ、さっき予約の時いたじ ゃないか」というようなことを英語で言った。 よく見たら、これから行くホテルのレストランのフロントの人だった。 乗せてもらって、いったんホテルに行って、山口氏と鴨下嬢を乗せ、夜道を急ぐ。 レストランの入口で原画伯を発見する。 みんないちりんの花をもらし ) 、市リ、写真をとる。 きれいにセッティングされた長方形のテープルにすわる。私たちの他に、オーストラリア 人らしい一行が「食事をしながらのワャン・クリ」を楽しみに来ている。 インドネシア科理のフル・コース。
「ジュンコ先生、子供たちを見捨てないであげてください、おつらいとは思いますが、あの 子たちはほんとうに先生を慕っていますの。」 などとたっふりとした笑顔で言っては、なぐさめてくれたりした。 マリカが催眠療法をした時、ミッョというのはマリカか小さい時に隣に住んでいたおはさ んだったことを知った。そこに逃げている間、マリカははじめて普通の子供のように優しく された。本物のミッョが引っ越していってしまってから、マリカには逃げ場のない地獄が訪 れた。私は本物のミッョに会いに行っこ。 「特別優しくしてあげたわけではないんですけど、ご両親があまり、マリカちゃんのことを かわいがっていないようなので、遊びに来た時はお菓子をあげたり、お留守の時はうちにあ げて遊んだりしていましたけれどね、うちには子供がいないものですから、かわいくってね と話すミッョの様子はおそろしいほど、マリカの中のミッョに似ていた。そして、マリカ かおそろしいはど強くミッョを求めていたことを知った。顔や服装は、確かに私によく似て いた。マリカが近所に住んでいるという条件を満たしている私にひとめばれしたわけも、よ くわかった。 ミッョに会った帰り道、街灯の明かりだけが光る夜道を歩きながら私はなんだか泣けてき
バリ夢日記 163 驚いて私はうなすいた。 「いいから、黙ってついてきて。こわいとか、ど、つしようとかなにも強く田 5 わないようにし て。君のことは絶対守るから。」 なんとなく信頼できそうだったので、私はついていった。すると驚いたことに彼は裏をま わってエレベーターに乗り、あの事件の現場であるホール階に私を連れていった。 エレベーターの扉が開くと、まだ立入禁止になっているのでロープや、惨殺の後の人型や 血のあとがあった。 そして、やはり個性のない感じの男女が十人くらいいて、必死でなにか作業をしている。 のぞきこむと、ビラを作っているものと、なにかを配線しているものに分かれていた。みな 私には注意をはらわす、作業に熱中している。見るとピラにはあの事件の犯人として、あの 女の名前が書かれていた。 青年は言った。 「僕たちはすっとあの女と戦ってきた。力はほんとうに五分五分なので ( 私はこの表現をは つきりおばえている ) 、いっ負けてみな殺しにされてもおかしくないんだ。これから一時間 後に僕たちはあのビラを撤く、そしてうまく配線をつなぎかえて校内放送を乗っ取って、あ の時起こったことを話す。でももし、あのエレベーターから」