212 四月十五日 またもや変な夢を見る。 朝起きると大雨で、「これしやバロン・ダンスは見れないね」と言いあっているところに ) え、ダンスはあります、行きましよう」と言って私たちを 鴨下嬢が来て、きつばりと「いし 車に乗せてしまう、という夢だった。 電話で起きる。 待ってます」と言っているので、「どうしたの ? 」と聞くと、雨でバ 田出が出て、「はい、 ロン・ダンスが中止かもしれないから、鴨下嬢が聞きにいってるとのこと。私は今見ていた 夢の話をする。 すると鴨下嬢から電話、ダンスはあるとのこと。 これも、なんとなく不思議な感じ。 ハロン・ダンスは夜にやると踊る人たちがとりつかれて危険なので、朝やるのだそうだ。 に夢に入りこまれた私としては、よくわかる。 登場人物 ( ? ) 車で二十五分くらいの「 0 0 < < z —」へ向かう。途中、晴れ
186 四月十ニ日 アマンダリでおそ寝。 ルームサービスを取ってココナッパックをしながら陽光のなかで優雅に食べる。 メニューはフレンチ・トースト、カフチーノ、フルーツ。 去り難き快適さだ。しかし夢は一夜だけでいいのだ。満喫度を高めるためにももう一度プ ールへ行く。 みんな同しことを考えていて、全員がいる。 石原氏は復活していた。すごい 鴨下嬢にバスト・クリームのききめを聞いたら、「起きてから見てみたけれど、変わりあ りませんでした」とのこと。「きっと、寝てる間に大きくなって、またしばんじゃったんで すよ , と悲しそうだった。私と田出は、すうすう寝ている鴨下嬢の胸がぶわーんと大きくな って、またしばんでいく様を思い浮かべて笑う。 ぎりぎりまでプールで泳ぐ
バリ夢日記 183 笑いくたびれて水からあがって男子の部屋に行ったら、石原氏がうんうんいって寝ていた。 かわいそうに、メートル先でみんな狂ったように笑っていたのだ。 田出の持ってきた必殺のフランス産アスピリンを与える。これは牛でも眠るくらい強力だ。 : と言いながら楽しく部屋に戻って、外の風呂に入って、鴨下嬢を招 きっと治るだろ、つ : いてしみじみと語りあう。鴨下嬢にも「バスト・クリーム」を塗らせてしまう。ひひひひ。 リドール」が置いてある。幸福を呼ぶ人形だ。よい夢 トの枕元には竹で編んだ「チ を ! というようなことが書かれたカード。この人形と竹のかごは、ゲストがおみやげとし ) 、コし 0 て持ってかえっていし 大きな広いダブルべッドで、田出と肉体関係を持っこともなくぐうぐう寝る。
幻 0 泳ぎながらすわりながら、景色を見て飲めるなんてすごい。水が好きな私には答えられな 水につかりながら椅子にすわって、カウンターの中には普通のバーみたいに何でもあっ て、 ーテンが楽しげに飲み物を作っている。 この島の人たちは働くということとまだ蜜月状態にあるのだ。いいなあ。われわれは少し 行き過ぎてしまっているから。 : といってもにこち 原画伯と鴨下嬢が、買物から帰ってくる。ついに鴨下嬢も変な服 : らふうの服だけれど、を着ている。私と田出が二日目からもう変なセンスになってきていた のに彼女だけは持ちこたえていたのだった。 指一本すっ違うマニキュアもしている。 せつかくこんなになったのに帰るのはもったいないというものだ。 夕方がとてもきれい。この日の夕暮れは格別だった。ホテルの窓という窓にタ空が鏡のよ うに映り、金という金を反射し、ともるライトかフールの水面をらし、飛行機が美しく光 りながら飛んでゆく。刻々と変わりゆく空は贅尺だった。 暗くなるまですっと見ていた。 夜はまたしても買物などにはまリながら、レギャン通りをひたすら歩く。石原氏と山口氏 いろいろなものを見た。 か骨董の陶器にはまっていて面白い。
158 例えはとなりに眠る田出も、むこうの部屋でまだ明かりをつけている鴨下嬢も、男部屋の みなさんも、それぞれがはかりしれない記慮の宇宙を内包している。 一日が終わるごとにその宇宙を構成するつなぐものは増えていき、今、私たちはバー う夢を共有している。 そんなことを考えて扇風機を眺めながら眠りにつく。
かちあう。そしてさっき学んだ最高神のポーズをみんなでして写真を撮り、笑いあう。 その寺院はホテルが王宮だったころに王様の個人所有だったそうだ。きっとすはらしい一 族だったのだろうと思う。 夢から覚めてホテルに戻り、プールで泳ぐ。 見かけよりはかに深いフールなので、はじめてはいる人を次々だまして沈める。 大笑い それから部屋に戻って、天井が鴨下嬢とつながっていて会話ができるべッドルームで荷物 整理をしたり、 シャワーを浴びたり。 暮れてゆく空、小さな窓から遠くの 祭りの太鼓の音が聞こえてくる。まだそのへんで歩い り笑ったりしている友達の声も聞こえる。 天井には扇風機がゆっくりと回っている。 すべてが色濃い竹でできた茶の部屋。 そこでプール後のお昼寝をした。 こんな昼寝は子供のとき以来だった。うっとりとやってくる夜に溶けてゆくような気分だ
222 文庫版あとがき 「マリカの永い夜」という小説にあまりにも無理があったので、設定から全部、書き直しま たいした改善はなされませんでしたが、やってよかったような気がします。前の方が好き だった読者の方がいらしたらごめんなさい このことでスケジュール的にご迷惑をおかけしたのに「作品がよくなるならそれが一番」 といさぎよく受け止めてくださった石原正康さん、きびしい日程の中奔走してくれたはなな リに一行き、麦にはなな ~ 半 事務所のみなさん ( ここには、当時は山口さんの会社にいて共にバ 務所にやってきた鴨下亜紀子嬢も含まれています ) 、デサインの変史を余儀なくされてしま った山口昌弘さん、ありがとうございました。内容の変化にもなぜかびたりとくる表紙の絵 を描いてくださった原マスミさんにも、感謝しています。あの旅よ、永遠なれ。 吉本はなな
バリ夢日記 143 またバスに乗り込み、ここからはデンパサールの田舎道で、とってもツアーらしいことが はしまる。つまり提携店めぐり。 ます銀製品の店へ。 突然バスが曲って、人のうちみたいなところに入って行った時は驚いたが、そこは店だっ た。 ~ 庭にはに , わとりかいた サービスでミネラルウォーターをくれた。 単なる提携店かと思ったが、そういう露骨な感しではなくて、ほんとうにいいかげんな銀 しいようだ。何度も来た山口氏と鴨下嬢がそう言っていた。そ 製品の店よりも安くて品質も、 れに気をよくして、みんな銀を買いまくる。 その後、木彫りの店に行く。 東京でもよく店で売っている、木でできた西瓜の皿とか、バナナの木とか、ああいったも のだ。 さすがに種類が多く、中庭では実演もしていた。とても広くて、感じのいい店だった。 皿とか魚の置物とかを購入。
126 すごくこわがって石原氏が戻ってくる。 「よかったでしよ。と言っても「こわかった : : 」しか一一一口えない状態になっていた。 彼は高いところがあまり好きではないのだ。浜辺のパラセイリング営業所 ( 建物はない ) の人々、田出のダンスを惜しむが私たちは去る。 それにしても、あのこわい状態の上空で、手を放してシャッターを押すとは、山口氏はす ごい。尊敬した。 昼食。 「バリムーン」というイタリアン・レストランで食べる。と言ってももちろん竹や木ででき インテリアといし たハリの建物。ひまさかげんといし まるで映画「ラスト・ジゴロ」で ジョン・ローンがやってた店のようだった。 一一階貸切。高い天井。光に満ちた舗道を見降ろす。 「サヌールは、このさびれぐあいかいいんですよね」と鴨下嬢語る。 ほんと、つにそ、ったと田 5 、つ。 伊豆や、千葉の少しさびれて人が少ない海辺の町みたいだ。なっかしくて、しんとしてい て、気持ちがいい
Ⅱ 2 はしめに これは旅行記というにもガイドというにもあまりにも中途半端なものなので、私個人の 「はじめて訪れたバリ、 をめぐる夢日記」のようなものだと思っていただければ幸いです。 この旅は、同行したすはらしいスタッフと芸術家によってより意味深いものとなりました。 本文にも多く登場する方々なので、感謝を込めて紹介します。 ・この本を企画したマウンテンという会社の社長さん、山口昌弘氏。写真、グラフィック・ デサイン、絵画、トランペットの演奏、カラオケで歌う、等多彩な才能の持ち主。今回は命 をかけて ( 本当に ! ) リの写真を撮りまくる。 ・マウンテンの社員であり、 、リには何度も訪れていて、インドネシア語も得意。今回はコ かもした ーディネーターもっとめてくれた美しき鴨下嬢。 ・私と同し / 、 、バリははじめて。天才音楽家、今回は天才画家として取材をする原マスミ氏。