岡田 - みる会図書館


検索対象: レディ・ジョ-カ- 上巻
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1. レディ・ジョ-カ- 上巻

けると言っているのだった。右手て握手をして左手て 置くようになってはいたが、その場はエレベーター ホールまての、ほんの数十歩の間の短いやり取りにな争うのが常識の世界だとはいえ、《岡田》との関係保 持に腐心してきた本人がそう言い出すというのは、白 「杉原と姪ごさんの話は、ご心配には及びません。身井の正論とはまた別の、深刻な意味を持っていた 「小倉と相銀の方は、そんなに危ないということて 上調査の件は、今のところ外には漏れていませんし、 すか」 会社にはもちろん関係ないことてす」 「ひょっとしたら、がひっかかるかも知れない。 倉田の声はばそばそしていて無表清だと言われるが、 ういう報があります」 城山の耳には、その下に覗いている感情の一つ一つが 、ーティ券の謝礼て電話を入れてく 今日午後、ノ 手に取るように分かった。しかし、倉田が激しく苛立 っているのは分かるが、その苛立ちが何に向かってい る代議士の酒田の顔が、即座に城山の瞼に浮かんだが、 党最大の実力者に捜査の手が伸びるという事態を、 るのか、具体的な対象は、いつも分からないのだ 具体的に想像することは出来なかった。いや、小倉の 「それに、《岡田》もその件は擱んてない。彼らは二 次面接のトラブルを嗅ぎつけて、秦野の親族を調べ上子会社、小倉開発が手がけた土地購入は、金の流れに げて、たまたまどこかて入手した遠縁の手紙の中から、要注意という情報はすてに入っており、あるいは疑獄 事件に発展することもあるのかも知れないと、ばんや 使える材料を探し出したごけて り思い直してみたが、城山の頭の中てはやはり実感が 「例のジャーナリストぞすか」 なかった。むしろ、そんな可能性もあるのなら、それ 「ええ。ところて今回は、《岡田》が出した尻尾を、 、、ちょっと叩いておきますから」 こそ早い時期に、《岡田》との関係清算に乗り出さな ければ、日之出が大変なことになるという、これもば 城山は一瞬、聞き間違いかと思った。倉田が白井と んやりした焦燥感に一瞬揺さぶられ、動しご。 年同じことを言い出したからてはない。倉田は倉田のル しかし、そ・フしたしばしの相 5 像も懸念も、あるいは トて、懸命に《岡田》と接触し、《岡田》の手持ち の情報を探り、その真意を確かめた上て、攻撃を仕掛《岡田》との関係清算への一歩も、その時点てはまだ

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同時に一斉に掌を返して三年、追い詰められた取引先 鈴木は社長時代、岡田経友会代表の岡田朋治や顧問 の中には相当数の暴力団絡みの企業も含まれている。 の田丸善一一「そして民守党の酒田泰一をはじめとした 金か回っているよ、、、、、、 ドーししカ金の切れ目と同時に暴力 代議士などとのパイプを持っていた本人だった。お の牙をむくような相手との共存関係を築いてきた銀行 かたは先代から引き継いだ人脈て、実際の汚れ仕事は 自身が、そのツケを一つ、人命て払わさせられたのが 倉田に任せていたとはいえ、それこそ鐱本しか知らな 今日の事態だと、城山は冷静に考えた。 い不透明な話が相当あるに違いない その辺りを白井 状況は日之出とて例外てはなく、実はもっと複雑だ とも言えた。日之出がかって《岡田》系総会屋、政治 誠一に追及され、白井は周到にも、その件て取締役会 の多数意見をまとめてしまったために、鈴木は四年前 団体などに対して経営コンサルタント会社などをトン の経営陣交代の際、、 ネルにして支払ってきた金額は、毎年約九〇〇〇万。 しささか不本意な形て代表権をも たない会長に退いたのだった。 一社が支出する金額としては相当に大きかった上に 鈴木も倉田と同じく、具体的な話は決して漏らさな なにより明らかな商法違反だつご。 一昨年、《岡田》 いが、岡田経友会とのつながりの中て、その元締めて との関係清算を決意した時期、警察庁は経済四団体に ある誠和会とも一度ならず接触はあったに違いない 対して総会屋排除の協力要請を強める一方て、商法違 物言わぬ鈴木の沈鬱な顔を見ると、城山としては歯が反ぞの各企業の摘発を積極的に進める方針に出ていた。 ゆさと不安の両方を感じ、事態はおそらく、それほど 日之出も《岡田》も危機感をもち、双方とも、摘発て 安穏としていられるようなものてもないのだと考えざ 受ける損害は多大と判断した結果、とりあえず関係解 夜るを得なかった。 消へ話は進んだのだが、実態は双方が弱みを握っての 企業と企業のおこばれを食うハイエナとの長い共存手打ちだった。《岡田》は日之出の商法違反の事実を ハイエナが直に企業を襲い始めるの握り、日之出は《岡田》系列の各団体と企業との広範 年関係が崩れたら、 はいわば当然の成り行きだった。ついこの間まて、相 な相関関係の情報を握っていたからだ。 手構わず融資を増やし続けた金融機関が、景気後退と ともあれ、そうして日之出は倉田の手腕て何とか切

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られた勢いて、「そうてすね」と応えた。 も徴妙なら、関所のくぐり方自体も実に微少ごっご。 それを見透かしたのか、倉田は城山の不安を受け止倉田が提案した内容を要約すると、要は役員をいかに めるよ - フに、 少し徴笑して見せた 騙しつつ、総意の形成を図るかということだが、それ 「城山さん。私は全面的に貴方と同じ意見てす。この は万一の場合の追及をかわすための布石というよりは、 私が、たとえば五月・六月分の四千九百万ケースの受九〇年の醜聞を抱えた徴妙な状況判断の中て、あくま 注分を出荷出来ないような事態を作ることはあり得まて最終的に恐喝犯の要求を呑み、同時に、岡田経友会 せん , との交渉のフリーハンドを確保しておくための布石の 「そうてすね」 一つ一つなのだった。 「警察は犯人を動かしたいてしようから、必ず要求に さらに、そうした布石を敷く倉田自身も徴妙て、城 応じたふりをしろと言ってきます。そうなると、こち 山の目には、倉田が今、岡田との全面対決か妥協かの らも渡りに舟てす。犯人の要求通りに動くことて、裏 間て、揺れているのがよく見えた。その詳しい心境ま 取引の交渉も可能になりますから」 ては分からないかナ ごとえば倉田が、こういう形て城 そうして、結局倉田の提案通り、今日中に取締役会山に手のうちを見せること自体、これまてはなかった を招集することを申し合わせて、その場は別れたが、 ことて、そういうところにも倉田自身の変化は如実に 城山は一人になってから、つくづく何という微妙な話現れていた。一カ月前、城山が解放された夜に、唐突 だろ・フとため自が出た に気づ、 オオカ倉田がいくらかは以前の倉 城山と倉田が渡らなければならない橋は、両端を 田ぞないのは確実な今、それぞも全面的に信頼するほ 《レディ・ジョーカー》を名乗る恐喝犯と、岡田経友かない城山自身の心境も、徴妙この上なかった。 会にふさがれており、今はとりあえず岡田を牽制しな がら、恐喝犯の方へ進んていこうとしているが、そこ 城山はその日も一日所用に追われたが、午前中に臼 へ迪り着くためには、取締役会というあやふやな関所井と電話て話し、犯人からの手紙の扱いを取締役会に を常に っていかなければならないのだ。その行程 諮ることについての意見を求めた。すると、白井は即 398

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のは、赤い目をして眼窩を落ちくばませた倉田誠吾だ てきたのが倉田だった。城山自身は、監禁されていた った。スーツもネクタイも、金曜の夜に見たのと同じ 日Ⅲたしかにその生・に田 5 い圭ョたりはしご。しかし、ム「 て、手に風呂敷包みを二つと、スーツ用のキャリングや政財界にしつかり根を下ろしている岡田経友会が、 ケースを携えていた いくらなんてもここまて荒つばい手段に出ることはな 「このたびは大変お世話になりました。取り急ぎ、城 いだろうと考え、姪の写真を見せられるまては、岡田 山社長の奥様に揃えていただいた着替えを持参いたし の関の可能性を退けてきたのだが、今となっては、 ました」 やはり群馬県の土地の件かと思ったし、倉田がどんな 倉田はそうしてます捜査員に慇懃な一礼をし、それ気持ちて今、ここに立っているか、痛いほど分かると 田 5 った。 から城山の方へは、「ご無事て何よりてすーと深々と 頭を下げた。 もっとも倉田は、捜査員の前てそっなく振る舞うだ 城山も機械的に椅子を立ち、「この通り無事てす。 けの理性も失ってはいなかった。 ご心配をおかけして申し訳ない」と頭を下げた。 「さぞ、ご心配てしたぞしよう。ご家族は皆さんご無 捜査員たちの注視する中、顔を上げた倉田は、安堵事ぞす。業務の方もまったく平常てすから、ご安心下 と苦渋が激しく入り交じる目を一瞬、密かに城山の顔さい。今朝の受注も支障なく入ってきていますのて」 に据えた。城山もそれに応えて、〈分かります〉と目 「そうてすか。ほんとうにありがとう」と、城山もそ だけて精一杯の田 5 いを云えご。 つなく応えた。 城山が拉致されたとき、倉田がどんな思いて事態を 「ては、着替えをどうぞ」と捜査員に促されて、倉田 受け止め、何を考え、何を案じたかは、想像するまては風呂敷包みを開き始めた。捜査員たちは席を外そう もなかった。一昨年、和解の形て関係を絶ったはずのとはせず、風呂敷包みの中身をじっと見ていた。倉田 岡田経友会顧間、田丸善三が、今年になって突然、群はまず、歯プラシやシェー 石鹸、タオル、櫛な 馬県の山林を購入するよう、しつこく持ちかけてきて どの洗面具を城山に手渡し、「先にこちらの方を済ま いる件て、その交渉の矢面に立って断固、拒否し続け せられた方が : : : 」 と言った。すると捜査員の一人が 284

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「ええ」 手。て握手をしながら左手て脅すような芸当がまかり通 「うちの今一番の重要課題はライムライトてす。担当 る世界だから、《岡田》が長年の信義を逆手に取って、 役員として一一一〔うが、公取委に弱みを握られるのが、ば 日之出に対して新たな攻勢に出ることも、あり得ない くは一番怖い。彼らは、うちに圧力をかけるために、 話てはない。「岡田経友会が動いている」という白井 、 , 、。 - メつつし J ライムライトとの合弁話をリークする可能性がある。 の一言は、そういう事情の一切を含んてしオ 逆に《岡田》もリークするかも知れない。今、うちは も、長年の《岡田》との関係を仕切ってきたのは倉田 てあり、白井がこういう形て進言に及ぶ筋合いの話て針の山の迷路を歩いているようなものだということに、 はないことにも、変わりはなかった。 貴方も異存はないてしよう」 「ええー 「て、どう動いているのてすか」 「《岡田》が日之出にとって、悪性腫瘍だ も、いずれ捜査の手が入る 「中日相銀も小倉グループ にも異存はありますまい。物事の清算には時期という のは避けられません。それを見越した《岡田》が、予 ものがある。今回は、まったく関係のないところて 防線を張ってきているのてす」 《岡田》が尻尾を出してくれた。その岡村某の手紙ら そうは言うが、これはまず、どこまて確実なウラの しいもの。それが学生の親の手てうちに送られた経緯 ある話だろうか。城山は慎重に相槌を控えた。 辺りまては、警察の手を入れてもいいのてはありませ 「《岡田》も焦っているということてす。切り崩すに かねてからそれんか はいい時期てす」と白井は畳みかけ 「え ? 」 となく久めかしてきた持論にも触れた。 + っ 「テープの送り主、秦野浩之とかいう歯科医の名は出 「鈴木会長にも同じことを進言しましたが、小倉運輸 二通目 さずに、警察に被害届を出す方向て考えたい。 への経営参加は、事態の推移をもう少し見極めてから の手紙も一緒に」 年にすべきてす。このまま話を進めたら、世間には〈日 「 : : : そうてすね」 之出は盗品を買い取った〉と言われる。《岡田》にさ 城山は時計を見る。針は九時五分前を指していた。 らにつけこまれる」 7

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らか擱み、ついてに岡村と戸田某の古い関係を調べ上 いと察し、その時点て個人的な思いの方は、慎重に自 げて、これは使えると判断したのだろう。 分の腹に又めた。 「ともかく、倉田が人事の方へ釘を刺した理由は、面 時計を見る。八時五十分。「話して下さい」と城山 伊を避けた、 一むだと思うが、これは通すべき筋から は短く促した。 って、いささかよろしくない と、白井はまず一つ 「岡田経友会が動いてます」と白井は言った。予想通 十 / 学 / 結論を出した。筋を通すために、こうして周囲に一本 一本ピンを刺して、道を確保していくのが臼井のやり 岡田経友会という組織があるのだった。総会屋、仕 方だった。今も、人事への〔木配の一件て倉田の羽根に 手筋、街金、金融プローカーなどを抱える企業グル まずビンを刺し、縁戚関係にある杉原と姪の話を持ちプて、実体は広域暴力団誠和会の企業舎弟だと警視庁 出して、この自分の羽根をピンて留めたつもりかな、 の幹部から聞いているが、その表玄関には大物右翼が と城山はちらりと田 5 つご。 鎮座しており、その玄関に出入りする多数の政治家が とはいえ、おそらくそんなつもりはないのたろうフ おり、政治家たちの後ろには都銀や証券の金融資本と グ本人は、豊かな白髪の頭をちょっと掻き、その手て官庁が連なっている。日之出総務部の総会屋担当と役 城山のデスクをばんと軽く叩くと、椅子の背から身を員の間ぞは、たんに《岡田》と隠語、て呼んている。 起こした。白井がこうして居住まいを正すたびに、田 5 今現在、日之出の関連会社の小倉運輸と、その主力 わず背筋が伸びると一一一口う社員は多い 銀行てある中日相銀の双方が、融資絡みの間題を抱え 「ところて城山さん。仮にテープはいたずらても、裏ているという話、その裏に岡田経友会の手が複雑に伸 て仕掛けた人間がいるなら、これはちょっと対処が必びているという話は、城山も内々に聞いており、城山 はまず、その関係だな、と理解しご。 要な間題だとばくは田 5 っている」 佃分か前、塚本の話を聞きながら城山の脳裏に閃い 小倉や中日の件は、日之出は直接の関係はよいが、 た雑多な筋道と、白井が言わんとしていることは、お 《岡田》が絡んぞいる以上、何らかの間接的なつなが りがないとは言えない。 しかも、この世界は土台、右 そらく同じだった。城山は、聞き流していい話ぞはな 6

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いてきた倉田の会社に対する献身と、それを支えてい きた時間と労力を、倉田が今、悔やんても悔やみきれ る愛社精神にも、ここへ来ていくらか制度疲労が来て ない思いていることは、富士吉田署て見せたその表情 いるのだということを、城山は今、考えざるを得なか からも十分に読み取れた。しかも、会社は倉田の長年 の労をねぎらうどころか、いざとなると、責任の所在 こと総会屋との付き合いにおいては、隹も という名目のもとに、個人に非難の矛先を向けるしか が無能をさらした結果、倉田が仕方なく一人て営々と 能がないのだ 岡田経友会の窓口を務めてきたのだが、それも実は、 倉田に今、会社への献身に距離を置く気持ちが芽生 総務を通さないことて、いざというときに司法の追及えているとしても、何の不田 5 議もない話だったし、そ が及ぶ幹部を個人に留めるという、会社の非情な論理んなふうに思う城山自身、犯人たちから姪の写真を渡 が作ってきた暗黙の既成事実だった。それを一人て背 されたとき、早々に、会社のために死ねるかと思った 負ってきた倉田の真意は、城山には会社一筋の献身と人間だった。とはいえ、三十年の伴侶の変身を見つめ いう一言葉てしか言い表せなかったが、献身といっても ながら、城山は、自分の足元がふわりと崩れていくよ 限界かあるだろ - フ うな一瞬の感覚を味わい、今また新たに思いがけない 今回、社長の拉致監禁という事態を受けて、誰もが発見をしたように、 密かな敗北感に満たされた。拉致 」よ可をやっ 岡田経友会の手を想像し、その結果、お前ーイ されて以来、さんざん物を考えてきたつもりだったが、 てきたのだという非難が倉田に集中したのは、想像に それても及びもっかなかった、 一つの発見だった。 英くなかった。 一昨年、一〇億という手切れ金て関係や、あの夏の日に、 小さい子供一一人をトラックに乗せ 解消をしたはずのその筋が、今年に入って群馬県の山 て出ていったとき、虚空を見つめていた倉田の苛立っ 林を買えと圧力をかけてきていることは、今のところ た横顔を思い浮かべると、当時から、自分の知らない 城山と倉田、白井の三人しか知らないが、社長が誘拐 とも田 5 った。 もう一人の倉田がいたのかも知れない、 ご、れ " 0 し」い - フ 事態に、誰よりも一番ショックを受けた 日之出における自分の三十年を支えてきた土台が今、 のは倉田だろう。長年、闇社会との付き合いに割いて わすかに足元からずれ始めているのを感じながら、城

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めながらふと、 8 番ホールのティーグラウンドの向こ 応ごっご。 - フを仰ぎ見た 日之出は一昨年、ついに岡田経友会との関係解消に ティーグラウンドを遠回りにして、誰かが走ってく 踏み切り、絵画購入という形。て一〇億円の手切れ金を る。東京支社長の藤井か、と目を凝らすうちに、藤井 支払って、念書を交わしたのだが、困難な交渉の一切 は彡林に入ってきて、 8 番ホールのティーショットを を取り仕切って円満解決に持ち込んだ倉田と、社長と 唯こ用事があるのかと思 侍つ行列の後方に近づいた一 = ロ : してその決裁をした城山は、万一の場合は《岡田》も ろとも一蓮托生の運命だった。もっとも、そうした可ったら、藤井は役員の柴崎という男に何か耳打ちし、 今度は柴崎が小走りに走り出して、列の最後尾辺りに 能生は限りなくゼロに近いという双方の周到な判断の いる倉田に耳打ちを繰り返した。 上て行われた手打ちてあったから、城山にはさほど切 その倉田と目が合った。倉田は、「失礼」と周りに 現場、て交渉に当たって 羽詰まった感覚はなかったが、 声をかけながら、行列の先端にいる城山のところまて きた倉田にはまた別の受け止め方がある。 やって来ると、「先ほど、東栄の山下常務が亡くなら 今朝の、小倉への強制捜査を伝える新聞記事一つに、 れたそうてす」と言った。 人知れず腹をざわめかせたに違いない倉田だったが、 ひそひそ話というほどの声てもなかったのて、それ それぞも一応、ホールインワンに近いプレーが出来る は周囲の人々にも聞こえ、たちまちざわめきが広がっ のならと、城山はひとまず安堵した。 山下某の死はともかく、東栄と取引のあるところ さあ、次のティーショットは、ドッグレッグのカー ド。この 8 番は、とっさに弔間や弔電の手配などを考えただろう。 プの真ん中辺りを狙って、約一七〇ャー 夜ホールては、ここのところ立て続けにコース両脇の林片や城山の方は、倉田の険しい目に覗いている何かの サインを見て取った。 に引っかけているカら、ムョ日こそは。 何か不都合があったなと察し、とりあえず連れの特 にと、一つ前の八組の二番手がティ 年「じゃあ、お先 約店や佐藤運輸の社長たちに「ちょっと失礼いたしま ーグラウンドに出ていき、城山の順番まてあと二人に なった。城山は手袋をはめ直し、手首の準備運動を始す」と声をかけて、プレーの列を離れた。倉田、藤井

9. レディ・ジョ-カ- 上巻

マンとして、もう少しほかにやり方はなかったのかと、他人の家庭問題に口を出しているのかと当惑した。要 するに、杉原の家の間題だと言いつつ、半分はたしか 無匪に腹立たしさがつのった。 に会社の間題なのだ。どうすればいいんてすかと喉を 《杉原ぞす》という沈鬱な声が聞こえた。 「秦野という学生のこと。今、佳子ちゃんから一部始振り絞った杉原とて、同じ苦渋の中にいる。 「貴方も子供じゃないんだから、先方への挨拶のし方 終は聞いた。明日中に時間を作って、佳子ちゃんも一 被差別部落の件は、誤解 ぐらい自分て考えてほしい。 緒に、先方のご霊前にお参りしなさい」 私は田 5 - フか を重ねるからあえて出さなくてもいし 《その件ぞすが、倉田さんから : : ↓ それは君が決めることだ。私が一一一一口うことてはないが ーし。杉原の家の間題だ。貴方の 「これは会社よ関系よ、 家族のことを第一に考えて、貴方の責任て先方への礼 信義の間題だ」 《私もそうしたかった。しかし倉田さんには倉田さんを尽くしてほしい。義兄として頼みます」 そう言いながら、城山は自分の卑劣な論理を反芻し、 一切関係ないことにしてく の事情があるぞしようー その一方てそういう論理を並べる自分を冷静に眺め れと言われて、私はどうすればいいん、てすか》 つつ、ああ俺はこういう人間なのだなと考えていた 「会社は関係ない。貴方の家の問題だ。会社のことは 、とい - フのは、・目 被差別部落の件を口にしない方がいし 私が責任を持っし、倉田が言っている意味も分かって オオカそうした判断の る。私から倉田に言うから、貴方は一家の長としてや分ならそうするということごっ ' 驀、 根には、《岡田》の卑劣な手や世間の誤解を避けなけ るべきことをやりなさい。先方は歯医者さんだから、 ればならないという会社の理屈がある。その矛盾し 昼の休診時間か、診察が終わった時間に行くように。 ち一 た言い分を、杉原はもちろん察したに違いない。《明 いぞすね ? 」 男 日、先方に伺います。これて私たち夫婦と娘の心も少 少し間を置いて杉原は《岡田経友会てすか : : : 》 彡原は電話を しは青れます》と精一杯の皮肉を言い、本 , 年尋ねてきたのて、城山は「それと貴方の家の間題とは 別だ」と繰り返さなければならなかった。そう言って切った。 自分のデスクの、目と鼻の先に広がる夜景を眺めな しまってから、何の権利があって自分はこんなふうに 7

10. レディ・ジョ-カ- 上巻

に埋め込んてきた。当時の総務部長と担当役員が無能 倉田は、城山や白井と正反対の偉丈夫だが、体驅と 反比例した静けさ、ロ数の少なさは、役員の中ても際て、どういう経緯だったのか、副社長の方から「君、 やってよ」と一言いわれたらしいが、上司の城山もし 立っている。城山や白井以上に顔がなく、実績だけす ばらくは知らなかったし、本人に聞いても口が堅いの ある。しかし倉田の場合は、顔がないというより、消 しているといった方が当たっているだろう。ビール事て何も言わない。六年前に白井がつつき出すまて、 アカそのタブ 業本部を支えているその実体は、精巧なジャイロスコ 《岡田》の話は取締役会のタブーだっ三。、 ーをひとり。て背負っている忍耐や直懣は、猫背ぎみの ープ付きの魚雷だが、先月の社内報に載った戯画ては、 ぬうばうとした牛に描かれていた。ちなみに城山はペその背中にちょっと窺える程度だ。 ンギン、白井はキツッキだった。 座の会話は途切れず、倉田の一言を受けて、今は日 倉田は副社長に就任した今ても、全部の支社支店の之出ラガーの『芳醇百年』のがえじきになってい あらゆる数字を刻々と見ており、販売網の末端まて頭 た。広報担当の役員が「あそこまて一見、正調てやれ るのは、日之出のラガーだからたが、フランド・イメ に入れて毎週の数字を読み、マーケティングの資料と ージを逆手に取って、あのウインナーワルツの O は 突き合わせている。一カ月黙って見守り、二カ月目に ぎりぎりのところて遊んぞるんだ。きわどいてすよ、 は支社なり支店なりに自分て電話をかけるのて、午前 あれは」と一一一口う。「あのはたしかに、上品な悪ふざ 中は倉田の電話はたいていふさがっている。午後から けだね」という声があり、「いっそ、ビールを〈不気 は社にはおらず、週五日、ほとんどどこかの支社やエ 場や特約店へ足を運んている。まだ営業課長だった時味〉て売るというのはどうかな」と笑い声が立つ。 代に、役員の誰かが「倉田は魚雷だな」と言ったのだ 「この間、ばくは電通の常務と会ってね。彼が太鼓判 が、そのときは、数字の下にっていて顔が見えない を押してたよ。日之出の今の宣伝感覚は、最前線を走 ってるって」と石塚の話は続いた。それは城山も同感 年という意未ごっこ。 そして、そうした実務的な外貌のどこかに この十 たった。ラガーの圧倒的なシェアに安住するのを止め 年間は、《岡田》のような相手との付き合いをきれい た時点て、日之出は、多様化路線に合わせて重厚や伝