森部 - みる会図書館


検索対象: 原子力戦争
58件見つかりました。

1. 原子力戦争

一ずつ三回にわけて取りかえるため、全体を三つの領域にわけ、前頁の図に示しているように、第 一領域、第二領域、第三領域と名づけているのである。 科学者は、手紙の信憑性についてははなはだ疑問視していたが、一週間ばかりたって電話があり、 わたしたちは渋谷の喫茶店で会った。若い技術者がいっしょだった。そこで、科学者から三枚の新 聞の切り抜きを見せられた。 「福井県三方郡美浜町丹生の関西電力美浜発電所は二十四日、運転開始以来二回目の定期検査中の 一号機 ( 出力三十四万キロワット ) の原子炉内で、加圧型燃料棒一集合体の中の燃料棒の被覆管に 小さな穴があいていた疑いがあったほか、非加圧型燃料棒三十二本の被覆管に変形が認められたこ とを明らかにした。 同発電所の説明によると 、小さな穴があいたとすると微量ながら放射性ガスが一次水系にもれて いたことが考えられるが、外部への影響は全くないという。 一方、被覆管が変形していた非加圧型燃料棒は同型二十集合体中の燃料棒三十二本で、被覆管が いずれも上部で平たくつぶれ変形していた。被覆管は直径約一センチのジルコニウム合金で出来て おり、被覆管の材質に問題があるらしいという。 同発電所では、この燃料棒を長期間使用すると破れて内部の放射性ガスが炉内にもれる恐れがあ るため、非加圧型の四十一集合体をそっくり加圧型のものと取替え、同炉内全部を加圧型にするこ とにした」 ( 朝日新聞日福井版Ⅱ・昭和四十八年五月二十五日 ) 「蒸気発生器の細管損傷などで定期検査している関西電力美浜原子力発電所の一号機 ( : : : ) で、 276

2. 原子力戦争

「地域住民と企業のパイ。フ役になる新しいメディアづくりだよ。現在のマスコミは住民たちからも 企業からも信用されていないからね」 三浦はわたしがたずねてもいないのに、ス。ハイとか隠密調査などという汚いことはやらない、そ んな類とはまったく次元が違うのだとしきりに強調した。しかし住民情報連絡センターの森部壮太 郎が一枚噛んでいるらしいのが気になった。そういえば、三浦の言葉は、真生会館で森部から聞か された説明とそっくりだ。三浦と森部を結びつけたのは前野靖子なのだろうが、彼女と森部の釈然 としない関係、森部壮太郎に感じるうさんくささを三浦にぶつけるわけにもいかず、わたしは酔っ たふりをして「森部壮太郎はくえない奴」だと放言し、三浦にいやな顔をさせただけだった。だが キナ臭い再処理工場を東南アジアのどこかにつくろうと動いている高木克敏は、森部以上に「くえ ない奴」かもしれなかった。 高木克敏はむつへ行くのではないか、とわたしは唐突に思った。高木の前の席には恰幅のよい 髪を運動選手のように短く刈った男が腰をかけていて、高木と話をしている。わたしがためらって いる間に、高木は目ざとくわたしを見つけて鋭い一瞥を投げたが、すぐに視線をはずした。わたし も気づかないふりをして通り過ぎたが、 ' クリーン車を出るときにふり返ると、髪を短く刈った男が あわてて顔をそらせた。派手なネクタイと胸の赤いバッジが印象的だった。去年の八月爆弾を仕掛 けられて多くの死傷者を出した財閥系の原子力メーカーのバッジだった。 その後、三沢で鈍行に乗り換えるときにも、野辺地で下北半島に入る大湊線に乗り換えるときに ジャパンのポスターから抜 も、高木克敏たちの姿を探したが、ホームに見えるのはディスカバ

3. 原子力戦争

ところが森部のうさんくささを説明しようとすると、和栗がわたしの言葉を遮るように、「森部 壮太郎も実は被害者なんだよ」と、強く弁護した。森部壮太郎は舞台裏のからくりを知らずに住民 ープ間の複雑な関係を聞かされて無理やりに主催を引き受けさせられ、途中でおりられな 運動グル くなってしまったのであり、森部を口説くのに一役買ったのが前野靖子だというのだ。 「しかし森部のような海千山千が前野靖子のロ車にのるとは思えませんがねえ」 わたしがつぶやくように問い返すと、「森部は激怒していて、彼があの女はス。ハイなのだと教え てくれたのだ」と和栗は答えた。 「何か具体的な証拠でもあるのですか ? 」 「わたしたちの会では危ないので会員名簿もっくっていないのよ。世話人の名前さえいっさい外に は出していません。それなのに会員の名前、住所から家族構成、夫の勤務先まで、すべてあちら側 につつぬけになっているのはどうしてなのよ。電力会社との話しあいの席で、〇〇さんの御主人の 病気はいかがですかと聞かれて、わたしたち知らなかったのでぼかんとしていたのだけど、後で確 かめたら本当に御主人が胃潰瘍で役所を休んでいたのね。そういう、そっとさせられることがたく さんあるのよー 桜田敏夫に見せられた東京電力の社内資料に、職員は地域のグループや行事に積極的に参加し情 報を収集すべしという一項があった。忠実な職員ならば、妻を「核の恐ろしさを考える女の会」に 参加させるぐらいのことはするかもしれない。和栗幸三の話では情報収集には停年退職者や下請電 気工事店の従業員やその家族たちまで動員されているそうだ。行田龍三に聞かされた「の

4. 原子力戦争

「事務所 ? 福島市陣馬町のこの土蔵が、現在のおれのオフィスだよ。情報戦争に必要なのは、し なやかな身軽さやからねー 三浦はわたしの茶碗にもウイスキーを注ぎながら、鷹揚に笑ってみせたが、無精髭や黒ずんだワ イシャツ、欠けた茶碗などが、残酷に彼の足をすくっているようだった。 国際情報戦略研究所の構想は、もともと森部壮太郎が持ちかけたもので、森部の住民情報連絡セ ンターとドッキングさせて、センターのほうは住民運動の顔をして情報を収集し、戦略研のほうは 企業むけの情報販売屋として商売をしようという目論見だったようだ。そして、最初に名乗り出た スポンサーが電力会社とメーカーで構成されている原発推進プロジェクトで、実質的にそのプロジ ェクトをきりまわしていたのが宝泉寺卓爾だったのだ。 ところがまもなく、プロジェクトの中で宝泉寺が浮き上っていることがわかった。宝泉寺はどう やら自分が所属する企業の中でも孤立してしまっているようだった。実際の経緯は、むしろ浮き上 った宝泉寺が焦って森部に頼み込み、森部は、宝泉寺のあがきの道連れにするつもりで三浦に押し つけたものらしい。宝泉寺が孤立したのは真壁の画策によるものだろうが、宝泉寺はずい分後まで、 自分を見捨てて鞍替えした森部壮太郎を信頼していたようである。 「それでは、きみははじめから宝泉寺との心中路線に嵌め込まれていたわけじゃないかー わたしが言うのを、三浦はウイスキーの入った茶碗をゆっくり揺らしながら聞いていたが、ぐっ と一気に飲み干すと、ちょっと咳込みながら、「そう簡単には抹殺されへんでえ」とわたしを見据 えた。 210

5. 原子力戦争

部に紹介しようかと思い、その森部をわたしに紹介したのが前野靖子であることに思いあたって苦 笑しながら、ばつの悪さをかくすために、なぜ会場が突然変ったり共催団体が脱落したのかとたず ねた。 「セクショナリズムという奴ですよ。あのグルー。フは新左翼系だ、いや共産党シン。ハだとか、住民 運動にもこまかく色分けができていましてね。大きな敵とケンカする前にちまちましたつばぜりあ と思って、わ 、にばかりエネルギーを消耗している。そんなことやっていたのではしようがない たしのところのような無色の機関がとりまとめ役をかって出たのだけれど、どうもうまくいきませ んな。駒野が頼んだ講師の中にトロッキストがいるとかで、共産党系がみんなおりてしまったので すよ」 おりたのは共産党系ばかりではない。あきらかに共産党と対立している住民運動の団体も黒く塗 りつぶしてある。だが、わたしはそのことは森部に問わなかった。彼の話の内容よりも、森部壮太 郎という名前にひっかかっていたのだ。どこかで耳にしたことがある。それもかなり近いところで 聞いたようだ。しかしこの夜真生会館を出るまで、ついに思い出すことができなかった。 5 安全論争 三日後、わたしは大手町の日本原子力本社に漆原健吉をたずねた。

6. 原子力戦争

厳戒態勢」は、福島だけのことではないわけだ。 「だけど、どうしてその情報を流したのが前野靖子だとわかったのですか ? 」 わたしはつい抗弁する口調になった。 「その頃ちょうど、わたしが夫ともっとも険悪な状態で、彼女が事務局の仕事をしていたのよ。っ まり彼女が連絡センターになっていたわけ。それに、宝泉寺美菜子さんを、彼女、わたしたちの運 動から脱落させようと陰険に動いたのよ。これは宝泉寺美菜子さん自身がひどいと泣いて怒ってい たのだから何より確かでしょ 宮坂弓江が最後は感情を昻ぶらせていうのを、和栗がさらにダメ押しをするようにつけ加えた。 「あの女は、台湾ロビーの黒幕で、防衛庁にも隠然たる力を持っている右翼のメカケなんだ。秘書 だったと称しているがね。それですべてが明快じゃないか」 「台湾ロビイの黒幕」という和栗の言葉で、わたしはすぐに三浦といっしょに会ったアーデル・シ ュロス四〇五号室の白髪老人のことを思い浮べた。防衛庁との不可解なつながり、符牒のような ・ : 。だとすると三浦道彦と老人を結びつけたのも前野靖子だったのか。いや 『中央日報』のこと : 逆に老人を接点にして三浦は前野靖子と知りあったのかもしれないなとも思ったが、そんな穿鑿よ りも、内部から激しい感情が突き上げてきて、わたしは和栗幸三や宮坂弓江たちがあっけにとられ るほど唐突に「住民とりで」を出た。胸中ではなんとも複雑な思いが交錯していたが、ともかくど こかにそれをたたきつけたいー 宝泉寺美菜子のことも、森部壮太郎についての和栗たちの誤解を 「正したい気持もこの瞬間は吹きとんで、抑えようのない憤激の中で、わたしは前野靖子の部屋に 1 一 = ロ 192

7. 原子力戦争

が」と、こちらが困惑するほど丁寧に詫び、わたしは内心しめたと思いながら、とにかく名刺だけ を置いて近くの喫茶店で待っことにした。 そこで約二時間、それから中華そば屋に行き、また 喫茶店にもどり、看板までねばって寿司屋にうつった。 寿司屋で女性週刊誌を眺めていると、「テレビの二十年ーと銘うって、テレビ放送開始以来二十 年間に評判をとった番組が写真入りでズラリと並んでいたが、その中に、住民情報連絡センターの 森部壮太郎の名前がいくつもあった。 それで思い出した。六〇年代の前半、池田内閣が高度成長のラツ。ハを吹きまくっていた頃、森部 壮太郎はマンモス代理店を背景にテレビ界に君臨して、彼が。フロデュースする番組が各局ともゴー ルデンアワーにめじろ押しに並んでいたものだった。その森部がテレビ界から消えたのは東京オリ ンビックの直後で、金の問題で失脚したのだという噂だった。高度成長時代の旗手のような存在だ った男が、核を全廃せよと主張する集会を主催する。十年もたてば人間がそのくらい変っても不思 議ではないのだろうが、マンモス代理店の敏腕。フロデューサーと反権力・反企業の住民運動とはど うもなじまない気がした。 もっとも、森部壮太郎の変身ぶりにこだわっていたのは、次の頁をめくって「歌手の和田アキ子 が楽屋あらし相手に武勇伝」なる記事を読むまでの間で、三十分に一度は必ず荒垣栄之助の家に電 話を人れ、八度目、十二時過ぎにやっと荒垣をつかまえて、あらためて会う約束をとりつけたので ある。勝手に相手の自宅に押しかけてえんえんと、しかも十二時過ぎまで待つなどは、無神経の極 みだが、長い時間待たれたほうは例外なく負担を感じて恐縮してくれる。荒垣が会うことを了承し

8. 原子力戦争

えられる。さらに、東通村で詰問された男たちの直接の依頼主が駒野信義なら、その裏には当然森 部壮太郎がいるわけだから、森部壮太郎と宝泉寺は繋がっていることになり、となると、三浦道彦 が森部の協力を得て設立した国際情報戦略研究所にも宝泉寺の影がただよってくる : ・ もっともすべてはまだ根拠のない想像でしかなく、「ビールではただ小便の原料を溜め込んでい るだけ」だとコップに酒を注いで飲みはじめた宝泉寺に、思いきって「東通村のほうはどうでした か」とぶつけると、宝泉寺は「この不景気で原発計画が中止になるのではないかと村の連中は心配 そうでしてね」と、 いかにもうまそうに喉を鳴らして流し込みながら言った。彼は通産官僚の真壁 慎一といっしょに東通村へ行ったことを、あっさりと認めたわけだ。 「高木克敏氏は東通村ですか ? わたしが調子づいて訊くと、彼はアタッシェケースを開いて中の書類を探ろうとした手を止めて 不審そうな目でわたしを眺め、「高木克敏氏は福島でおりましたよ」と、素気なく答えた。 福島には東京電力の原子炉 ( 型 ) 三基があり、さらに三基を建設中だが、試運転中の三号を のぞいて一、二号炉とも現在運転を停止している。福島の原子炉には、公表されている再循環パイ プのひび割れなどのほかに重大な事故が隠されているという話を耳にしたこともあり、高木克敏が 福島でおりたということが気にはなったが、高木のことはそれ以上追わず、何気なく駒野信義の名 前を出してみた。宝泉寺は「知らない」と首をふり、酒を飲んだが、今度はまずそうだった。 わたしはさらに森部壮太郎の名前を出した。宝泉寺は名前は知っていると言い、ますますまずそ うな顔でコップを空にしてアタッシェケースを閉めてしまった。何かをわたしに見せようとして、 125

9. 原子力戦争

情報戦略研究所を辞めたとはどういうことなのか。国際情報戦略研究所は、三浦が森部壮太郎と組 んでつくった組織だ。三浦と森部の間に何かが起きたのか。それはもしかしたら真壁と宝泉寺の確 執や原子力開発をめぐる流れの変化に関係があるのだろうか。 わたしは前野靖子に電話をしたが、またまた彼女自身の声が不在を告げた。 住民とりで 「どうもたてまえだけで迫力のない原稿ばかりだな。それから見ると、この野郎っとカリカリする けど、イザヤ・べンダサンの山本七平や渡部昇一なんて奴らの文章のほうがはるかに面白い。迫力 があるし、本気だよな」 校了間近の印刷所から高林登が電話でぼやいてきた。「なんていうか、奴らのほうが危機感がみ なぎっているんだな」 高林は八月号に原発特集を組んだのだが、「反対する筆者のほうがほんとうは原発の恐さを感じ ていないみたい」だと言う。 そういえば宝泉寺にも真壁にも、わたしのほうがたじろぐほどの迫力はあった。真壁が「ぞっと するようなその日ぐらし」で「暗闇の思想だなんていきがらなくたって、先は真っ暗」だと言った のは、おそらく彼の本心で、日本という国、一億一千万の人間を乗せた巨大船の運航には彼と反対 176

10. 原子力戦争

身体を大きくゆすって歩き去る漆原を見送りながら、前野靖子が洩らした注釈である。 駒野信義。眼鏡をかけた男。住民情報連絡センターの事務局員。この名前はわたしにも記憶があ った。大学闘争の炎が衰えかけた頃、 いくつかの大学のキャン。ハスに連日、ノンセクト・ラジカル ならぬナンセンス・ドジカルという巨大壁新聞を貼りつづけた一派のリーダーとして、しばしばマ スコミに登場していたからである。 青山敏男。長髪の受付係。元ミニコミ雑誌の編集者。住民情報連絡センターのパンフレット製作 前野靖子が男たちを紹介しているところへ、禿げ頭の主催者がもどってきた。 森部壮太郎。「情報開発」代表取締役。住民情報連絡センター代表。 わたしがテレビ局の人間だとわかると、彼は鼻白んだ顔になり、「マスコミが自らをフィクショ ナルなメディアにしてしまった責任をどう思いますかーと、まるでわたしがマスコミの総括責任者 であるような問い方をした。 「マスコミはもはや住民の意志を伝える。ハイプにも、政府や企業の意志を伝える。ハイ。フにもなって いないんだな。両者から信用されていない。コミュニケーションの場になり得ておらんのだよ。だ から、住民たちの意志の疎通をはかり、住民運動が相互に連絡しあえ、情報の交流や学者、政治家 たちとパイ。フを通じさせられるようなセンターがどうしても必要なんですよ」 森部の説明は三浦道彦が奔走していた財団法人の構想と似ていた。わたしはふと、三浦道彦を森 、 0