「モーツアルトはお好きなんですか ? 」と僕はたすねてみた。 「ええ、大好きなの。モーツアルトをじっと聴いてると、体が透明になっちゃうような気がする んです」と彼女は言ってから少し赤くなった。きっと象の体が透明になるのは滑稽なんじゃない かと不安になったのだろう。「あなたはモーツアルトお好き ? 「いや、なんだっていいんです。夜にビールを飲みながら戸外で良い音楽を聴ければーと僕は 言ってビールの六本。ハックを持ちあげて見せた。 「そうですわね。とても気持の良い夜ですものわ」 「一本いかがですか ? しいんです」と象は残念そうに首を振った。彼女が首を振ると両方の耳がとても可愛く 揺れた。「あの、はら、混んでくるとトイレに行くのに道をあけてもらわなくちゃならないでしょ 「ふむ」と僕は言った。象であるというのはなかなか大変なことなのだ。トイレに立っときに誰 かの足を踏んづけたりしたら、「あ、どうも失礼」では済まないのだ。 それから僕は自分の席に戻って、一人でビールを飲みながらモーツアルトのト短調のシンフォ ニーを聴いた。そして音楽にあわせて彼女の耳がばたばたと揺れている様を想い浮かべた。

へべースポール 180 ペンギン 183 ホホエール 184 ホテル 186 ・一丁ール 190 ママーガリン 192 マスカレード 194 マッチ 196 マット 200 ミ一ミラー・ポール 204 モモーツアルト 205 モラル 207 一フラーク 208 ラヴレター 214 ラストシーン 216 ランチ 217 ランナウェイ 221 レ一レインコート 223 ワワム ! 226 ワン ( バウワウ ) 229 後圭日きにかえて 糸井重里 231

缶ビールを持って野外音楽会に行ったら、そこでまた象に出会った。地下鉄でハイヒールをは いて、ベストセラー小説を読んでいたのと同じ象だ。 象はローラ・アシュレイの店で買ったとおばしき洒落たワンピースを着て、大型のサングラス を額の上にすらして上げていた。そしてやはり高いヒールの白いエナメルのサンダルをはいてい る。 へつに声なんてかける必要は 「こんにちは」と僕はすれちがうときにちょっと声をかけてみた。。 レなかったのだけれど、象はすごく居心地悪そうにそのへんをうろうろしていたのでーーー図体の大 ア なんとなく気の毒になったのだ。 きさを気にしていたのだろう 「あら、こんにちは」と彼女の方も僕のことを思いだして、につこり笑って返事をかえした。そ モ して手にしていたプログラムでばたばたと顔をあおいだ。それから意味もなくちょっと首をかし 0 亠ノ、」 0 モーソアルト mozart モ