ケチと業欲、貧乏性と合理主義。 そーゅーもろもろのイケナイ考えに突き動かされて、右手と左手を激しく接触させ音を発せし める人がいる。 コンサートの会場などに多くいる。少なからす、いる。 ひとりひとりの力は小さくても、それがたくさん集まれば大音響になる。 自分の出している音が、大音響をつくっていることがわかると、イケナイ考えの人は、すっか り自信を持ってしまう。大勢の仲間がいるから、イケナイ考えがイイ考えみたいに感じられるよ うになるのだろう。 こーなると、大音響は、脅迫を目的にしてうねりはじめる。借金取りが机を叩いて相手を震え あがらせるのと、そっくりだ。 「アンコールウッ」「金返せええ」「カッコつけんしゃねえよ」などの野卑な発言が飛び交う。 私はこの状態をコワイと感じる人である。 しかし、私にも、アンコールがあったらうれしいなくらいの気持はあるので、やつばり、「金 返せええ」の人なんかと一緒に手を叩いてしまうのである。 アンコーール encore
132 チューインガムその 2 chewing g ミで a ュ 2 青春は、いろんなものをふくらませる。 そのいろんなものが、ただひとっチューインガムだけだったという男がいたとしたら、そいっ は只者でないと田 5 、つ。 「あたい、アレがないの、知ってた ? 」・ 「知ってたよ。おまえがモモコと電話で話してたから」 「どうしたらいい ? 「おまえの好き。産みたきや産めよ」 「そーゅーの、や」 「俺だけでできることしゃないんだもん。おまえの考えを尊重するよ」 「ソンチョーって ? 」 「おまえの好きにしろってことさ」 「だって、あたい、わかんないから聞いてんじゃない」 「少しは考えたのかよ」 「うん。いろいろ考えたし、相談とかしてわかんなくなっちゃってるんだ。あんた、あんまり信
25 アンコール 先日、知りあいのコンサートがあって、久々にアンコールをやらない公演というものに立ちあ えた。 ーのひとりが、「もう演んないから帰んなさ 鳴りやまぬ拍手のなかに飛び出していったメンバ 自分で遊びなさい」とマイクに怒鳴った。 脅迫者は、はっと我にかえったらしく、一兀の聴衆に戻り、ぞろぞろ帰りはしめた。 ひとりひとりはイケナイ人じゃないとは田 5 うんですけどねえ。、 しつのまにか、みんな、イケナ イ考えに動かされちまうんですよねえ。 とにかく、遊びに「等価交換」なんかを求める考え方ってのは、一日も早くボクメッしたいも ジシャンになれないかしら ? のである。こーゅーことを言っていると、私、ミュ ①
野球にも、光と影がある。 光の軌跡にあたるものか一三ロた 小学生時代の私は、贔屓の選手の打率を、日替りで一一一口うことができた。その、贔屓の選手と ゅーのが、ミスターと呼ばれるような歴史的大打者だったために、私の「打率」のイメージは、 いつでも頭に 3 のつくものになってしまっていた。打者とは、川打席に 3 本以上の安打を打つも のである。しかも、時々はカメラのレンズが追えないはどの速い鋭い打球を、左翼スタンドに突 き刺すものである。それが当り前なのだと思ってしまったのだ。 ひとり好きな選手がいると、どうしてもその選手ばかりを見るようになる。その選手のことば かりを知るようになる。ということは、必然的に、他所に配る目線が少なくなるわけで、野球と いうゲーム全体の流れが見えないなどという以前に、チームの他の選手のことさえ考えの暗がり に入ってしまっているわけである。 べースポール baseball ひいき
134 ディズニー ・ランドを遊園地だと思ったら、それは誤りである。 では遊園地ではないかといえば、そんなこともなく、遊園地的要素を盛り込みつつある博覧会 場という言い方が、最も正確であろう。 おとぎの国も冒険の国も開拓の国も未来の国も、すべて、「どうぞご覧くださいの型式で造 られている。 自分の足で歩きながら見るか、動くものに乗って見るかの違いはあっても、殆んどの施設は、 目を楽しませるためにある。 例えば、「海底旅行」の切符を買ったとしよう。素人考えでは、これは潜水艦に乗るために買っ たということになる。だが、潜水艦はハッチが閉められた後も、水中に潜ってくれるわけではな これ い。ほんの数メーターだけ水中に没するだけである。速度は、人間が歩くのと同しくらい 以上速いと、「海底の景色ーがよく見えないからだ。むろん、水面下数メーターの「海底」だ。 ・ランド
222 「家出の動機がみつからないのを苦にして」というふうに、考えを一歩進めてみることをおすす めします。 家出の所持品についても、特に規則があるわけではありません。ただ途中でハナをかみたく なったり、大便をしたくなったりした時、紙がないと困る場合が多いようですので、チリ紙を 持って行くはうがよいでしよう。雨具や弁当水筒については、各自の判断で決定してさしつかえ ないでしよう。また、現金は非常に役に立ちますので、嫌いでなければ所持品リストに入れてお いてよいと思います。 交通手段も、特に限定しないほうがうまく行くでしよう。鈍行列車に様式美を感しるのは自由 ですが、そういったことにこだわっているとフットワークが悪くなります。 家出と自殺との関係を重大視する人もいます。しかし、一度自殺がうまくいくと次の家出が不 可能になるので、できればやめておいたはうがいいのです。また、自殺は、家にいても手軽にで きるのですから、わざわざ外に出ることもないでしよう。 家出と売春、家出と麻薬は、かなり深い関係を持っています。しかし、どちらも「家出人だか ら有利」ということにはなっていないようです。 最後に、家出して外泊すると、家の人が心配しますから、そーゅーことは絶対にやめましよう ね。 ①
112 ページをつかっての総力特集は「雪だるま族の最後」 グラビアと活版、それぞれペー とい、つタイトルであった。 ます、表紙には、百歳をいくつかこえて昨年の暮に亡くなった老スノーマンの笑顔がある。溶 けまいとする意志の力を百年以上も持続させることの困難がどれはどのものか、ぬるま湯ほどの ーかり心をわすらわせている人間たちにははかりしれるものではあるま 体温を持ち日々の糧によ たどんの目は、炭素の究極の目標であるダ . イヤモンドにあと一歩というところにまで近づき、 透明感のある深く黒々とした光を放っている。その写真に、白ヌキの英文が「 」と印刷されているのだが、これは日本語の「めいふくをいのる」の意訳として考え られたものだという。名訳とは言い難い。 巻頭のカラーグラビアでは、雪だるまたちの文化遺産、生活のスナップ、民芸品、ファッショ ップ畑のまんなかで雪だるま民謡「リック ンなどが紹介されている。なかでも、満開のチュー ンダンクル・チップ」を唱う小雪だるまたちのあどけない表情には、彼らを迫生〕してきた人々さ えも心を、ったれるであろ、つ。 スペシャル・ søecial S ~ ミ
130 チューインガムその 1 ew g g ミで 0 ュ 7 チューインガムが歯磨きの代用になると考えている非常識な少年少女がいる。 そーゅー愚かな考えの発生しやすい場所というものは、確かに存在する。例えば、そこに集 まっている大多数の人が、愛があるなら婚前接吻は許されるべきだと考えているような退廃した 大都市などが典型的である。 現代に生きている殆んどの人々は、チューインガムが歴史に果した役割に敬意を払っていな 、 0 ゴム底の靴を履いていたさる歴史的大人物が、チューインガムの噛みかすを踏んでしまって数 秒立ち止まったという記録がある。 板状になっている硬いままのチューインガムを使って家を建てようとした大工が、現在「カー ペンター印ガム」の社長になっていることなど、多少でも出世に興味を持っている人なら知らな いはすがないと田 5 うのだか 自分の指を堤防の決壊部分に突っこんで教科書にまで載ったオランダの少年は、日常的にがム を噛んでいることの大切さを、後のインタビューで語っていた。 スペースシャトルのタイル職人は、タイルの一枚一枚に向って「おめえたちも、ガムを噛み
/ く一スポーノレ 181 その、重点的にスポットライトを当てて見ていた選手が、ミスターなどと呼ばれるものでな かったら、例えば「準ミスター , であるとか「プルペン・エース」または「壁際の魔術師「バ ントの鬼」なんてものであったら、私のじんせいは、まったく違ったものになっていたのだろう と思、つ。 安打とは、 4 打席に 1 っ程度見ることのできるごちそうなり。そういった考えになっていたろ うし、人間は地味に一所懸命コッコッと努力を続けていれば、いっか報われたり報われなかった りするから、まー しいじゃないの飲もうぜ今夜は、といった思想を持ちえていたかもしれない。 ーし力ないか、その後の自 野球観戦の方法が、私の性格をつくってしまったと言い切るわけによ、、 分が好きになったもの、好きになる過程などを考えてみると、どうも、共通するものがありそう なのだ。 というようないけ図々し それは、言ってしまえば、いつでもごちそうの並ぶ食卓に座りたい、 いテーマに貫かれている。 何故かといえば、それが、フツーだと思ってしまったからである。打率で一一一口えば、 3 割何分何 厘というのが、私の知っているフツーの数字なのだ。同じように、アレをする時には、ぜひアー であってほしいし、いざソレに及ばんとする時にコーでないとしたらつまらない と。歪んだ理 想主義のよーなものを身につけてしまったのである。 最初の男によって女は決まる、などと真理めいたことをおっしやる助平の方もいらっしやる
タクシー 127 「てめえ 「何 ! ポカボカがシャグシャ。 もうやめてくれ」 「痛、痛、わかったわかった。金はいらない。 「金なんかいくらでもやる。もっと殴らせろ。警察を呼びたきや呼べ、ポカスカ。 「どうも、すいません、はんとに、やめてください 「そんなに謝るくらいなら、はじめからイバるな、コノッ」 原稿のうえだけとはいえ、こんなことできて、私はうれしい ①