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検索対象: 小説ザ・外資
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1. 小説ザ・外資

。ハターソン夫妻と吉岡弘が着席していた。 ハターソンはタキシード、夫人はエメラルドグリーンのイプニングドレスに大粒の真珠のネッ クレスがまぶしいほどあでやかだった。 吉岡は黒っほいダブルのスーツだ。 ハターソン夫妻が立ち上がって西田に近づいてきた。 「グッドイプニング、ケン。よく来てくれたな」 「お言葉に甘えて、図々しく押しかけました」 「ようこそお出でくださいました」 夫人がこばれるような笑顔で、西田と握手した。 「ヒロ、さっき話したケンだ。ケンのお陰で大怪我せずに済んだ。わたしの恩人だよ」 会 吉岡はゴルフ焼けした面長な顔をほころばせて、起立した。 出 の メタルフレームの奥の目も鼻も大きい 六十歳そこそこの年齢の割には若く見えるし、当 、しい二枚目で通る。身長は百七十センチぐらい カたろ、つか。 ン プラザの″オーク・ルーム″は、ほほ髑席に近い。 セ 「初めまして。吉岡です」 一「西田健雄と申します。よろしくお願いします。お目にかかれて光栄です」 ハターソンの紹介で、西田と吉岡が名刺を交換した。一一人とも日本名のほうを表にして差し出

2. 小説ザ・外資

部門で、ヴァイス・プレジデントは、日本企業なら課長職である。 ヴァイス・プレジデントの下はアシスタント・ヴァイス・プレジデント ( 係長 ) 、その下はア ソシェート ( 平社員 ) 。日本でいう事務職はクラークだ。 「ケン、仲良くしようや。一九九七年六月七日のセントラルバ ークでの劇的な出会いは、ケンに とって、必ず大いなるプラスをもたらすと思うよ。わたしのことをマイクとファーストネームで 呼んでくれ。わが家は目と鼻の先だ。一緒に朝食を食べよう。さあ行こうや」 ハターソンは、返事も聞かずに気易く語りかけ、親しげに西田の右肩に腕を回してきた。 西田は、ゲイと見られることを心配して、太い腕を振りほどき、 ハターソンに・回かって軽く頭 を下げた。 「きようのところは遠慮します。シャワーで汗を流したいし、傷の手当もしたいので、アパート へ帰ります。仕事も : ・・ : 」 「アパートはどこなんだ」 「イースト六五ですー 「走って行くわけにもいくまい。傷の手当は早いほうかいし のかいくらでもあるから、心配しなくていいぞ」 「お詫びのしるしに、朝食ぐらいご馳走させてもらいたいねえ 西田は眉を寄せて、思案顔になったが、好奇心が自制心を上回った。 。下着などの着替えるものは適当な 2

3. 小説ザ・外資

「身に余る光栄です。ひと晩だけ考える時間をください。あす、午後一時からグランド・ワイレ ・ドナー、ミセス・ドナーにはおい ア・シーサイド・チャベルで結婚式を挙げますが、ミスター でいただけるのでしようか」 「オプコース。そのためにハワイに駆けつけてきたんじゃないか。いまの話はついでだよ」 ドナーのくばんだ青い目が笑っていたが、 ついでは結婚式のほうだと顔に書いてあった。 「ひと晩じっくり考えてもらおう。なんなら返事は帰国してからでもけっこうだ」 「考える時間はひと晩で充分です。ワイフはもうその気になっているようですが、お断りするこ ともあり得るとおばしめしください。むしろ、その可能性のほうが高いと思います 「なんだと」 けしき ドナーが気色ばんだ。 「いまのケンの話は、ノーと言っているのと同じではないか」 で「おっしやるとおりです。いまの心境はノーですが、ひと晩で考えが変わる可能性もゼロではあ りません。ワイフともよく相談したいと思いますし」 ウ マ 「ミセス・ニシダ。なんとかケンを説得してくれ。たのむ、きみを頼りにしているぞ」 ノー ワ ドナーが拝むようなポーズで、綾子を見つめた。 エリザベスが口を挟んだ。 + 「チャーリ ーがミスター・ニシダをどれほど必要としているか、わたしは痛いほど分かっていま す。しかし、ミスター・ニシダをシカゴにお呼びしようと考えているとまでは知りませんでした。

4. 小説ザ・外資

ドナーはゼスチャーたつぶりに両手をひろげ、エリザベスは盛大に笑い声をあげた。 満席に近いダイニングルーム中の目とい、つ目が、こっちに集まってくるのも、仕方がない シャンパンから赤のカリフォルニア・ワインになり、前菜のシーフード・サラダから、メイン ディッシュのステーキに替わったとき、ドナーが改まった口調で切り出した。 「ケンと二人だけで話すのが筋と思うが、ミセス・ニシダにも聞いてもらったほうが話が早いと も思、つので、わたしの考えを聞いてほしい」 西田と綾子は居ずまいを正した。 エリザベスも緊張した面持ちで、ウォーターグラスをテープルに戻した。 「プルースが六月にを退任することになった。わたしを後任の oæo を指名し、取締役会 の承認も取り付けられる見通しだ。わたしは条件付きで承諾するつもりだ。条件の一つに、ケン をプレーンとして迎えることをあげたいのだが、受けてもらえるだろうか」 で「つまり、シカゴに転勤しろっていうことですね」 ィー 「イエス。ポストはシニア・マネージング・ディレクター。わたしの現在の肩書はエクゼクティ ウ マ プ・マネージング・ディレクター ( 副社長 ) だが、三年前はシニア・マネージング・ディレクタ ィー ワ ーだった」 「あなた、凄いじゃない。上級取締役でしよ」 + 綾子が上気した顔でささやいた。 「ミセス・ニシダは、わたしの話を理解したようだが、 賛成してもらえるかねー 5 4

5. 小説ザ・外資

西田はコードレスの電話機を叩きつけたくなった。 ートナーの吉岡がパターソン一人に罪を着せようとしているのは、許し難い。少なくとも二 3 人はグルだ。 いんぎん なにが西田さんだ、なにがあなただ。慇懃無礼な吉岡のもの言いにも、西田は腹が立ってなら なかった。 後日、グレース証券社長、吉岡弘の記者会見の新聞記事を読んだときの西田の腹立たしさは、 顔がひきつるほど険しかった。 ヴィクトリア債を販売したのは何社ですか。 「三十六社で、準大手の証券三社が含まれています。証券三社の販売先は不明ですが、推定で 四十社程度です。全体で七十社ぐらいになると思います。六月末時点の純資産べースで一千六 百八十億円です。現在は五十億円ぐらいに減少しています。未償還債券は債務不履行にならざ るを得ません」 販売したヴィクトリア債は二種類ですか。 「投資信託を債券の形にした償還時元本変動型債券を一九九一年から販売し、九四年から元利 保証型の商品を販売しました」 元本保証と説明したのですか。 「投資信託タイプの商品で元本を保証しているといった説明は絶対にしていません。資料でも

6. 小説ザ・外資

「はい。釈迦に説法とは思いますが、私募債ですから、ディスクロージャー規制はありません。 しかし、私募債を販売する対象は五十人未満の人たちに制限されています」 「分かります。証取法 ( 証券取引法 ) 第三条でしよう。適用除外取引に該当するわけですね。そ れと、証取法第一一条第三項でしたかねえ」 「証取法が、不特定多数の投資家を保護するために、公債や社債などの公募取引についてディス クロージャー規制していることは承知してます」 ヾ、 ード・ビジネス・スクールでを取得した方は、ここが違いますねえ 、つな 山口は自分の頭に手をやって、唸るように言ったが、 あながちおべんちゃらではなかったかも しれない。 一一人ともワイシャツ姿だ。西田はノートとポールペンを持参していたが、まだテークノートし ていなかった。 「五十人未満、つまり法人ならば五十社未満ということになりますが、ヴィクトリア債は有卦に 、ら 入ってますから、もう満杯なんじゃないですか」 の 募「そうなんですよ。そこが頭の痛いところなんです」 私 山口は、のつべり顔をしかめながら、話をつづけた。 章 「クライアントのニ】ズは強いのですが、五十社以上には増やせません。ですから、一社当たり 第 2 の取引額を引き上げるしか手はないんですが、マイクはその点が分かってなくて : : : 」

7. 小説ザ・外資

みがぶつかったら、もうおしまいだ」 「お言葉ですが、なんの仕事もせずにグレース証券を去るにしても、わたしとしては、けじめを幻 つけたいと思うんです。けじめをつけるためにわたしが勝手にニューヨークに行くことは許され るんじゃないでしよ、つか」 「もう一度だけ訊くが、ラクレル問題、野問題から手を引く気はないか」 西田は思案顔で天井を仰いだ。 ートナーとして、共同経営 手を引くは不可解だ。この問題にタッチしていたわけではなし リべート商法 者の立場を考えたからこそ、巨額のリべートは止めろと進一言しているに過ぎない。 にも、限度があるはずだ。 ートナーがマイク・ << ・パターソンのリップサービスに過ぎ もっとも、士ロ岡か一一一口、つよ、つに、ヾ ないとしたら、見て見ぬふりをできるだろうか だか、「田ハい上かるのもいい・刀、、 日減にしろ ! 」が吉岡の感情論で、激し上がったあまり口がすべ った、と取れないこともない。 わずか一年余とはいえ、ダイヤモンド・プラザーズのニューヨーク本部で、ヴァイス・プレジ デントを務めた実績と、グレース証券のパートナーなら、おつりがくると考えたいくらいだ。 違うか。やはりうぬばれが過ぎる、と考えるのが常識的なのかもしれない 西田の気持ちは少しく揺れたが、マイク・ < ・パターソンとの対決なくして、辞職はあり得な とホゾを固めた。

8. 小説ザ・外資

西田が赤坂のウエストン社のオフィスで小野の訪問を受けたのは、三月十七日の午後四時だ。 もちろん、昨夜電話でアポを取ったうえでのことだ。 西田は応接室でげつそりやつれた小野の顔を見て、胸がふさがった。 「相変わらずこき使われてるんだな。小野に会ったのは二月二十七日だったが、激痩せのままじ ゃないか」 「きよう辞表を受理されたから、これでもいくらか元気が出てきたんだ。四月一一十日付で退職す る」 「なんだって」 「これ以上、税金ドロポーのお先棒を担ぐ気にはなれないよ。新東長銀の最後まで見届けるなん ン て、大口叩いたけど、もう限界だ。十日ほど前に辞表を出した。ずいぶん慰留されたが、 人事は ア ナ俺の意思が固いと思ったらしいな」 イ「動機は、それだけか」 「占領軍気取りのアメリカ人に顎で使われて、あいつらのやりたい放題を見続けるのに、うんざ 章 九りしたわけよ。三十ちょっとの若造が、二〇〇平方メートルのマンションを用意しろの、大の世 -4 話する訓練士を探してこいのと勝手放題を言って、それにいちいち応じなければならない俺の身 9

9. 小説ザ・外資

竹山とのボーナス交渉は至極あっさり終わった。 2 部下の中には、ロ角泡を飛ばして、功績を言い立てる者が多いし、あのバカ、このバカと同僚 をあしざまにやつつける阿呆もいる。トイレで待ち構えていて、「一一一一口い忘れたことがあります」 と、功績を言い立てられて、「おしつこぐらいさせてくださいよ」と西田は厭な顔をしたことも あった。 おちおちトイレにも行けないほどだから、推して知るべしで、ポーナス査定シーズンぐらい厭 な時期はない。 西田が査定する部下は、マネージャー格の , ハ人だが、 , ハ人のマネージャーはそれぞれの部下の 査定を義務づけられる。 しかも査定対象者に関するリポートを英文で書いて、担当役員に提出しなければならない厄介 な仕事が残っている。 ポーナスは、ストック・オプション ( 自社株購入権 ) にも連動するので、マネージャー以上は 神経研貝にならざるを得ない。 ウエストン社の東京本社には約二百人在籍しているが、例年都内のホテルで開催されるクリス マスパーティが異様に盛り上がるのは、全員がハイテンションになっているからだ。 クリスマスパーティ開催時には、全員のポーナスが決定しているか、当人には知らされていな しこ A 」」かハ ーティを盛り上げるのではないか、と西田は思う。西田のボーナス支給額を承知し ているのは、担当役員一人だけだ。

10. 小説ザ・外資

オ の 悪 最 小野が紙コップのコーヒーを飲みながら、顔をしかめた。 最 「公的資金っていえば、問題は銀行が債権放棄した貸出し先に対して、政府がなにも手を打たな 八かったことだね」 「、つん」 せたのは、再生委員会っていうことになるのかもなあ 「が再生委員会のアドバイザーになったことで勝負はついてしまった。小野は嫌いらしいけ ど、産銀がアドバイザーになってれば、ずいぶん違う姿になったと思うが」 「産銀にアドバイザーになれる資格なんかないよ。産銀に限らず、公的資金を注入されてる銀行 は、なにも一一一一口えない。じゃあ、光陵はど、つか。光陵グループの光陵商事がーーアップルツリー に果実を取られる に取り込まれちゃってるんだから、これもダメ。結局、ーアップルツリー ことが宿命づけられてるんだろうね」 一九九九年三月、金融システムを安定化させる目的で「金融機能早期健全化法」に基づいて都 市銀行など十五行に、総額七兆四千五百九十一一億円の資金注入が行われた。 公的資金の注入は、金融再生委員会の承認を得て、金融機関の発行する優先株、劣後債、劣後 ローンを預金保険機構が整理回収機構を通じて購入する形が取られた。 0 375