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検索対象: 小説ザ・外資
89件見つかりました。

1. 小説ザ・外資

ハターソンから電話機を突きつけられて、西田はそれを耳に押し当てた。 「西田健雄です。いっぞやはどうも」 「吉岡です。マイクから聞きましたが、よくぞ決断してくれましたねえ」 寄らば大樹の陰より、小さな器を大きくするほうに賭けてみた 「それなりに悩みもしましたが、 ハターソン流に一一一一口、んば、器を借りて自分を研くってい、つことになり しと思いまして。ミスター ますか、それならば器が小さいほうかより研けるのではないか、と考えました」 「いっからグレースに来てくれるんですか ハターソンにお願いしました」 「九月一日からとい、つことで、ミスター 「分かりました。期待してますよ」 「お役に立てればよろしいのですが。いずれにしても、よろしくお願いします」 「こちらこそ、よろしく」 、ターソンに麸日わりましよ、つか」 「ミスター 「けっこうです。マイクとは、げつぶが出るほど話しましたから」 「それでは失礼します」 パターソンの手前、西田は吉岡と英語で話した。 西田が電話機をセンターテープルに置くと、 「ジャネットにも知らせてやろう」 「ミセス・パターソンはいらっしやらないのですか」 ハターソンはふたたび電話機をつかんだ。 みが 738

2. 小説ザ・外資

「西田さん、何年ぶりですかねえ」 「三年ちょっとかな」 西田は、大理石のカウンターを懐かしそうに撫でた。 長沼がひとなつつこい大きな目をいっそう和ませて、「お嬢さんですか」と訊いた。 「、つん」 「西田さんにそっくりですねえ。お名前をお訊きしてよろしいですか」 由佳は、西田のほうへ流した目を、長沼にまっすぐ向けた。 「山本由佳です。よろしくお願いしますー 「どうも。始めまして、長沼です。こちらこそよろしく」 長沼は、ちょっとどぎまぎしていた。 西田が佳乃と離婚したことを思い出したのだろう。 西田と由佳はビールとウーロン茶で乾杯した。 「夏休みはどこかへ行くの」 「お祖父さまが軽井沢の別荘に来なさいって、おとといの夜電話があったのですが、あんまり気 が進みません」 「どうして」 たてしな 「お祖父さまとお祖母さまとママだけだと、退屈でしよう。蓼科のお友達の別荘に誘われている ので、ほんとうはそっちへ行きたいのだけれど、ママが反対なんです」 168

3. 小説ザ・外資

「水原さんでしたら、昼食で外出しましたが。さっきロッカールームで一緒だったんです」 水原ひとみは、山口付きのアシスタントだ。 西田が、山口の個室に入るとき、目礼をかわした。年齢は二十七、八と思えるが、ちやほやさ れているのか、ツンと澄ましていて、西田のタイプじゃない。長い爪もむらさき色のどぎついマ ニキュアも気に入らなかった。綾子とは月とスッポンだ。 「ほんとうに、コンビニのお弁当でよろしければ、わたしが買って参りますけれど。でも、社長 がお客さまのときにお取りするお鮨か鰻重はいかがでしようか」 「お願いします」 「いや、コンビニのほうにしましよう。申し訳ありませんけどよろしく」 西田は、秘書室扱いの昼食を辞退した。頭の回転の早い綾子は、なにかを察したかもしれない が、この際仕方がない。 「社長からなにか連絡ありましたか」 「いいえ。会社にお戻りになるのは二時と承ってます 「そう」 西田はいくぶんホッとした。 綾子が退出したあとで、西田がデスクの上のファイルを指差した。 「それはロッカーに仕舞われたほうがよろしいですよ。仮にも″極秘文書″なんですから。それ から余計なことですが、わたしと話したのはいいとして、″極秘文書を見せたことは社長に伏 278

4. 小説ザ・外資

「わたしも同様だ。両会長の会談がどういう結果になるにせよ、首尾のほどはケンに連絡する 「よろしくお願いします」 西田は、ドナーとの電話が終わったあとで、カレン・メイのアパ ] トに電話をかけた。 二度の呼び出し音でカレンの声が聞こえた。 「ディスイズケン。今夜は失礼しました」 「どういたしまして。スシ美味しかったわ。アリガトウゴザイマス」 カレンはたどたどしい日本語で感謝の一言葉を述べた。 「さっき言い忘れたんですが、今夜わたしがシカゴと連絡したことは、ボスには内密に願いま 「念を押すまでもないわ。わたしもスティープのセクレタリーの立場を逸脱してるんですから、 お互いさまじゃないの。どっちかって一一一一口うと、ケンのほうを応援したい心境よ」 「サンキュー。感謝感激です」 「シカゴとの連絡はうまくいったんですか」 「お陰様で、親友との信頼関係をそこなわずに済みそうです」 「よかったわ。ケンは立派ですよ。クビを賭けて、親友を裏切らないように全力を尽くすなんて、 誰にでもできることじゃないわ」 8

5. 小説ザ・外資

ヴィクトリア債のことには、ロ出ししてもらいたくない、 皮肉つほい口調だった。 のつべりした顔がいびつにゆがんでいる。 「おっしやるとおりです。しかし、グレース証券の主力商品に無関心でいられるほど、わたしは こ乗ってくれと言われてます」 無神経ではありませんし、吉岡社長から、経営全般について相談し さわ 「気に障ったら、ご容赦ください。でも、熊野副社長の件まで西田さんにオープンにするとは意 外でした。入社早々の西田さんには刺激が強過ぎると思いますー 「どうも。ご配慮感謝します。山口さんは先日も、そんなことを言ってましたが、遅かれ早かれ 分かることですよ」 「そもそも熊野氏からリべートの要求があったんでしようねえ。グレース証券から持ち掛けたわ けではないでしよう」 山口は返事をしなかった。 おいおい伺、つとして、今後ともよろしく 「きようは、本来の目的から脱線してしまいましたが、、 お願いします」 「こちらこそよろしくお願いします」 山口は浮かぬ顔で、ファイルを抱えて会議室から出て行った。 が」 、 0 と山口は言外に匂わせたつもりらし幻

6. 小説ザ・外資

けさ八時一一十分に、エレベーターの前で西田を出迎えてくれたのが岡本綾子だが、相当な美形 だし、年齢より遥かに若く見えた。 「おはようございます」 「おはようございます。秘書の岡本と申します。よろしくお願いします」 「おはようございます。西田です。よろしくお願いします」 さいさ、 綾子のきれいな笑顔 ! こ迎えられて、西田は幸先が良いとひとりに入ったものだ。 「さっそくだが、 きみのグループについてはどうなってるのかな」 「二人に声をかけましたが、一人は多分してくれると思います。大森郁夫といいますが、早 稲田の法科を出て、山三証券のニューヨーク支店から東京本部に去年戻ってきましたが、英語は わたしよりよっほど出来ます」 「は」 「はい。スタンフォード大学で九〇年に取得しています」 「山三証券は、わたしの古巣の興日証券などより優秀な人材が多いが飛ばしで含み損がどえらい ことになってるようだから、人材の草刈場になるんだろうねえ。 いま辞めれば、退職金も規定ど おり貰えるんだろう。一日でも早く辞めたほうかいし 、と忠告してあげなさいよ」 「十月から来てもらえると思います」 「歳はいくつなの 「わたしと同じ三十八歳です」 ノ 90

7. 小説ザ・外資

で 島 綾子は食事の用意を整え、おめかしして由佳を迎えた。 ウ マ 「初めまして。綾子です。よろしくね」 ワ「山本由佳と申します。こちらこそよろしくお願いします。きようはお招きいただきまして、あ りかとうございます。それから、父がお世話になっています」 + 「お父さんが自慢するわけねえ。美人で頭がすごく良いって、いつも聞かされてるの。由佳さん にお会いできるなんて夢のよう。さっきからずっとドキドキしてたの」 「新婚旅行ですか。由佳も行きたいなあ」 由佳がミルクティをすすりながら、西田をいたずらつほい目で見上げた。 「マウイ島の教会で、二人だけで結婚式を挙げてこようと思ってるんだ。パパはそんな形式なん , かい」、つで、もいし 、と思うんだけど、綾子はウェディングドレスが着たくてしようがないらしいん 「形式というよりも、けじめの問題だと思います」 「言ってくれるねえ。綾子が喜ぶだろう」 西田は残りのアイスコーヒーをストロ】ですすりあげてから、「さあ、行こうか」と中腰にな った。 3

8. 小説ザ・外資

して申し訳ありません」 「ジャネットによると、ディナーを二晩続けて受けたら断れない、 ことなのか 「はい。申し訳ありませんが」 「ヒロが帰国するまでまだ五日間もある。三人で、もう一度だけ話すチャンスを与えてもらえな いかね 「ミスター ハターソンとは今後とも公私にわたっておっきあいいただきたいと思いますし、ビ ジネス・チャンスが出てこないとも限りません。お見限りなきようよろしくお願いします」 「冷たいというか事務的なその言いぐさは気にいらんねえ」 「いま、ヒロから聞いたが、 日本の諺に、袖振り合うも多生の縁という言葉があるそうだが、ケ ンとわたしの出会いは体当たりだぞ。この出会いを大切にしようじゃないか」 、ターソンが一一一一口わんとしていることは理解でき 諺の意味を取り違えているようにも田 5 えるか、ノ 「まったく同感です。ミスター ハターソンとはフレンドリーな関係を続けたいと願っていま すー 「それも気にいらん。ケンにはわたしのパートナーになってもらいたいんだ。一生のお願いだ。 わたしを助けてくれ」 と一一一一口ったらしいか、そ、つい、つ

9. 小説ザ・外資

「すこぶる好調です。近日中に七十億円ほど送金できると思います」 「分かった。ケンとハルによろしく言ってくれ」 電話が終わったとき、吉岡は、西田の顔を目に浮かべながら、西田のためにこれでよかったの だ、とわが胸に言い聞かせた。 時刻は午後十時一一十分を過ぎたところだ。 ネクタイを外しながら、熊野に電話すべきか思案した。 熊野は返事を急いでいた。朗報は早いに越したことはない。しかも、さして遅い時間でもない。 吉岡が田園調布の熊野邸に電話をかけると、夫人の声が聞こえた。 「熊野でございますが」 「吉岡です。夜分恐縮ですが、副社長はお帰りになりましたか」 「はい。たったいま帰って参りましたが、シャワーを使っております。折り返し、当方から、吉 岡社長様にお電話をかけさせていただきます」 「わたくしも、帰宅したばかりなんです。シャワーをしてから、わたくしのほうからもう一度電 話をかけます。一一十分後ということで、よろしくお願いします」 額吉岡の二度目の電話に、熊野が直接出てきた。 巨 「たびたび電話をもらって、申し訳ないー 章 しいえ。さっそくですが、例の件、今マイクに話して了解を取り付けたところですー 第 ウイクトリア債の償 「そう。ありがとう。実はわたしも吉岡君に電話しようと思ってたんだが、。 275

10. 小説ザ・外資

還を延期するとして、その期間について話してなかったねえ」 「ええ。しかし、わたしは五年と理解してましたが」 「いや。一、一一年後に工場、研究所の拡張などで資金需要が増えそうなんだ。とりあえず単年度 ということでお願いしますよ」 「一年ですかあ。それはいくらなんでも : : : 」 吉岡は、一年の償還延期で一億円のリべートはべらばうだと思い、口調に不快感が出た。 「設備投資計画は不確定要素があるので、とりあえす一年ということだが、むろん再々延期の可 ム目性はあると思うが。不都合なら約定どおりに償還してもらうほかはないねえ」 熊野は高飛車に言って、「どうするかね」と返事を促した。 「マイクも五年の償還延期を考えていると思いますが。いまどき、ヴィクトリア債以外に、こん な高利回り商品はありませんからねえ。ラクレルのためにも、もちろんわたくし共のためにも五 年の償還延期は好ましいと思いますが 「当方の都合もあるんでねえ。それじゃあこの話はなかったことにするかね」 え。再々延期含みということで、了解します。マイクは事後承諾ということになりますが、 わたくしの一存でお受けさせていただきますよ」 「どうも。プライベートのほうを急いでるんだが」 「大至急、送金するように手配させます」 「ありがとう。よろしくお願いする」 276