エリザベス - みる会図書館


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1. 小説ザ・外資

ドナー、エリザベス、西田、綾子の二組の夫婦がテープルを離れたとき、ジャネットたちはま だメインディッシュを食べていた。 西田は、ジャネットと目礼をかわしながら、レストランを出た。 ドナー夫婦と別れて、プリンスホテルから、ケア・ラニへ向かうタクシーの中で、西田が綾子 から肘鉄砲を食わされた。 「ジャネットと親密そ、つに話してたわねえ」 「まさか。彼女はパターソンと離婚したそうだよ。今度の亭主はにやけた感じの男だったが、 たちと同じで、新婚旅行でハワイに来たんだってさ」 なれなれ 「なんであなたに、あんな狎々しい態度を取るのかしら。ウインクなんかしてたのよ」 「いつ。ぜんぜん気がっかなかったけど」 「トイレの前で。あなたがテープルに戻るときよ」 で「ウインクされる覚えはないよ。見間違いだろう」 「とにかく感じ悪いわ。ミセス・ドナーとは月とスッポンだわね」 ウ マ 「そりゃあそうだよ。エリザベスは品の良い女性だからねえ」 ワ エリザベスの話が出たので、ジャネットから綾子の気持ちが離れた。 「あなた、ドナーさんの話、ほんとうに断るつもりなの」 十「迷ってるが、多分断ることになると思うけど」 「信じられないわ」 463

2. 小説ザ・外資

西田夫婦がプリンスホテルに着いたのは七時十分前だが、ドナー夫婦は″プリンス・コート″ の前で二人を出迎えてくれた。なんとドナー夫妻はタキシードとイプニングドレスの正装ではな 、、 0 し、刀 西田はダーク・プルーのスーツ、綾子は淡いプルーのシルクのワンピース姿だった。 「ナイストウミート 「ハウドウュードウ」 西田が綾子をドナー夫婦に、ドナーが綾子にミセス・ドナーを紹介した。 ミセス・ドナーのファーストネームがエリザベスであることを西田は思い出した。シカゴのド ナー邸で、西田はエリザベスに二度会っていた。 ハターソン夫人のジャネットと同じ金髪だし、二人とも相当な美形だが、気品の良さがまるで 違う、と西田は思ったものだ。 で「一番奥のメインテープルを確保しておいたからな」 レジの前でドナーは、西田に思い切り躰を寄せてささやいた。 ウ マ 「こんなすごい美人をどこで見つけたんだ。年齢を訊いていいか」 ワ 「三十四歳です。わたしより七つ下です」 「もっと若く見えるなあ。ューアーベリ ハッピー」 章 十 ドナーは、西田の肩を抱くようにして、メインテ】ブルに導いた。そして、椅子を引いて綾子 第 とエリザベスを坐らせた。

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訊かれやしないか、ひやひやしていたが、綾子は晴れ姿に自己陶酔しているのか、そのことは頭 の中になかった。 グランド・ワイレア・シーサイド・チャベルは、綾子が経験者の友達に勧められて一人で決め たのだが、海が見え、庭園も広く、西田も気に入った。 礼拝堂で白人の牧師と、打ち合わせをしているとき、ドナーとエリザベスが到着した。 「ビューティフル ! 」 ドナーに褒められて、綾子の顔が桜色に染まった。 綾子とエリザベスが話を始めたすきに、ドナーが西田のモーニングの袖を引いた 「ジャネットから電話があったか」 「ええ」 「ケンをシカゴに呼ぶつもりだと話したら、目を輝かせて喜んでたぞ。コケティッシュな女だが、 ケンと訳ありってことはないんだろうな」 ミセス・パターソンだった人ですよ。冗談にもほどがありますよ。 「とんでもない。 はマフィアとっきあっていたふしもありますからねえ 「そうかもなあ。しかし、ジャネットは、ケンのことを夢中で話していたぞ。パターソンと離婚 したとき、ケンと結婚したいと思ったそうだ。ケンはクールだから、わたしの気持ちを分かって くれないとも言ってたなあ」 ・ドナーも、ジャネットも相当酔っ払ってたんじゃないのですか」 「ミスター ハターソン 468

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コール依存症ではありませんが、主人より、 リしかもしれませんよ」 綾子のジョークで、テープルの雰囲気が明るくなった。 「わたしも悩みに悩んで眠れそうもないから、徹夜の飲み会に参加しようか」 綾子が西田をぶつ真似をした。 「ノー。あなたは徹夜の飲み会に参加する資格はありませんよ。あなたはスウィートルームで、 ひとりでひと晩お悩みなさい」 ドナーもエリザベスも、笑いころげた。 「ミセス・ニシダの頭の良さには感服した。さぞやセクレタリーとしても有能だったことだろ 「そうじゃなければ、この人と結婚しませんよ。独身生活も、気楽で悪くないですからねえ」 「アヤコがケンには勿体ない女性であることはたしかだ」 で「それはお互いさまでしよう。ミセス・ドナーは、あなたには勿体ないと思いますが」 「ミスター・ニシダもお上手ですね」 ウ マ 「ミセス・ドナーの拝顔の栄に浴するのは、今夜で三度目ですが、お目にかかるたびに、 ワ ・ドナーを羨ましく思います。アヤコとは、とても比較になりません」 エリザベスはにこっとほほえんでから、ドナーと顔を見合わせた。 章 十 ワインを飲みながら、西田は左頬に視線を感じ、首をねじった。 第 心臓がドキンと音を立ててへこみ、あやうくワイングラスを落とすところだった。 、、、スタ 459

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ドナーはゼスチャーたつぶりに両手をひろげ、エリザベスは盛大に笑い声をあげた。 満席に近いダイニングルーム中の目とい、つ目が、こっちに集まってくるのも、仕方がない シャンパンから赤のカリフォルニア・ワインになり、前菜のシーフード・サラダから、メイン ディッシュのステーキに替わったとき、ドナーが改まった口調で切り出した。 「ケンと二人だけで話すのが筋と思うが、ミセス・ニシダにも聞いてもらったほうが話が早いと も思、つので、わたしの考えを聞いてほしい」 西田と綾子は居ずまいを正した。 エリザベスも緊張した面持ちで、ウォーターグラスをテープルに戻した。 「プルースが六月にを退任することになった。わたしを後任の oæo を指名し、取締役会 の承認も取り付けられる見通しだ。わたしは条件付きで承諾するつもりだ。条件の一つに、ケン をプレーンとして迎えることをあげたいのだが、受けてもらえるだろうか」 で「つまり、シカゴに転勤しろっていうことですね」 ィー 「イエス。ポストはシニア・マネージング・ディレクター。わたしの現在の肩書はエクゼクティ ウ マ プ・マネージング・ディレクター ( 副社長 ) だが、三年前はシニア・マネージング・ディレクタ ィー ワ ーだった」 「あなた、凄いじゃない。上級取締役でしよ」 + 綾子が上気した顔でささやいた。 「ミセス・ニシダは、わたしの話を理解したようだが、 賛成してもらえるかねー 5 4

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「ハーイケン 二つ向こうのテープルで、さかんに手を振っているのは、ジャネットだった。 一瞬、西田は顔をそむけたが、それはまずいと考え直し、ジャネットに向かって手を挙げた。 ジャネットは、白人の中年男と同席していた。 「どなた」 「ミセス・パターソン 。パターソンの名前がついさっき出たので、びつくりしたよ」 「まあ、奇遇ねえ。ジャネットさんって言ったかしら」 「ううーん。たしかそんな名前だったと思うけど。きみ、よく知ってるねえ」 「パターソンから聞いた覚えがあるわ ドナーもエリザベスも、ジャネットのほ、つへ目を投げた。 「ちょっと挨拶してこよ、つかなあ」 「わたしも一緒に行くわ」 「きみは、ここにいろよ。二人で行くのはオー ハーだよ」 西田の声がうわずっていたが、綾子もドナー夫婦も異変に気づいていなかった。 や、、 0 0 、 「わざわざ挨拶に行くまでもないよ。会釈したんだからそれてしし ノターソンならと、もかど、、 460

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パターソンの夫人に過ぎないんだから」 「そうね。分かったわ」 ドナーとエリザベスの手前、西田と綾子は英語でやりとりしたが、西田のほうは胸の動悸が収 まらなかった。 デザートの前に、西田はトイレに立った。 歩きながらジャネットに目を流したが、話に夢中で、西田に気づかなかった。 トイレは、レストラン専用ではなかったので、けっこう離れていた。 放尿して、手を洗いトイレを出たところで、西田はジャネットと出くわした。待ち受けていた のだろうか、と西田は胸の鼓動を速めながら気を回した。 ハワイにはいつまでいるの。一日ぐらいデートできないかし 「女性のトイレは満員なの。ケン、 ら」 で「ミセス・パターソンは、、 しつまで滞在しているんですか」 「あと一週間はいると思うわ。わたしはミセス・パターソンじゃないわ。離婚して、再婚したの。 ウ マ 新婚旅行でハワイに来てるのよ」 ワ「わたしも同じです」 「ケンの隣席の女性はミセス・ニシダなのね」 十「ええ。われわれはあした帰国します。あなたとデートする時間はありません。だいたい、そ、つ 4 いう気持ちにはなれませんよ」

8. 小説ザ・外資

「うん。少々二日酔い気味だ。ワイフはっきあい切れないって、先にルームに帰ったよ」 「ジャネットを悲しませないためにも、ここはシカゴに来る手じゃないのか 「その話は結婚式が終わってからにしましよう」 礼拝堂でまで汗をかかされるとは思わなかった。 ォルガン奏者が賛美歌を奏で、挙式が始まった。 ージンロードを父親の代理役で、ドナーが綾子と腕を組んで歩いた。 「こんな役得にありつけただけで、ハワイに来た甲斐があるというものだ」と、ドナーはすっか りに入っていたが、 ーサルのときも、本番のときも、綾子よりドナーのほうが緊張してい 牧師が聖書の一節を読み、西田と綾子が誓いの言葉を英語で述べ、サーティフイケート・オ でプ・マリッジ ( 誓約書 ) に牧師、西田、綾子、ドナー、エリザベスの順にサインし、挙式は三十 分足らずで終了した。 マ いちばん時間を取られたのは、写真撮影だ。パックになっているので、文句は一一一一口えないが、ア ワルバム三冊分の撮影につきあわされるのは楽ではない。 最後にガゼボと称するあずまや風の建物に四人が集合して、シャンパンを飲み、ウェディン + グ・ケーキをひとロ食べて、おひらきだ。 シャンパンを飲みながら、ドナーが言った。 、」 0 469

9. 小説ザ・外資

「身に余る光栄です。ひと晩だけ考える時間をください。あす、午後一時からグランド・ワイレ ・ドナー、ミセス・ドナーにはおい ア・シーサイド・チャベルで結婚式を挙げますが、ミスター でいただけるのでしようか」 「オプコース。そのためにハワイに駆けつけてきたんじゃないか。いまの話はついでだよ」 ドナーのくばんだ青い目が笑っていたが、 ついでは結婚式のほうだと顔に書いてあった。 「ひと晩じっくり考えてもらおう。なんなら返事は帰国してからでもけっこうだ」 「考える時間はひと晩で充分です。ワイフはもうその気になっているようですが、お断りするこ ともあり得るとおばしめしください。むしろ、その可能性のほうが高いと思います 「なんだと」 けしき ドナーが気色ばんだ。 「いまのケンの話は、ノーと言っているのと同じではないか」 で「おっしやるとおりです。いまの心境はノーですが、ひと晩で考えが変わる可能性もゼロではあ りません。ワイフともよく相談したいと思いますし」 ウ マ 「ミセス・ニシダ。なんとかケンを説得してくれ。たのむ、きみを頼りにしているぞ」 ノー ワ ドナーが拝むようなポーズで、綾子を見つめた。 エリザベスが口を挟んだ。 + 「チャーリ ーがミスター・ニシダをどれほど必要としているか、わたしは痛いほど分かっていま す。しかし、ミスター・ニシダをシカゴにお呼びしようと考えているとまでは知りませんでした。

10. 小説ザ・外資

ーリーと同じです。ミスター・ニシダがシカゴでチャー 今夜初めて聞く話ですが、わたしもチャ ーをへルプしてくれることを願っています。心から願っています」 エリザベスに凝視されて、西田はいっそう頬を赭らめた。 「ミセス・ドナーにまで、そんなふうにおっしやっていただいて、穴があったら入りたいような 気持ちです。ほんとうに感謝感激です。ただ、トウキョウ・プランチは、ウエストン・グループ にとって、きわめて重要な戦略的拠点です。東南アジア諸国や、中国なども含めてウエストン・ グループのビジネスの展開を考えたとき、トウキョウ・プランチでわたしがやるべき仕事もたく さんあるように思えます。また、誤解を恐れずに一一一一口えば、トウキョウ・プランチは、わたしを必 要としていると自負しています」 「そんなことは一言われるまでもない。だが、本部にいれば、ケンの存在意義はもっと増すはずだ。 ウエストン・グループにとって、どっちがよりメリットがあるかを考えるのが、 O O の仕事だ ろう」 「ミスター ・ドナー。結果はどうあれ、今夜あなたから、こんなにまで評価していただけたこと を、わたしは生涯忘れません。わざわざハワイまで、おいでくださったことも含めて感謝しま 「ケンのあすの返事を待とう。期待が裏切られたときのショックの大きさを思うと、今夜は眠れ そ、つもないから、ワイフと飲み明かすとするか」 ・ドリンカーです。アル 「よろしかったら、わたしもおっきあいしましようか。わたしはヘビー 458