サイクス - みる会図書館


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1. 小説ザ・外資

「ミスター・サイクスもを辞職されたのですか」 「冗談一一一一口うな。かれは、シニア・マネージング・ディレクターに昇進したよ」 「ミスター・ケニーは : : : 」 「あいつはを辞めてもらった。いま、ロンドンの銀行にいると聞いてるが、不確かだ」 スティープ・サイクスの腰巾着で、サイクスのためなら水火も辞さずというポーズを取り続け ていたゲアリ ・ケニーの首を切って、サイクスは、延命を図った。それどころか、焼け太りみ こいに、巧みに立ち回って、いまや Q ga のシニア・マネージング・ディレクターにまで昇り詰め たのだ。 自ら企んだトロフィ・ディールの横取りが失敗したことの責任のすべてをケニーに負わせたサ 、つまづら イクスの馬面を目に浮かべて、西田は吐き気を催した。 ・ランリ 「の利益を最優先しないのは理解しがたい、おまえは感情論に陥ってるとミスター ネイがわたしに対して不快感を表しているとミスター・サイクスから聞いた記憶があります。ど っちにしてもあのディールは失敗していたと思いますが」 「そ、ついう言い方がきみの立派なところだな。あるいはそうかもしれないが、きみが長期間、あ のディールでウエストン社と接触していた事実をわれわれは重く受けとめるべきだったよ」 サイクスの非を鳴らしたいところだが、 西田は男を下げるような気がしたので、ロをつぐんだ。 「誤解されると困るので、ついでに言っておくが、わたしが Q CQ を辞めた動機は、もっと別のこ とだ。あの程度のことで責任を取らされるほど、わたしは愚かではないし、わたしの功績は群を 2 3

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西田など目じゃない、という顔を装っていながらも、相当意識している。いわばライバル視し ていることになる。 西田のポスはサイクスだが、東邦長期信用銀行ニューヨーク支店時代にスカウトしてくれたの はサイクスではない。 ード・ビジネス・スクールのクラスメートで、西田をスカウトしてくれたクレイトン・ CO ・ローズは、グローバル・インベストメント・丿 1 サーチ・ディビジョン ( 国際投資調査部門 ) の >Q で、ナイス・ガイだ。サイクスは神経質で癖が強く、好きになれないが、ボスだから立て ざるを得ない。 西田がネクタイを外しながら、ホテルのフィットネス・クラブにでも行くか、と考えていたと き、電話が鳴った。 「サイクスだ。明朝、ウエストンの 0%20 と会食をすると聞いたが、わたしが一緒じゃなくてい いのかね」 なるほど、そ、つい、つことか、と西田は思った。 ヴァイス・プレジデントの立場で出過ぎ、やり過ぎ、と取られたとしても仕方がない。 「ミスター ・ドナーはワイツマン会長兼 O O に声をかけてみる、と言ってましたが、アポが取 れたのかどうか確認できていません。もしかしたら、とカレンに言っておきましたが」 「ワイツマン会長のアポが取れたのかどうか確認して、折り返し電話をもらいたい。そういうこ 2

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持ちに合っています」 「わずか一年ちょっとで辞職するのか」 「ミスター ・ローズの体面を汚して申し訳ないと思いますが」 「わたしの体面などどうでもいいし、体面を汚されたとは思わんよ。あまりといえばあまりなサ イクスの仕打ちに見合うとも一一一一口える。しかし、 QCQ を辞めてどうするんだ」 西田は思案顔をうつむけた。パ ターソンとの出会いとスカウトの話を明かしていいのかどうか 悩むところだ。しかし、ローズに隠すのはいかかなものか、と西田は田 5 った。 「あなた限りにしていただきたいのですが、実は : : : 」 西田は時計を気にしながら、打ち明けた。 「なるほど。そんなことがあったのか。再就職先についてはトウキョウへ帰って、ゆっくり考え るってい、つことにするかねえ」 ローズは拍子抜けするほど物わかりがよかった。 西田は、ローズと別れたその足でサイクスの部屋へ行った。 サイクスは在席していた。 「アポなしで申し訳ありません」 「なにごとかね サイクスは書類から目を上げたが、ソフアをすすめることはしなかった。 730

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第二章トロフィ・ディール ローズを無視することはできない。 そこまで考えて、西田はドキッとした。 マイケル・ < ・パターソンの赭ら顔を思い出したのだ。 というより、サイクスに対する強気な態度は、パターソンの影響を受けているからではないの か。潜在意識の中に、ヾ / ターソンのスカウト話があったからこそ、サイクスに強く出たと思える。 そんなことはなし ノターソンとは無関係だ。不条理なサイクスのやり方が許せなかったのだ。 とサイクスから要 筋を通して、事前にケニーをトロフィ・ディール ( 大型案件 ) に加えたい、 求されれば、ノーとは一一一一口えなかった。 カレンにまで嘘をつかせるサイクスの恥を知らない卑劣な態度を見逃せるほど、俺は軟弱では ない。それだけのことだ。 どっちにしても、サイクスにひと泡ふかせなければ、男がすたる、と西田は田 5 った。 あか 月 3

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「早朝出勤して、正午までポーナス関係のリポートを書く。残りは日曜日に頑張るよ」 「うれしいな」 「 Q ßQ のサイクスから正午にホテルオークラで逢いたいって誘われてるんだ」 「なんでえ。スパイは終わったんじゃなかったの」 「スパイはないだろう」 「でも、あなたそう言ってたじゃない。しかもサイクスって、あなたを嵌めた人なんでしょ 「そのとおりだが、 まだスカウトの話がそのままになってるんだ。僕に会えとランリネイに命令 されてるんだってさ。あいつがどんな顔して、どんなことを一言うか、聞いてみたい気もしてるん だ。かっての上司だし、サイクスに会って、きちっと返事をしようと思ってね。それで午後は仕 事を放棄することにしたわけよ」 「サイクスっていう人のお陰で、西健に逢えるわけなのね」 「サイクスのほうがついでだよ。きみに逢うための口実ってところかねえ」 「分かったわ。あした何時に行っていいの」 「何時でもいし 、よ。」卞 ~ 一一時にはマンションに帰ってると思、つけど」 「昼食はどうするの」 「サイクスとランチを食べる気にはなれないよ」 「じゃあ、なにか用意して行くわ」 「ありがとう」

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「あなたはミスター ・ランリネイのことを短気で怒りつほいと評しましたが、それはあなたのほ うですよ」 西田はソフアに坐り直して、センターテープルのシャトー ・ラヴィル・オー・プリオンの空瓶 を手に取った。 「こんな高級ワインをクーラーにぶちまけるあなたの気が知れません。ミスター・サイクスがこ れほどエキセントリックな人とは知りませんでした」 「ケンに好意を無にされて、切れてしまったんだ。ほんとうに勿体ないことをした。アイムソ サイクスはバツが悪そうに肩をすくめて、両手を広げた。 「ボーナス査定のリポートを書くために気持ちを集中しなければならないので、遠慮したまでで す。他意はありません」 他意は大ありだが、 西田はしれっと言って、「ミスター・サイクスの好意をお受けして、これ はいただきますと、ワイングラスに手を伸ばした。 サイクスもワイングラスを持ち上げた。 「サンキュウ。ケンが機嫌を直してくれたので、感謝する」 サイクスは二杯目のワインも一気に飲んだが、西田はゆっくりと賞味した。 「ケンはジョエルとどんな話をしたのかね。わたしのことは話題になったのか。ケンはわたしに 含むところがあるようだが」 390

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かっ 「この野郎 ! 」 ハターソンの太い左腕が西田の首に巻きついた。 「当てにしてるからな」 「とにかく十日の猶予があれば、、 しくらビジネスでにしくても、考える時間はあるでしよう」 西田は、丸太棒のような腕を両手でどけた。 ハターソンと別れて、アパートまでの道すがら、西田は、昨夜の厭な予感が胸の中にひろがっ てくるのを意識した。 水曜日と木曜日、そしてきのう金曜日のサイクスとケニーの動きをチェックしなかったのは迂 闊だった。もっとも、チェックしようとしても、できたかどうか疑問だか、少なくとも、ウエス トン社とのアドバイザリー契約なり、提案書の作成でサイクスとの合意が得られていなかったの だから、サイクスの執務室を訪問すべきだった。 サイクスは三日間とも在席していなかった可能性もあるが、秘書のカレン・メイから、なんら かの情報は得られたと思える。カレンを困らせるのは本意ではないが、 サイクスは西田のボスな のだから、意思の疎通を欠くようなことがあってはならないはずだ。 西田は帰宅して、シャワーを浴びてから、朝食を摂る前に、カレンのアパートに電話をかけた。 「ハロー。ケンユウ・ニシダです。お休みのところご免なさい。もうお目覚めでしたか」 「オヴコース。もう九時じゃないの」 108

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間を取ってくれた。 西田の話を聞いていて、ローズは何度となく吐息をついた。 「ひどい話だなあ。ケンが、 Qpa を辞めたくなる気持ちになるのも、もっともだよ ミスター・サ ' 「クスと、、、 ・ランリ、不イにレターを書くことも考えましたが、 「大ポスのミスター スター・ケニーに取り込まれてますから、理解が得られるかどうか疑間です。むしろ逆効果でし よ、つ」 「そうだろうなあ。その辺はサイクスのことだから、ぬかりなくやっているだろう」 腕と脚を組んで、しばらく目を瞑っていたローズが、腕と脚をほどいて、上体をセンターテー プルに乗り出した。 「ケン、トウキョウ・プランチに異動する気はないか。 Q ßQ を辞めるというのは、賛成できない が、トウキョウ・プランチなら、ケンが腕をふるえるポストはいくらでもあると思うよ」 西田は、意表を衝かれ、返事ができなかった。 「ほんの思いっきにしては、グッドアイデアなんじゃないか。子供の顔も見たいだろう。そうい 、つことで、サイクスに話したら、乗ってくると思、つよ。わたしからサイクスに話してもいしカ いかれは告げロしたと疑うだろう。きみがサイクスに転勤希望を申し出れば、サイクスはわたしに 危 意見を求めると思う。トロフィ・ディールの件は聞かなかったことにして、わたしは、賛意を表 章 三するのかいし と田ハ、つか」 「東京支店への転勤も一つの選択肢とは思いますが、この際を辞職するほうが今の自分の気 729

9. 小説ザ・外資

サイクスは長い顔をにやっかせている。笑顔と見えたのは、冷笑、嘲笑だったのだと西田は気 あんたん つき、暗澹たる思いで、しばらく口もきけなかった。 インベストメント・ ハンキング・ディビジョンのヘッドであるランリネイに、西田の功績を伝 えるのがサイクスの役目であり、立場であるはずだ。こともあろうに、西田を貶めるとは、サイ クスの神経はどうなっているのだろうか 西田の顔から血の気が引いて、蒼白になった。 「ところで、わたしになにか言いたいことでもあるのかね 「ウエストン社とのアドバイザリー契約が白紙に返ったことを一応確かめたかったのですが、確 認するまでもありませんね。この大型案件は、ミスター・サイクスとミスター・ケニーにおまか せします。わたしは降ろさせていただきます。どうぞお好きなようになさってください 西田の声がふるえていた。サイクスにつかみかかりたい衝動を抑えるのがやっとだ。 ード・ビジネス・スクールで学んできたにしては、経 「相変わらずの感情論だな。きみはハー イ済合理性をおろそかにし過ぎるんじゃないのかね。ライアン社のアドバイザーのほうを選択しょ ートナーのジョエル・ランリネイだが、 かれはケンのことも評価してい うと判断したのは、パ ロる」 「わたしはこの大型案件の道筋をつけたことを誇りにしています。成果のほどは、あなたとミス 二ター・ケニーでお分けになって、けっこうです」 こ、つでい 「きみが、あくまで感情論に拘泥するのなら、それまでのことだ。この案件から降りるのはいっ おとし

10. 小説ザ・外資

西田がスウィートルームのドアのノブに手を触れかけたとき、サイクスの怒声が背中に突き刺 オさった。 「ウェイトアミニツツ ! ( ちょっと待て ! ) の 西田は回れ右をして、仁王立ちのサイクスと対峙した。 「まだ話は終わってないぞ。無礼じゃないか」 最 「終わったと思いますが。わたしはスカウトの件をお断りにきただけです。あなたとランチの約 章 束はしてません」 第 「短気を起こさずに、坐ってくれないか」 一一杯目を注ぎながら、サイクスが「ケンも飲めよ」と促したが、西田は首を左右に振った。 「そうか。ジョエルのは飲めても、俺のワインは飲めないというわけだな。それじゃあ、捨てる までだ」 サイクスはやにわにワインポトルをさかさにして、高級ワインをワインクーラーにぶちまけた。 大ぶりの眼鏡の奥で、青い目に怒りが宿っている。 「エクスキューズミー」 西田は一礼してから、おもむろに腰をあげた。 4 389