184 ンヨッキーを担当。 う。同年上京、現代思潮社の美学も受賞する。「限りなく透明に近 校のシルクスクリーン科に入学、 いプルー」を講談社より到打。 六月、「海の向こうで戦争が始ま 半年で除籍。同年十月より昭和四九月、エレクトーン奏者高橋たづ る』を講談社より、中上健次氏と ふっさ 十七年二月まで、示都下の福生子と結婚。 の対談「の舟は、動かぬ霧の に住む。 十月、ニューヨークに一カ月旅行中を、纜を解いてーー」を角川書 昭和四十七年 ( 一九七一 l) 一一十歳 する。さらに年末から翌年初頭に店より到打。 月、リチャード・ 四月、武蔵野美術大学入学。この かけて、ケニア、タンサニアに旅 ックの「イ 頃から福生での体験をもとに「限行。 ージョン」翻訳を集英社より りなく透明に近いプルー」第一稿昭和五十ニ年 ( 一九七七 ) 一一十五歳到打。写真にも取り組んでいた成 を書き始める。第一稿のタイトル 一一月、月刊「プレイボーイ」に短果を「太陽」 ( 九月号 ) に「クラウ は「限りなく透明に近いプルー」篇「ニューヨーク・シティマラソ ディ・ヨコハマーと題し、組写真 で発表。 ではなく「クリトリスこヾタ ン」を発考「海の向こうで戦争が を」というものだった。 十月、、フィジー島へスキューバダ 始まる」を書き上げる ( 「群像」 昭和五十年 ( 一九七五 ) 一一十三歳 五月号に発表した ) 。また、この イビング旅行。 十一月、「限りなく透明に近いプ頃から映画監督長谷川和彦氏のた 十一月、短篇「フィリピン・を ルー」で群像新人文堂責に応募。 めのシナリオを書き始める。フィ 「野性時代」 ( 昭和五十三年一月 昭和五十一年 ( 一九七六 ) 一一十四歳 リピンで、「地獄の黙示録を撮号 ) に発表。また、「限りなく透 五月、「限りなく透明に近いプ影中のフランシス・フォード・コッ 明に近いプルー」の英訳本が、ナ ンシー・アンドリュー訳で講談社 ルー」が第十九回群像新人文学賞ボラを訪ねる。 四月より、一年にわたりラ を受賞 ( 発表は六月号 ) 。 インターナショナルより到打され 七月、同作品で第七十五回芥川賞ジオ「若いこだま」のディスク
昭和五十三年 ( 一九七八 ) 一一十六歳む「真昼の映像・真夜中の一一一一口葉」 九月、月刊「プレイボーイ」 ( 十 一月から二月にかけて、 を講談社より刊打。 一月号 ) に短篇「蝶乱舞的夜総 デ・ジャネイロのカーニバルの見二月の終りから一二月にかけて、東会」を発表。 十月、書き下ろし長篇「コイン 南アジアへ講演旅行。 物旅行。 ロッカー・べイビーズ」 ( 上・下 ) 三月、「限りなく透明に近いプ四月、タヒチ、ライアテア島にダ を講談社より到打。「本」 ( 十一月 イビング旅「野性時代」 ( 五月 ルー」の映画化に着手。 ( 長谷川 和彦氏のために書いた四篇のシナ号 ) に短篇「ハワイアン・ラブソ号 ) に「長篇小説と机」を発表。 リオを眠らせて、第三作目の小説ディ」を発表。書き下ろし長篇「小説現代」 ( 十一一月号 ) に「対談 Ⅱ 1980 年の透明感覚ー村上春樹 のメモとし、自ら「限りなく透明「コインロッカー・べイビーズ」 に着手。 と」を発表。 に近いプルー」を監督しようと決 十一月、「海の向こうで戦争が始 六月、横浜市緑区に転居。 心する ) 八月、小笠原諸島へ「コインロッ まる」を講談社文庫に収録。 五月、月刊「プレイボーイ」に 「リオ・デ・ジャネイロ・ゲシュタル カー・べイビーズ」のための取材昭和五十六年 ( 一九八一 ) 一一十九歳 一月、「群像」三月号 ) に「対談 旅行。 トヴァイプレーション」を発表。 Ⅱ現代を描くということー野坂昭 八月、映画のクランク・イン。 昭和五十五年 ( 一九八〇 ) 一一十八歳 ロと」を発表。「海」三月号 ) に 一月、映画完成。 四月、「野性時代」 ( 五月号 ) に短女 十一一月、グアム島、トラック島へ篇「スリーピー ・ラグーン」を発「ジョン・レノンのこと」を発表。 表。 「野性時代」・ ( 二月号 ) に「グアム」 ダイビング旅行。 年昭和五十四年 ( 一九七九 ) 一一十七歳七月、第一一作目の映画の淮備に入を発表。「読売新聞」に「長篇の あとの疑問」を発表。 一月、「限りなく透明に近いプる。 レ 三月、翻訳、リチャード・ 八月、長男大軌誕生。 ー」のシナリオ、衫日誌を含
「坊や、面白いでしよう ? ああやって回っている玉に乗るなんて、とても難しいのよ」 「何でみんな手を叩いているの、今までは叩かなかったのに」 「ああやって回っている玉に乗るのはとても難しいのよ。おかあさんでもおとうさんでもできな いのよ、止まっている玉にも乗れないのに」 「象も玉に乗るんだよ、絵に描いてあった、あんな玉に象が乗ってたよ」 女は玉から降りた。さらに大きな拍手がもう一度彼女らを包む。衛兵の父親は、五歳の孫があ まり感動していないのに気が付いていない。一一度目の拍手も父親を中心として起こり、彼が手を 叩く音が最も大きかった。白い布地にキラキラ光る糸を縫い込んだ衣装をつけた小柄な女達は、 三方向にていねいな一礼をすると、衛兵達の方を見た。衛兵の父親が拍手を始めたということを 知っているようである。下で玉を支えていた小太りの女が、ピエロから受け取った棒を持って衛 始 兵達の方へ、近づいて来た。 先端に小さな輪があり、その輪に金色の房が巻いてある透明な棒、衛兵は胸がドキドキしてき で えしやく 小太りの女芸人は父親に軽く会釈した後、五歳の息子に透明な棒を差し出した。 の「坊や、これをあげる、これは魔法の棒よ、お利口さんにして、おとうさんやおかあさんの一一一口う 海 ことを聞いていれば、坊やの願い事が叶うのよ、反対に悪い子だと、この棒が坊やを叱っちゃう
「ちょっと待ってよ、手洗いなら、出なくてもいいんだ、入口のところにトイレがあるよ」 「いや、ちょっと外の風に当たりたいんだ」 妻が心配そ、つな顔をしている。 「具合でも ? 「いやいや心配しないでくれ、すぐ戻る」 「ちょっと待ってよ、しばらくしたら僕達も出るから、も、つしばらく・侍てないかい ? 「いや、お前達はここにいてくれ、心配ないって言っただろう、すぐ戻るよ」 ピエロが自転車に乗っている。前輪が後輪の何倍も大きな自転車、一輪車、タイヤが四角いや つ、ピエロは何度も落ちて転ぶ。 五歳の息子は透明な棒を手にとって見る。少し離れた右横に座っている三人の子供がじっとそ 始 の棒を見ているのに、 小さな息子は気付いた。それから、舞台のピエロを見て、指差し、笑う。 争 「あなた、ちょっとおとうさん見てきたら ? で こ「ああ、見てきた方がいいかな」 の「そうしてよ、心配だわ、やつばり」 「でも、すぐ戻るって言ってたから、こいつも最後まで見たいだろうし」 「外はものすごい混雑らしいわよ、魚を見ようとする人達で身動きがとれないそうよ」
女は手を振っている。 顔をこちらに向けて僕を見ている。逆光のためよくわからないが笑っているのかも知れない もし笑っているのだったら子供のような笑い顔だ。まるで初めて海というものを見た夏の子供。 緑と銀のストライプの水着。 首筋のあたりで真珠の首飾りのように光っているもの、汗だろうか、それともさっき海に入っ る ていた時の水滴だろうか、からだに張られた日焼け止めのオイルの表面に乗っている。 始 カープを描いてうんざりする程遠くまで延びた海岸には、あの女と僕以外誰もいない 争 海岸の砂は細かくて、手で握りしめても砂時計のようにこばれ落ちてしまう。 三本のビーチパラソルがある。一本は遙か遠くに少しだけ傾いて、一一本目は赤いやつであの女 のの物と思われる衣類や化粧品や煙草やサングラス、三脚付きの一眼レフのカメラ、バスタオル、 海 こぶんラム。ハンチが入っていたのだろう、ストローが二本さし込んであるパイナッ ヘアプラシ、オ 、グ、三本目の影には僕が寝転んでいる。 プル、透明なビニールヾン
174 今井裕康 「リ、ウ、あなた変な人よ、可哀想な人だわ、目を閉しても浮かんでくるいろんな事を見ようつ 小さな子供みたいに。子 てしてるんじゃないの ? あなた何かを見よう見ようってしてるのよ、 供の時は何でも見ようってするでしよ、赤ちゃんは知らない人の目をしっと見て泣き出したり 笑ったりするけど、今他人の目なんかじっと見たりしてごらんなさいよ、あっという間に気が狂 うわ」 ーという女性にこうらせている。そ 処女作『限りなく透明に近いプルー』で、村上龍は丿丿 れに対して主人公リュウは「見るのは楽しいよ」と答える。 「俺は自分の好きなようにその見る物と考えていたことをゆっくり頭の中で混ぜ合わせて、夢と か読んだ本とか記憶を捜して長いことかかって、何て一言うか一つの写真、記念写真みたいな情景 を作り上げるんだ。新しく目にとび込んでくる景色をどんどんその写真の中に加えていって、最 後にはその写真の中の人間達がしゃべったり歌ったり動くようにするわけさ、動くようにね。す 解説
100 「何をやってたんだ一体、遅かったな、何かあったのかと思って心配してたよ、どうしたんだ、 顔色が悪いぞ、具合でも悪いのか ? 衛兵の妻は透明な棒を息子に手渡し、ちょっと手洗いで化粧を直していたのだ、と笑った。笑 い顔を作るのは辛かった。 さっき狭い簡易トイレで顔と首筋を拭い、服の汚れを落とし軽く香水を振り掛けながら彼女は 思った。ああいう男達はみんな殺すべきだ、がソリンをからだにかけて焼き殺してやりたいと、 鏡に映った自分を見ながら思った。 「おとうさんは ? 」 「わかるわけないだろ ? すっとお前を待ってここにいたんだから」 ああ、あんたら誰か捜してるんだったな、そう言ったのは罐ビールを飲んでいたモギリの男で ある。 「あんたら誰か出て行った奴を捜してるんだろ ? テントの裏側に動物を入れた檻があるからそ こに行ってみな、がキがいるからさ、そいつに聞いてみなよ、裏側だからわからねえかも知れん が、あのガキは不思議なくらい目かいいからなあ、何か見てるかも知れんが、でも期待されちゃ 困るぜ、この混雑だ、あんたらが離れ離れにならねえように気を付けるんだな」 衛兵達は外に出た。雲がまた厚くなったのか、湿気のある風が吹いていて、少し暗くなったよ
180 。もしもこの現代の日常生活が そのものを根柢から突き崩したいという欲望であるといってよい 核戦争という幻影の補完物であるとすれば、この日常のありようそのものを破壊しなければなら ない。戦争がそのまま凍りついたようなこの現代社会を破壊するためにこそ逆に戦争が必要なの しかし、 いったいこの逆説はどのように実現可能なのか。 「精神と文 戦争が与える熱狂と興奮と侊にとははたして何に起因するのか。カイヨワはいう。 明とが個人のうえに課した諸よの恐れや制約、この恐れや制約から個人を解放しうるのは、絶え す死と面つき合わせているという事実だけである。軍規までが、本能を解放する方向に働いてい る。というのもこれによって各人は、何事にせよ自分自身で工夫をして予測をたてるという、あ らゆる種類の努力から解放されるからである。各人はこれにより、自己の責任から解放され 自己の責任から解放されるということは、自分が自分でなくなるということである。おそら く、これこそがあらゆる熱狂と興奮と恍愡の核心にほかならない。人々はそこにおいて我を亡れ るからだ。回復されなければならないのはこの機能ではないか。 大佐は自己から解放されようとして赤ん坊になろうと考える。そして今さら「赤ん坊みたいに 半透明になるのは無理だけど、鏡にはなれるぞ」と考える。 「私の目を覗き込んで見えるのは君自身だろう ? こんな部屋じゃなくて、草一本ないようなタ ンザニアの草原で私と君が一一人きりしかいなくても、私を君が捜すことはできないよ、君が草原
「でも雨がわ、心配なのよ、降りそうでしよう ? 今にも降ってきそうなの、延期はできないら しいんだけどわ 足の細いワイングラスにビンクの透明な酒を注ぎながら女は言った。口紅を埋め込んだ唇の端 を歪ませて。男は立ち上がった。少しよろけて倒れそうになり、 頭を強く振って、目を擦る。窓 際まで行こうと歩く様子は、体中の骨が全て溶けてしまったかのようにグンニャリとしている。 「大丈夫だと思うよ、私は雨は降らないと思うね、さっきラジオでもそう言ってたから」 そ、 2 言ってからカーテンを開けた。 「あなたきようは昼間からお酒飲んでるの ? 女は窓際に進んで笑いながらそう言う。 「いや、私は雨の話をしているんだ」 始 プーツの爪先を壁にカツンカツンとぶつけている男を見ていると、女はいっか動物園で見た白 争 てい馬を思い出してしまう。奇形の馬で女の見ている中、生まれるとすぐに死んでしまった。骨が こ全くなかった。なぜかこの人はあの馬そっく 色が白いし、満足に立てないんですもの、目 のが似てる、あの白い馬の法えきった目、今度聞いてみよう、あなた何に怯えているの ? って聞 海 いてみようかしら。 「きのうは、あれからすぐ家に帰ったの ?
眠中の妻子五人をまず刺し殺してから、村に放火し村人を九人殺したっていう人なんだけど、お い今の話、ちゃんと聞いていたかい ? ワーグナーさんの話さ」 軍服の男は少しだけ興奮している。女は窓の外に気をとられていた。祭を準備する独特の騒が しさがかすかにこの建物まで届く。女はまたグラスに酒を注いだ。ちゃんと聞いていたかい、 ないと思うわ、もう何十回も聞いた話よ、あたしに卵を詰め込むんなら早くしたらいいのに、演 説は聞き飽きたわ。 「聞いてるわ、ワーグナーさんは何か言ったんでしよう ? 」 「その通りさ、ワーグナーさんはたった一言私に囁いて消えたよ、ワーグナーはこう言ったん だ、『赤ん坊の頃のことを思い出せたら僕は人殺しをすることはなかったのに』ってね、そうな る ぐる んだ、赤ん坊の頃を思い出せば良かったのさ、赤ん坊の私は縫い包みのオランウータンだったん 始 だから、中心に赤が集まった小さな花や桃の木の毛虫だったんだよ、そういう自然の一端で、君 争 にわかってもらえるとうれしいんだけどなあ、私の周囲の、両親やその他の家族や召し使い達、 で 医者や大や猫なんかが、ちょっとは気にとめるけど、何の影響も彼らに与えない、ちゃんと息を のしてて、ちょっとした空気の変動でも泣いたり病気したり死んだりすることが許される、値段の 海 高い縫い包みだったんだ、何もできない裸の赤ん坊だったのさ、そこで私は幼年学校の寄宿舎の べッドで考えた、今さら赤ん坊になるのは無理だけど、赤ん坊みたいに半透明になるのは無理だ