アインシュタイン - みる会図書館


検索対象: 脳の中の小さな神々
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1. 脳の中の小さな神々

茂木そうですけど、アインシュタインをはぐくむような教育があるかどうかっていうと疑問なわ けです。ダメな教育であったにもかかわらずなっちゃうのがアインシュタインかもしれない。アイ ンシュタインだって高校まではギムナジウムへ行っていて、そこでは古典的な教育を受けたわけで すね。でも彼はドロップアウトした。アインシュタインが育った状況を正確に再現しようと思った ら、ドリル教育をやって、そこからドロップアウトしたやつがアインシュタインになるのを待っこ とになるのかもしれない ( 笑 ) 。これは皮肉で言っているわけではなくて、脳ってむずかしいんで 講すよ。脳は、ある状況を設定したからといってそれによって一〇〇パーセント、コントロールされ 日 るようなやわな臓器じゃないっていうことですね。ドリルをやらせたって、単純で飽きちゃって想 像にふける子供が出てきたら、その空想の部分でいいものが生まれるかもしれない。 第 つまり抑圧して、反発したところで創造性が出るともいえるわけですか。 茂木自由放任でやっていたら、抑圧からの解放としての創造性の発揮はないかもしれないわけで す。いまの脳科学の知見だとこういう教育の仕方がいいとか、こういう学習の仕方がいいとか確定 的にいえない。ただ私がやってきた生物物理とか脳科学のあちこちの国の研究者を見ているかぎり では、「世界には無限定なものがいつばいあって、そのなかで自分のカンとかで何かをつかんでい 187

2. 脳の中の小さな神々

茂木このあいだ言いましたように『ネイチャー』にクリックがクオリアの論文を書いていますけ れども、ただそれは問題を解いたとか、問題を進めたということではなくて、神経科学と哲学の融 合領域みたいなものですね。 アインシュタインの奇跡の年と呼ばれる一九〇五年には、プラウン運動という原子の大きさを推 定する論文と、それから相対性理論の論文と、光量子仮説といっていまのエレクトロニクスの基礎 を築いちゃったような論文と、五本すごい論文が出ているんですね。二〇世紀の物理学のトレンド をすべて作ったような論文をアインシュタインが出して奇跡の年と呼ばれているわけです。それに 義相当するようなことは、もちろんクオリアではまだ起こっていない。出ている論文も「むずかしい 問題だよねーっていう論文ばかり。アインシュタインの奇跡の年に相当する年がいっ来るのかとい うのはわからないですね。 科学革命ってかならず大発見の前にぶざまな時代があるんですね。量子論でもシュレディンガー とかハイゼンベルグが美しい数学的な形式で示すのは一九二〇年代なんですけど、それまでの二〇 年間は前期量子論といってぶざまな量子論なんですよ。数学的にもきたなくて、「何なわけ、そ れ ? ーというぐらいダサイ数学なんですよ。それをシュレディンガ 1 方程式とかハイゼンベルグの 行列力学という形に洗練していくまでに十数年かかっているんですね。もしそういう歴史を繰りか えすなら、そういうぶざまな時代がおそらくクオリアにもあるはずなんです。「何でそんなみつと もない仮説を立てているの ? というようなことを誰かがそろそろはじめると前期クオリア論の時 149

3. 脳の中の小さな神々

してそういうことはないですか。 茂木人によるかもしれない。脳の仕組みとしては一般的なことが言いにくい領域があって、時間 に関する感覚もその一つですね。そのあたりも脳の研究ではなかなか調べられていない。脳科学の 領域では、ゝ しま脳がどういうことをやるべきか文脈の判断をするという問題になると思うんです。 る あ どういうタイミングで切り替わったらいいかはすごくむずかしいんですよ。 と 脳科学の研究はどんどん進んでいるけど、「でも脳科学って結局何にも役に立たなかったよね」 る す という批判はずいぶんある。それで少しでも役に立とうということで幼児教育への応用を模索して ン いるんですけど、実際のところ、脳科学の知見から見てこういう設定が最適であると言えないこと ナ が多いんですよ。幼稚園とかで、自由保育をするのか、ちゃんとプログラムを組んでやるのかって 谷 渋 いう対立がある。どっちにしてもそれなりに脳が育つんですよ。どっちがいいか悪いかという価値 本判断をするためには、価値判断できるだけの評価関数が必要なんですけど、その設定ができないん 性ですね。 たとえばアインシュタインを作るとして、アインシュタインが五〇分ずつ違うことを考えた かというと、たぶんそういうことじや相対性理論みたいな理論はできないんじゃないかと思うんで すよ。 186

4. 脳の中の小さな神々

第 8 日目講義科学革命はいかにして起こるか ノーベル賞をとれるのはどんな人 ? 不思議な科学者たちの世界 クオリアが引き起こす科学革命 クオリアのアインシュタインはまだ生まれない 第 9 日目講義人間とゾンビとの距離 心理的な時間と物理的な時間 恥ずかしがりのゴリラは人間になれない 統合失調症 現実と想像の境界がはずれると : 疑うことによって突き崩れていく世界 人格を複数の「フォルダ」に入れるーーーー多重人格 「人間のふり」をするのはけっこう簡単 125 165 1 ろ 0 12 2

5. 脳の中の小さな神々

第間日目講義知性の本質は渋谷でナンパすることにある ? 「みのもんたの脳科学」よりもコミュニケーション能力 「見渡す能力ーに必要なもの 人間にとってもっとも大事なのはド 1 、ミンかいつ出るか わかることを重視するカルチャーとわからないことを重視するカルチャー アインシュタインを作るめ 第ⅱ日目講義ありふれた脳の働きのなかに 飛んでいる想像力の芽がある 想像力があるのはあたりまえ 天才とサバン ほんとうに英才教育をする方法明 幼児虐待をなくすには 美しいクオリアの影響力 1 パミン効果 感動の時間とド 170 182 169

6. 脳の中の小さな神々

・刀 うーん、どんどん悲観的な話になってきましたけど、脳科学者でクオリアに興味がある人と る いうのはどれぐらいいるんですか。 起 し 茂木ひそかに興味を持っている人だったら、おそらく脳科学者の四〇パ 1 セントとか、五〇パ ・刀 セントいる。ただ、「デイタイム・ジョブーとよく英語圏では言いますけれど、昼間の仕事として 研究している人はあまりいない。私自身も、昼間は学生と一緒にふつうの脳科学、認知科学の話を 科しているわけで、そういう意味では昼間の仕事としてクオリアをやっているわけではないですね。 クオリアがめざしている科学革命というのは、過去の事例を見ても成功することがむずかしいタイ プのものなんだろうと思います。 クオリアについての論文は出ているんですか ? クオリアのアインシュタインはまだ生まれない 148

7. 脳の中の小さな神々

第 3 日目講義 茂木そうです。 ふーん、たしかにそれならできそうですね。 さらなる科学界のセンセーション そんなことを言ったのはクリックだけだったんですか。 茂木一九八九年にペンローズが『皇帝の新しい心』という本を出版したのも一大センセーション になりました。ペンロ 1 ズは、スティ 1 プン・ホーキングとともに「アインシュタインの相対性理 論の時空にはかならず特異点がある」と言った。「特異点」ってようするにプラックホールのこと なんですけど、その存在証明をした人です。物理学者としてそういう大きな業績をあげていた人 が、何の脈略もなく一九八九年にいきなり、「これまでのニューラル・ネットワークや人工知能の っていう本 アプローチでは人間の知性の本質はあっかえない。意識をあっかわなくちゃいけない を出したんですね。誰もペンローズがそんなことに興味を持っているって思っていなくて、突然で

8. 脳の中の小さな神々

義 日アインシュタインを作 第 日本だけじゃないですけど、時間割というのも能力を制限しているような気がする。数学や って次は英語をやって国語やってというのは頭を切り替える訓練にはなるかもしれないけど、ほん とうに没頭してやる気になったら、ずっと数学のことを考えていたほうが自然なんじゃないかなと 思うことがあるんですけどね。時間を区切って使うというのは近代的な教育なのかもしれないし、 まあ会社だって時間を区切って仕事をしているわけですけど、ほんとうはあることをやりはじめた ら徹底的にやっちゃったほうが能力を伸ばせるんじゃないかと思うことがあるんです。脳の構造と もともとコンセンサスが取りにく った」と言ったって、さんがわかったかどうかはわからない。 いぐらいグチャグチャに人がいる。そこら辺が文化の差ですね。前にお話しした乗っ取り仮説みた いなことは日本人の学者はまず言わないです。どう転がるかわからない話ですからね。だけど、ア メリカ人とかはいい仮説を出すことの価値をちゃんとわかっていますね。 ( 浦 ) やつばり長い目で見ると、東アジアって科挙文化があいかわらず続いているんですね。それはア メリカとかヨーロッパとかで言っている知生とは別の何かですね。 185

9. 脳の中の小さな神々

ムでは説明できないような症例があって、それを説明するために新しいモデルが作られるというわ けです。 ところがジンジャリッヒたちは、科学の歴史では、いままで暗黙のうちに前提にしてきたことが じつはあたりまえでないんだと問い直したときに大革命が起こったことを発見した。 アインシュタインの一九〇五年の特殊相対性理論の論文はどこからはじまったかというと、「同 か時 , というのはどういうことかを問い直したからなんですね。というイベントとというイベン る トが同時に起こったということはそれまではあたりまえ。同時は同時だろうと思っていたわけで てす。だけど、実際にはそれがどういうことか、光のシグナルの伝達について考えはじめたときに革 命が起こったわけですね。 ・カ 哲学者と同じように、ふだんわれわれがあまりにもあたりまえだと思っていることを突き崩すこ とから科学革命が生まれたことをジンジャリッヒたちは実証した。つまり、説明の前提になる事実 がぜんぜん違う見方をされてしまったときに、科学革命が起こるんです。 クオリアっていうのはまさにそういう問題で、世界を説明するときにわれわれが前提にしてきた ことなんですね。それを突き崩すことから次の科学革命が生まれるだろう、というのが見通しなん です。どちらかというとクーンの科学革命のモデルよりも、ジンジャリッヒたちのモデルのほうが どうもクオリアに関しては近い気がするんですね。 146

10. 脳の中の小さな神々

すね。毎年クリスマスのときに、クリスマス・レクチャーといって、偉い人を呼んで特別講義をす るんですよ。ま 冫くがいたときに、「今年は誰を呼ばうか」っていうから、「ぜひペンローズを呼ば う」と言って来てもらったんです。ペンローズが一時間、意識の問題についてしゃべった。量子力 学とアインシュタインの一般相対論を結びつける理論というのはいまだにできていないんですけ ど、ペンロ 1 ズは、「それができないと意識の問題は解けない」みたいなことをしゃべった。あと で、そこにいた保守的な神経科学者がわれわれの前で「あいつはワンカーだ」って言った。ワンカ ま 1 っていうのはスラングですけど、ようするに「マスターベーションをする男 , という意味なんで Y す。下品なスラングなんですけど、ペンローズみたいに正面からぶつかると、自己満足的だと言わ っ れる。宇宙物理学の分野で仕事していれば、ペンローズはそんなことを言われなかっただろうけ ま ど、ものすごくむずかしい意識という問題にぶつかってしまったから、後ろ指を指されるようにな で ン っちゃう。 クリックのほうはうまくて、ぜんぜん本質的な問題にかすっていないんだけど、でも誰も反対で 人きないようなことを言うわけですね。だけど、クリックの路線でいっても意識の問題の本質は解け ないだろうということはわかっているんですよ。 クリックとペンローズって、研究者の生き方としてすごい考えさせられますよ。