フロー状態 - みる会図書館


検索対象: 脳の中の小さな神々
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1. 脳の中の小さな神々

フロー状態を統御しているものというのは結局のところ何なんでしようね。 講茂木いまのところそれはわからないですね。フローというのは抑制がはずれているんだろうとい 日 うことは確実に言えるんですけど。ひとつにはフロー状態がたいへんまれにしか起こらないという ことがネックになっています。スピードスケートの清水宏保さんだって、レースをやるときにいっ 第 もフロー状態になっているわけではなくて、まれにしか起こらないわけですからね。研究するうえ でそこはすごくむずかしいところですね。 研究をしている人はどういうことをやっているんですか。 茂木やつばり心理学的な研究ですね。フロー状態の権威のチェコ人であるチクセントミハイが、 すぐれた創造力を示した歴史上有名な人たちの心理状態を研究したりとか、病理学の隣接領域みた 幼児虐待をなくすには◎美しいクオリアの影響力 203

2. 脳の中の小さな神々

る あ ・カ 芽 の カ そうすると、想像力のあるなしは脳科学のテーマではなさそうですが、アーティストの脳を 想 調べているような人たちはいるんですか ? ん 飛 茂木心理学の研究のなかでいちばんそれに近いのは、ゝ しわゆるフロー状態を調べている人たちで すね。フロー状態というのは、たとえばスケ 1 トの清水宏保選手が調子のいいときには自分の走っ きているコースが光の点になって見えるとか、あるいはモ 1 ツアルトが一瞬のうちに交響曲を構想し のてしまってあとはそれを書きくだすだけとか、そういう状態をフロー状態というんですね。要する に無意識のうちに流れるように生み出してしまう状態。生み出すのは作品かもしれないし、自分の れ 身体の動きかもしれない。それが何なのかに興味を持っている人たちがいるんですね。フロ 1 状態 あ というのをひと言でいうと、それは脱抑制だろうと考えられている。つまり無理して何かを脳にや らせるというのではなくて、脳にふだんかかっている抑制をうまくはずしてやるとーー・自分の体の 動きかもしれないし、モーツアルトのように交響曲かもしれませんけど 脳が自動的に作り出 天才とサバン◎ほんとうに英才教育をする方法 194

3. 脳の中の小さな神々

第Ⅱ日目講義 す。フロー状態になっている人たちの心理状態からすると、苦労して作り出しているわけではない んですね。自分の身体とか脳が勝手にやっている状態を自分はただ見ている。 苦労なく生み出せるならそういう能力がほしいと誰しも思いますけど、そういう状態を作り 出すためにはやはり膨大な練習とか訓練が必要ということなんでしようね。 こま、お父さんにトレ 茂木そうですね。モーツアルトなんかも、そういうフロー状態になる前。。 ニングを受けたわけです。 誰でも身につけられるかどうかはともかく、そこで重要な点がいくつかあります。人間の脳は、 関係性とかコンテキストがすごく重要です。みんな見逃しているんですけれど、モーツアルトが英 才教育を受けたのは現場だった。その点が重要なんですね。英才教育がたいてい間違ってしまうの はそこなんです。「科学というのはこういうものだろう」と頭のなかで思って箱庭みたいな世界を 作ってそこでトレーニングをやる。そういう形では科学に必要な能力は絶対に身につかない。科学 者のなかで研究したり学会に行って議論したり発表したりするときに必要とされる脳のモードと、 箱庭的な科学とはぜんぜん違っている。モーツアルトが成功したのは、最初からお父さんが音楽家 の仕事の現場に連れて行っているでしよう。あれがポイントだったと思うんですよ。 いま日本で流 行っている、ドリルを徹底的にやるとかああいうのではなくて、たとえば小説書かせたいとかほん 195

4. 脳の中の小さな神々

いなところで研究している人がいます。 ーーーー文献とか資料で研究するという感じなんですか。 る あ ・カ の茂木フロ 1 状態にはいろいろな人が興味を持っているんです。私はこの本は大嫌いなんですけ カ 像 ど、『話を聞かない男、地図が読めない女』を書いたアラン・ピーズたちは脳科学者ではなくてア る メリカの心理学のコンサルタントですね。日本ではあまり需要はないけれど、アメリカではいかに で 前向きに生きるかというコンサルティングをやっている人たちがいて、そういう人たちによってフ ん 飛 ロ 1 は一大産業になっている。「前頭葉産業」の人たちよりはまともだと思うけど、フロー産業で なすね。ともかくいかにフローをもたらすかというのは、みんなものすごく関心があるわけですね。 の き 企業とかにとってもそうですね。だけどいまのところ確実な処方箋というのはないんです。 の 抑制をはずすのは、プラスになるばかりでなくて、当然マイナスになることもありますね。 れ あ 茂木「切れる」といわれているやつですね。抑制をはずしたときにマイナスのクオリアがコピー されることが起こる。幼児虐待を受けた人というのは幼児虐待してしまう傾向があるといわれてい る。ひとっ言えるのは、モーツアルトもそれ以前の人の曲を聴いていたわけで、 しいクオリアを脳 204

5. 脳の中の小さな神々

茂木だってそれは、「リラックスしなさい」と一言うことはできるでしよう。ある程度はコントロ ールできますよ。けれどもコントロールできない部分は当然ありますよね。 る あ つまりセ 1 フべースを作るのは練習とかでできるかもしれないけれど、そこから先がむずか のしいということですか。 カ 茂木抑制をはずすのに何がむずかしいかというと、情動が絡んでくることなんですね。情動っ でて、前にも言ったように大脳基底核のドー ハミンとかそういうものの作用なんですけど、一般的に 飛情動は意識ではコントロールできない。でも情動を通してリラックスしなくちゃ抑制ははずせな ・カ . な の き みんなの前でしゃべらなくてはいけない人が、い くら「リラックス、リラックス」と一言ってリラ の ックスしようと思ったって無意識のほうがついていかない どうやったらいい力というのはむずか しいですよね。べつに全員が天才になる必要はないんだけど、楽しく生きるためにはミニ・フロ 1 れ とでもいった状態が作り出せれば楽しいわけです。たとえば親しい友人としゃべっているときとい っ一 あ うのは一種のフロー状態だと思うんですよね。ファミレスとか居酒屋とかで、親しい人としゃべっ ているときというのは、すごくリラックスしてべらべらしゃべっているわけです。ああいう状態が フロ 1 状態ですね。 200

6. 脳の中の小さな神々

フロ 1 状態になるには相手がいたほうがいいんですか ? 茂木いや、相手はかならずしもいらないと思います。ただ、セーフべ 1 スがそもそも保護者との 関係性のなかで成り立つものですから、関係性は重要です。一般に人間の脳というのは、関係性と いう文脈が設定されたときにものすごく新しいものを生み出す傾向というか、そういう事実があり ますね。恋愛というのもそもそもそうだし。 日ーーーー恋は新しいものを生み出す ( 笑 ) 。でもともかくフロー状態になるには、セーフべ 1 スがま ず重要ということですね。 第 茂木とても重要だと思いますね。私がいまやっている研究のひとつの重要なテ 1 マです。小泉首 相みたいに「痛み」ばっかり言っていると、セーフべースがなくなっちゃって冒険ができなくなっ てしまう。 たしかに萎縮するというか、守りに入ろうってことになりますね。 201

7. 脳の中の小さな神々

脳内物質て揺れ動く心 茂木「インビトロ」のデータは「インビボーと無関係ではないとみんな思っているんですけれど、 イコールではないというところがとても重要なんですね。「インビボ」でも、たとえば猿の神経細 胞を調べるときには同じことを一〇〇回とか二〇〇回とか繰り返すんですね。実験室のなかの「イ ンビボ、の状態でもものすごくコントロ 1 ルされた状況下で研究をやっている。日常生活での状態 というのはおそらくまた違う。実際の脳は単純な機械論とは何段も違うんですよ。 脳内物質はどういうふうに調べているんですか ? ないというのが常識なんです。 切り取ってきて試験管のなかのものと、切り取る前では違うということですか。 茂木そうです。脳科学者は、「インビトロ」の実験データを示されたとき、次の質問はかならず 「じゃあこれ『インビボ』ではどうなっているんですか ? , と聞くんですね。「インビボ」と「イン ビトロ」というのは、一般には違うんだと思われているわけです。 でも、切りとる前はどうなんだって訊かれても、訊かれたほうも困るでしようね。 220

8. 脳の中の小さな神々

本文注記 ) Emotional Quotient 心の知能指数とか情動指数と訳されている。 ( 簡 ) アメリカでは、高校卒業時に (Scholastic Aptitude Test) という統一試験を受験し、大学へ 入学する。 ( 浦 ) 隋から清まで中国で一三〇〇年以上にわたって実施された官吏登用試験。 7 ) ドイツの伝統的中等学校。古典語・古典教養を重視。 ( ) 自閉症の子供の約一割にみられるという特殊な才能。音楽や本物そっくりの絵画、瞬間的な暗算など の驚異的な能力を示す。 ) Csikszentmihalyi, Mihaly 一九三四年—。一兀シカゴ大学の認知心理学者。著書に『楽しみの社会学』 『フロー体験喜びの現象学』など。 四一五三九—一六一〇年。長谷川派の祖。桃山から江戸時代初期の代表的画家。日本独自の水墨画や金 碧画の様式を確立。 礙 ) 一七一六—一八〇〇年。江戸中期の画家。写生的装飾的な花鳥画。とくに鶏図が有名。 ( ) Kahneman, DanieI 一九三四年—。プロスペクト理論や心理的会計簿を唱えて行動経済学の基礎を確 立した。二〇〇二年にノーベル経済学賞を受賞。 3 ) Von Neumann, John 一九〇三—一九五七年。アメリカの数学者。計算機理論やゲーム理論などを研 究した。一九四三年からマンハッタン計画の顧問を務めた。 ( 遺伝学の基礎とその応用に関する総合的研究を行う。大学協同利用機関。 266

9. 脳の中の小さな神々

とない状態って違うじゃないですか。そこがポイントなんですね。そこがすべてのポイントで、何 で意識がある状態とない状態という二つの状態があるのかということですね。だって、意識がない 状態で、夢遊病者みたいに身体を動かすことはあるわけです。だから極端な場合、夢遊病者がもっ と精密になって、夢遊病者のまま言葉をやりとりしているっていうことも可能性としてはありえま すよね。なんでわれわれがそういう存在でなかったんだろうっていうことなんですよ。 たしかに、われわれ人間は夢遊病者やゾンビのような存在に進化していても不思議はなかっ た。けれども、意識のある状態とない状態は明らかに違っていて、われわれは毎日それをいとも容 易に飛び越えて暮らしている。朝起きると意識がある状態になっていると言われましたけど、寝て いる状態というのは意識がないということになるのですか。意識と心の違いはどう考えられている んですか ? 茂木英語だと「意識」は〃コンシャスネス〃で「心」は〃マインド〃です。日本語だとその区別 は曖昧ですね。英語で言う〃コンシャスネス〃はいま言ったように、朝起きて、ばっと目が覚めて 生まれる意識で、 0 か 1 か、あるかないかというものです。一方、英語の″マインドみは無意識の 働きまでも含めている。たとえば計算するときに計算過程すべてをかならずしも意識しているわけ ではないですよね。一部分は無意識のなかで計算が行なわれている。そういうものも含めて〃マイ

10. 脳の中の小さな神々

ているから、若冲の絵にしても「松林図。にしてもばっと観て「情報として得られたからもういし 1 ティーだったら一〇分いて「パ ーティ 1 の情報 や」って次に行っちゃうわけでしよう。でも、 ーティーにいる気分ってもっとゆっくり を得られたからいいや」って帰らないじゃないですか。パ る あ している。だから「松林図」とかああいう絵の前で二時間立って観るというのを、ばくは絶対おす ・カ のすめしますね。 カ る 美術館はそもそも特殊な空間ですよね。絵を集めてきて架けていますが、本来、絵は家のな で かなんかに飾ってあったわけですから、美術館での絵の見方がおかしいというのはわかりますね。 ん 飛 茂木環境として包まれているというのは、脳にとっては大切なものですね。絵とかああいうのつ きて情報だと思っているけれど、もともとファニチャ 1 ( 調度 ) の一部ですからね。ファニチャ 1 っ のていうのは何かというと、ずっとそこにあって、気が向けば見えるというものです。だから小説 も、読みはじめて五分じゃまだだめ、一〇分、一五分、三〇分くらい読んでいたら、だんだん感じ れ がわかってきて「ああ . ってなるじゃないですか。絵もそれと同じくらいスローメディアとして機 あ 能するんだと思いますね。 何がスローなのかひと言で言うと、それぐらいゆっくりじゃないと脳のなかのプロセスとして立 ち上がらないということですね。脳科学的にちゃんと証明されれば大きなインパクトがあると思い 208