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検索対象: 脳の中の小さな神々
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1. 脳の中の小さな神々

脳の中に棲む小さな神 同一性はどう成り立つか それでは、脳科学からホムンクルスは完全に消えてしまったのだろうか ? 「見る」という体験は、色、テクスチャ、形などに対して反応選択性を持っ神経細胞の活動パタ 1 ンによる情報表現によって説明できるのだろうか ? 結論から言えば、説明することはできない。 脳科学が説明してきたのは、脳の中のある神経細胞の活動と、外界から入る刺激の「対応関係」 だけである。そのような「対応関係」を通して脳の中で生み出された神経活動の一つ一つが、「私 . にとって、どのようにして「赤ーや「つやつや」や「りんごの形」といったクオリアとして成立し ているのか、というメカニズム自体を説明するわけではない。 むずかしい言葉を使えば、私たちが「見る , という体験のなかにとらえている、さまざまな視覚 特徴の「同一性ー自体を説明するわけではないのである。 後に見るように、「同一性ーがいかに成り立っているかを説明しようとするとき、脳科学はふた 「見る。ということの脳内メカニズムを、近代の脳科学はこのように説明してきたのである。 244

2. 脳の中の小さな神々

ムでは説明できないような症例があって、それを説明するために新しいモデルが作られるというわ けです。 ところがジンジャリッヒたちは、科学の歴史では、いままで暗黙のうちに前提にしてきたことが じつはあたりまえでないんだと問い直したときに大革命が起こったことを発見した。 アインシュタインの一九〇五年の特殊相対性理論の論文はどこからはじまったかというと、「同 か時 , というのはどういうことかを問い直したからなんですね。というイベントとというイベン る トが同時に起こったということはそれまではあたりまえ。同時は同時だろうと思っていたわけで てす。だけど、実際にはそれがどういうことか、光のシグナルの伝達について考えはじめたときに革 命が起こったわけですね。 ・カ 哲学者と同じように、ふだんわれわれがあまりにもあたりまえだと思っていることを突き崩すこ とから科学革命が生まれたことをジンジャリッヒたちは実証した。つまり、説明の前提になる事実 がぜんぜん違う見方をされてしまったときに、科学革命が起こるんです。 クオリアっていうのはまさにそういう問題で、世界を説明するときにわれわれが前提にしてきた ことなんですね。それを突き崩すことから次の科学革命が生まれるだろう、というのが見通しなん です。どちらかというとクーンの科学革命のモデルよりも、ジンジャリッヒたちのモデルのほうが どうもクオリアに関しては近い気がするんですね。 146

3. 脳の中の小さな神々

ろな意味で自我の中枢といわれている。注意をどこに向けるかということをコントロ 1 ルしたりす る領域が野の周辺に集まっているという意味で自我の中枢だといわれている。ただ前にも言いま したように、その領域がわかったとして、じゃあ今度は何でそこが特別な領域なのかを説明するた めには、神経細胞の結合のパターンから別の理由を見つけて説明できなくてはいけない。人間だっ たらお互いに自己意識とかそういうものは直感的に理解しているけれど、人間についてまったく知 ここのところはじつは特別な意味があるんですよ。結合 らない火星人に「この脳を見てください。 離のパターンがこうなっているでしよ。このパタ 1 ンのこういう生質によってここは特別な意味を持 の っているんですよ」と説明できないと科学の説明にならない。そういうことはいまのところ、まだ と できていないんですよね。それをやるためには、マッピングをさらに精密なものにしていくという ン ことは、基本的に当然やるべきことだと思いますよ。 と 人 ヒューマン・ゲノムで Z << の配列は全部わかったわけですけど、あれは科学の終わりではなく てはじまりのわけですね。遺伝子の情報がわかってはじめて、その遺伝子がどういうときにどう働 いているのか、ということをやる時代になった。最近の『ネイチャー』に、あまりにも遺伝情報が 膨大なんでロポット・サイエンティストを作ろうというおもしろい論文がありました。ロボットに 科学的な仮説を立てさせる。仮説といってもそんなにたいした仮説じゃないですけど、膨大な Z のシーケンス ( 塩基配列 ) についてある仮説を立ててそれが正しいかどうか検証し、間違ってい たらまた別の仮説を作る。ロポットにそういう科学をやらせようというような研究がはじまってい 164

4. 脳の中の小さな神々

特別講義 現在の脳科学で、「この神経細胞の活動パターンは赤を表している」というように説明をすると き意味されているのは、たんにコンピュータと同じ意味でそこに「情報ーが表現されているという だけのことである。 神経細胞は、「活動膜電位ーという一ミリ秒 ( 一〇〇〇分の一秒 ) ほど続く活動をするか、ある いは休止状態のいずれかの状態にある。すなわち、神経細胞の活動は基本的に 0 か 1 かでとらえる ことができる。神経細胞の活動パタ 1 ンは、コンピュータの中のデジタル情報のように、 0 と 1 が 並んだものだと考えてよい。 「つやつやとした赤いリンゴーというイメージが、脳の中の神経細胞の活動パターンによって表現 されているという脳科学の説明は、意識の中であるものの同一性が保証されているメカニズムとは 無関係である。 「ほら、このコンピュ 1 タの中の、この 0 と 1 が並んだかたまりが、じつは『つやつやとした赤い リンゴ』を表しているんですよ」と説明するのと、「ほら、この脳の中の、この神経細胞の活動の 現在の脳科学の壁 247

5. 脳の中の小さな神々

っているのだけれどそれをひとつ上の視点から見てああそうなんだと気がつく、そういう意識 ( メ タコグニション ) が成立している人だと話が通じます。 でも、茂木さんも言われたように西欧科学にはニュ 1 トン以来の自然観があって、とくに自 然科学の人たちは機能主義で説明しないと納得できないということがずっとあるわけでしよう。ニ ュ 1 ロンの発火で全部説明できると思っている人たちは、内観的というか、主観的にクオリアとい うものを考える発想はいままでなかったでしようから、やつばり拒否反応もあるでしようね。 義 目 茂木一つには自分がクオリアを感じているという自覚が充分ない人がいるのではないかという疑 第念をかなり持っているんです。機能主義ですべてを説明できるというふうに感じている人がいる。 ううん、「おまえはじつはゾンビだ ! 」みたいな話になってきた ( 笑 ) 。ばくもじつはゾンビ かもしれない。 茂木じつはさっきから疑っています ( 笑 ) 。メタ・コグニションを成り立たせるのって意外とむ ずかしいんですよ。べつに神秘化するわけじゃないですけど、ばくも三一歳のときまで気がっかな かったんですから。 メタ

6. 脳の中の小さな神々

脳はもともとまとまってひとつになっているんですから、部分でとらえようという発想は、 義 シロウト考えでもおかしい気はしますね。 第茂木そうですね。つながっているわけですから。もともとそういうものとして考えなくちゃおか しい。脳はある見方で見るとたしかに機能局在のようにも見えるんですけど、それだけでは脳科学 の説明としてまったく不十分です。 ただ、そのほうが説明しやすいというところが困ったところですね。 茂木それはおそらくネットワ 1 ク以前のわれわれの思考の型なんでしようね。 「みのもんたの脳科学」 ンは出してくれているんですよ。

7. 脳の中の小さな神々

パターンが、じつは『つやつやとした赤いリンゴ』を表しているんですよ」と説明するのは、本質 的に何も変わりはしないのである。 コンピュ 1 タの中には同一性や意味はない、と考えることに私たちは何の抵抗も感じない。人間 にとって、いまのところコンピュータは便利な道具に過ぎない。私たちは、コンピュータに言葉を 使ったり、創造性を発揮したりといった高度な能力を期待はしていない。 一方、一〇〇〇億の神経細胞の活動によって生み出される私たちの意識の中では、さまざまな形 神の同一性や意味がたしかに成り立っている。「つやつやとした赤いリンゴーはユニークなクオリア はのかたまりとして心の中にある。「ばくは君を愛しているーという言葉の意味も、たしかにそのよ む うなものとして意識の中に立ち上がる。そして、私たちの脳は自由に言葉を駆使したり、創造性を 判発揮したりといった今日のコンピュータがとてもできないような高度な能力を持っている。 の 今日の脳科学は、コンピュータと同じゃり方で脳の情報表現を説明している。そこには、どこか 重大な見落としがある。とりわけ、脳の中でどのようにしてある情報の同一性や意味が保証されて いるのか、そのメカニズムについては、今日の脳科学の情報表現のモデルは何の本質的な説明も提 供してくれないのである。 248

8. 脳の中の小さな神々

このあいだ言ったように、全部ゾンビとして起こってもよかったんで 根本的なことがわからない。 すね。いまの科学だと、夢遊病者みたいにぜんぜん意識がなくて、勝手に脳が動いて体も動くとい うような存在でも何も困らないように見えちゃう。「クオリアが生まれるには神経細胞の関係性が なければならない といういまの話にしても、クオリアがあることを前提にして「じゃあそのクオ リアがどう生まれるのか」という説明にはなっても、「何でそもそもクオリアがあるの ? 」という つまりほんとうの意味で問題を解いたことになっ 根本的な問題を説明する理論にはなっていない。 ていないんです。 の と 前回までの話のように、神経細胞の世界と主観的にクオリアを感じる世界の関係がわかる必 ン ど要があるわけですね。 人 茂木そうです。主観、客観というのにどういう起源があるのか説明しなくちゃいけないですね。 それがとても厄介なんですよ。二元論的な世界になっちゃうか、一元論で脳しかないと思うか、あ るいはそのどちらでもなくて、主観と客観をなんとかうまくつなごうということをやるか。一元論 で行くなら物質の脳でそれで終わりですし、二元論で行くんだったら脳と主観は別のものとしてあ るんだということでそれでいい。 三番目の可能性に心ある多くの人が賭けているんですね。何か両 者に関係があるというときに、じゃあ両者の関係は何なのかということを知りたいということなん 158

9. 脳の中の小さな神々

仮定すれば、一応、同一性や意味が成り立っメカニズムを説明することができる。すなわち、グラ ンドキャニオンの映像が単なる「 0 」と「 1 」のかたまりではなく、まさに「グランドキャニオ ンーであるという同一性を持っているのは、ホムンクルスがそれを観察してそのように認識するか らだ、と説明することができる。 しかし、いったんそのような形で同一性の起源を説明したとしても、こんどはそのホムンクルス の「脳ーの中で、同一性がどのように成立しているのかという問題が生じる。ホムンクルスの脳が 神何でも可能な魔法のプラックポックスだと仮定しないかぎり、ホムンクルスの中でも、何らかの形 にで同一性がゼロから立ち上がらなくてはならない。 む もちろん、ホムンクルスの脳の中にさらに小さなホムンクルス 2 がいて、そのホムンクルス 2 が 判ホムンクルスの脳の神経活動を観察し、認識することで同一性が立ち上がるのだと考えることもで の きる。しかし、そのように考えると、直ちに「無限後退」が起こる。今度は、そのホムンクルス 2 の脳の中で同一性が成立するメカニズムを考えるうえで、ホムンクルス 2 の脳の中にいるさらに小 さなホムンクルス 3 を考えなければならないことになるからである。 こうして、認識の主体 ( ホムンクルス ) が、「リンゴ [ や「グランドキャニオン」といった客体 を認識することで同一性 ( あるものがあるものであること ) が立ち上がる、という素朴なモデル は、ホムンクルスが無限に続く無限後退を引き起こす。このような明らかな欠陥があるために、脳 内の神経活動に基づく認識のメカニズムを考えるときに、ホムンクルス・モデルは真っ先に否定さ 252

10. 脳の中の小さな神々

過してゆくけれども、「心の時間としては瞬間につぶれてしまうという考え方です。もし、一個 の神経細胞が活動しただけでクオリアが生み出されるんだったら、もっと早くにクオリアは感じら れるはずなんですね。神経細胞ってもっとも活動するときには、一秒間に五〇〇回ぐらい活動しま すから、一回活動すればいいんだったら二ミリ秒でいいはずなんです。でも実際には一〇〇ミリ秒 ぐらいかかるというのは、一個の神経細胞の活動の性質からは説明できないんですね。 一〇〇ミリ秒というのがどういう時間かというと、たとえば視覚盾報が入ったときに、それが形 を見る中枢である側頭葉まで伝わる時間がだいたい一〇〇ミリ秒なんですよ。側頭葉まではずいぶ のん長いんですよ。おおざっぱに言うと、脳の端から端まで情報伝達にかかる時間が一〇〇ミリ秒ぐ らいだと考えていいと思います。 ン もう論文にも書いていますし、その辺は少しは説明できるんです。ただ、それが正しいかどうか と 人は現時点ではわからないんですよ。 説明できるけど、証明はできない。前回言われていた「ぶざまな段階」というわけですね。 運動とかはどういうぐあいになっているんですか。 茂木おもしろいことに運動は意識にのばらないんです。運動を制御するプロセスそのものはまっ たく意識できないですよね。手を動かそうとは思うけど、手を動かすときにどの筋肉をどういうタ 156