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検索対象: グレート・ギャツビー
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1. グレート・ギャツビー

168 僕が返事をする前に、ディジ】が家から出てきた。二列に並んだドレスの真鍮のポ タンが、日差しを受けて鮮やかに光っていた。 「あの大きなお屋敷のこと ? と彼女は指さして叫んだ。 「気に入ってくれたかな ? 」 「素敵ねえ。でもあそこに一人きりで住んでいるなんて信しられないわ」 「私はいつも、興味深い人たちを山ほどうちに招いているんだよ。昼といわす、夜と いわず。興味深いことをやっている人たちゃ、名のある人たちを」 湾沿いの近道をせず、僕らはちゃんとした道路を歩き、大きな裏門をくぐって屋敷 に人った。。 ティジーは魅力的な小声で、空を背景にそびえる中世風の館が描くシルエ さんざし ットの、あちこちの要素を褒め、庭園を賞讃した。黄水仙の華やいだ香り、山査子と すみれ スモモの花のふわふわとした香り、菫の淡い黄金色の香り。このうちにいて、色とり どりのドレスの人々が人り乱れつつ玄関の扉を出人りする姿も見えす、耳に届くのは ただ樹上の小鳥たちのさえすりだけというのは、なんだか不思議なものだなと、大理 石の階段に近づきながら僕は思った。 家の中に人っても、マ リー・アントワネット時代風の音楽室を抜け、王政復古時代 風の広間を抜けながら、そこに置かれたすべてのカウチやテー。フルの背後に、こっそ やかた

2. グレート・ギャツビー

「ウエスト・エッグにお住まいなのね」と彼女はいくぶん軽侮するような口調で言っ た。「そこに住んでいる人を一人知ってるわ」 「僕はまだ一人もーー」 「でもギャッビーのことはご存じでしよう」 「ギャッビー ? 」とディジーが口をはさんだ。「ファースト・ネームは ? 」 それはうちの隣に住んでいる人だと僕が言いかけたところで、夕食の用意ができた ことが告げられた。トム・。フキャナンはカのこもった腕を、有無を言わせす僕の腕の 下に差し人れ、さっさと部屋から連れ出した。まるでチェッカーの駒を別の升目に移 すみたいに。 ほっそりとした二人の若い女性は、手を軽く腰にやり、 いかにも物憂く、僕らの前 に立ってバラ色のポーチに歩み出た。 : ホーチの先には夕暮れが広がっている。ようや く勢いの弱まった風が、テーブルに置かれた四本のキャンドルの炎をそっと揺らせて 「どうしてキャンドルなんかつけるの ? 」とディジーが眉をひそめて言、 し指で炎を つまんで消した。「あと二週間で、一年でいちばん昼間の長い日が来るっていうのに」、

3. グレート・ギャツビー

の男に夢中になったことなんて、一度だってあるもんですか。それはね、この人にあ たしが夢中になったことがないっていうのと同じくらい、はっきりしてる」 彼女は唐突に僕を指さし、みんなは責めるような視線をこちらに向けた。彼女の過 去とはまったく関わりのないことを、表情で示すべく僕は懸命に努めた。 「あの人と結婚したそのときだけは、たしかにあたしの頭はどうかしていたかもしれ ない。でも自分が間違いを犯したってことが、すぐにわかったわ。あの人は結婚式の ために知り合いから一張羅を借りたんだけど、そのことを黙っていた。そして彼の留 守中に、借りた相手が服を取りにやってきたの」、彼女はまわりを見て、誰が自分の 話を聞いているかを確かめた。「『あら、これってあなたのスーツだったんですか』と あたしは言った。『何も聞いていなかったものですから』。でもとにかく服をその人に 返したわよ。そして午後しゅう、横になって涙が涸れるほど泣きまくった」 「姉さんはなんとしてもあいっとは別れるべきなのよとキャサリンは僕に向かって また話を始めた。「二人は修理工場の上にもう十一年も暮らしているの。トムが彼女 にとって初めてのいい人」 ウイスキーの瓶 ( 二本目だ ) がみんなの手から手へと忙しく移動した。ただキャサ リンだけは「何もいただかなくても、このままでしゅうぶん気持ちいいから」という

4. グレート・ギャツビー

162 も一分間くらい、揃ってもしもしと黙り込んでしまうことになった。キッチンでお茶 をいれるので、手伝ってもらえないかなと、僕はやけつばちに提案し、それを潮に二 人は勢いよく席を立ったのだが、まさに折悪しく、憎らしいフィンランド人の家政婦 が、お茶を載せた盆を持って部屋に人ってきた。 茶碗やらケーキやらのやりとりがひとしきりあり、そのあいだにありがたいことに、 それらしき配置が自然にできあがった。。 キャッビーはなるたけ目立たないところに位 あんうつ 置を定め、ディジーと僕とが会話しているあいだ、緊張した暗鬱な目で、二人を代わ るがわる念人りに眺めていた。しかしながら、ただ場を落ち着かせればそれでいいと いうものではないから、適当なところで僕は席を立ち、少し失礼させていただくよと 一一一一口った。 「どこに行くんだい ? とギャッビーはさっと顔を上げ、僕に問いただした。 「すぐに戻ってくるよ 「その前にちょっと君に話したいことがあるんだが」 彼は取り乱した顔つきで、僕のあとをついてキッチンに人った。そしてドアを閉め、 声を殺して「ああ、どうしよう」と言った。ひどく落ち込んだ様子たった。 「いったいどうしたんだ ? 」

5. グレート・ギャツビー

85 第三章 いていて、値段は二百六十五ドル」 「そういうことをする男の人って、何か変よね」ともう一人の娘が興味津々というロ 調で言った。「誰ともいっさい面倒を起こしたくないって感し」 「誰が面倒を起こしたくないんですって ? 」と僕は質問した。 「ギャッビーがよ。ねえ私、ちょっと耳にはさんだんだけどーー」 ーダンと二人の娘は額を寄せ合ってこそこそと話をした。 「あの人、誰かを殺したことがあると思うな」 場にひやっとした空気が降りた。三人のもごもご紳士たちも身を乗り出し、熱心に 耳を澄ませた。 「そこまではどうかしら」とルシールは眉をひそめて異論を唱えた。「戦争中ドイツ のスパイだったって話の方がわかるな」 男たちの一人がそれを裏付けるようにしつかり頷いた。 「私は彼のことをよく知っているという男から、その話を聞きました。ドイツで一緒 に育ったんだそうです」、男はそう言って我々を得心させた。 「違うったら」と最初の娘が言った。「それはあり得ないわよ。だって、彼は戦争中 アメリカの軍隊に入っていたんだもの」。僕らの信じやすい心がたちまちそちらに切

6. グレート・ギャツビー

145 第四章 ったのよ。二人は派手な遊び人のグルー。フと交際していた。みんな若くてお金持ちで、 無軌道だった。それなのにディジ 1 には、浮いた話がまったくと言っていいくらい出 てこなかった。たぶん彼女がお酒を飲まなかったからでしようね。酒浸りの人たちの あいだでは、お酒をまったく口にしない人って、すいぶん得をするのよ。お酒を飲ま なければ口が軽くなることもないし、ちょっとあぶないことをするにしても、まわり のみんなが酔っぱらってほとんど何も見ていないし、見ていたとしても気にもかけな いころあいを見計らうことができる。たぶんディジーは浮気したことはないと思うん だーーーそれでもね、彼女の声には何かしらそれに近いことを匂わせるものが : それはさておき六週間ばかり前に、彼女は実に久かたぶりにギャッビ】の名前を耳 にしたわけ。私があなたに質問したときにね。覚えているかな ? ウエスト・エッグ のギャッビーって人を知っているかって尋ねたでしよう。あなたが帰ったあと、ディ ジーは私の部屋にやってきて、私を起こして尋ねた。「ギャッビーって人、ファース こっちはほとん トネームはなんていうの ? 」。そして私が彼の様子を説明すると ど眠りかけていたんだけどーー彼女はがらっと違う声音で言った。それはきっと私が 昔知っていた人だわ、と。そう言われて私もようやく思い当たったわけ。そうか、ギ ャッビーって、彼女のあの白い車に乗っていた将校だったんだ。

7. グレート・ギャツビー

47 第一章 リート秘密クラ、、フ。イエール大学には六つあり、三年 * 2 四年生だけが人会できる一種のエ 生の終わりにそれそれに十五人すつが選出される。このクラ、、フに人会を許可されることが、 学生にとってもっとも重要な達成のひとっとなる。

8. グレート・ギャツビー

282 真夜中を過ぎて長い時間がたってからも、人々は人れ替わり立ち替わり、修理工場 の前にそろそろと集まっていた。そのあいだジョージ・ウイルソンはすっと奥のカウ チの上で、前後に身を揺すり続けていた。そのあいだ事務室のドアは開けっ放しにな っていたので、ガレージを訪れた人々はつい中をちらちらのそき込むことになった。 やっと誰かが、これしゃあんまりだと言ってドアを閉めた。ミカエリスとそのほか何 人かの男たちがウイルソンに付き添っていた。その数は最初のうちは四、五人だった ミカエリ が、やがて二、三人に減り、最後にはミカエリスともう一人だけになった。 スはその見知らぬ相手に、あと十五分だけここにいてもらえますか、あたしはちょっ とうちに戻ってポットにコ ] ヒーを作ってきますから、と頼まなくてはならなかった。 そのあとは明け方まで、彼が一人でウイルソンのそばについていた。 ウイルソンは筋の通らないことをぶつぶつ口にしていたのだが、三時頃になって言 うことの内容に変化があった。 , 。 彼よおとなしくなり、黄色い自動車について語り始め た。あの黄色い車が誰のものか、俺には調べる手だてがあると言った。またこんなこ とも口走った。二ヶ月前、女房は顔に傷をつくり、 鼻血をたらしてニューヨークから 戻ってきたんだ、と。 しかし自分がロにした言葉を耳にして、彼はびくっとちちみあがり、再びうなるよ

9. グレート・ギャツビー

347 翻訳者として、小説家として一一訳者あとがき にゼルダの方もけっこう真剣にのめり込んでいることに気づいて、愕然とする。二人 ( ゼルダと飛行士 ) を知る関係者のほとんどが、二人のあいだに性的な関係があった ことを示唆しているが、もちろん今となっては真偽のほどはわからない。たぶんそう う関係になったのだろうと、想像するしかない とにかくスコットはそれを知って、ゼルダをきつく詰問する。ゼルダは飛行士に恋 をしていることを認め、離婚の話を持ち出す。それを聞いてスコットは激しいショッ クを受け、さすがに執筆を中断し、二人に向かって最後通牒を叩きつける ( 小説の中 でトムが、ディジーとギャッビーに対しておこなったのと同しように ) 。そしてあれ やこれやの騒動の末に、ゼルダとフランス人飛行士との短いひと夏の情事は終結を迎 えることになった。ゼルダとしても頭を冷やしてよくよく考えれば ( ディジーの場合 と同じように ) 、スコットとの生活を選ばないわけには 、、よかっこ。しかしその事 件の傷は、あとあとまで二人のあいだに残った。 仕事に集中する夫と、ほかに喜びを求めようとする妻ーーーありがちなことだと言っ てしまえばそれまでだが、しかしスコットにすればたまったものではない。おちおち 集中して小説を書くこともできないし、彼が妻に対して抱いていた手放しの信頼感は 大きく損なわれてしまうことになった。そういう痛みや焦燥感は、おそらく小説の中

10. グレート・ギャツビー

67 第二章 「あの二人はどちらも、自分の結婚した相手に我慢できないのよ」 「そうなんだ」 「ぜんぜん我慢できないわけ」、彼女はマートルを見て、それからトムを見た。「私に 言わせれば、そんなに嫌なら、なんで一緒に暮らし続けてるわけってことになるんだ けどね。もし私があの人たちだったら、今すぐにでも離婚して、結婚し直しちゃうん だけどな」 「お姉さんもウイルソンのことが好きしゃないの ? 」 その答えは予期せぬところからやってきた。その質問を耳に挟んだマートルがロに した言葉は、まことに猛々しく、聞くに耐えないものだった。 「ほらね」とキャサリンは勝ち誇ったように叫んだ。そしてまた声を落とした。「別 れられない原因は、まったくもってあの人の奥さんにあるの。カソリックだから離婚 なんて問題外ってわけ」 ディジーはカソリックではなかったし、そういう念入りな嘘が作り上げられている ことに、僕は少なからすショックを受けた。 「もしあの人たちが結婚することになったら」とキャサリンは続けた。「騒ぎが一段 落するまで西海岸でしばらくなりを潜めることになるんでしようね」