不登校 - みる会図書館


検索対象: ルポ保健室 : 子どもの貧困・虐待・性のリアル
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1. ルポ保健室 : 子どもの貧困・虐待・性のリアル

この学校で「ウソつき」という一一一口葉を聞いたのは、彼女のことだけではない。 やはりよく早退したがる 2 年男子も、テストや宿題の出ているタイミングでそうなるの で、学年の教師たちが口を揃えて「サポり」「ウソつき」と評しているという。 この男子は、やがて学校に来なくなり、しばらくするとフリ 1 スクールへと転校してい った。 「保健室に来るのは先生たちからあまり良く思われていない子が多いですね」と、本田先 生が言ったことがあった。 学年の相談役の教師に受け止めてもらえなかった子が、さらに保健室にも行ってはいけ ないと言われてしまったらどうなるのでしよう、と聞く。 「そういう子が不登校になっちゃうのかな」と、本田先生はつぶやいた。全校で幻人ほど、 多いクラスだと人中 3 人が不登校だという。 この学校の学力調査の結果は優秀だ。勉強のできる子だけでなく、できない子の底上げ にも力を注いでいるというから、教師たちの学力向上への熱意が大きく寄与しているのは 確かだろう。 ただ留意する必要があるのは、この結果には、テストを受けることのできない不登校の 61 第 1 章いまどきの保健室の光景

2. ルポ保健室 : 子どもの貧困・虐待・性のリアル

しかし学校内には、保健室に生徒を登校させることへの戸惑いもあったようだ。 年代前半、柳先生の元に、不登校からなんとか保健室にまでは通えるようになった生 徒がいた。ある日の授業中、柳先生がケガをした別の生徒を病院へ連れていき、戻ってく ると、保健室の外から鍵がかけてあった。他の教師が「保健室にいる生徒がどこかへ行っ てしまうと困るから」と勝手に判断して施錠したというのだ。 柳先生は、今では笑い話として思い返す。 「それはないんじゃないって私、随分その先生に怒ったの。冗談じゃないよね。生徒を閉 じ込めるだなんて、大や猫じゃあるまいし」 一一一一口うべきことははっきり主張し、同僚に理解を広めていき、やがて管理職から信頼を得 て「他の不登校の子にも接触を図ってほしい」と要請されるまでになっていった。 用語も一般的でなかった頃から結衣さんに至るまで、なぜ柳先生の保健室には、不登校 の生徒も通えるようになるのか。その一番の理由は、柳先生がいつもどんな生徒にも伝え ている一一一一口特禾にヒントがあるよ、つに田 5 、つ。 それは、「保健室は困った時に行くところ」というものだ。 柳先生が全校生徒にとったアンケートを見せてくれた。記述欄には、困った時に助けて 120

3. ルポ保健室 : 子どもの貧困・虐待・性のリアル

柳先生が着任するまで、この中学校では教室に入れない子は別室登校になっていた。そ うした子たちをサポ 1 トする相談員として、当時代の長沢雪絵さんが週 4 回ほど来校し、 対応を一手に担っていた。別室登校のあり方は学校によって様々だが、この学校では学級 も保健室も、教員ではない長沢さんにほば「丸投げ」状態だった。 長沢さんは当時の結衣さんの印象を、「表情がなくて物静かだった」と話す。別室には 上級生だけで川人近くいた。とても入っていけそうもなかった。 柳先生の声かけを機に、結衣さんは少しずつ慣らすように、休み休みにではあるが、保 健室へ登校してくるようになった。保健室には校庭に面した出入り口があり、校舎内を通 らないで入ることができる。小さな下駄箱もあるので、昇降口にさえ行かなくていい んなことが結衣さんの心の負担を軽くしたようだ。 それでも保健室に来てすぐの結衣さんは、いつもビクビクとして落ち着かなかった。 「誰か来る」と言っては、カーテンや衝立の陰に身を隠す。柳先生が「もう行ったよ」と 呼びかけるまでは出てこない。柳先生が別の生徒に「早く教室行きなさい ! 」と叱ると、 自分に向けられた発一言だと思い込んで即座に「はい行きます ! 」と返答したこともあった。 「真面目すぎるほど真面目な子だし、考えすぎていたんだろうね」と柳先生は一一一一口う。 124

4. ルポ保健室 : 子どもの貧困・虐待・性のリアル

保健室で何度となく聞かされたことだった。 ヤマモト君の卒業が近づいてくると、母親は学校に、卒業させないでここに留まらせた いと伝えてきた。しかしそれはかなわない。 高崎先生は「ヤマモト君にはどういう支援が必要で、どうしてあげたらいいだろうと考 えるんだけど、難しいです」と眉をひそめた。 不登校というと、子ども一人の心の問題のように捉えられがちだが、背景を見ると、親 の状況を改善しないと打開できないケ 1 スがあることもまた忘れてはならないだろう。 2 大阪府内の中学校の場合 病院にできなくて保健室にできること 中学校は、全校生徒数が約 300 人。この学校のべテラン教師によると「大阪府内の この学 小学校で 6 年間を何のトラブルもなく過ごせた子のほうが珍しいだろう」といい、 校でも、小学校時代に厳しい学級崩壊を経験してきた子たちがいる。そういう子のいる学 年は、今もどことなく浮ついた空気が漂っている。 43 第 1 章いまどきの保健室の光景

5. ルポ保健室 : 子どもの貧困・虐待・性のリアル

人じゃ置けないとい、つことをガンガン一言ったらしいの。すぐに泣くよ、つなお母さんじゃな いからよほどのことを言ったんだろうね。私からお母さんに、学校に来るなという意味じ ゃないよ、心配だからお母さんに来てもらったし、今後どうしようかって話をしているん だよって説明したら、落ち着いてくれた」 母親は柳先生を信頼したようで、来校するたびに保健室へ寄るようになる。この機をと らえて柳先生は切り出した。 「お母さん、結衣さんの通っている病院へ行って、学校の対応について聞いてもいい ? 」 母親はすんなり了承し、病院へ話を通しておくと約東した。 病院との連携は、最初からうまくいったわけではない。 柳先生が病院へ出向くと、結衣さんの主治医は病状を説明し、深刻さを強調した。「私 たちが飲んだら起きていられないくらい強い薬を飲んでいます」「いっ校舎の高いところ から飛び降りてもおかしくない状況です」。 柳先生としては、病状そのものよりも、学校がどう対応すべきなのかを知りたかった。 というのも近隣の中学校で、同じように精神疾患を抱えた生徒が飛び降りたことがあった からだ。 127 第 3 章保健室登校から羽ばたく

6. ルポ保健室 : 子どもの貧困・虐待・性のリアル

保健室登校とはなんだという人もいるかもしれないが、同調査の定義では、生徒が常に 保健室にいるか、特定の授業は出席できても、学校にいる間は主として保健室または保健 室に隣接する部屋にいて、養護教諭が主に対応しているケースとされている。 結衣さんも、全国にたくさんいるであろう保健室登校の子の一人だ。 そのなかでも結衣さんの場合、学級への復帰は、ゴールの見えない険しい道のりに思え た。なにせ件の「デリケートな事情」に加え、柳先生のいなかった 1 年生の時には「登校 日数ゼロ」という筋金入りの不登校からのスタートだったのだ。 羽 ら 保健室は困った時に行くところ 校 「保健室登校」という用語がいつどのように誕生したかは定かではないが、 1970 年代 登 後半には、山形の養護教諭の勉強会で自然に使われはじめたという記録がある。ただ、市健 民権を得るようになるのはずっと後のことだ。 章 短大を出た柳先生が養護教諭として中学校に着任したのは年のことだが、 2 年後には 第 保健室登校の子を受け入れていたという。年代に入ってからも、用語が認知されていな い一方で、それを必要とする生徒はいた。

7. ルポ保健室 : 子どもの貧困・虐待・性のリアル

に念を押し、その日の話は終えたという。 これから注意して接していくつもりだ、と高崎先生は言った。 不登校の理由は「お母さんが心配たから」 虐待が明らかでも、保健室ではどうにもできないケ 1 スもある。 「私も姿を見たのは 3 年間で 3 回だけです」と高崎先生が挙げたのは、ヤマモト君という 不登校の 3 年男子のことだった。 小学校高学年からまったく学校に通わなくなっていて、中学校は入学式にさえ出席して いない。母一人子一人の家庭で、母親はメンタルの疾患があり、生活保護を受給して暮ら している。親類とは絶縁状態で社会的に孤立しており、ヘルバ 1 が掃除や通院をサポート している状況だ。 学校としても手をこまねいてきたわけではない。元教師の学校ボランティアが訪問する。 教室で勉強するのが難しいと言われれば、ヾ ノソコンをしにきてみないかと声をかける。母 親に「息子は太って制服のズボンが入らないから行けない」と渋られれば、管理職が大柄 な卒業生に片っ端から声をかけ、無償で譲ってもらった。

8. ルポ保健室 : 子どもの貧困・虐待・性のリアル

で、学校に来ていない結衣さんの存在を知らされた。結衣さんは、離婚してシングルマザ の母親ときよ、つだいとともに、ヾ ノスが 1 時間に 1 本もないような地域にある母親の実家 で暮らしている。また、何らかの精神疾患で通院している。 こうした断片的な情報はあったものの、不登校は続いていて、柳先生が直接顔を合わせ る機会はなかなかめぐってこなかった。 健康診断シーズンも過ぎ、柳先生が新しい職場に慣れた頃、結衣さんが何らかの用事で 母親と一緒に学校へ来たらしく、保健室に立ち寄った。 いつものように「困ったら保健室においでよ」と 柳先生は初めましての挨拶とともに、 声をかけた。 結衣さんは目を丸くして「そんなので来ていいんですか ? 」と言った。柳先生は「もち ろん ! ここでも良かったらいていいんだから、いつでもおいで」と答えた。 柳先生は振り返る。 「結衣さんは休みたいわけじゃなくて、ずっと学校に来たいと言っていたんだって。だか らもっと後になって話していたのは、 1 年生の時も保健室に来てよかったなら学校に来ら れたのにつて」 123 第 3 章保健室登校から羽ばたく

9. ルポ保健室 : 子どもの貧困・虐待・性のリアル

だと思う。だから手のかけ方はそれぞれ川だったり 5 だったり、極端に言えば 0 でも大丈 夫な子だっている。皆に同じことをやるのが平等だという養護教諭もいるけど、子どもに 応じて動かないと心の安定は望めないし、自己満足に過ぎなくなる」 そのなかで保健室登校の子は、最大限手をかける必要のある子、という位置づけなのだ A 」い、つ 二つ目は、たくさんの人の手をかけられるようにすること。 柳先生は「そのコーディネートをするのが養護教諭の役目」と言い切る。 「不登校や保健室登校の子って自尊感情が低くなっていて、それをいかに高めてやるかと いうことなんだけど、同じ褒めるにしても、いつも私に褒められるより、違う人が来てす ごいねって言われればモチベーションも上がるじゃないですか」 結衣さんの保健室登校の歩みにも、柳先生の「子どもに応じて手のかけ方を変える」 「たくさんの人の手をかける」という理念が詰まっていた。 突然の発作とリストカット 柳先生がこの学校に着任したのは、結衣さんが 2 年生になった春。同僚からの引き継ぎ 122

10. ルポ保健室 : 子どもの貧困・虐待・性のリアル

登校ゼロになっていたのが、 2 年後には川人ほどに膨れ上がった。エリカさんとともに 「女子会」をきっかけに保健室登校になった 2 人も、残念ながら不登校に逆戻りしていた。 柳先生は「養護教諭が変わったら態勢がすべて変わるというのは、本当はあっちゃいけ ないこと。だけど、今の先生には一人で抱えずにチ 1 ムでやるという実践がないんだと思 、つ」と五る。 養護教諭は基本的に一人職であるがゆえに、自分以外のやり方を学ぶ機会が少ない。そ して、保健室という殻に閉じこもろうと思えば閉じこもれる立場でもある。 進化しつづけてきたチ 1 ムも、柳先生の退職とともに終焉の時を迎えたのだった。 いっかは記憶に蓋をする 結衣さんと柳先生との間には後日談がある。 高校生になった結衣さんは 2 回、柳先生の保健室へやってきたという。 1 回目は高校 1 年生の夏頃。同じ中学校から進学した子と連れ立って、保健室へ顔を見 せにきた。 「それこそクなんちゃって制服ツを着てきたよ」と柳先生は笑う。 153 第 3 章保健室登校から羽ばたく