ったとい、つ 「電話の後、お父さんから、もう白澤先生に会っちゃいけないと言われたんです。なんで そんなこと一一一口うのかわからなくて、すごくお世話になっている先生なのにと、お父さんの ことを嫌いになりました。治らないと聞いてすごく傷ついちゃったのかな。普通の男の子 として生きてほしい気持ちと、本当の自分らしく生きてほしい気持ちとで板挟みになって いたんでしようね。今わかりました」 ただ、電話の直後こそ怒っていた父親だが、その日を境に態度が軟化していくのを、寺 田さんは肌で感じていた。寺田さんが女性のような格好をして歌うことについて、あれこ れ尋ねてくるようになったのだ。寺田さんは白澤さんと変わらす接していたが、それにつ いても黙認していた。 寺田さんは「白澤先生の電話があってよかった」と感謝する。「それが一つの起爆剤に なって、お父さんはお父さんなりに考えてくれたんだと思います」 将来への不安と「先輩」の言葉 白澤さんは保健室の本棚に、に関する本をたくさん置いていた。 184
遠くへ一人で行って「ここなら誰も追ってこない」と思ったこと。具体的に誰かを指す でもなく「なんだかみんな変わっていきますね」「信じる気持ちなんて無くなればいいの に」ということ。日頃は大人顔負けのきれいな文章を書く彼女なのに、この日は句読点も ほとんど使っていない。 一気に打ったのかもしれない。 修学旅行については「いまお家が ( すっと変わらずですが ) きつくて 7 万出して行くも のでもないから今回よ、、、 ( しし力なと」と、さらっと書かれているだけだった。 それから 1 時間も経たないうちに、「気持ち悪いメール送ってしまってごめんなさい。 気にしないでください ! 」と打ち消すようなメールが送られてきた。 もうすぐ文化祭で後輩のライプを見るのが楽しみだし、友達と他校の文化祭にも行く、 という話も聞いていたので、友達と何かもめたのかな、と私はとらえていた。 年が明け、彼女から来た年始のあいさつは、退学の報告だった。 「なぜ ? 」と目の前が真っ暗になる思いですぐにメールをすると、一番の理由は、いじめ だった。 その萌芽は、すでに入学式にあったという。
そして「禁煙しようと思ったきっかけは ? 」と聞いた。 「舌死んでいくんやろ ? タバコ吸っていたら」と、ホンゴウ君が答案を確認するように 言う。森先生がタバコの害を説いたことを覚えているよ、というアピールのようだ。 森先生はうなすきながら、「味覚やられるのは確かやし、いろんなところがガンになり やすいしね。舌が寂しくて何か食べてしまったり」と返す。 「おれ、いつもガム噛んでるもんなあ」 こうしてタバコの話題が済むと、連休に繁華街でデートしたことや将来のことをほっり ほっりと話した。退室時には一一一一一口、「先生、ありがとう」。素直すぎて微笑ましいほどだ。 ホンゴウ君にとってこれほど素直な気持ちでいられる場だから、森先生の話が腑に落ち、 禁煙しようという気持ちになったのかもしれない。すぐにすつばり止められなかったとし ても、森先生のメッセ 1 ジが彼を応援していくことだろう。 森先生はこちらを振り返ると、「私、こういうことを伝えたくて養護教諭になったんで すよ」とにつこりした。 森先生は高校卒業後、看護の専門学校へ進んだ。その実習の場で、医者にも看護師にも ど、つにもできないことかあると伍旧ったとい、つ
しかし、私は自分の生活パターンを変えませんでした。 なぜなら、いじめを振るわれる反対に女の子と遊んで自分が自分らしく輝けていた面も あって、いじめから癒されていたのだと思います。 いじめについては、その後、度々ありましたが、身近にいる周りの人は、理解して支え てくださいました。本当にありがたかったなあと思います。 いじめは、今はされた場合は、無視をするようにしています。性同一性障害の方や周り の人と話していくうちに、それが一番いいことを知りました。なので今はク死ね ! クだ とかク気持ち悪 ) しーと一言われても知らん顔をしています。何も悪いことをしていないの に軽蔑されたりバカにされたりすることは、おかしいことだと思います。そ、ついうことを する人は無視して、堂々と自分らしく生きるべきだと思います。 今の自分は、同性愛者や性同一性障害のことを多くの方に知っていただき理解してほし いと思っています。そのために、先生方のところを回り、話して、少しでも知っていただ こうと励んでいます」 作文の最後に「先生方のところを回り」とあるのは、寺田さんが月 1 回、自身の体験談 188
保護者については、学校として打つ手なしの状況だった。 自立するしか道はない、が 相葉さん自身は、母親を迎えにいった騒動のことを「あのとき気持ちが吹っ切れたのか な」と振り返る。実際、長谷川先生によると、その頃から相葉さんは、涙を見せることが 目に見えて減ったという 長谷川先生はそんな様子に接するうち、ある結論に達する。 それは、「彼女自身が自立するしか道はない」というものだった。 折しも、 2010 年 4 月から高校授業料無償化が実現されたばかり。高校に受かりさえ すれば進学は許してもらえそうだと、相葉さんは見通しを語っていた。 相葉さんと長谷川先生は、どんな学校なら自立に役立つかを一緒に考えた。その結果、 都立の商業高校を目標とすることにした。 在学中に資格を取得できるので、高校卒業後の自活につなげよう、という狙いだ ノイト代をもらい 「高校生になったらアルバイトできるし、賄い付きの飲食店で働けば、ヾ ながらご飯も食べられて一石二鳥だよ」 0
「そんなこと、もう考えるんじゃない。そのうち治るだろう」 寺田さんは反論したい気持ちをぐっとのみ込んだ。 それから日を置かずして、父子は衝突する。 100 円ショップに行った際、寺田さんは化粧品を買った。女生タレントの美容本を読 んで、同じような道具を揃えたいと憧れていたのだ。 しかし買い物に同行していた父親は、店を出るや、「何を買ったんだ」とすかさず寺田 さんの買い物袋をチェックした。その中身を見ると眉をしかめ、「こんなことやってる場 合じゃないだろ」と怒って、その場で捨ててしまったのだ。 小学生の頃にも化粧品を買ったことがあったが、その時は父親も「遊びだからまあいし だろう」と許容していたという。寺田さんは「もう、すごいショックで。展みつらみをぶ つけました」と振り返る。 この頃、寺田さんは父親との一部始終を白澤さんに話していた。 白澤さんとしては、「治る」という父親の発言が、気がかりだった。 性自認 ( 心の性 ) や性的指向は生まれながらのものであり、育てられ方の問題ではない とされる。心の性を体の性に無理やり合わせようとするのは無駄なばかりか、、つつ病や自 182
父親へ告げるつもりだと白澤さんに伝えると、「お父さんに正直な気持ちを伝えられた らいいね」と励まされた。 チャンスはすぐに訪れた 日曜日、父親と車で出かけることになった。二人きりの車内は昼下がりの光に満ちて暖 かく、寺田さんは「今なら話しやすいかな」と感じて口を開いた 「お父さん、実はね、自分は男性のことが好きで、女性になりたいとも思ってる」 横に座る父親はその告白を聞いても、大きく表情を変えることはなかった。もともと人解 ン 前でうろたえたり弱いところを見せたりするような性分でもない。 父親が最初に言ったのは、「薄々感じていた」だった。 デ そして毅然と、たしなめるように続けた。 「男として生まれたからには、男としての役割というものがある。お前が男性を好きになる 性 のは、お父さんが男手一つでかわいがって育ててきて、お前もお父さんを頼って生きてきて、 章 第 他の若い男の人にも優しくしてもらいたいという思いを抱いてしまうからじゃないか」 寺田さんはその瞬間「違うもん ! 」と思ったが、それを口にするより早く、父親がきっ ばりと一一一口った。
つばねた。しかし、現に生活に支障が出ている。本田先生は半月かけてじっくり話をし、 再度「あなたはどうしたいの ? 」と尋ねた。タケシタさんが改めて出した答えは、本人と 話をしたい、 ということだった。担任は、本田先生に対処を一任した。というより、ネッ トのことはよくわからないし丸投げした、というほうが正しいかもしれない こうして当事者一一人と、仲介役の本田先生が、保健室に集まることとなった。 テープルの一辺に並んで座ると、タケシタさんは「悪口の拡散はやめて」と思いをぶつ しかし、ヤノさんは真面目に向き合おうとしない。 本田先生から、「タケシタさんの就職や結婚の時になって画像の影響が出たらどうする の ? 」「こんなことをされてどんな気持ちになるかわかる ? 」と尋ねても、ヤノさんは 「私はされたことがないんでわかりません」とさらりと答える。 平行線をたどりかけた話し合いは、本田先生が二人の望むことを聞いたところで動いた。 ヤノさんが「卒業までには仲直りしたい」と言ったのだ。「それなら今きちんと謝って」 というタケシタさんに、ヤノさんは頭を下げた。ヤノさんは謝罪後、「楽になった」と涙 を流した。
居場所をなくして不登校になる生徒 それでもしばしば保健室へやってくる子が、わすかながらもいる。勉強も運動も苦手な、 つまりは成績の良くない子たちだ。 4 時間目が終わってすぐ、 1 年女子が険しい表情でドアを開けた。保健室の来室記録の 「頭痛」と「気分不良」に丸をつける。熱はない。 「ちょっと休んでから給食たべようか ? 」と声をかける本田先生に対し、本人は「気持ち 悪いし帰りたい」と頑なだ。本田先生が若い女性の担任に知らせに行く。すると、担任が 保健室へ来て「今日の給食美味しそうだから行ってみよう」と明るく呼びかけ、うつむく 彼女を連れて教室へ戻っていった。 昼休みが終わる頃、担任が再び保健室へ来た。本田先生と話しているなかで、「ウソ」 という単語が耳に飛び込んできた。 実はこの前日、 1 年担当の教師の会議で、この女子生徒が「よくウソをつく」という話 になったばかりだというのだ。これまで早退したがったのが、いすれも宿題が終わってい ない日だったというのがその理由だった。
結局、彼が保健室へ来たのは、体操服を忘れて借りにきた時くらい。体操服を借りたら、 洗濯して返却する決まりになっている。 彼が後日、通学かばんから引っ張り出した服は、生乾きなのか、それとも洗わずに返そ うとしているのか、判断できないような臭いがしたという 着任まもない森先生は、「を出したいことがあったらいつでも来てや」と声をか けて、様子を見ることにした。 しかし、ほどなくして、彼は欠席ぎみになっていった。自らに向けられる周囲の視線を 皮ことって学校は居心地が悪いのだろう。 感じないわけがない彳 ( 最近は、学校に来る日は、給食のタイミングでやってくるという。どうしてもお腹が空 いた日の命綱となっているようだ。 ・ 2 % ( 大阪府教育委員会、 2015 年 3 月末現在 ) 。 府内の公立中学校の給食実施率は ・ 9 % となっている ( 文部科学省、 2014 年 5 月 1 日現在 ) 。 全国だと翫 給食のない地域の、命綱さえ持てない子どもの存在を想像すると、暗い気持ちになる。 「困ったらスマホ」で親に知られす緊急避妊