子 - みる会図書館


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1. レベル7

桃子はあわてた。「ヘンな意味があるんじゃないのよ。みさおがさ、真行寺さんに はヒミツの恋人がいるらしいって一言ってたことがあるんだ」 子は身に覚えがない。敏之が亡くなってから、男性と肩を並べて街を歩いたこと さえないのだ。 「恋人なんていないわ」 「ホント ? じゃ、どういうことだったんだろ」 そのとき、「真行寺さん D ーという記述を、子は思い出した。あれは、「真行寺 さんの恋人ーという意味だったのだろうか。悦子の恋人を自称する男にでも会ったと ぺい、つのだろ、つか レ「みさお、真行寺さんが幸せになるといいな、なんて言ってた。だけど、恋人がいな いんだとしたら、ノーテンキな話よね。何を勘違いしてたんだろ、あの娘」 その夜、悦子は夢を見た。みさおの夢だった。 彼女は厦子と並んで歩いている。だが別れ道にさしかかり、彼女は子に「バイバ イ」と手を振る。厦子は別れたくないのだが、みさおはどんどん行ってしまい、その 背中か霧に隠されて見えなくなる。

2. レベル7

ややあって、好子は唐突にハンドバッグを開けると、そこから大型の手帳のような ものを一冊取り出した。テープルのうえに、ほんと投げ出すように置く。 「あの子の日記ですー まゆ 子は眉をひそめた。「お部屋にあったんですか ? 」 「行き先がわからないかと思って、アドレス帳のたぐいを探したときに、みつけたん ですよー なるほど、そうしなければ院子の自宅に電話をかけることもできなかったわけだが、 そのことについて、ちらりとも申し訳のなさそうな表情を見せない好子に、子はげ べんなりした。 「なんだかわけのわからないことが書いてあるんですよ」 「ごらんになったんですね ? 」 はながら おもちゃ みさおの日記帳は、玩具のような鍵のかかるタイプのものだった。表紙は花柄で、 金色の「ダイアリー」という文字がついている。今、その鍵は壊れていた。 「ドライバーであけたんです」好子はあっさり言った。「見てみてください。あなた なら、何かわかるかもしれないから」 子は、すぐには手を出すことができなかった。勝手に中身を読むことは、みさお かぎ

3. レベル7

570 「今だからだよ」と、義夫は笑う。 「じゃ、昔は ? やつばり母さんのこと、許したんでしよう ? 義夫は少し考えた。 「許したというのは、ちょっと違う。母さんの気持ちがよそへ向くことを、どうして 父さんが許したり許さなかったりできる ? 「だって : ・ 「あの当時は、仕方ないな、と思ったよ。そりや、腹が立たなかったと言ったら嘘に ルなる。でもな、子。時には、仕方ない、と思、つしかしよ、つかないことかあるさ」 べ 「ど、つして、しよ、つかないと思えたの ? 義夫はまた黙る。子は、この話をすることは、ひどく残酷なことだったのだと気 かついた。 「も、つ : 「よくないよ、子。父さんがどうして彼を信用するのか、それを知りたいんだろ 子はうつむいて、うなずいた 「彼は、『新日本ホテル』の火災の時、母さんを助けてくれた。火のまわりが早くて、

4. レベル7

252 てくれなきや駄目ですから」 「ごめんなさいね、不躾で。あなた、おいくっ ? 「今年一一十四になります」 しつかりしている、と子は思った。桐子にプローしてもらった髪は、子の顔を 華やかにひきたてている。腕前はかなりのものなのだろう。 「真行寺。という名前にもこれという反応がなかったことから見ると、みさおは桐子 ーランドーのことは話していないのだろう。話していたとしても、子の 名前まではあげていないようだ。そこで、子は自分のことを、みさおの親類だと説 うそ ペ明した。嘘をつくのは気が引けたが、その方が手つ取りばやい。 「五日も帰ってないなんて、おうちのかた、気が気じゃないでしようね みさおが初めて「ローズサロン、にやってきたのは、今年の春ごろだったというこ と。最初から桐子が担当し、ずっと指名してもらってきたこと。いちばん最近にやっ てきたのは八月四日のことで、彼女はとても明るくふるまっていたということーーー桐 子はてきばきと語った。 「あなたとのあいだで、家出の話が出たのはいつごろでした ? 「最初からですよ。あれぐらいの歳には、誰でも考えることでしょ ? あたしもそう だめ ぶしつけ とし

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238 知り合いの子がね」という前置きで、身の回りのことを話していた。それは、厦子と ということで、みさおはみさお じかに会った時でも同じだった。個人名を出さない、 なりに、子に対してガードを固めていたのかもしれない。一色が話してくれたよう に、あの娘にもあの娘なりのガードがちゃんとあったのだ。 記録を読み返しながら、子は頭を抱えたくなった。今ごろこんな大事なことに気 がつくなんて、間抜けな話だ。 とても親しくなったようなつもりでいたけれど、わたしはあの娘の友達の名前さえ ル知らない。一度だって、あの娘が「昨日京子と買物に行ってさ」とか、「明と映画を ペ観にいったの、そしたらねとか言うのを聞いたことがなかったのだ。あの娘がロに レする「人の名前」といったら、芸能人やスポーツ選手のものばっかりだったじゃない そして、ふと思った。 ひょっとしたら、みさおには、具体的な名前をあげることのできる友達がいなかっ たのではないか ? 電話で話しているとき、悦子が「そのお友達、名前はなんていう の ? ーと訊いていたら、答えられなかったのかもしれない。 子は胸の奥に重りが下がっているような気がしてきた。出だしからこんなことで、

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482 レベル 「あら、そうですか。残念ですね。 ゆかりが戻ってきた。「先生、おトイレを使っちゃったの。。 こめんなさい」 医師は救われたようにゆかりの方を向いた。「かまわないよ。それで、少しはおさ まっただろう」 「うん。出るものが出たら痛いのがちょっとになった 「まあ、お行儀が悪いわね。先生、すみません」 愛想笑いをしながら、子はゆかりを引き寄せた。 「それでは、失礼いたします。あの、料金の方は : : : 」 一刻も早く子に出ていってもらいたいというように、榊医師はさっと手を振った。 「いえ、かまいません。この程度のことなら、そんなご心配は無用ですー もう一度深々と頭を下げてから、子はドアのノブに手をかけ、そして、今思い出 した、という様子をつくって振り向いた。 「先生、もう一人いました。わたしの知人で先生のお世話になったことのある者がー 医師は、 ( 誰です ? ) というように顔をしかめた。子は言った。 「貝原みさおっていう十七歳の女の子ですー 子のバットがとらえた球は、今度はスタンドの方まで飛んでいった。

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「あなたとみさおがどういうお知り合いなのかは、あの子から聞かされてよく知って います。今は、そんなことはどうでもいいんですよ。わたしはみさおの居場所を知り たいんです」 子は静かに、わたしにも今現在彼女がどこにいるのか、まったく見当がっかない、 とい、つことを繰り返した。 「みさおさんからは、おうちの方に、まったくなんの連絡もないんですか ? 」 好子はキッとにらみ返してきた。 「あったら、わたしはこんなところに来ていませんよ」 べ こんなところとはご挨拶だが、子は不央感を顔に出さないように努めた。いっか、 レみさおが、 ( オフクロと話すときは、いちいち腹を立ててちやダメなの。そうでない と、ほかのことをする時間がなくなっちゃうから ) と言っていたことを思い出した。 「みさおさんがいなくなったというお電話をいただいたのは、九日の木曜日の夜でし たよね。今日で、まる三日ですねー 子は壁のカレンダーを見上げた。高山植物の写真集をアレンジしたもので、敏之 が好んでいたものだ。彼が亡くなってからも、子はほかのカレンダーをかける気に はなれず、わざわざ都心の文具屋まで出掛けて、手に入れてきた。 としゆき

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「だって : : : 」 「電話はね、うちでは、夜中になると切ってしまうんです。ジャックを抜いてね。悪 戯電話が多いもんですからー 子は息を呑んだ。「みさおさんからかかってくるかもしれなかったのに ? よく そんなことができますね ? たたき 好子はスリッパを履いたまま、玄関の三和土に一歩降りてきた。身を乗り出して、 子をにらみつける。 「いつもそうしていたけど、みさおが家出してからは、夜中も通じるようにしてあり べました。あの子がかけてくるかもしれないと、わたしも思いましたからね。でも、昨 レ夜でもうその必要もなくなったから、だから、また一兀の習慣どおりにしたんです。な んて失礼な人なの、あなたは」 昨夜でもうその必要がなくなった ? 子は、その言葉に、また声を失くした。 勝ち誇ったような笑みを浮かべて、好子は言う。「あの子がね、みさおが、昨夜電 話をかけてきたんです。十時ごろでした。横浜に住んでいる友達のところに泊まって るってね。二人で一緒にアルバイトをしてるんだそうですよ。夏休みが終わるまでは そこにいる、元気で働いている、そう言ってました。今からお金を貯めて、冬休みに、 194

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子はにつこりしてみせた。 「これから、みさおさんとゆかりと三人で動物園に行くんですよ。三枝さんは弁護士 さんの事務所へ ? 「ええ、そ、つです。 「もうこれで、お会いすることはありませんね」 法廷で顔をあわせることは、会うことではない。 「そうですね」 ちょっと間があいた。風が吹き付けてきて、子の頬に触れていく。 ペ「お元気で」 レ「ありがとう」 おおまた くるりと背を向けると、子は大股に歩きだした。五、六歩行ったところで、呼び 止められた。 「真行寺さん」 振り向くと、三枝は階段を一段だけ降りて、半ばこちらを向いていた。 「なんですか ? 子は足を止め、聞き返した。戻ろうとは思わないが、三枝が何を言うのか、どう 765 ほお

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249 のだそうで、桐子はほかの客の方へ行ってしまう。悦子は仕方なく、若い男の美容師 に頭を洗ってもらいなから、ど、っ切りだそ、つかと考えた。 店内に流れているクラシック音楽に乗って、美容師たちと客との会話が聞こえてく る。桐子の声もよく聞こえる。時には客と声をあわせて笑う。如才ない人だ、と子 は田 5 った。 頭をタオルで包んでもらい、決まり悪くなるほど大きな一枚鏡の前に座らされて、 子はしばらく待たされた。雑誌をばらばらめくりながらも、神経は桐子の方へ行っ ていた。 べ「お待たせしました」 レ 軽央に子のうしろへやってくると、さっとタオルをとりのけて、桐子は言った。 肩にかかるくらいの長さの子の髪をざっと検分して、 「カットはなさいません ? プローセットするなら、少し揃えてからの方がきれいに なりますよ」 たんてい しろ - っと 子はちょっとロごもった。映画やテレビで観ていると、刑事や探偵はーー素人の 女子大生が探偵ごっこをしているのであってさえーーースムーズに聞き込みをしている。 本題にとりかかる前に、「カットします ? 」などという質問に答えている場面は観た