桐子 - みる会図書館


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436 前十時半をさしていた。子は飛び起きた。 しろうとだめ 急を要する人探しをしているというのに、これだから素人は駄目だと、心底恥じ入 った。昨日一日でもうバテてしまったら、みさおにあわせる顔がない。 「電話、誰から ? 「あのね、キリコですって一言えばわかるわよ、お嬢ちゃんお利ロね、だって」 あみのきりこ 美容室「ローズサロンーの、網野桐子だ。悦子は階段を駆け降りて受話器をひつつ かんだ。 「、もし , もし ? ・ ペ「真行寺さん ? あたし、桐子です」 桐子は外からかけているらしく、背後に人のざわめきが聞こえる。 「みさおちゃんのことで、お役に立つかどうかわからないけど、一つ情報をつかんだ んです。どこかで会えませんか ? 」 「ありがとう ! わたしの方からうかかいます。桐子さん、今どこにいるの ? 」 桐子は説明した。四谷にあるスポーックラプだという。「ライフ・スエットとい たた うそのクラブの場所を頭に叩きこんで、大急ぎで着替えていると、ゆかりが寄ってき

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ことがない。やってみると、なんでも難しいものなのだ。 「あの : : : そうね、お願いしようかな」 厦子はあいまいに笑った。桐子は笑顔で鏡のなかの悦子の顔をのぞきこんでいる。 「ーーみさおさんは、どうい、つふうにしたのかしら ーマなんで。近ごろ 「彼女はね、この前はストレートパーマをかけたんです。天然パ は会ってらっしやらないんですか ? 子は思い切って言った。「みさおさん、家出しているの」 悦子の髪を撫で付けていた桐子の手がとまった。そのまま、鏡に写った悦子を見つ べめている。問いかけるような表情だ。その顔に、子はうなずいてみせた。 いつです ? 」 小さな舌でさっとくちびるをなめ、桐子は訊いた。「本当ですか ? 「姿を消して、今日で五日目なの。八月八日の夜に家を出たきりなんです」 「あらまーと、桐子は指先で自分の前髪をかきあげた。「ホントにやっちゃったんだ 「みさおさん、家出を匂わすようなことを言ってたことがあるのかしら 「ええ : : : 何度かね。家にいてもつまんないからって : : : 」 「みさおさんの行き先に心当たりはありませんか。探しだしたいの、 桐子は悦子の両肩に手を置くと、声をひそめた。「お客さま , ーー真行寺さんでした

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レベル 439 木目と白色で統一された室内に、脚の高い椅子が並んでいる。桐子はプールに近い 側のテープルに席をとっていた。 彼女は、一人ではなかった。もう一人、同じ年ごろの娘が一緒だ。二人とも明るい 色のスエット・ウェアに、下はショートパンツ。桐子は額にバンダナを巻き、もう一 人の娘は長い髪を編んで背中にたらしていた。 「ごめんなさいね、今日はこぶつきなんです」 悦子が言うと、ゆかりはエへへと笑った。「コプのゆかりです。ママがお世話にな ってますー 一一人の娘は楽しそうに笑った。 「ご紹介します。この人、あたしの高校時代からの友達で、蓮見加代子さん」 桐子が言うと、髪の長い娘は立ち上がって軽く頭をさげた。すらりとした、人目に たっ美人で、桐子よりはずっと大人しやかな印象を受ける。それだけに、桐子が彼女 の職業を説明したとき、厦子は思わず「え ? ーというほど驚かされた。 たんてい 「探偵事務所 ? あなたが ? 蓮見加代子は、こういう反応には置れているらしい。につこり笑った。 「父が事務所を経営してるんです。それで、わたしも手伝うようになりまして」 す はすみかよこ

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254 え、初耳です。本当にそうなんですか ? 桐子は目を見張った。「いし 「まだ確認してないの。海外旅行の資金を貯めるために、友達と一緒にバイトしてる っていうんだけど」 「四日に来たときには、そんなこと言ってませんでしたよ。『アイスクリーム屋さん、 どう ? 』って聞いたら、『すごくにしいけど、楽しい』って。バイトを変えるような ことは、一言もー桐子は言って、機械的にメレンゲ・パイを口に運んだ。「まあ、家 出ですからね。行き先は誰にももらさないのが当然かもしれないけど 「だけど、『海外旅行に行くつもりだ』ぐらいのことは言いそうなものよね ? べ桐子はうなずく。「ええ。あたしとも、よくそ、ついう話はしましたもの。あたしに、 最初に行った外国はどこだって訊いたり。みさおちゃんはスペインに行きたがってま したよ。本当ならオリンピックの前に行きたいんだけど、高校生だから無理だ、って」 子は質問の方向を変えた。「みさおさん、あなたに、友達の話をしたことはあり ました ? 学校友達や、ボ】イフレンドのことなんか 桐子は首を振った。「学校のことは、ほとんど聞いてません。つまんないんだもん、 て一言、つだけでしたから。ポーイフレンドのこともーーー・さっき言ったアイスクリーム屋 さんにカッコい ) し男の子がいる、という話はしてましたけど、名前までは」

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249 のだそうで、桐子はほかの客の方へ行ってしまう。悦子は仕方なく、若い男の美容師 に頭を洗ってもらいなから、ど、っ切りだそ、つかと考えた。 店内に流れているクラシック音楽に乗って、美容師たちと客との会話が聞こえてく る。桐子の声もよく聞こえる。時には客と声をあわせて笑う。如才ない人だ、と子 は田 5 った。 頭をタオルで包んでもらい、決まり悪くなるほど大きな一枚鏡の前に座らされて、 子はしばらく待たされた。雑誌をばらばらめくりながらも、神経は桐子の方へ行っ ていた。 べ「お待たせしました」 レ 軽央に子のうしろへやってくると、さっとタオルをとりのけて、桐子は言った。 肩にかかるくらいの長さの子の髪をざっと検分して、 「カットはなさいません ? プローセットするなら、少し揃えてからの方がきれいに なりますよ」 たんてい しろ - っと 子はちょっとロごもった。映画やテレビで観ていると、刑事や探偵はーー素人の 女子大生が探偵ごっこをしているのであってさえーーースムーズに聞き込みをしている。 本題にとりかかる前に、「カットします ? 」などという質問に答えている場面は観た

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252 てくれなきや駄目ですから」 「ごめんなさいね、不躾で。あなた、おいくっ ? 「今年一一十四になります」 しつかりしている、と子は思った。桐子にプローしてもらった髪は、子の顔を 華やかにひきたてている。腕前はかなりのものなのだろう。 「真行寺。という名前にもこれという反応がなかったことから見ると、みさおは桐子 ーランドーのことは話していないのだろう。話していたとしても、子の 名前まではあげていないようだ。そこで、子は自分のことを、みさおの親類だと説 うそ ペ明した。嘘をつくのは気が引けたが、その方が手つ取りばやい。 「五日も帰ってないなんて、おうちのかた、気が気じゃないでしようね みさおが初めて「ローズサロン、にやってきたのは、今年の春ごろだったというこ と。最初から桐子が担当し、ずっと指名してもらってきたこと。いちばん最近にやっ てきたのは八月四日のことで、彼女はとても明るくふるまっていたということーーー桐 子はてきばきと語った。 「あなたとのあいだで、家出の話が出たのはいつごろでした ? 「最初からですよ。あれぐらいの歳には、誰でも考えることでしょ ? あたしもそう だめ ぶしつけ とし

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251 つけ ? そのことでいらしたんですか ? あたしに会い 見子はうなずいた。 桐子はベストの胸ポケットに手を入れると、そこから時計をひつばりだした。さっ きピンのように見えた銀色のものは、時計の一部だったのだ。 いいですか ? 「真行寺さん、まずプローをすませましよ。カットは抜き。 「ええ。でも・ : 「あと十分で、あたし休憩時間になるんです。そしたらゆっくり話せます」 べ桐子が案内してくれたのは、「ローズサロン」のすぐ裏手にあるケーキショップだ った。店内にヴァニラの甘い香がたちこめている。 「みさおちゃんとも、ここに来たことがあるんです。やつばり休憩時間に」 「網野さん、みさおさんと親しかったんですねー 桐子はヴァージニア・スリムに火をつけて、軽く笑った。 「あたし、割りと、お客さまと仲良くなる方なんですよ。一緒に遊びに行ったりもし ます。店長はいい顔しませんけどね。ゆくゆくは自分のお店を持ちたいんで、今のう ちから根回しの練習をしてるってとこかな。独立資金だけ貯めたって、人がついてき

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440 「つまりは家内工業よねーと、桐子も笑う。「ゆかりちゃん、何を飲む ? グアバ ジュースが美味しいのよ」 「、つんー すぐに、淡いピンク色のジュースが運ばれてくる。やはり黄色いトレーナーを着た ウェイトレスが去ってしまうと、桐子はロを切った。 「みさおちゃんについての情報、というのは、加代子が話してくれたことなんです。 あたしたち、今日はここへスカッシュをしにきたんですけど、二人で話しているうち に、あたしがみさおちゃんの家出のことを一一一一口うと、加代子がびつくりして」 べ子は、およそ「探偵」のイメージとは合わない娘の顔を見た。 「蓮見さんもみさおさんをご存じなんですか ? 加代子はうなずいた。「わたしも『ローズサロン』で桐子に髪をやってもらってる んです。みさおさんとも、あそこで知り合いました」 四カ月ほど前のことだというから、四月の中ごろだろう。 「わたしが『ロ】ズサロン』へ行くと、先にみさおさんが来ていました。そのとき桐 子がわたしに声をかけたから、友達だってわかったのかもしれません。しばらくして、 わたしがたまたま隣の椅子に座ると、彼女の方から話しかけてきたんです」

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258 そしてそれは、日記にあの「レベル」という言葉が現れ始めてから : 「網野さん、みさおさんが『レベル』という一一一一口葉を口にするのを聞いたことはない ? 『レベル』のあとに数字がついたりするの。『レベル 7 』とか。どうも、場所を指す一言 葉らしいの」 と答えた。 桐子は、「覚えがないー 「ディスコかなんかの名前かしら。みさおちゃんがそういう場所に出入りするって、 ちょっとピンときませんけどね」 ル 別れるとき、桐子は自宅の電話番号を教えてくれた。 べ「お役に立てることがあったら、言ってください。みさおちゃん、早く見つかるとい レいですね。あたしも心がけておきます」 ありがとう、と、子は言った。少し、気持ちが強くなった。 っ 0 ( 0 (. 0 ーー 11 ワ 3 残りのふたつの番号は、それぞれ o から 9 まで十個ずつあてはめることができる。

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444 人はいないだろうか、周りの人たちはわたしのことをどう思ってるんだろう・ーーそれ ばっかり気になった時期がありました。これまでの自分の人生はなんだったんだろう、 なんて考えたりしてねー 「辛い思いをなさったんですね」と、加代子が静かに言った。 隣で、ゆかりが目を真ん丸にしている。それに気付いたのか、桐子が明るい声を出 した。 「ね、ゆかりちゃん、エアロビ・ボクシングしてみない ? 」 「それなあに ? しの。気持ちいいわよお。お姉さんと行 べ「簡単よ。サンドバッグをばしばし叩けばい、 レってみようよ。ね ? 」 悦子がうなずくと、ゆかりはパッと立ち上がった。桐子と手をつなぎ、「タイソン みたいにするの ? 」などと言いながら行ってしまった。 かわい 加代子がほほえんだ。「可愛いお子さんですね」 「おしやまで困ってるの」 それでねーーと、加代子が話を戻す。 「わたしが、最近はたしかに、そういう身上調査の依頼が増えているって話すと、み つら