車 - みる会図書館


検索対象: 乱反射
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1. 乱反射

571 には地元の新聞社の社名と、「加山聡」という名が書かれていた。それを見ても榎田克 子は、首を傾げるしかなかった。 「新聞社って、なんの用 ? ホントにあたしに用なの ? 」 「克ちゃんを名指ししたわけじゃないけど、この家で車に乗る人は誰かって言うから、 カレージを見て大きい方の車だって言って それはお父さんとあなたしかいないでしよ。。 たから、あなたに用があったのよ」 「車 ? よけいわかんない」 考えたのは、どこかで車を擦ってしまっただろうかということだった。何かを壊した のに、余裕がない克子が気づかずにいたのでは。しかし運転中は気づかなくても、車体 に残る傷でわかるはずだ。傷には敏感になっているからはっきり一言えるが、ほとんど乗 っていない車は未だに新車も同然だった。傷がついていないのだから、事故だとも思え ない。となると、新聞記者の用件にはまるで見当がっかなかった。 「なんだろう。あの車が盗難車じゃないかって疑ってるのかな」 それくらいしか思いっかなくて口にしたのだが、聞いた母はばっと顔を明るくした。 「逆よ。同じ車種の車が盗まれる事件が起きてるんじゃない ? だから気をつけろって 警告に来てくれたのか、そうじゃなかったら防犯をどうしてるかっていう取材なんじゃ ないかしら。きっとそ、つよ」

2. 乱反射

239 じる。 「かっこいいでしよ。色はあれじゃなくって濃い青がいいんだけど、まあ試乗車だから しよ、つがないね。ともかく、乗ってみよ、つよ 、あんな大きい車 : ・ 「無理よ : 考えるよりも先に、言葉が口から出ていた。体が竦んで、前に進めない。生理的な忌 避感が先に立って、近づくことすらできなかった。とてつもなく大きく見えるあの車と 自分との間に、なんらかの関わりがあるとはまったく思えなかったのだった。 「そんな、ダンプカ 1 じゃないんだから。大丈夫だよ、お姉ちゃん。ほら、行こう」 呆れたように麗美は言って、克子の手を取った。克子は抵抗もできず、妹に引っ張ら れるままに車に近寄った。車は車高が高く、ボンネットが威圧的なまでに肉厚で、これ まで乗っていた車の三倍は大きく見えた。この車を自分が運転している様子など、想像 もできない。手に余る、としか言いようのない存在感だった。 「乗ってみていいですかあ」 無邪気に麗美が男性スタッフに尋ねた。男性スタッフは愛想よく、「もちろん、かま いません。どうぞお乗りください」と答えて助手席のドアを開ける。麗美は嬉々として 乗り込んだ。 「うわ 1 つ、さすがねえ。なのに、内装がすごく高級

3. 乱反射

139 に戻った。まだ高校生の麗美は化粧をしていないから、先に着替えを終えて待っている。 早く行こうよ、と飛び跳ねている姿はまだ子供だが、しかしそんな無邪気さもなんとな く羨ましかった。母もしつかり化粧を直しているのには、つい苦笑を誘われる。いつも ながら、母はやることが素早い。 「じゃあ、行こうかー ふたりを促して、家を出た。ガレ 1 ジに停めてある車のエンジンをかけ、母たちを待 つ。施錠を終えた母が助手席に坐り、麗美が後部座席を独り占めした。三人で車に乗る ときの、それが定位置だった。 母は、自転車で行くには少し遠いショッピングセンターに行きたいと言った。了解、 と答えてサイドプレーキを下ろす。そろそろとアクセルを踏み込み、車の頭をガレージ の外に出した。 家の前の道路は、比較的交通量が多い。市内には南北に走る道は多いものの、東西に 延びる道は本数が限られているので、どうしても車が集中してしまうのだ。赤信号で車 の列が途切れてくれない限り、車を路上に出すのは難しかった。あまり運転技術に自信 のない克子は、どうしてこんな道路沿いに家を建てたのかといつも文句を言いたくなる。 二分ばかり待って、ようやく車を出すチャンスがやってきた。アクセルを踏み込み、 ハンドルを素早く左に切る。反対車線に大きくはみ出してしまったが、対向車がいない

4. 乱反射

208 しいつの間にか自分がこの車に愛着を覚えていたことを自覚した。 などと考えてしま、 車の運転にはいやな思い出ばかりがまとわりつくが、だからこそよけいに苦楽をともに した戦友という意識が湧いてくる。悪いのは車ではなく、自分の腕だ。それなのに克子 は、車を見ただけで軽い忌避感を覚えるようになっていた。他人に傷つけられて初めて、 車に申し訳ないことをしていたという気分になった。 修理に出さなければならない。できるだけ早く、元の姿に戻してやりたい。本当なら ばこの傷をつけたトモナガに修理代を請求したいところだが、売れないアイドルにそん な金はないだろう。母も麗美も、トモナガの責任を追及する気はさらさらないようだ。 おそらく、父が修理代を出すことになるのではないか。車のメンテナンスにかかる費用 は父が出すのが当然と思っていた克子だが、今回ばかりは自分のせいでもないのに気が 引けた。これからはなるべく、車に関することで父に迷惑をかけないようにしようと考 える。 しかしそんな克子の気持ちも知らす、責任の一端を担うはずの麗美は澄ましたものだ った。傷を再確認しても、「明るいところで見るとよけいに迫力あるねー。あはは」な どと能天気な感想を漏らすだけである。さすがに腹が立ち、ひと言言ってやった。 「あはは、じゃないわよ。麗ちゃんのカレシが傷をつけたんだからね。もう少し責任を 感じなさいー

5. 乱反射

368 な、 庫両 く がふ な 、だ母と も手克ん ドを る はち距も ル入堰を子は 離の 左ば 右宀 ルをれき の麗 だ のたを大な止 行壁 と 持に 結な れて振ち頼側た斜 論り た続色く 右ば つを し て逆ふこ車 にな 宅め て線と切 てけ なた反でを停 ハて はた 、む でザ ン 今て 。大車る ル頭 カ首 勢線わは し全 切 ナ反 人車に躇 イ亭とン はな 迷流いく ら 惑れか母 ドま し、 をを ルま ヨ乗 モ 。を けめ 対て ター切は辿をシ る判 ハプ れ家 の疑ばに アさ 黄問いぶ ムせ ルキ 色 の母 のた 線、 だる は 切て いが む 秒車 素し、 始前 方解 で線直オ と がす た行 はわでだ 早道 車う のに 対 車を ド筆てつ っ い っ い に 力、 い をでち つ考 0 て 、み た 度 に い思ん っ と 反かに ら い っ し、 ン ど き と し、 き に つ ばも色 黄 の い少線替ク しはわ に い い 0 つ ま り の で つ 力、 と つ と に り つ の の ま ま ハ ク オこ ら て ア セ 。ゆき っ り で踏り 、ビ対 ッゲ車 ン ン ハ く 。車 を 糸泉 に り 入 ギ ア を ノヾ ツ ン車と い に方た けめく ま の に か て い る ら は も く り 大 き 。対す の かれオ で 、側 た 、撫なと のけ躊 な と 。断け 、だは 片ろ何 っ のにそ 路をだ お さ ん 気美反か車 の 、め む に し、 , つ か よ つ し っ け を 車 の の る い て と っ よ に を 、ながを ら し の る 。め自早 し手 ( 目リ 兀 0 こ ま り 、改け 反めた ド はをを ス右踏 べにん 尢めを れかと よ に ノ、 1 ド フ プ を 占つ る ず の フ イ ン 小 さ て ス モ タ カゞ 彳麦 れ方ク い映入 る像れ

6. 乱反射

242 やつばり高級 「すごいでしよう、お姉ちゃん ? 今の車とぜんぜん違うと思わない ? 車は違うよねー」 麗美ははしゃいでいることを隠さなかった。父の車も値段的には高級車なのだが、い かんせんいささか型式が古いので、インパネはそれこそ木目調で克子の目には野暮った く見える。おそらく麗美も、同じ感想を持っているのだろう。 ママ、見てよ、これ。このカーナビ、ワンセグが映るし。も繋がるんだ 1 ドディスクに取り込まれるから、もう交換する必 よ。それから一度再生したはハ 要もないのよ。すごいでしよ」 麗美は初めて触っているとは思えない精通ぶりで、カーナビのスクリーンにタッチし て操作する。そんな説明で父と母が理解したとはとうてい思えないが、「ほう」「へえ」 と感心してはいた。克子はといえば、無数にあるいろいろなボタンの意味を男性スタッ フから教えられていた。苦手な坂道発進をする際にも、この車なら後ろに下がることは ないと知ってかなり心が動いた こんな車が自分の物になったら、どんなにいいだろう。いつの間にかそんなふうに考 えていた自分に気づいて、克子は驚いた。しかしそれは、不央な驚きではなかった。

7. 乱反射

569 そんなときに、少し毛色の変わったメールをもらった。そのメールは出だしだけを読 む限り、加山に同情的なのか批判的なのかわからなかった。事故当日、現場近くで車を 運転していたと、状況を淡々と説明するだけだったからだ。だがやがて、加山は身を乗 り出してディスプレイに表示される文字列を目で追うことになった。そこにはこれまで 知らなかった新情報が綴られていたのである。 メールの送り主は、渋滞に巻き込まれたという。片側一車線の道は、ある時間からび くりとも動かなくなったそうだ。そこは、事故現場から病院へ向かうときには必ず通ら ざるを得ない道だった。メールの送り主はその渋滞に嵌り、そして長い時間、救急車が 足止めを食らうのを目撃したと書いていた。 《渋滞の原因は、路上に乗り捨てられた車でした。前で見ていた人の話によれば、車庫 入れがうまくできないことに苛立った運転手が、その場に車を放置して家の中に入って しまったのだそうです。結局見かねた人が車庫に入れてあげたので渋滞は解消されまし たが、私の記憶ではざっと十五分ばかりは停まり続けていなければなりませんでした。 もちろん、救急車も同様です。救急車はサイレンを鳴らしていましたから、一刻を争う のだろうなと私は見ていて思いました。今から考えれば、おそらくあの救急車にあなた の息子さんが乗っていたのでしよう》 治療の遅れのせいで助からなかったのなら、渋滞を作り出した人にも責任があるので

8. 乱反射

574 加山は説明を続ける。今になって気づいたが、加山はあまり瞬きをしなかった。目を 開いたまま、真っ直ぐに克子の顔を見つめている。その視線を重く感じ、克子は顔を伏 せた。 「渋滞の原因は、道路に放置された車でした」加山の声は淡々としていた。「車を道路 に置きつばなしにしたまま、家に入ってしまった人がいたらしいです。そんなことをさ れたら、後続車は困ってしまいますよね。片側一車線ですから、救急車がいくらサイレン を鳴らしても周りの車はどきようがありません。一秒でも早く治療を受けなければなら むな なかった子供は、空しく十五分以上も動かない救急車の中で時間を過ごしていました」 「ーーーー車を乗り捨てた人を捜していたんですか」 怖かったが、 尋ね返さすにはいられなかった。加山はこのことを新聞記事にするつも りなのか。だとしたら、克子の人生は終わりだ。そんなことをしでかした女の許には見 合い話など金輪際来ないし、寄ってくる物好きな男もいないだろう。近所の人には後ろ 指を差され、職場であるデパ ートに来る客も克子の名前に気づいてこそこそ噂するかも しれない。、 しや、世間の非難が克子にだけ向かうなら、まだましだ。父は職を追われ、 妹もまた一生結婚できなくなるのではないか。そんな悪夢が、瞬時に脳裏を満たした。 「そうです。渋滞を作り出した人に、自分がしたことの結果を自覚して欲しかったので」 加山は一瞬も目を逸らさず、冷たいとすら思える口調で言った。なんなのだ、この上

9. 乱反射

238 父だけでなく、克子や麗美にもパンフレットを渡して、「今日はこちらの車をご用意さ せていただいております。と一一一口う。どう見ても金を出すわけではない克子や麗美にまで 丁寧に接するその態度に、好感を抱いた。たったそれだけのことで、居心地悪かった思 いがすっと引いていく。新車購入に対してまだ抵抗があった気持ちが、わすかに緩んだ ことを自覚した。 男性スタッフはソフアに坐らず、丸いストウールを持ってきてそこに腰を下ろした。 ノンフレットを開いて車の写真を見せただけで、「では だが長々とした説明はせずに、ヾ 実際に見ていただきましようか」と言った。今日は麗美が欲しがっている車に試乗する ために来たのだった。父があらかじめ連絡を入れてあったので、試乗車が用意されてい 外に出て、男性スタッフに「こちらです」と案内された。克子はその車を見て、思わ ず目を見開いた。想像していたより遥かに大きい車体だったからだ。 事前に数値ではサイズを聞かされていた。だが三千何ミリなどといった数字を聞かさ れても、今ひとっ実感がない。だからそれが大きいのか小さいのかも判然としないまま、 ここまで来てしまった。実際に見てみた車は、圧倒的なまでに大きかった。 、あれなの ? 」 「ちょっと : 呆然としたまま、麗美に問いかけた。麗美は澄ました顔で、「そうだよ」と簡単に応

10. 乱反射

143 思わすふたりの会話に割って入った。榎田家では何かにつけて、克子の意見は求めら れずに決まってしまう嫌いがある。父による最終決定が下る前に自己主張しなければ、 克子ひとりが蚊帳の外という事態になりかねないのだ。自分に大きく影響しないことな らまだ容認できるが、車の選択という重大事を勝手に決められてはかなわない 「なんて絶対反対。どうしてそんな大きい車に乗る必要があるのよ」 「だって、四駆だとスノボに行けるじゃん。雪道は絶対四駆じゃなきや。事故に遭うこ とを考えても、車体は大きい方がいいよ」 麗美はぬけぬけと言い張る。まだ高校生のくせして、自分で車を運転してスノーポ 1 ドに行くことなど考えているのか。享楽的な麗美らしい発想だと、半ば呆れつつ、半ば せんばう 羨望も交えて思う。克子にとって車は、生活のための足でしかなかった。 「あたしはスノボなんか行かないもん」 「行かないなら、なんだっていいじゃん。大は小を兼ねる、よ」 あくまで麗美は気楽な口調だった。運転の怖さを知らないが故の楽観なのか、それと も大きい車を乗りこなす自信があるのか。麗美の場合、そうした自信が過信ではないか ら羨ましい。きっと雪道でも、器用に運転してのけるのだろう。 「あのねえ、車は大きければいいってもんじゃないのよ。大きければそれだけ運転しに くくなるんだから かや