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検索対象: 猫を拾いに
48件見つかりました。

1. 猫を拾いに

無心で、かぶりつく。 バターやマーガリンをぬるのは、邪道だからね。パン。レタス。 の中で渾然一体となるのが、最高。おれはそう思うんだよな。 うん、ほんとに、そうだね。あたしはつぶやく こんなにシン。フルな作りかたなのに、たしかに匡の教えてくれたサンドイッチは、思いがけ ないくらいおいしい たっふりいれたミルク紅茶に、新鮮なサラダ。ヨーグルトにはア。フリコットジャム。匡が用 意してくれた、そういうものと一緒に食べると、そのおいしさはまたひとしおだ。 匡は、あたしの恋人だ。あたしたちは一緒に暮らしている。匡はとても優しい。顔も声もい 。清潔で、趣味もいし いうことなしの恋人のはずだし、誰に会わせても、 「すてき」 「うらやましい 「しあわせな奴め」 と、まったくもって言うことなし、なのである。 でも、あたしは思ってしまうのだ。 ただし ハム。その三種類だけがロ 240

2. 猫を拾いに

んでもあった。何年も前の服だからではない。組み合わせが、とっても適当だからだ。 もうおしゃれはしないの。 そう聞くと、ひでちゃんは首を横にふった。 ううん。今は、へんな組み合わせに凝ってるの。これもおしゃれの一種だよ。 あたしはうまく反応できなくて、 あ、そ、そうなの。 なんて、答えた。 帽子を二つ重ねてかぶり、片方の足にサンダル、片方の足にブーツ、なんていう組み合わせ が、おしゃれなんだとは、あたしには思えない。 でもひでちゃんは、ははははは、と笑うばかりなのである。 ひでちゃんの、へんな癖についても、話しておこうか ひでちゃんは、泣くのだ。 それも、とびきりのコメディーや、はずれのないはすのお笑いを見て、泣くのである。 どうしてこ一つい一つ、 大笑いするところで泣くの。 あたしが聞いたら、ひでちゃんは涙を流しつつ ( その時も、一緒にテレビのお笑い番組を見 ていたのだ ) 、 95 ーーひでちゃんの話

3. 猫を拾いに

宇宙とか ? 」 最後の方は、冗談めかした口調だった。 「その、坂巻さんって、どういう人なんですか」 あたしは食い下がった。 「ああ、会社ができた当座、時々にせ家族を雇ってくれた人よ。坂巻さんも、遠くから来た人 みたい。でもそのうちに、恋人ができて、仕事を頼んでこなくなったの」 もっといろいろ訊ねようとしたけれど、ちょうどその時ブルーとレッドが一緒に人ってきて しまった。ブルーは違うけれど、レッドの方は、千歳船橋の仕事で一緒だったレッドである。 「あの、この前の千歳船橋の」 あたしが言いかけると、レッドは制止した。 「しつ。現場のことは、現場を離れたら、話しちゃいけない決まりだろう」 そうなのだ。 「ジェット」では、そういう決まりになっているのだ。あたしはいやいやロを つぐんだ。すぐにイエローとブラックもやってきて、ブリーフィングが始まった。 ブリーフィングの帰り道あたしは、珍しくレッドと話しながら帰った。あたしたちは、いっ もはばらばらに帰ることがを 、 : まとんどなのだけれど。 「あの、世の中には、正体不明の人が、けっこういるんですね」 79 ーーー新年のお客

4. 猫を拾いに

らすぐに別れて、今は新しい恋人がいるのだと、ひでちゃんは嬉しそうに言った。 ひでちゃんとは、いつも買い物に行く。あたしとひでちゃんは、服のサイズがほぼ一緒で、 好みもよく似ている。五時間くらいは、平気であたしたちは歩きまわる。証券会社に勤めてい いい買いかたをしたものだった。 たころのひでちゃんは、いつばいお金があったので、気っふの あたしの方は、海藻なんかを扱う小さな問屋に勤めていて、お給料はそこそこ、ひでちゃんの ようにはお金は使えない。でも、ひでちゃんが買うのを見ていると、なんだかあたしも気が済 んだような気分になるのだった。 もちろん、誰とでもそういう気分になれるわけではない。一緒に買い物をして、相手の子ば かりがどんどん好きにものを買っていたら、ふつうはちょっとは憎たらしい気分にもなろうと いうものだ。 でも、ひでちゃんとの時は、ぜんぜん憎たらしくならなかった。ひでちゃんは、買い物をし おえると、ははははは、と笑う。それはそれは、楽しそうに。お腹の底から。その声を聞くと、 うらやましさは、どこかに飛んでいってしまうのだ。 っさい服を買わなくなった。 研ぎ師の修業をはじめてからは、ひでちゃんは、し だって、お金ないもん。 というのが、ひでちゃんの簡単明瞭な説明である。 退職後のひでちゃんは、何年も前に買った服を、すっと着ていた。似合うけど、ちょっとへ かいそう

5. 猫を拾いに

すね。なんて怖いことなんでしよう、 人と一緒にやっていくって。 ここにいない金子さんに向かって、わたしは心の中でつぶやく 飛行機雲がまた、ひとすじ、きざまれはじめた。さらに平行して、もうひとすじ。 ふたすじの雲は、くつきりと軌跡を描き、やがてまた薄まっていった。光史の胸に顔をよせ たまま、わたしはピーカンの空をまぶしく見上げた。軌跡はやがて、ふっと消えた。 186

6. 猫を拾いに

しっと見ているあたしに気づいたのだろう、女の子はこちらを振り向いた。 「なあに , 女の子は聞いた。 「いや、その、銀色の、 あたしはどきどきしながら、答えた。 女の子の瞳は、片方が水色だった。そして、もう片方が茶色。 「これ ? カウンター機。ほら、交通調査とかに使う」 女の子は言い、それからすぐに、 「うん」 とつぶやき、カウンター機をまた一回押した。 かち。 教壇に立っている教授が、ちらりとこちらを見る。 授業が終わってから、あたしと女の子はなんとなく一緒に教室を出た。あたしは、掲示板の 方へと歩いていった。休講のお知らせがないかと思って。 明日の授業は全部、変わりなく平常どおりおこなわれるようだった。 「昔は、大学って、もっとばんばん休講になってたんだって 102

7. 猫を拾いに

という声が隣から聞こえてきて、あたしはびつくりした。あの女の子だった。まだいたのだ。 「そうなんだ」 あたしは慎重に答えた。 「母親が言ってた。で、学生も、どんどんさぼったんだって。あんたは真面目すぎるって、よ く言われる 「そうなんだ」 あたしはあいまいに繰り返した。女の子は、あたりまえのようにあたしの横に立って、これ から先もすっと一緒にいるのだというように、親しげにほほえんでいる。 ( どうしよう、このままついてきちゃったら ) けれど、女の子はあたしの予想に反して、すぐに、 「じゃ」 と言い、あたしに背を向け、すたすたと歩いていってしまった。 途中で、かち、というカウンター機を押す音が、またした。日ざしが強かった。新緑が、目 に痛いようだった。 次の週の同じ時間、あたしはまた教室で女の子に会った。 「あっ、こんにちは」 103 ーーー真面目な二人

8. 猫を拾いに

「わたしは : 「かわいい」に級や段があるとしたら、少なくともかわいい八段くらいはある坂上にそう言わ れ、わたしはロごもった。 「圭司さんに、こんど、会わせてね」 坂上は言った。わたしはうなずいた。でも、心の中では、 ( 絶対に会わせない ) と思っていた。 圭司と、この前、旅行に行った。圭司の部屋に泊まったことはあったけれど、何日も一緒に いるのは初めてだったので、ちょっと緊張した。 静岡の、小さな宿に行った。何もない町だった。シャッターがたくさんおりている町の商店 街を、ぶらぶらと歩いた。 圭司は、茶舗でほうじ茶を買ってくれた。 「静岡だから、ま、茶だろう」 そんなふうに言いながら。 ずっと歩いてゆくと、商店街はとぎれ、そのうちに海の匂いがしてきた。 「泳げないね、冬だから」 ちやほ 168

9. 猫を拾いに

女の子は言い、カウンター機を一回かち、と鳴らした。 「それ、何を数えてるの」 あたしが聞くと、女の子は小さく笑った。何を数えているかについては答えないまま、女の 子は反対に聞き返してきた。 「わたし、日文の二年生。あなたは」 「英文。二年生」 あたしたちは、なんとなくほほえみあった。ほとんど意味のないほほえみ。でも、それ以来 あたしたちは、授業が終わった後には、一緒に駅まで歩くようになった。 女の子の名前は、上原菜野といった。 「あなたは」 そう聞かれて、あたしは少しためらった。 「島島英世 , しまじまひでよ。上原菜野は、つぶやいた。 「へんな名前でしよ」 早ロで言うと、上原菜野は首をかしげ、 「でも、あたしの、違う色の両方の瞳よりは、へんじゃないよ なの 川 4

10. 猫を拾いに

は、ずっと魅力的だった。 「どうしたの、突然」 坂上は笑った。ひざの上にのっている、由里ちゃんも、一緒に。 「恋、したのー わたしは言った。今度こそ、率直に。 「それは、よかったね 坂上はまた、笑った。由里ちゃんも。 わたしは、圭司のことを、めんめんと坂上に語った。坂上は、よく聞いてくれた。さすが、 聞き上手だ。 二時間、わたしは語りつづけた。坂上は、三回、お茶をいれかえた。由里ちゃんは、遊びに フラスチックでできた大根と、かぶと、豚肉を、 きた近所の女の子と、おままごとをはじめた。。 ばかん、という音をさせて、これもプラスチックの包丁で、何回も切っていた。 「豚肉、まずそうだね」 語りつくしたあとに、小さな声で言うと、坂上はほほえんだ。 「でも、由里は、あの肉が大好きなのよね、なぜか」 「子供って、かわいいね」 「千絵も、かわいいよ」 167---- ー旅は、無料