この平和な日本で危険なドラッグに手を出したり マンネリなクラブのマンネリな音で 首をふり踊りドロップアウトしたりむやみに女を追いかけたり 暗い部屋で ハソコンやゲームに狂い 危険なスマートドラッグや薬には手を出すくせに ジャンキー 世界を一人で旅することが出来ない 何年経っても同じ会話同し言動のただのジャンキー 今感じること
童話から詩へ 「表情カード」の挨拶が一巡すると、 いよいよ授業の本番だ。六回ある「物語の教 室」の最初の二回は、絵本を読み、朗読劇として演じる、という授業を行う。すで に単行本版のあとがきで書いたように、それだけのことで、彼らの心はかなりほぐ れてくる。 三回目は、金子みすゞやまど・みちおの詩を読んで、感想を述べあう。これは、 彼ら自身に「詩」を書いてもらうための導人でもある。「詩を書く」というと、つ い身構えてしまうところを、なんとかしてハードルを下げたいと思ってこの授業を 行っている。 五期のクラスで、まど・みちおの「ぞうさん」を題材にしたことがあった。こん なにやさしい言葉でも「詩」なのだ、ということをわかってほしいと思って選んだ 題材だった。黒板にこの詩を板書すると、すぐに「あ、そ 5 うさん、ぞ—うさん ) の歌でしよ」と、腕を象の鼻のように左右に振りながら、反応してきてくれた子が いた。すると、みんな楽しそうに「知ってる」「ぼくも知ってる」と、 いい感じでノッ 文庫版あとがき 193
は、日常の言語とは明らかに違う。出来不出来など、関係ない。 うまいへたもない。 「詩」のつもりで書いた言葉がそこに存在し、それをみんなで共有する「場」を持 つだけで、それは本物の「詩」になり、深い交流が生まれるのだ。 しん 大切なのは、そこだと思う。人の言葉の表面ではなく、その芯にある心に、じっ と耳を傾けること。詩が、ほんとうの力を発揮できるのは、実は本のなかではなく、 そのような「場ーにこそあるのではないか、とさえ感じた。 と同じように、全国の小学校や中学校で、このような詩の時間を持てたらだ どんなにかいいだろう。詩人の書いたすぐれた詩を読むだけが、勉強ではない。す ぐそばにいる友の心の声に、耳を澄ます時間を持つ。語りあう時間を持つ。それが白 できたら、子どもたちの世界は、どんなに豊かなものになるだろう。 この詩集は、前半が「社会性涵養プログラム」の「物語の教室 . から生まれた作靖 品、後半は「母」をテーマに文芸の課題として受刑者が書いた作品である。そのよ うな血の通った生きた言葉を、あえて活字にして本に閉じこめてしまったので、そ れがどれだけ伝わるか、心許ない。 このような言葉を共有した場があったことを、 思い浮かべていただければと思う。 178
んな授業なのか『たのしみ』です」と付け加える子も少数いる。 それは、わたしも同じだ。こんどはどんな子たちが来ているんだろう、どんな授 業になるだろうか、と緊張する。彼らがどんな罪を犯したのか、わたしたち講師は 規則により、一切聞かされていない。それも緊張の一囚だが、聞かされたら、もっ と不安になるかもしれない。 その一方で、彼らと過ごす時間が楽しみでもある。だが、正直、緊張の方がずつで の と大きい。その緊張感さえ楽しみに持って行こうと、自分の心をカずくで持ちあげ ん ら る。講師が緊張しまくっていては、受講生だってリラックスできるはずがない。 え だから、わたしも受講生同様、表情カードを指しながら「『緊張』しています」白 ら 「でも、すごく『たのしみ』です」と言葉にして言ってみる。 っしょにいる青 そう、この授業は「先生が生徒に教える」という形式ではない。 教官も講師も、受講生と同じように発表をする。教官と講師は「詩」は書かないけ れど、「表情カード」を使って、その日の気分を伝え、授業が始まれば、みんなと 同じように参加する。 192
つらい時、みじめに感じた時には この詩を書いたときのことを思い出してごらん 君の心に向き合った時のことを 君の心に優しいものを見つけた時のことを 思い出してごらん その思いを言葉に表せた時の喜びを 伝えた時に感じた胸の高鳴りを 受け止めてくれた友を その賛辞を 思い出してごらん 世界でただ一つの詞をつむいだ君を 文庫版あとがき 207
刑務所には、薬物依存症の経験のある者が多くいます。 かくせいざい ある少年は、十三歳で薬物を、またある者は十五歳で覚醒剤をはじめた、 というので、驚いてしまいました。 中学生が、どうやってそんなものを手に入れたのでしよう。 責任は、彼らだけにあるのではありません。 そんな社会を作ってしまった、わたしたちにもあるのです。 「偽物のしあわせ」と「偽物の快楽ーに満ちあふれた現代、 わたしたちは「あたりまえのしあわせ」を、 どこかに置き忘れてきてしまったのかもしれません。 「薬物をやっているとぎだけ、自分が自分らしくいられた。 ばらばらになった自分が、ひとまとまりになっていると感じられた」 「今感じること」を書いてくれた Z くんは、そう語ってくれました。 学校や家庭でのつらいことを忘れるために、薬物に手を出したそうです。 「でも、そのうちに何がなんだか、わからなくなってしもて 薬物に心も体もむしばまれてしまった Z くんにとって、
たちと向き合 い、いつもわたしの傍らでカになってくれた夫の松永洋介にも感謝す 文庫化により、 いままで到達できなかった人々にもきっと届き、広がっていくだ ろう。なんという、うれしいことだろう。 この文庫で心を打たれたら、ぜひ単行本も手にとっていただきたい。大きな文字 で余白を感じながら読むことで、詩のさらなる真価を感じていただけることと思う。 心の扉が開いてこそ、人は罪と向き合うことができる。詩は、彼らの心の扉を開き いた。罪を悔い、償いの心を忘れず、社会が温かく迎え入れてくれれば、彼らはしっと 版 かりと社会復帰への道を歩むことができるはずだ。 庫 文 再犯がなくなるということは、新たな被害者が生じないということ。悲しい被害 者を生まないための、究極の被害者救済でもあると信じている。 刑務所の門を出たきみたちが、二度と刑務所に戻ってきませんように。 いつの日か、日本中の刑務所が、からつぼになる日が来ますように。 たいまっ 一二六〇回目のお水取りの松明の燃える奈良にて 209
今が自分の進む時 ネガティブでぶっ飛んだ生活に逆戻りしないように 今感じていることは本物 ナチュラルハイで感しる一瞬の中にある永遠
亠冂バッジ 言い訳にするな 強がり 生キ、る 言葉 時間 暑い 消えた赤い糸 生きること 妄想 ありがと、つ まほうの消しゴム つぐない 恥曝しの末路 レ メ 今感じること行 54 52 50
にみるみる変わっていくのだ。 はじめて教室に集まったときは、なぜか、そこにいる一人一人の人間の形が、はっ とっしりと土の塊が座っているような無表情な者がいる。手 きりと見えてこない。。 のら を差しだせば、警戒してさっと逃げてしまう野良猫の子のような態度の者もいる。 なんでこんなところにいるんだと言わんばかりの不機嫌な様子の者がいる。姿形は す で さまざまで、その態度もさまざまなのに、彼ら一人一人の印象がはっきりしない。 の おそらくは、交流感がないからだ。だから、その生命の力を感じない。彼らは、見 ん えない壁の向こうにいる。 え そんな壁が、回を重ねるごとに薄らいで、やがて消えてゆく。本文のコメントで白 ら も書いたが、ひどく内気で自信がなかった ;-@ くん。あるとき、会話のなかで、彼の ということがわかった。そこで、魚に関するこ靖 趣味が魚釣りであり、魚に詳しい 空 とは、彼に話題を振ってみるようにした。すると、くんは、みるみる積極的にな り、ロでは説明しづらいと感じると、自分で黒板に行って、図を描いて堂々と解説 できるほどになったのだ。はしめの、あのスカートの陰から恐る恐る人の顔をのぞ いていたようなくんからは、とても考えられないような行動だった。 授業が終了したあとも、くんの評判は聞こえてきた。「工場でも、見違えるよ 168