笑っ - みる会図書館


検索対象: 竜は眠る
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1. 竜は眠る

サイキック そして短く声をたてて笑うと、直也は言った。「もし本当に超常能力者なんてもの かいると 1 レた、り それきり口をつぐんでしまう。 「いるとしたら、なに ? こ、つ一言った。 私が促すと、ほっりとこばすように、 「マスコミの前に出ていって、スプーンやフォークを曲げたりなんかしませんよ。自 紋分のことをしゃべったりもしない。布がって、隠れてる。きっとそうに決まってま 波 最後にもう一度、もう廩司には会わないで、知らん顔を通してやってくださいと念 章 第を押すように言って、直也は立ち上がった。 ふた 「マンホールの蓋を開けた二人組、名乗り出てきませんねー うん」 「慎司が余計なことをしたからかな。高坂さんはどうするつもりですか ? 彼らのこ と、警察し 「そうするとしたら、稲村君のこともしゃべらないとならないな」 直也の口元がびくっと引きつった。ほかのなによりもそれを恐れているのだと、よ 171

2. 竜は眠る

552 幵事に強く勧められて、結局は二階へあがっていった。 令子はためらっていたが、リ それを待っていたように、中桐刑事が私の脇に移動してきた。伊藤警部もこちらを見 「ひとっ伺いたい」 そうだろうと思った。「なんです」 「三宅令子という女性は、ただの秘書ですかな」 近くで見ると、頬も鼻もすんぐりしている。全部鈍角で、鋭いのは目だけだった。 眠「なぜそんなことを僕に訊くんです ? 」 刑事はニッと笑った。「部下が情報をつかんできました。一部では有名な話だそう がら 龍ですな。あなたなら、商売柄ご存じかもしれんと思いました」 私は息を吐いた。「知ってます」 「なるほど。川崎氏と愛人関係にあるそうですな。四年以上になるとかー 「もうそこまでつかんでるんですか ? 」 「私らは長い腕と特大の耳たぶを持ってますからな」 この家に詰めている被害者対策班以外の刑事たちがどこをどう動いているのか、ふ とらされたような気がした。鼻をうごめかせて走ってゆく、油のきいたべアリング ほお

3. 竜は眠る

実際、そうなのだ。真面目に取り組んで資料を読んでみれば、その「すり替え」の おかしさがすぐわかる。問題はそんなことではないのだ。 「手軽だし、目立っし、わかりやすいからじゃないか」 「それだけ ? だったら自転車のスポークだっていいじゃない。あたしが超能力者だ ったら、もっと曲げる意味のあるものを選ぶけどね」 「ああ、曲げろ曲げろ、なんでも曲げていいよ。都庁の新庁舎のでつかいタワーなん 紋かどうだ ? あれを曲げたら喜ばれるぞ」 とが 「それじやキングコングみたい」佳菜子は笑い、とり澄ましたふうにくちびるを尖ら 波 せた。「まず曲げるのは、高坂さんのおへそね。だいぶ曲がってるから、もうひと曲 章 にげすると正常に戻るわ」 「それより、デスクの十二指腸を曲げてやれよ。ショックで潰瘍が治るかもしれな 「わあ、気持ち悪い いやにはしゃいでいる。私はスプーンを机の上に放り出して、彼女を見上げた。 「で、なんだ ? 」 「何が ? 」 かいよう

4. 竜は眠る

〈できるの〉と、書いた。 私は笑った。「君も能力者かな」 まさか、とい、つよ、つに七恵も笑った。 〈それに、能力者ではない人間と交信するのはすごく大変だから、織田さんも、わた しには一度しかやってくれたことがなかったわ〉 「大変というのは ? 彼が ? 」 る 〈どっちも〉と、七恵は書き、思い出したように顔をしかめた。〈ほんの二、三こと 眠話しただけだったけど、あとで一日頭が痛くて動けないくらいだった〉 そんなことがあり得るのかと、考えてしまった。七恵も ( 信じられないでしよう 龍ね ) と言いたそうな顔をしている。 やがて、こう書いた。 〈わたしも能力者なら、もうちょっとあなたの役に立てるでしようにね〉 「今で充分だよ」そう言いながら、頬にかかっている後れ毛をかきあげてやると、彼 女は小さく手刀を切るような仕草をした。 「ありかと、つ ? そう、と頷く。そして子供のように頬杖をつき、しばらくほうっとしているようだ 470

5. 竜は眠る

、つ 「親父と派手にやりあってから、奥の部屋で、それこそ身を揉むようにして泣いてい た叔母の姿を、よく覚えています。それから間もなくふっと家を出ていってしまいま してね。以来、まるで消息がわからなくなりました。再会したときは、叔母はもう六 十に手が届く歳になっていて、私は所帯を持って、家内の腹には慎司がおりました。 ですから、十六年ほど前のことですか」 やえす 去東京駅の八重洲ロだったという。 「バスターミナルの方へ歩いていましたら、人込みのなかから、『ノリちゃん』と呼 ぶ声が聞こえたんです。私をそんなふうに呼ぶ人間は、そうはいません。振り向いた 章 いまごろ 第ら、ちょっと離れたところに叔母が立っていました。ちょうど今頃の季節でしたが、 あわせ 地味な色合いの袷を着てまして : : : すぐにわかりましたよ。ずいぶんと痩せて、疲れ た感じに見えたものでしたが。 「叔母は笑ってましてね : 『ああ、やつばりノリちゃんだったね。声をかけよう かどうしようか迷ったんだけど』と。私も驚きました。近くの喫茶店に入って、小一 時間話をしたんですが、叔母は私が何も言わないうちに、『あんた、所帯を持ったん だね。それに、あんたは兄さんと違って商売の才がありそうだから、きっとうまくい

6. 竜は眠る

示に近いのではないかと考えた。ただ芝居を打っているだけで、ここまで深く具体的 どうさっ な洞察をめぐらせることができるとは、とても思えない。 仮にサイキックを装っているのだとしても ? 自分で立てたその前提に、思わず苦 笑した。また堂々めぐりだ。 「どうして笑うの ? 」 素早く問われて、つくろう余裕もなく、私は正直に話した。 る「君たちのどっちを信じりやいいのかわからなくなったからさ 眠「そうだろうね。ごめんなさいーベこりと頭を下げて、「でも、高坂さんが混乱する のも当然だよ。こういうことを専門に扱ってる学者さんたちだって、まるでインチキ だま 龍のサイキックに騙されて振り回されたり、ホンモノをホンモノと気付かないでやりす ごしたりしてるんだからね。ュリ・ゲラーの騒ぎがいい証拠だよー 「彼はインチキだったようだね」 「ペテン師の見本だよー吐き出すように言って、廩司は口元を引き締めた。「それよ り、直也は、僕のインチキを証明するために、どんな材料を持ってきたの ? 僕、高 坂さんと会ったこととか、あの夜起こったことは、残らず直也に話したんだよ。彼、 それをどういうふうに料理したのかな」 192

7. 竜は眠る

「だけど、直也はそうじゃない。逃げることばっかり考えてる。僕もそれは理解でき るんだ。彼、辛い思いばっかりしてきたから。能力を持ってるばっかりに、散々嫌な ことを経験してきた。家も飛び出したし、仕事だって長続きしない。だからお金にも 困ってるし、住むところも定まってないんです。僕と初めて会ったときだって、彼、 もう小銭ぐらいしか持ってなくて、仕事のあてもなくてーーどうしようかって悩んで た。もういっそ死んだ方がましだ、そうすればこの力とも縁が切れる、と。それが僕 紋に聞こえたんですよ。彼、文庫本の棚にもたれて、本当に今にも死にそうな顔をして たんだ」 波や 痩せて血色の悪い織田直也の顔が、私の頭をよぎった。 章 第「仕事が続かないのはね、彼が周囲をスキャンしすぎるからなんです。コンビニに勤 めるとするでしょ ? で、ある晩、レジのお金が合わなかったとする。おかしいって 調べてるとき、みんなそれぞれ困った顔で、いろいろ考えてる。直也はあんな格好で、 ちょっと病人みたいにも見えるし、学校もろくに出てない風来坊だからね。すぐ疑わ れる。でもみんな口には出さない。出さなくても、彼には聞こえる。聞いちゃうから。 そういうことが積み重なっていって、もうそこにはいられなくなるんです。追い出さ れるわけじゃないけど、直也自身がそういうふうに自分を追い込んでいっちゃうんだ。 197 つら

8. 竜は眠る

つきり「逃げた」ということを示している 「理由は ? 」 「こっちが知りたいくらいだよね。よんどころない事情があって、と言ってたが。あ の年ごろの子にしちゃ、『よんどころない』なんて、気のきいた言いまわしをするも んだと思ったよ」 「転職先のあてがあるのかどうか、言ってましたか ? 」 去「何、も そ、つだろ、つとも。 過 「ここには長く勤めてたんですか」 章 「そう長くはないね。三カ月ぐらいですよ」 「住所や電話番号は聞いてありますか ? 」 「あるけど 男は下からすくうような目付きで私を見た。「おたく、なんでそん なに彼に会いたいんだね ? 」 「よんどころない事情がありましてね」 はは、と笑うと、小男は片手で帽子の目びさしを持ちあげ、かぶり直した。「世の 中、よんどころないことばっかりだからね。まあ、いいや。教えますよ。事務所の方

9. 竜は眠る

「何人ぐらい知っておられます ? いわゆる『サイキック』を」 村田は首をかしげながらうなじを撫でている。「さあ : : : 三十五年間警察にいて : そう自称している人間で、五、六人というところでしようか。本人がそれと気が ついていなくても、『ああ、これはそうだな』と思う人物になら、十人以上出会って い ~ ま亠 9 ・よ 「まさか。そんなことがありますか ? 本人が気づいていないなんて」 る「ありますともーと、頷いた。「能力が非常に小さくて、現われ方が偶発的だからわ 眠からないだけです。ひょっとすると、あなた方お二人だってそうかもしれない」 おれ 思わず生駒と顔を見合わせた。彼は言った。「俺は違うが、女房はそうかもしれん。 龍あいつには何も隠し立てできねえから」 ただ 「それはまた別の話だ」村田が笑った。「但しこれは、『家族も騙される』ということ には関連してきます。生活を共にしている人間同士は、自分でも無意識のうちに、た くさんの情報をやりとりしているものなんですよ。この椅子に座るときはいつもどん くっ ふろ な姿勢をとっているか。どんなふうに靴を脱ぐか。風呂上がりには、どれくらい身体 を冷ましてから服を着始めるか。お互いにちゃんとわかっている。ただ、それを情報 としてとらえていないだけでね。だからある日、たとえばあなたが椅子に座ったとき、 からだ

10. 竜は眠る

六感ってやつだ。誰だって持ってる」 「第六感で、先生が夏休みに休暇をとってどこに旅行するかもわかりますか ? 誰と 行くのかも ? 生徒の父親の一人とこっそりデートしたことがあって、それをすごく うしろめたく思ってることもわかりますか ? 僕たちに掛け算を教えながら、頭のな かでは、給料がもうちょっと高ければ先週見てきた建売住宅を買うことができるのに 残念だって、せめてあと三百万頭金を上乗せできればいいのにつて思ってるって、わ 遇かるんですか ? 」 沈黙が落ちた。どこか遠くで、クラクションがせつかちに二度鳴った。 遭 「そうなんだ」慎司は頷いた。「僕にはわかった。全部わかった。見えたんです。そ 章 第れに、そんなふうにいろいろわかることが、普通じゃないってこともわかってた。だ から凄く怖かった。子供の頃の僕はね、よく教室でおしつこをもらしたり、授業中に トイレに行きたくなって、友達に笑われたんです。それもみんな、怖かったからなん だ。人の考えていることが、言葉で告げられてるみたいにはっきりわかることがね」 ほかにどうすることもなく、私は先を促した。「それで ? 」 廩司はくちびるをなめ、気持ちを集中させるように、目を閉じた。 「それで 「ある時、もう布くてどうしようもなくて、父さんに打ち明けた。きっと怒られるだ