山田太一脚本の『シャツの店』というテレビドラマで、仕事のことしか考えていない、 と妻からなじられたシャッ職人が、「仕事だけに集中していないと、他のことに気を散 らしてしまうと、どうしても品質が落ちていく」という意味のことを言い返します。 カフカが = = ロいたいのも、そうい一つことでしょ一つ。 作品の世界に入り込んで書いている最中に、出張でそこからひつばり出されると、作 者当人といえども、またうまく入り込んでいくのは容易ではないのでしよう。 望 読者でさえ、本は一気に読みたいもの。途中で邪魔されると、面白味が半減すること 仕かあります。まして、作者はなおさらでしよう。 章 ただ、そうでなくても、自分の作品をけなすのは、カフカのお得意ですが。 第『変身』はカフカの代表作です。 ノーベル文学賞作家のカネッティは、「『変身』で彼の巧妙の極致に達した」「『変身』 を追い越すことのできるような作品はない」と激賞しています。 それでも、カフカ当人にかかれば、「ほとんど底の底まで不完全だ」ということにな ってしまうのです。
とこそ、親友としてのプロートの、驚くべき誠実な行為だったと一言えるでしよう。 なお、プロートはカフカの遺稿の出版によって、儲けてもいません。印税は、カフ 力の病気治療のせいで多額の借金ができていたカフカの両親と、カフカの最期を看取 った恋人に分けて、自分はまったくとっていません。 当時はまだほとんど無名だったカフカの本を出すことも大変でしたが、その遺稿を あ守るだけでも、大変なことでした。 カフカの死後、ナチスが台頭し、ユダヤ人の迫害が始まります。。フロ 1 トはナチス 庫がプラハに侵攻してくる、その前夜に、カフカの遺稿をトランクに詰め込んで脱出し ます。 まさに危機一髪でした。カフカの作品はナチスの「有害図書ーのリストに入ってい たので、もし見つかっていたら焼却されていたでしよう。 婚約者だったフェリ 1 ツェもユダヤ人です。 カフカと別れた後、裕福な銀行員と結婚して、二人の子供を生みました。 255 もう
そうなのです。日記があった。、 父への手紙も婚約者への手紙も。それらの魅力を語 っているカネッティの文章も読んでいませんでした。 具体的なカフカ。 考えればヤノーホの手記もまさしく具体的なカフカなのですが、年のはなれたよそ の青年との会話と、この本で引用された言葉の数々とは、親密の質も度合いもちがい ます。 び更に本音のカフカです。 ん「ばくは同級生の間では馬鹿でとおっていた」 さ 木「ばくは人生に必要な能力を、なにひとっ備えておらずーー」 説「ばくはいかなる事にも確信がもてず おっく - っ 解 「運動どころか、身動きをするのも億劫で、いつも虚弱でした」 や 「ばくは、ばくの知っている最も痩せた男ですー 頭木さんの矢継ぎ早やの自己否定の引用を読むと相当落ち込んでいる人でも「カフ カよりはましかーと慰められたりするかもしれません。その上、そのカフカを世界に は否定するどころか愛する人だって沢山いるのです。頭木さんは巧みに、次のような 引用をすべり込ませます。
恋人のミレナは、チェコ人でしたが、 ユダヤ人援護運動に関わっていたために、ナ チスに捕らわれ、強制収容所で亡くなります。 その前に彼女は、カフカの手紙を、友人の評論家のヴィリ 1 ハースに渡しました。 カフカともっきあいがあり、プロ 1 トとも親しかった人物です。 カフカの最後を看取ったド 1 ラの場合は、カフカに言われるままに、原稿の一部を 焼いています。プロ 1 トとは逆に、カフカの原稿を焼いたことで、ド 1 ラは非難され あました。しかし、これもまた彼女なりのカフカへの誠実な行為であったでしよう。 訳 編 その他の晩年の原稿や、日記や、カフカからド 1 ラへの手紙は、ユダヤ人であるド 版 庫 ーラの家にゲシュタポがやってきて、すべて没収されました。 文 そのまま、現在も見つかっていません。 そういう次第で、現在、私たちが読むことのできるカフカの作品や日記や手紙とい うのは、カフカの友人や恋人たちが大切に守ってきたものです。ときには命がけで。 私たちも、ぜひ大切に読んでいきたいものです。 257
献 文エリアス・カネッティ『もう一つの審判』小松太郎、竹内豊治訳法政大学出版局 カフカに関する評論の最も優れたもののひとつだと思います。 用 245 カフカ『夢・アフォリズム・詩』吉田仙太郎編訳平凡社ライ。フラリ 1 吉田仙太郎先生も、カフカの研究・翻訳に功績を残してこられた方です。他にも 『カフカ自撰小品集』という面白い本を出しておられます。 エルンスト・ ーヴェル『フランツ・カフカの生涯』伊藤勉訳世界書院 ミラン・クンデラ『裏切られた遺言』西永良成訳集英社 これも素晴らしい評論です。また、翻訳の問題にもふれていて、ドイツ語の原文 をクンデラがフランス語に訳し、それを西永良成先生が日本語に訳されていると 重訳であるにもかかわらず、この本に出てくるカフカの文章は素晴らしい です。クンデラが指摘している、カフカを翻訳するときの注意事項は、大変に参 考になります。 大変に分厚い、カフカの詳しい伝記です。
これだけなら、現代のダイエットをしている人レベルで、たしかに健康的と一言えるで しょ一つ 0 でも、カフカの場合は、もっと極端です。 「彼は毒と危険を自分のからだから遠ざけようと努めている」「呼吸として、食べ物と して、飲み物として、薬剤として彼のロにはいるすべての毒が肉体の脅威である」とカ ネッティは書いています。 望 新鮮な空気を吸うために、冬のいちばん寒いときでも、開いた窓のそばで寝ます。 絶 さらに全身を新鮮な空気にさらすために、しばしば裸になって体操します。 暖房は空気を汚すので、いっさい禁止。 る 食喫煙なんて、とんでもないことです。 章 アルコール類はもちろん、コーヒーやお茶も飲まないようにしていました。刺激物だ 第からです。 しかし、その結果、健康になれたかと一言うと、カフカ自身も書いているように、「心 配かだんだんふくれあがっていって、最後には本当の病気にかかってしまうのです」 これほど節制し、新鮮な空気を大切にしていながら、彼が結核にかかってしまったの は、じつにかわいそうなことに思えます。しかし、冬でも暖房なしで窓を開け放し、裸 躪になっていたことは、もしかすると、悪いほうに作用したかもしれません。
絶望名人 カフカの 人生論 カフカ頭木弘樹編訳 絶望名人力フカの人生論カフカ フランツ・カフカ Franz Kafka ( 1883 ー 1924 ) II 腓引Ⅲ旧懼Ⅷ II 9 7 8 4 1 0 2 0 7 1 0 5 2 「いちばんうまくできるのは、倒れ たままでいることです」これは 20 世 紀最大の文豪、カフカの言葉。日記 やノート、手紙にはこんな自虐や愚 痴が満載。彼のネガテイプな、本音 の言葉を集めたのがこの本です。悲 惨な言葉ばかりですが、思わす笑っ てしまったり、逆に勇気付けられた り、なぜか元気をもらえます。誰よ りも落ち込み、誰よりも弱音をはい た、巨人力フカの元気がでる名言集。 Franz Kafka 新潮文庫 カフカの本 変 身 絶望名人力フカの人生論 1 9 2 0 1 9 8 0 0 5 2 0 7 オーストリア = ハンガリー帝国領当 時のプラハで、ユダヤ人の商家に生 れる。プラハ大学で法学を修めた後、 肺結核に斃れるまで実直に勤めた労 働者傷害保険協会での日々は、官僚 機構の冷酷奇怪な幻像を生む土壌と なる。生前発表された「変身」、死 後注目を集めることになる「審判」 「城」等、人間存在の不条理を主題 とするシュルレアリスム風の作品群 を残している。現代実存主義文学の 先駆者。 編訳者頭木弘樹 Kashiragi Hiroki 筑波大学卒業。カフカの翻訳と評論などを行 っている。編訳書に、「「逮捕 + 終り」一「訴 訟」より」 ( カフカ ) 、「希望名人ゲーテと絶望 名人力フカの対話」 ( ゲーテ、カフカ ) がある。 プログ http:〃ameblo.jp/kafka-kashiragi ツィッター https://twitter.com/kafka—kashiragi メールアドレス kashiragi@mist.dti.ne.jp カバー装画トヨクラタケル 定価 : 本体 520 円 ( 税別 ) I S B N 9 7 8 - 4 - 1 0 - 2 0 7 1 0 5 - 2 C 0 1 9 8 \ 5 2 0 E カ 1 新潮文庫 新潮文庫 カバー印刷錦明印刷デザイン新潮社装幀室 520
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