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検索対象: 絶望名人カフカの人生論
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1. 絶望名人カフカの人生論

「普通の人」と言われることを、嫌がる人はたくさんいます。 そういう人たちにとって、「普通」は自分より下です。 し 望 しかし、カフカにとっては、「普通」は自分よりずっと上にあって、手が届きません。 普通に結婚して、普通に子供を作って、家庭を持つ。 婚 結 ただそれだけのことに、カフカはどれほどあこがれたことでしよう。どれほどあがい 章 九たことでしょ一つ。 そして、けつきよく、カフカは生涯、独身でした。 161

2. 絶望名人カフカの人生論

巨人としての父親 お父さんは、もたれ椅子にすわったまま、世界を支配しました。 お父さんの意見が絶対に正しく、 他はすべて、 狂った、突飛な、とんでもない、正常でない意見ということになりました。 論 人しかも絶大な自信をお持ちのあなたは、 「必ずしも意見が首尾一貫していなくてもいいのです。 それでいて、意見の正しさを主張してゆずりません。 絶ときには、ある事柄についてあなたにぜんぜん意見がないこともありました。 そういうときは、あらゆる意見が、例外なく、誤っていることになります。 あなたは、たとえばチェコ人を罵倒し、次にドイツ人を、 さらにユダヤ人を罵倒する。 それも、徹底的にやつつける。 そうして最後に残るのは、あなたひとりなのです。

3. 絶望名人カフカの人生論

第九章結婚に絶望した ! 171 ここでもう前進できなくなったのだ 少女はそれからずっとひとりなのか ? いや、他の男がやすやすと、なんの妨害も受けずに彼女に近づいた 彼らの顔が初めてのキスで重なり合うのを、ばくはただばんやり見ていた ぼくはまるで空気のようだった。 ーー断片 これは具体的な実体験というより、カフカの恋愛体験全般、女性に対する思いを表し たものでしよう。 シャイな男性なら、きっと共感できることでしよう。男性だけでなく、女性も。 相手も好意を持ってくれていることがわかっていてさえ、好きな人に近づくことがで きないのです。近づこうとするだけで傷ついてしまう。 そんなことをしているうちに、そんな繊細さなどまるで持ち合わせていないやつが現 れて、やすやすと相手をかっさらっていってしまう。 そして、もうそのときには、自分の存在などは、一一人の目には入らないのです。 そんな悲しい恋愛体験を、カフカも若いときにたくさんしたのでしよう。

4. 絶望名人カフカの人生論

ぼくにとってお父さんは、 すべての暴君が持っている謎めいたものを帯びていました。 父への手紙 カフカの父親のヘルマンは、とても貧しい家に生まれ、飢えや寒さに苦しみながら、 幼い頃から働かなければなりませんでした。 しかし、彼には体力も根性も商才もありました。ついに自分だけのカで店を持ち、そ 望れを繁盛させました。つまり、裸一貫から、一代で財を成した人物なのです。 絶 それだけに、自信も自負もありました。しかし、一方で、充分な教育を受けられず、 親 ドイツ語を完全には使いこなせませんでした。 章 第成功体験とコンプレックスが同居すると、人は攻撃的で独善的になってしまいやすい ものです。コンプレックスのせいで他人を否定し、自信があるだけに揺るがないのです。 カフカの父親もそういうところがあったようです。 カフカの親友のプロートはこう書いています。「夫人の一言をもってすれば、『巨人』 だった。フランツは一生、この強力な、体格も人並はずれて堂々たる ( 大柄で、肩幅の 広い ) 父親の陰で暮らしたのである」 カフカは父親をおそれ、父親に対してだけは言葉がつつかえました。 はんじよ・つ なぞ

5. 絶望名人カフカの人生論

こ一つい一つ関係は、日本では母娘に多いよ一つです。 娘をいつまでも自分の支配下に引き留めておくために、母親は「こうしなさい。ああ しなさい」と娘をコントロールしようとし、それだけでなく、娘か自分からやろうとす ることには、すべて「どうせ失敗する」と呪いの言葉を浴びせるのです。 そうすると、娘はその言葉にとらわれてしまって、成功するはずのことまで、失敗し 望てしまう。たとえば、崖を飛び越えるときでも、「失敗する。きっと失敗するぞ」など ちょうやく にと言われれば、跳躍にためらいが生じて、本当に失敗してしまいます。それと同じこと です。 章 第その結果、母親から「ほら、やつばり失敗した」と言われてしまい、次からは、「前 も私の言った通りだったでしよ。今度も失敗するわよ」と、さらに呪いが強まっていく ことに。 そうやって、娘は母親の支配から抜け出せなくなってしまうのです。 カフカと父親も、そういう関係にあったようです。 103 のろ

6. 絶望名人カフカの人生論

「他のすべてのことをニの次にしてしまった」というのは、たしかにその通りです。 勤めもおろそかになりましたし、結婚もうまくいかず、家庭を持っこともできません でした。 にもかかわらず、そこまでして人生の中心にすえている「夢見がちな内面生活を描写 し すること」が、「まったく当てにならず」それどころか「おそらく永久に失われてしま 絶ったようなのだ」というのですから、まったく絶望的な告白です。 夢でも、この日記が書かれたのは、一九一四年の八月のことです。 るけいち 章 これ以降にカフカは、『訴訟 ( 審判 ) 』『城』などの重要な長編小説や、『流刑地にて』 第 『田舎医者』『万里の長城』などの数々の名作短編を生み出していきます。 これは絶望が間違っていたということではありません。 人は絶望からも力を得ることができるし、絶望によって何かを生み出すこともできる、 とい一つことです。 153

7. 絶望名人カフカの人生論

261 山田太一 この本は頭木弘樹さんがカフカを読んで面白くてびつくりして、みんなに読ませた びいけれど誤解されやしないかと心配で、ついつい左の頁に寄り添って、とうとう終 んりまでそうしてしまったというような本だなと田 5 いました。 どうもカフカにはそうしたくなるところがあるらしく、世界中で出版されたカフカ おほ 説に関する本を集めたら、それだけで図書館ができそうだという文章を読んだ憶えがあ ります。 仮にもそんないい方をされる作家はめったにいるものではありません。 代表作といわれている『変身』ひとっとっても しいかけると、それを代表作 しっそ・つしゃ といっていいのかというような議論が持ち上り、代表作は『城』だろう『失踪者』 ろうという人もあり「あんな気味の悪い訳の分らない小説」などという人もいまだに いたりして、少くとも二十世紀の三大小説の一つだと思っている人間は ( 私もその一 解説頭木さんの叫び声

8. 絶望名人カフカの人生論

父親が厳しい場合には、母親がやさしくて、子供の味方をしてくれるという場合があ ります。 しかし、父親が母親に対しても支配的な場合には、母親のやることは、けつきよく父 親が許す範囲のことであり、つねに父親が満足する方向にことを進めてしまう場合も少 なくありません。子供にとっては、裏切りにさえ感じられる方向に。 望カフカの母親の場合も、そうであったようです。 絶せこ 「勢子」というのは、狩猟のときに、獲物を草むらから追い出したり、他に逃げるのを 親 カり・・つン】 防いだりする役目の人のことです。狩人が獲物を仕留めやすいようにです。 章 第カフカの婚約者だったフェリーツェへ、カフカの親友のプロートは手紙でこう書いて います。 「フランツの母は彼をたいへん愛していますが、息子がどういう人間で、どんな欲求を 持っているかは、まるでわかっていません。どんな愛情も、理解がまったく欠けていた ら、なんの役にも立ちません」 8

9. 絶望名人カフカの人生論

し成功すれば、「努力しなかったのにスゴイ」ということになります。 ころ どっちに転んでもトクなわけです。 そのため、約七割の人はこの心理を持っていると言われます。 でも、努力しなければ、当然、成功の確率は減ります。自分で自分の足をひつばる、 困った心理なのです。 「山月記」の虎も言っています。「虎と成り果てた今、己は漸くそれに気が付いた。そ おれ はる おれ 論 れを思うと、己は今も胸を灼かれるような悔を感じる」「己よりも遥かに乏しい才能で 生 せんいつみが のありながら、それを専一に磨いたがために、堂々たる詩家となった者が幾らでもいるの カ カ 人身近なところでは、試験の前日に、つい部屋の片づけとか、勉強以外のことをしたく ふかざけ 絶なるのも、「セルフ・ハンディキャッピング」です。大切な仕事の前日に、つい深酒し たり夜更かしをしてしまったりするのも、そうです。 身に覚えのある人が少なくないのでは ? おれようや

10. 絶望名人カフカの人生論

フぼくは、決して子供を持っことはないでしよう。 フェリーツェへの手紙 174 子供を持ちたいが、持てない