た。それらをプロートが苦労して次々と出版していった。当時はなかなか引き受ける出 版社がなかったという。 最初の日本語訳が出版されたのは昭和一五年 ( 一九四〇年 ) 。白水社刊、本野亨一訳 『審判』。六、七冊しか売れなかった ( そのうちの一冊を安部公房が手に入れていた ) 。 今では世界的に、二〇世紀最高の小説家という評価を受けるようになっている。 しかし、カフカが本当に読まれるのは、むしろこれからだ。 論カフカが死んで九〇年以上経つが、彼の言葉はいまだに新しい
①まず最初は、悲しい音楽にひたるⅡアリストテレス「同質の原理」 その後で、楽しい音楽を聴くⅡビュタゴラス「異質への転導」 というふうにするのがベストで、そうすると、スムーズに立ち直ることができるの です。 たとえば失恋したときには、悲しい歌詞やメロディーのほうが耳に入ってきやすく しつくりくるもの。その気持ちのままに、まずは失恋ソングにひたりきればいいので 論 人 の そして、ひたりきったら、今度は明るい曲を聴くようにすれば、自然と明るい気分 力になることができるのです。 名 最初から明るい音楽を聴いても、心にしみ込んできません。 絶 々一言にも同じことが一一一口えます。 ポジティブな名言はたしかに価値のあるものですが、心がつらいときにいきなり読 んでも、本当には、いに届きません。 まずは、ネガティ。フな気持ちにひたりきることこそ、大切なのです。
ニートと呼ばれる人たち、ひきこもりと呼ばれる人たちの中にも、同じ思いの人は多 しのではないでしようか 働かないのは、働く気がないわけではない。 し 望ひきこもっているのは、外に出たくないからではない。 でも、働けないし、出られない。 来 将 その状況を変えることもできない。 章 一カフカは最初、父親の仕事を手伝いますが、うまくいかず辞めてしまいます。 生きがいを感じていた小説を書くことでも、家族からは日曜大工あっかいでした。 でいなから、家から出て行くことができずにいたのです。
まさに、ひきこもりな発言です。 たしかに、最初から床に寝ていれば、べッドから落ちる痛みや驚きは味わわずにすみ 望ます。でも、同時に、べッドに寝る心地よさも失ってしまうことになります。 絶 何事も起きないように、ひとりで部屋にいるのも同じこと。イヤなことが起きないか 中 のわりに、イイことも起きなくなってしまいます。 章 ひきこもりまでいかなくても、断られることを避けるために告白しないとか、傷つか 第ないために恋をしないとか、同じような心理で、不幸と同時に幸福まで手放している人 は、少なくないでしょ一つ。
140 ぼくの仕事が長くかかること、 またその特別の性質からして、 論 文学では食べてゆけないでしよう。 の フ 人 名 望 絶 カフカの親友のプロートは、作家でした。大学時代からすでに文壇で認められ、新進 作家として活躍していました。 作家として生活している見本がすぐそばにいたわけです。 「だったら、カフカも最初からあきらめずに、作家として身を立てることに挑戦してみ てもよかったのでは ? 」と一言いたくなります。 自分のやりたいことでは、お金にはならない 一三ロ
他の人はやすやすとやってのけることを、自分はできない こういうことは、よくあるものです。 たとえば、異性に自然に爽やかに話しかけることができる人もいれば、どうしてもで しきない人もいます。頑張って話しかけても、ぎこちなく不自然になってしまって、さら 絶に絶望することに。 来 話しかけることができる人にとってみれば、そんなことくらいかなぜできないのか不 章思議です。そしてさらに、仲良くなって、恋人どうしになって、とステップアップして 第いきます。 話しかけることができない人は、いつまでも最初の段階のままです。 そうした状況を、カフカは見事に表現していると思います。 さわ
5 他の人はやすやすとやってのけることを、自分はできない たとえば、ここに << との二人がいて、 << は階段を一気に五段あがっていくのに、は一段しかあがれません。 しかし、にとってその一段は、の五段に相当するのです。 はその五段だけでなく、 論 人さらに一〇〇段、一〇〇〇段と着実にあがっていくでしよう。 「その間に通過した階段の一段一段は、 彼にとってはたいしたことではありません。 絶しかし、にとって、その一段は、 人生で最初の、絶壁のような、 全力を尽くしても登り切ることができない階段です。 乗り越えられないのはもちろん、 そもそも取っ付くことさえ不可能なのです。 ーー父への手紙
自殀〔食品しか口にしないよ一つにしている人でも、ときにはファーストフードなどをむ さ、ほり食べてみたい衝動にかられるときがあるのではないでしようか。 カフカにもそういう気持ちかあったようです。 望 絶 たんに肉をがつがっと食べたいだけでなく、「不潔な食料品店」としているところが と泣かせます。 べカフカでさえ、ときには自分の神経質に疲れて、清潔とか毒とか害とか、そんなこと をいっさい考えずに、食欲のままに、食べ物にかぶりついてみたかったのです。 章 しかし、彼の胃が弱ったのは心配しすぎのせいなのですから、もし彼が最初から何も 十 第 気にせずに食事をしていたら、この願望通りのことが可能な、丈夫な胃のままであった かもしれません。 207 じよ - つぶ
カフカの仕事の嫌がり方は激しいですが、ではそんなにひどい会社に入ったのかとい うと、そうではありません。 最初に入った民間の保険会社は、たしかに忙しかったようですが、それでも残業して 八時半とか。普通なら、自殺を考えるほどではないでしよう。 しかも、そこは一年もしないうちにさっさと辞めて、友達の父親のコネで、半官半民 絶 の「労働者傷害保険協会」に勤めます。 事 仕 ここは勤務時間が朝八時から午後ニ時まで ! あとは自由なのです。 章 七とても恵まれた職場と言えます。しかも、カフカ自身が「みんなばくにやさしくして くれます」と書いています。職場の人間関係はよかったわけです。それも、カフカです ら文句を言わないほどに。 「しかしそれでも充分にひどい状態」なのです。カフカにとっては : 127
126 もう五年間、オフィス生活に耐えてきました。 最初の年は、民間の保険会社で、特別にひどいものでした。 論朝八時から、夜七時、七時半、八時、八時半 : : : まったくー 生 人ばくの事務室に通じる細い廊下で、 フぼくは毎朝、絶望に襲われました。 人 ぼくより強い、徹底した人間なら、喜んで自殺していたでしよう。 名 絶今は、はるかによくなって、みんなばくにやさしくしてくれます。 しかしそれでも充分にひどい状態で、 我慢するために使わなければならない力を考えると、とても割に合いません。 フェリ 1 ツェへの手紙 4 会社の廊下で、毎朝絶望に襲われる