「その二十。 ( ーセントがあたったんじゃないの。まったくふらないっていったわけ じゃないんだからね。」 ハカセが、ため息ましりにつぶやく。 「ねえ、これからどうするの ? ラーメンもたくさんを / あま 0 てるし、ビー ~ だ「て、い 0 ばい買 0 てるんだろ。」″ー しんすけ しんばい 晋助が、心配そうにたずねた。 つ。よ 「イワシは、つれなくても、なにかつれるようになるさ。そしたら、また、い しおしかけてくるんじゃないの、なあモーちゃん ? 」 ( ゼはあまりつれ 「どうかなあ。・ほくが知ってるのは、イワシだけだなあ。ここ、 ないしねえ。イワシの季節以外は、ど オいたいこんなもんだよ。」 ほんにん モーちゃんの声よ、 をいかにものんびりしていた。むろん本人は、そのつもりはな しゃちょう 、けんど - っ むせきにん かったろうが、社長には、あまりに無責任すぎる言動にきこえたらしい。とっぜ だま ん、ハチベ工は、かんしやく玉をはれっさせた。 彡一三・ 111
、 o o o 円から、二、三二 o 円を引くと : 「一二、六八 o 円。これで三 o o 円のべんとうをしいれるとすると、四十二個た でんたく ハカセが、ポケットから電卓をとりだして、そくざに計算してみせた。 「ねえ、おべんとうのことだけど、・ほくらのべんとうもいるんじゃないの。」 モーちゃんがえんりよぶかげにいった。 「おれたちの ? ああ、おれたちが食べるやっか。そいつは四十二個のなかから一 個すっとればいいや。どうせ、もうかることはわかってんだもの。」 ( チベ工がこたえると、 ハカセが首をふった。 「だめだめ、・ほくらの分は、自分で買わなくちゃあ。それよりね、このジ、ースや わりりそく そうたん しやっきん べんとうを、いくらで売るか相談しようよ。きみは借金するとき、一割利息をは やくそく らうって約束してるんだろ。だったらそれも計算にいれて考えなくちゃあ。」 「へつ、あんなの口からでまかせいっただけだぜ。はらうひつようないよ。」
かぶぬしそうかい 「わかってないなあ。株主総会は、なんとかきりぬけたけど、これからのことは、 まるつきりあてがないんだよ。ラーメンもビールも、コーヒーも、在庫をかかえた A : っさん まんま、倒産しちゃうかもね。」 しょ - つば、 「だって、おまえ、これからも木材港にいって商売するんだろ。客はすくなく なっても、もうけが大きいから、なんとかやってけるんじゃないのか。」 はんろん ハチベ工の反論に、 ハカセはカなく首をふった。 むり しんすけ 「たぶん、無理だね。きようの発表には、晋助くんちにはらう、焼きブタやモヤシ だいきん つきやく の代金もいれてなかったし、これから寒くなったら、釣り客はぐんとへると思うん だ。ビールなんか、ぜったい売れないよ。」 やたい ゅうえんち 「そうか、やつばり、遊園地か祭りの屋台で売らないと、やってけないな。おい どっか、いい場所ないか。」 ハチベ工が、めずらしくすがりつくような目つきで、ふたりを見まわした。 冫。し力ない。なん インスタントラーメンだって、そういつまでもおいとくわけこよ、 もくざいこう 129
モーちゃんも、ゆっくりうなずいた。 じゅんび しようばい 「さてと、商売をはじめるとなると、いろいろ準備しなくちゃあ。コーラと ジュースは、みんなでクーラーポックスにいれて売ればいいけど、べんとうはどう しよう。」 「べんとう係りと飲みもの係りをべつにしたほうがいいよ 「そうだね。じゃあ、・ほくべんとう屋さんになる。 ( カセちゃん、・ほくのクーラー ポックス大きいから、あれにジュースいれて売ったら ? 「よし、それじゃあモーちゃんがべんとう係り、そいでおれと ( カセが飲みもの係 りだな。」 「べんとうは、木曜日の朝しいれないとだめだけど、ジ = ースやコーラは、きよう おおやすう ーをまわってみようか。どっか大安売りしてるところ でもいいね。いまからスー があるかもしれないよ。」 ちょうし ハカセもモーちゃんもしだいに調子づいてきた。 商売をはしめるとなると、 がか 0 、
いで売って歩けよな。」 「ええ ? ・ほく、べんとうだけじゃないの ? 」 しいじゃ 「きようは、べんとうがすくないんだから、 ねえか。おれたちもビールがふえたんだもの。」 なかもりしんすけ ( チベ工とモーちゃんのやりとりをきいていた中森晋助が、 ふと口をはさんだ。 カカ しいよ。この小屋でお湯わかし 「ほく、ラーメン係りになっても、 ちゅうもん てるからさ。ラーメンや焼きそばの注文があったら知らせてくれ よ。そしたらお湯をいれて持ってくよ。お湯をいれて売って歩いたら、めんがのび ちゃうんじゃないかな。」 いけん 晋助の意見は、しごくもっともだ。 でまえ いいな。つまりラーメンの出前をするわけだね。じゃあ、注文をとるのは、 「それ、 ・ほくら三人でするからさ。注文があったら中森くん、お客さんのところにとどけて
いけない。 また、この紙幣しかっかってはいけない。しゃあ、この紙幣、たれがどのくら ぬまくら だいとうりよう がきたいしょ・つ いもらうかというと沼倉という大統領 ( けんかも強いし頭もいい餓鬼大将がとりしきっ ふご・つり ほどここと ている ) がきめる。これは不合理た。《「先生がいっかもあれ程叱言を云ったのに、まだお どな 前たちはこんな物を持って居るのか ! 」》と怒鳴られてしまいます。」ど、 たオこの物語には 別の流れがあって、先生の家がひどく貧しく、彼自身、赤ん坊のミルクほしさに現実との 見さかいをなくして酒屋に《王国》の紙幣をさしだしてしまい、その瞬間はっとわれにか えるという異様なものです。 ふるたたるひ もうひとつ、古田足日『宿題ひきうけ株式会社』 ( 一九六六年 ) 。ひとの宿題をやって 力いさん やってお金をもらうという商売もっかのま、《「解散しなければ、そのときには先生も考え ることがある」》とおどかすようにいわれて解散式をする。《みんなが、ちゃんとしてれば、 ・ほくたちたって宿題ひきうけ株式会社なんか、やらなかったさ》という。じゃあ、みんな が《ちゃんとしている》とは、どういうことなのか ? 《試験・宿題なくそう組合》でそ れを問いつづけることがしめされた作品でした。 たみじゅうぞうかんとく 映画では、伊丹十三監督『マルサの女』 ( 一九八七年 ) に、脱税で査察を受けるホテル むすこ たろう ちゅうかいぎよう 経営者の息子・太郎が、学校でおたがいのいらない物を交換しあう仲介業をしていると もう し一つ工。ヒソ 1 ード。 かでてくる。ここでも先生は苦労しないで儲けるのはよくないといった。 でも、仲介は、品物への苦青を処理したりしてけっこうたいへんたよという。《今、先生 だっぜい さ さ 221
「きびしいわね。ラーメン三百ばいかーー」 ちゅう 姉さんが、大きな口をあけて、宙を見すえる。もしかしたら、へやじゅうになら えが ぶ三百ばいのラーメンを頭に描いているのかもしれない。 「だからさ、姉ちゃんも、なんか考えてよ。ラーメンをさばく方法 : : : 」 むり 「三百ばいは、無理かもしれないけど、ないことはないわ。」 ふと、姉さんがモーちゃんをふりかえった。 「ほんと ? 」 タ工子姉さんは、ますラジカセのスイッチを切ると、テーブルのそばによってきた。 たいいくひ ぶんかさい 「十月九日の日曜日と、十日の体育の日、高校の文化祭なのよ。」 「へえ、体育の日に文化祭 ? かわってるなあ。」 「つべこぺいわないの。ラーメン売ってほしくないの ? 「どこで ? 」 「だから、うちの高校で。文化祭に。ハザーをやるの。あたしたちは、たこ焼きを売 134
じしん 「あたし、自信ついちゃった。こんどどっかの店のアル。 ( イトしようかな。」》 そう、みんなくたびれてはいるけれど、すごく満足した気分だったのた。 《三時前、ついにさいごのラーメンが売れた。 ハチベ〒が 、ほいほい亭ののれんをおろす。 「やったね。社長さん。」 のぶひこ あくしゅ 信彦が、 ( チベ工に握手をもとめた。 「みんなのおかげさ。」 きようの ( チベ工は、えらくけんきょだ。》 つぎからつぎへとくりだされる ( カセの計算からはしまって、いっときは大量の在庫を かかえてどうなるかと心配された C 商事株式会社だったけれど、 いくつかの幸 ねっ なかもりしんすけ 連とそれをひきよせる熱意とそれに今回の主人公といってもいいくらいの中森晋介のプロ なぞ 意識とがあわさって、ここは、なんだか推理小説の謎がとけたときのように、ほうっとた め息をつくところた。 たにざきじゅんいちろう 話のついでに、こどもが商売をする作品を思いだしてみよう。ますは、谷崎潤一郎の さっ 『小さな王国』 ( 一九一八年 ) 。小学校五年の一学級が登場して、じぶんたちだけのお札を たがし 作ります。そして、牛乳、果物、駄菓子から、色鉛筆、雑記帳、万年筆といったいろいろ こづか な品物を市場をひらいて売り買いする。もらった小遣いは品物にして市場にださなくては 220
しまだ 工くん、島田さんの絵、。 とんな絵だった ? 」 カ えんびつ 「海の絵さ。鉛筆で描いてたぜ。」 すいざいカ 「しゃあ、水彩画かな ? 」 しやっきん しいよ。借金かえしてもらえるんならね。」 「なんでも、 ハチベ工は、いきおいよく立ちあがった。 し しでんどお しろあと リ市でいちばんにぎやかなのは、城跡のある大手町から南にさがった市電通 かみやちょう へいこう りと、それに平行して走るアーケード街のあたりだろう。このへんは紙屋町といっ けん げんざい えどじだい のき て、江戸時代紙屋が軒を連らねていたところらしい。現在は紙屋さんは一軒もなく しようてん ようふくや トや洋服屋、それにおもちゃ屋など、いろんな商店がならんでいた。 ほ・つせを」 そのなかで、ひときわはえる白いビルがある。三宝ビルだ。一階は宝石、二階はエ がろう てん げいひん 芸品ときっさ店、三階は画廊になっている。ちなみに三人のなかで、このビルには いったことのあるのは ( カセひとりであった。 さんぼう おおてまち 143
ちゃくせき ハタンとノートをとじて着席した。 ハカセは、 カブといったって、おれの家で売ってるやっとちがうんだぜ。毎月、 「どうだい、 かつ。ほがつ。ほとお金がはいるんだもの。こいつを見のがす手はないと思うなあ。」 しん ( チベ工のことばに、集まった子どもたちは、なかば信じられないというふうに、 かお きようみ 冫たがいに顔を見あわせるのであった。 さりとて興味なくもないというようこ、 ホイホイしようじかぶしきがいしやせつりつ とにもかくにも、 O O 商事株式会社は設立された。はたして、みんなが いんさっ かぶけん すんなりお金をだしてくれるかどうかは、わからないけど、株券だけは印刷してお かなくてはならない ずあん 株券の図案は、手まわしの良い ( カセが、ちゃんと見本を作ってきていたので、 ねんがじよう いんさっき あとは、 ( チベ工の家の年賀状用の印刷機ですればいし 「株券にも、いろいろあるらしいけど、・ほくたちのは、こんなものでいいんじゃな みほん 、 0