これからしばらくの間、サイコセラピーのなかでプレンダが苦しい思いをするであろう ことはわかっていました。彼女がこの苦しさに負けてしまわないように、と、心のなかで 祈りました。 次の週から、一、二カ月の間、苦しい、インナーチャイルドの癒しの作業をしました。 これは、傷ついた小さな子ども時代の自分を目を閉じて心のなかにイメ 1 ジして描き、そ のインナーチャイルドである子どもに栄養と愛情を与えて育て直していくという癒しの一 つの方法です。 し 癒 インナーチャイルドを癒す の ン レ あまりにも強烈なトラウマを経験すると、ともすると自分の精神的な成長、感情、思考 レ がその時点で凍りついてしまっています。そんなとき、インナ 1 チャイルドの方法は、心 チ の氷を溶かし、傷ついた体験を心のなかでやり直し、もう一度成長させていく助けになり レ ます。 ア この方法は一人でもできる簡単なものです。また、とても有効なものですので、ここに 章紹介しましよう。 第
れ、励ましの言葉をかけてあげます。最後に、暖かく抱きしめてあげます。それがすんだ らさようならを言って、またいつでも必要なときに会いに来ることを約束して別れます。 そして、適当なときに目を開けます。 この手法は、どんな心の傷を受けて育った人にも役に立ちますが、とくにひどいトラウ マを受けて、心の成長が止まってしまっている人に有効です。自分でインナ 1 チャイルド が大きくなるまで、何回もやってみてください。一人でやるとつらすぎる場合は、友だち しや信頼できる人といっしょにテ 1 プを聞いたり、ビデオをみながらやってみるとよいでし 癒 の よう。 ( 詳しくは『自分を好きになるための七つのメディテ 1 ション』 ( ヘルスワーク協会 ) という ン レ テープ、ビデオ、小冊子を参考にしてください ) 。 レ プレンダの場合は、一番最初にイメージを浮かべるよう指示したとき、子どもの姿がな チ かなか出てきませんでした。 レ 何回か試みているうちに、ぶるぶる震えている五歳の自分のインナ 1 チャイルドがやっ ダ ア と出てきました。この子どもにやさしい愛情こもった声をかけてやるよう指示しました 章が、どうしてもこの子どもは大人のプレンダを信用しませんでした。 第 プレンダのインナ 1 チャイルドは「どうして私を見捨てたのー「どうして私を守ってく 101
第 4 章アダルト・チルドレンの癒し 突然家出したプレンダ 性的虐待を思い出す かばわなかった母親 受け継がれていた性的虐待 インナーチャイルドを癒す 現実の振る舞いを変える 家族との関係を取りもどす アフアメーション 癒しへの道のり 癒しの手紙を書く 第 5 章リプロセス・リトリート町 リプロセス・リトリートとはなにか リプロセスに取り組む 1 3 2 102 108
れなかったの」と責めつづけました。 大人のプレンダは「プレンダちゃんごめんね。もう決してあなたを一人にはしておかな いからね。私と一緒に成長しようね。悲しかったらいつでも私を呼んでね。なにかつらい ことがあったら助けてあげるからね。本当にプレンダちゃんが大切なのよ。愛情をいつば いあげるわよ」と、インナーチャイルドに言いつづけました。そして、ついに何とかイン ナ 1 チャイルドは、プレンダのハグ ( 抱擁 ) を受け入れるようになりました。 しまでも忘れられません。そのときはじめてプレン そのときのプレンダの感激と涙は、ゝ ダは、自分の存在を認め、肯定することができたのです。 現実の振る舞いを変える 次の週、プレンダがやってきたときには、収穫を終えたぶどうの葉が色づいて、ぶどう 畑はゴールドのように輝いていました。三カ月のうちにめつきり冷えこみ、ペンシルべニ アポプラの葉も落ちて、道を黄色に染めました。 プレンダは、二、三枚落ち葉を拾って、私のセラピー室に入ってきました。玄関のとこ ろに、「日本の習慣です。靴をぬいでおあがりください」という貼り紙がしてあります。 プレンダはいままで貼り紙に気がっかずに、土足のまま部屋に入ってきていましたが、今 10 2
第 4 章アダルト・チルドレンの癒し トラウマを受けて育ったアダルト・チルドレンの癒しには、大きなポイントがいくつか あります。 1 まず、トラウマがあったことを事実として認めること。 安全な場を確保すること。 いままで心の奥底に押しこんでいた秘密や思い出を、言葉、アート、からだ、文章 などで表現すること。 子どもであった自分のせいではなかったことを自覚すること。 5 肯定的な意味づけを、害のあった経験に与えていくこと。 怒り、悲しみ、そのほかの感情に直面し、嘆きの作業をすること。 いままでできなかったこと、やりたかったこと、言いたかったことをなんらかの方 法で表現し、人生のやり直しをすること。 8 インナーチャイルドをいたわり、育てる作業をすること。 機能不全な家族で学んだ不全な思考、行動、人間関係、コミュニケーションの仕方 に注目して調べ、どんな影響があったかを分析すること。 自分を受け入れ、許し、トラウマの経験を許し、トラウマを与えた相手をできるだ け許すこと。 1 17
なんの不思議もありません。 サイコセラピストとして長い間仕事をしてきたなかで、ありとあらゆる性的虐待の話を 聞いてきましたが、プレンダの話はもっともひどいケースに入ります。母親が見て見ぬふ りをしたとか、打ち明けたときおまえが悪いと言われたり、信じてもらえなかったり、と いうのはよくありますが、これほどまでに自分のために子どもを犠牲にするのはあまり例 がありません。 その日のセッションが終わりに近づいたころ、プレンダは、目に見えて動揺していまし いままで心の奥に押しこんできた出来事を表に出し 「いやなことは忘れてしまおうと、 て、これが事実だったんだと認めることは難しいことなんですね。本当に、誰にも守られ て育たなかったということが、よくわかってきました」 彼女はため息をつきました。 「うんと自分にやさしくして、守ってあげなさい。なにがあっても二度とあなたがあなた のなかの傷ついた小さな自分のなかの子ども ( インナーチャイルド ) を見捨てないってこと を、何度も何度も繰り返して言ってあげなさい」 とプレンダに言って、プレンダが重い足取りでオフィスから出ていくのを見送りました。
目を閉じて、からだをゆったりさせます。ソフアにもたれかかってもいいし、横になっ てもいいし、一番ラクな姿勢をとります。 大きく、二、三回息を吐いたり吸ったりします。次にゆっくりと静かに呼吸をし、空気 が鼻から出たり入ったりするのに注目します。 からだと心がリラックスしたら、胸のなかに自分自身が子どもである姿を思い浮かべま す。何歳ぐらいか。どんな服装をしているか。どんな髪のかたちか。どんな表情をしてい るか。悲しそうか、楽しそうか。太っているか、それともやせているか。しばらくこの子 どもを見守ってみます。 それからこの子どもにゆっくり、安全に、近寄ってやさしく声をかけてみます。この子 どもがいつも言いたくても一言えなかったことがあったら聞いてやります。 「どんなことがあっても、あなたを見捨てたりしませんからね」と、無条件に愛を与えて やり、なにかこのインナーチャイルドが、一緒にしたいことがあるかどうか聞いてみま す。しばらくいっしょに遊んだり、話をしたりしてみます。 「あなたは存在するに値する人間なのですよ」 「あなたは心が傷ついて悲しかったけど、もう大丈夫。自分のなかにある力を信じてね。 これからは一人でなくいっしょに成長しようねーなど、この子どもの存在を認め、受け入 100
4 ボティーセラピー【心の傷は無意識のうちにからだのあちこちに蓄積されていますの で、からだを動かすことによって解き放ちます。ョガ、太極拳、呼吸法、ボディ 1 ・ムー プメント、ダンス、散歩など、からだを動かして、自分の心とからだの結びつきを認知し ます。 5 イメージセラピー〕心の傷のイメージを、目をつぶってリラックスしながら心に思い 浮かべたり、心の傷の癒される過程を指導にしたがってイメージしていきます。インナー チャイルドの作業もこれに入ります。 6 メティテーション【からだや自分の心の奥からのメッセージに注目します。また、ア ダルト・チルドレンは、反射的に行動したり、あれこれと先回りして心配して落ち着かな かったりするので、静かにゆっくりと呼吸に注目しながら行う瞑想は大変役に立ちます。 7 話し合い【自分の心の傷の経験を話し、わかちあって、お互いに支え合いカづけま す。みんなに聞いてもらい認めてもらうという行動は大きな癒しになります。 8 リプロセス〕サイコドラマ ( 心理劇 ) などを組み合わせた体験的な精神療法で、自分 の過去の傷を再現することで傷を洗い流し、こうあってほしかった、という場面や人間関 係を設定して、人生のやり直しをし、古いトラウマを癒します。 リ 0
たことをやるのが遅いといっては叩かずにはいられませんでした。 息子が小さかったとき一度などは九階のマンションのべランダから逆さにつるして「落 としてやる」と大声で叫びながら脅したこともあります。正夫が登校拒否をする日が重な るにつれて、加代子のフラストレーションは高まり、ほんのささいなことで、怒りは息子 へと発散されました。加代子自身のうつ状態もひどくなっていましたが、自分がうつであ るということにさえ気づかずにいたのです。 そんなとき読んだ児童虐待についての本のなかに加代子は自分を見い出し、自分はどこ かおかしいと思いはじめ、切羽つまって斎藤学先生の診療所へ連絡をとりました。 そこで斎藤先生が二十数人の日本人を連れて、サンフランシスコでの西尾和美ワ 1 クシ ョップに参加することを知り、加代子はすぐにこのワークショップに参加することを決 め、サンフランシスコにやってきました。 ス 私のリプロセス・リトリ 1 トのワ 1 クショップは、加代子にとってはかなりショッキン セ ログなものでした。 プ この場ではじめて加代子は自分がアダルト・チャイルドであることを知り、小さいとき 章の深い傷が癒されておらず、その傷に現在も振り回され、自分の行動がコントロールされ 第てしまっていることに気づきました。
夜、父親は綾子のふとんのなかに入ってくるようになりました。綾子は「おまえがお母 さんのかわりになるのは当然だ。秘密にしろ」と言われて、恐布におののき、沈黙を守り ました。一人になったときしか泣けず、毎日が地獄のようで、不安でからだがふるえ、頭 痛や下痢がよく起こるようになりました。 綾子が自分がアダルト・チャイルドであることに気づいたとき、どうして伝統的な医学 では自分が回復しなかったのかがわかってきました。自分の心の傷を癒さないかぎり、傷 を押さえこもうとする自分を裏切って、からだが悲鳴をあげるのです。 綾子のように、心身症に長い間悩んで、心の傷をからだの病気としてあらわしている 人々は多いのです。暴力を振るったり、怒りが爆発するような人と結婚している人のなか 病 には、問題があまりにも大きすぎて直面できず、心身症という病気で問題をあらわしてい 出る人が多くいます。 み 生 もちろん誰であっても恐い相手といっしょに暮らしていればからだが弱ってしまいます 傷が、こういう人たちの背景を調べてみると、同じように暴力を振るったり怒りを爆発させ の 、い るような人がいる家族のなかで育っており、自分の親も心身症や自律神経失調症などで 章弱々しく生きていたということがわかることがあります。 第 とくに日本では、からだの病気はまだ受け入れられますが、心の病気、精神的な病気と