今度実家に帰ったとき、お父さんと特別に楽しい時間をとって過ごしたいと思っていま す。お父さんの健康と心の安らぎを祈っています。ーーー愛する娘より」 という手紙をメアリ 1 は書きました。この手紙を、私に読んで聞かせたとき、また大粒 の涙が彼女のほほを伝いました。 , 彼女は、思い切ってこの手紙を父に出すことにしまし た。もしこれでも父の虐待がすこしも止まらない場合には、なるべく接触をさけることに しました。私のカンでは、父の心の扉が少しだけ開くような気がしていました。 思ったとおり、メアリーがクリスマスに実家を訪れたとき、メアリーの父は一度も怒鳴 ったり、怒りが爆発することはありませんでした。母からは「手紙を出してくれてありが とう。お父さんはあれ以来、一生懸命、自分の一一 = ロ葉に気をつけているようなのーと感謝さ れました。 メアリーは、もっとはやく気がついて勇気を出して父に向かい合うべきだったとほっと し、恐れでいつばいだった過去を笑って振り返ることができるようになりました。 メアリーはその後、子どもたちが苦しんでいたことに気がっかなかったという母にも、 手紙を書きたいと言っています。こうして、彼女の癒しは、一コマずつ適切なかたちで起 こっています。メアリ 1 が、仕事上、ほかの医者のことを、ビクビク恐れたりまわりを必 要以上に心配したりしなくなるのは、もうすぐのことでしよう。 126
の最中になかに入って止めようとして、自分がケガを負ってしまったり、怖くて止められ なかったことで罪の意識にさいなまれたり、両方からどちらかに味方するように言われた り、親がけんかをするのは自分のせいだと思ったりして、子どもたちはとてもつらい思い をしています。 たいてい、こういう経験をした人は、「自分は、絶対両親のような結婚はしない 自分に誓うのです。 メアリーの場合【メアリーの父親は、母親に対する怒りの爆発が習慣になっていま した。母親がなにか言った、まちがった、と言っては怒鳴り散らしました。母親はそ のために、頭が痛かったり、胃の調子が悪かったり、疲労がひどいといった心身症の 症状が絶えませんでした。 母親はメアリーに毎日あれこれと父親のぐちを言いました。しかし、父親に向かっ てはっきりものを言うことはありませんでした。家族はいつもびくびくして父親の顔 色をうかがわなければなりませんでした。 ある日、母親の親戚の人がやってきたので、母親がとっておきのお皿を用意してい ると、父親がものすごい勢いで怒鳴りはじめ、「この売女」「このバカヤロ 1 と、
もう、お父さんへの怒りは捨てます。お父さんとは大人の人間同士として、健全な関係 をもちたいと思っています。今度、いっしょに軽い山登りでもしたいと思いますがどうで しよう」 というように、攻撃や非難をしない、思いやりに富んだ手紙を書きます。こういう手紙 ゞ書けるようになるには、相当時間がかかるかもしれません。何度か練習しているうち に、心の準備ができるときがきますから、あせらないで、ゆっくりやっていきましよう。 あまりにもつらかったら、サイコセラピストなどの専門家から支援を受けましよう。も し しこうして書いた手紙が、真に相手に愛を送るものであり、人間関係を改善していくのに の助けになるようなものであった場合は、実際に相手に送ってもいいでしよう。信頼する仲 ン レ 間や、サイコセラピストに最終的な手紙を本当に出してもよいかチェックしてもらうとよ レ いでしよう。 チ こうして自分と心を傷つけた相手を許していくことによって、自分の癒しは深まりま ルす。 ダ ア ここで、第 2 章に登場したメアリ 1 の手紙を紹介しましよう。メアリ 1 は、ひどく怒鳴 までも家族を訪ねるたびに、父親は人格 章って怒りを爆発させる父親に育てられました。い 第をさげすむような言葉を母や自分に浴びせたり、大きな声で怒鳴り散らします。メアリー 1 2 1
鳴られるのを見てつらかったでしよ。 小さな子どもだったからコチコチに凍りついてなに も助けてやることができなかったものね。 もうそんな罪悪感は、もたなくていいのよ。メアリーちゃんのお母さんが、大人だった んだから、なにかできたはずでしよ。怒鳴り散らす人のまわりにもういなくていいんだか ら安心してね。オドオドする自分を解き放してやりましようね。メアリーちゃんを本当に 愛して、大切に思っていますよ」 こうしたいたわりの手紙を何通か自分に書きました。涙が出て、しばらく止まらなかっ たそうです。これが済んでから、最後の第四段階の作業にかかりました。 「お父さん。いま私は、ゝ しくつかの理由でこの手紙を書いています。まず、お父さんとの 人間関係をよくしたいと思うからです。次に、お父さんに、私を育ててくれた感謝をした いからです。そして、私が子どものとき、どう感じたかを述べたいからです。 お父さんの育った家族は、 ) しったん誰か気に入らないことをすると、何十年も一言も声 をかけないといった家族でしたね。私はそんなことを家族の伝統にして繰り返したくない と思っています。お父さんと健全な関係をもちつづけたいと思います。私は、お父さんに 対して、本当に愛情をもっています。 お父さん。私は子どものころから、お父さんの怒りの爆発にビクビクして暮らしていま 124
親戚の前で母親を罵り、母親は気を失って倒れてしまいました。親戚は居間に逃げて しまい、メアリーは恐れで声も出ず、ただオロオロするばかりでした。 しばらくして、母親は立ち上がり、なにごともなかったかのように振る舞って、お 客さんたちの世話をしはじめました。家族も親戚も全員なにごともなかったかのよう なふりをして、ニコニコとタ食を食べ、誰一人としてそのことを持ち出す人はいませ んでした。 同じようなことは、何回も何回も起こりました。 の 父親の怒りの爆発が止まってほしいという気持ちと、だまっている母に対する怒り がこみあげて、メアリーは勉強も手につかなくなってしまいました。 て っ 起 このように夫婦関係がうまくいかない場合、離婚という方法もありますが、たとえ親が 離婚していても、ひどく憎しみ合って常にけんかが絶えなかったりする場合には同様に子 な どもは傷つきます。アメリカでは二—三組に一組の割合で離婚が起こっていますが、日本 家でもこれからもっと増えてくるでしよう。離婚や再婚はそれだけでも子どもにとってトラ 章ウマになるのに、両親が醜く争って子どもを互いに自分のほうへとひつばり合うのは非常 第に傷つく体験になります。
第 4 章アダルト・チルドレンの癒し られましたね。大声で怒鳴られて、足がすくんでしまいました。まるで、催眠にかかった ように、子どものときにもどってしまったんです。私が悪いと思ってしまったんです。 子どものとき、お父さんの気分を毎日うかがって、今日はどうだろう、今日はまた怒ら れるだろうかと、おどおどして暮らしていました。本当に怖かったんです。なんの理由も なく、いつどこで爆発するかわからない怒りを恐れ、私は早く家を出ていくことばっかり 考えていました。 家の外の人たちには、とても楽しい仲のよい家族のように振る舞うのに、家のなかは真 っ暗でつらかったんです。お母さんをひどい言葉で罵ったとき、私はお母さんがかわいそ うで、いてもたってもいられませんでした。 いまでも仕事で、ほかの医者たちとすこしでも言い争いをすると、私はガタガタと内心 ふるえてしまいます。すべてをなるべくまるくおさめようと、必要以上の努力と心配をし て疲れてしまいます。 もう、こんな子どものときと同じようなオドオドした生活はやめたいです」 というものでした。 次の、第三段階では、自分に対する癒しの手紙を書きました。 「メアリーちゃん。子どものとき大変でしたね。お母さんがお父さんに親戚の人の前で怒 12 3