庭の木が教えてくれたこと 私の家の庭に、チャイニ 1 ズ・エルムというとても優雅な木があります。 私の家は、一一〇年ほど前にイタリア移民の農夫が建てたものでしたが、あまりの年月 を経て倒れそうになっていたので、七年前に家を建て直して、庭には露天風呂とサウナを 備えることにしました。 茂みや草を取り除く作業をしていると、そのなかに五〇センチぐらいのやまぶきの親類 のような葉をした、ひょろひょろした潅木があるのに気づき、サウナをその横に作りつけ ました。 私が住んでいる北カリフォルニアでは、五月ごろから一〇月ごろまで雨がめったに降り ません。この家に住んで以来、庭に水などやったこともない私でしたが、その出会いを機 に、このやせつばっちの潅木にときどき水をやることにしました。すると、突然、このが さがさした潅木はによきによきと伸びはじめ、四年間で九メートル以上の大きな木になっ てしまいました。 夏になると、そのとてもしなやかな葉がさらさらと風に揺れ、露天風呂に入る私の目を 楽しませてくれます。木の専門家に見てもらったら、これはチャイニーズ・エルムという
秘密があまりにも多い家族 こも言ってはいけないこと、家の外へは出して いろいろな秘密があって、家のなかの誰冫 はいけないこと、親に聞いても答えてもらえない家のなかの秘密など、さまざまな秘密の ある家族は機能不全な家族です。 これまでの例のなかに見てきたように、もちろん性的虐待がある家族では、加害者から 「誰にも言うな」と秘密が強いられます。家のなかでも外でも話すことができず、被害者 は孤立してしまいます。「自分はみんなとは違っている」「自分はもう傷ものでだめになっ てしまったんだ」という思いで誰にも助けを求めることができなくなってしまうのです。 親がギャンプルやアルコール、薬物に依存している場合や、浮気がある場合も秘密の多 い家族になります。家のなかに精神病の人がいたり、知恵遅れの人がいたり、遺伝病があ って沈黙を強いられる場合もあります。暴力、刑事事件、詐欺などが起こっている家族、 子どもになにかと問題がある家族なども、秘密を守るよう圧力がかかる家族です。 そのほか、世間体を気にして、なにからなにまで他の人に言うなと口止めされ、自由に 意見や感情を出せない家族も機能不全な家族です。また、子どもが私生児で、結婚前にで きた子どもであったことを隠しているなど、自分や家族のメンバーの背景に秘密をもちオ
第 4 章アダルト・チルドレンの癒し られましたね。大声で怒鳴られて、足がすくんでしまいました。まるで、催眠にかかった ように、子どものときにもどってしまったんです。私が悪いと思ってしまったんです。 子どものとき、お父さんの気分を毎日うかがって、今日はどうだろう、今日はまた怒ら れるだろうかと、おどおどして暮らしていました。本当に怖かったんです。なんの理由も なく、いつどこで爆発するかわからない怒りを恐れ、私は早く家を出ていくことばっかり 考えていました。 家の外の人たちには、とても楽しい仲のよい家族のように振る舞うのに、家のなかは真 っ暗でつらかったんです。お母さんをひどい言葉で罵ったとき、私はお母さんがかわいそ うで、いてもたってもいられませんでした。 いまでも仕事で、ほかの医者たちとすこしでも言い争いをすると、私はガタガタと内心 ふるえてしまいます。すべてをなるべくまるくおさめようと、必要以上の努力と心配をし て疲れてしまいます。 もう、こんな子どものときと同じようなオドオドした生活はやめたいです」 というものでした。 次の、第三段階では、自分に対する癒しの手紙を書きました。 「メアリーちゃん。子どものとき大変でしたね。お母さんがお父さんに親戚の人の前で怒 12 3
他人の目を気にする、表面だけよい家族 お金があっていい家やマンションに住んでいる、仕事で高い地位についている、子ども が名の通った有名学校に通っているなど、表面的に見栄えのすることばかりを重視する家 族もまた機能不全家族です。 こういう家族では、子どもの人格の成長、幸福さ、楽しく生き生きと生活することなど は二の次で、そうしたことにまったく注目しません。 「みんなに笑われるからそんなことしちゃだめ」「いい大学に入れなきや、近所の人に会 わせる顔もないー「お父さんの地位に泥をぬるようなことはしないで」「こんなことを外の 人に言ってはだめよ」などと、人の目に自分たちがどううつるかばかりを気にし、「お金 がなんといってもいちばん大事よ」とお金を適切に使わずに貯蓄ばかりを気にしたり、反 対になんでもお金で始末しようとしたり、お金で愛情が買えると思いこんでいるのは機能 不全家族です。 定子の場合【定子の家は父が部長だったので、お客さんや部下の人が訪ねてくるこ とがよくありました。母は、何から何まで仕切っており、ごちそうづくりに忙しかっ
当に妹のことを思っているからなのよ」 私は彼女の話に肯定的な意味づけを与えました。 現実を認め、心の傷を語り始めることは癒しの第一歩ですが、その語られたことがらに 新しい解釈を与え、肯定的な意味づけがされることが必要です。プレンダの場合、相当な トラウマになっていますので、簡単な肯定的な意味づけではとても足りません。少しでも 悲しい経験のなかで、長所や肯定的な点があればそれを見つけて再構成 ( リフレイム ) し ていく必要があります。踏み潰されて、傷つけられたプレンダの自尊心をつくりあげてい く作業が必要でした。 受け継がれていた性的虐待 プレンダが、一〇歳のときから、一七歳になってついに家出をするまで、性的虐待はっ づいていました。妹の場合は、一二歳から一七歳までつづきました。 どうしてもっと早く家から出なかったのかと不思議に思うかもしれませんが、プレンダ は父から「世の中はそんなに甘くない。危険がいつばいだ。家のなかは安全だけれど、い ったん家の外に出たら強姦されるぞ。おまえら売春婦として売られるぞ」と脅かされ、本 当だと思いこみ、家出の決心がっかなかったのです。
アメリカでアダルト・チルドレンというコンセプトに出会って、サイコセラピスト ( 精 神療法家 ) としての私の治療方法が大きく変わりはじめたのは、一九八〇年代に入ってか らでした。 アディクション ( 依存症 ) と共依存 ( コ・デイベンデンシー ) という考え方とともに、理 論ではなく実践の場から広がりはじめたこの草の根的な運動は、私だけでなく、多くのア メリカの精神療法家に、画期的な影響をおよばしています。いままであまりはやく治らな かったかなりの精神病や心の問題をもった人たちが、急速に回復をはじめたのです。 あちこちの町で、 < ( アルコホリック・アノニマス ) をはじめとする各種のセルフヘル プグループ ( 自助グル 1 プ ) がつくられ、何百万人ものアメリカ人が毎週ミーティングに 出席し、自分の心理的な問題に真剣に取り組むようになりました。 まえかき
第 2 章家族になにが起こっていたのか てやり、秀夫がなにか欲しくてかんしやくを起こすと、すぐになんでも買い与えてや りました。しかし、この母親は下の女の子の面倒はあまり見ませんでした。秀夫がこ う言った、秀夫がこうしたといつも秀夫のことばかりを話し、悪いことはすべて妹の せいにしていました。 秀夫は長男だからと、家の用事や片づけ、掃除などはいっさいさせず、下の妹には 女の子だからといろんな用事を言いつけました。父は長期出張が多く、家のなかでは 秀夫は神様のようで、女はその召使いのようでした。 秀夫の写真はかざりますが、妹の写真はかざりません。結局、秀夫には勉強以外な にもさせなかったのです。 「秀夫ちゃんだけが大事な子なんだから、「そんなことしなくたって、お母さんがや ってあげるから。「ぜんそくが出るからお母さんのふとんに入っていらっしゃい つか二人だけで暮らそうね。お母さんをおいていっちゃったらお母さん死んじゃうか もしれないくらい秀夫ちゃんが大切よーと、溺愛して離しませんでした。秀夫が大き くなって女の子とっきあうようになっても、ガールフレンドをみな遠ざけようとしま す。
を言っていました。 一郎の父は、母が「なんとかして。あなたの両親でしよう」と頼んでも「だまって 耐えろ」と一一一一口うだけで、なにもしてくれませんでした。母が頼んでもなにもしないの に、祖父母がなにかを頼むと、父はすぐ飛び上がって言われたとおりにするのです。 そこで、母と父がけんかをして、母が家を飛び出すというシナリオが繰り返されまし 誰も味方をしてくれないので、母は一郎になぐさめを求めました。 。カ の 二郎ちゃん、一郎ちゃんは怒らないし、 しい子ね。お母さんは一郎ちゃんだけが頼 りなのよ。お母さんが年をとったら面倒見てくれる ? 」 て っ もちろん一郎は「うん。お母さん大好きだよ。大きくなったら、お母さんを幸せに 起 してやるからね。泣かないでお母さん」と、一生懸命、母をなぐさめました。一郎に 、カ は泣いたり怒ったりすることが許されず、ただひたすらいい子にして生きていくこと な になりました。 族 家 章 家庭内の両親の仲が悪かったり、 親と祖父母とのいさかいがあったり、よく怒りが爆発 第したりする家庭では、たとえ本人が直接暴力を受けなくとも、争いのなかに巻き込まれた
した。とくに、お父さんがお母さんを怒鳴りつけるとき、とても悲しい思いをしました。 お父さんをどんなに愛していても、この短気な怒鳴りつけだけは、もう私の生活のなかに 入れたくないと思っています。 お父さんは、いつもまわりの人に、うちはとても仲のよい家族だと言っていますね。私 は、ほんとうにそのとおりの家族にしたいと思っています。お父さんは、本当に幸福です か。お父さんがあんなに大事だと思っているお母さんや、私たち娘や息子を怒鳴りつける のは、お父さんが内心幸福ではないからではないでしようか。 し カウンセラーなどの専門家の助けをお父さんが得てくれることを願っています。本当に 癒 の お父さんに幸福になってほしいと思っているからです。 ン レ ときどき、お父さんにしてもらった楽しいことを思い出しています 。いい学校に送って レ くれて感謝しています。私の家の屋根が雨漏りしたとき、手伝ってなおしてくれてありが チ とう。これからお父さんと、新しい人間関係をつくりあげることができたら、このうえも ない幸せです。 ダ ア 私もいま、サイコセラピストのところへ行って、自分の欠点を直して、よりよい人間に 章なろうと思って努力しています。妹や弟たちもいっかまた家族の一員としてつどうことが 第できるよう願っています。 12 ラ
は、いまは内科医で、社会的には認められていますが、小さな子ども時代に逆戻りしたよ うになって、そのたびに萎縮してしまって、声も出せません。もう実家へ帰るのはいやだ と言うので、縁を切ってしまう前に、癒しの手紙を書くようにすすめました。第一段階の 手紙は、 「お父さんのわからず屋 ! みんながこんなにお父さんのおかげで迷惑をこうむっている のに知らないふりをして ! どれだけ私が悲しい思いをしたかわかってるの。お父さんが 怒鳴り散らすから、家族はみんなビクビクして、お父さんのご機嫌とりにあくせくしてた のよ。お母さんになんであんなひどいことを言ったの。お母さんのことを〃売女ー そったれ〃〃まぬけやろう〃なんて呼んで、あんまりじゃない。自分の息子や娘がどうし て家に近寄ってこないか考えたことがある卩お父さんなんてだいっきらい というものでした。 何週間かいろんなつらいことを思い出しては書きつづけました。自分がいままで言えな かったことが書けて、なんだかスッキリしたようです。この第一段階が済んだ時点で、毒 気のあるこれらの手紙は捨てました。 次の第二段階の手紙は、 「お父さん。この前私が家を訪ねたとき、私が扉を閉めるのが遅いといってお父さんに叱 12 2