まず、機能不全の家族のなかで非常に多いのが、両親の仲が悪かった場合です。 親がお互いに罵り合うのをイスのうしろに隠れて見ていたり、隣の部屋で聞いていたな ど、親のけんかをしよっちゅう見たり聞いたりして育った人は、それがどんなにつらくて いやだったか覚えています。 母親が父親に向かって「どうしてあなたはそんなにぐうたらなのー「しつかりしてよ。 いつまでも平社員じや世間体が悪いわ」など、いつもいつも小言を言う。ずっとだまって いた父親が、ときどき突然「うるさい ! 」と、テ 1 プルの上のものを払いのけ、「誰のお ・カ の かげでメシが食えると思ってるんだ ! 」と、大声を出して怒りを爆発させる。二人の怒鳴 り合う声が耳をふさいでいても聞こえてきてしまう。 て っ と、ごはんを投 または、反対に父親が母親に「メシがまずい。こんなもの食えるかー 起げつける。おどおどした母親がなだめようとし、父親はますますエスカレ 1 トして、暴力 を振るいはじめる。茶碗が割れたり、母親の殴られる音や、「やめて、やめて ! 」という か 6 母親の声に、母親が殺されてしまうのではないかと怖くて心が引き裂かれるように思う 族 家 章 また、両親がお互いにロもきかず、だまって憎しみ合っている場合もよくあります。子 第どもはいたたまれなくて、なんとかしなければと思ってしまいます。父親と母親のけんか
の最中になかに入って止めようとして、自分がケガを負ってしまったり、怖くて止められ なかったことで罪の意識にさいなまれたり、両方からどちらかに味方するように言われた り、親がけんかをするのは自分のせいだと思ったりして、子どもたちはとてもつらい思い をしています。 たいてい、こういう経験をした人は、「自分は、絶対両親のような結婚はしない 自分に誓うのです。 メアリーの場合【メアリーの父親は、母親に対する怒りの爆発が習慣になっていま した。母親がなにか言った、まちがった、と言っては怒鳴り散らしました。母親はそ のために、頭が痛かったり、胃の調子が悪かったり、疲労がひどいといった心身症の 症状が絶えませんでした。 母親はメアリーに毎日あれこれと父親のぐちを言いました。しかし、父親に向かっ てはっきりものを言うことはありませんでした。家族はいつもびくびくして父親の顔 色をうかがわなければなりませんでした。 ある日、母親の親戚の人がやってきたので、母親がとっておきのお皿を用意してい ると、父親がものすごい勢いで怒鳴りはじめ、「この売女」「このバカヤロ 1 と、
親戚の前で母親を罵り、母親は気を失って倒れてしまいました。親戚は居間に逃げて しまい、メアリーは恐れで声も出ず、ただオロオロするばかりでした。 しばらくして、母親は立ち上がり、なにごともなかったかのように振る舞って、お 客さんたちの世話をしはじめました。家族も親戚も全員なにごともなかったかのよう なふりをして、ニコニコとタ食を食べ、誰一人としてそのことを持ち出す人はいませ んでした。 同じようなことは、何回も何回も起こりました。 の 父親の怒りの爆発が止まってほしいという気持ちと、だまっている母に対する怒り がこみあげて、メアリーは勉強も手につかなくなってしまいました。 て っ 起 このように夫婦関係がうまくいかない場合、離婚という方法もありますが、たとえ親が 離婚していても、ひどく憎しみ合って常にけんかが絶えなかったりする場合には同様に子 な どもは傷つきます。アメリカでは二—三組に一組の割合で離婚が起こっていますが、日本 家でもこれからもっと増えてくるでしよう。離婚や再婚はそれだけでも子どもにとってトラ 章ウマになるのに、両親が醜く争って子どもを互いに自分のほうへとひつばり合うのは非常 第に傷つく体験になります。
る行動について知っている必要があります。 これらに日常的に注目していると、自分が子どもを傷つけるのを防ぐことができます。 また、子どもがアルコールや薬物、そのほかのトラブルにまきこまれたり、非行に走った りする前に、子どもがどういう状態にいるかということがわかって問題の防止ができた り、対処が早くできたりします。 母親だけでなく父親も責任をもって観察することが大切で、両親間のコミュニケーショ ンが必要でしよう。 子どもに注目するということは、子どもに共依存的にのめりこんで、コントロールをす るために何から何まで調べ上げるということではありません。子どもという一人の人間を 深く理解し、尊重するための注目なのです。 その深い理解に基づいて、親はリーダーとして、それぞれの子どもの個性を生かしなが らリードしていくのです。 子どもの話を聞く 子どもの話をしつかり聞いてやりましよう。 日本人はお説教が好きで、子どもとのコミュニケーションというとお説教になってしま
妹の記憶では、ときどき部屋のなかに母親もいて、父親が妹を犯すのを見ていたと言い ます。また、母親がほかの男とセックスをするのを、父親は妹にいっしょに見るよう強制 もしました。 ふたりは、はじめて虐待について話し合うなかで、お互いがこうむった虐待のひどさ に、抱き合って泣きじゃくりました。 ここで、プレンダは、自分が家出をするとき妹を連れていけなかったことを詫び、妹は そのときの姉のカではできなかったことを納得しました。 し この後、プレンダをいつもおびやかしていた罪悪感が少しずつほぐれていくのが目に見 癒 の えてわかるようになりました。 ン レ ノバーに帰った妹からは、これからは姉妹としてお互いを失わないように支えあって レ いきたい、自分もデンバーでサイコセラピ 1 を受けることにしたという手紙が届きまし チ た。プレンダはその手紙にとても励まされたようでした。 レ また、プレンダはその後、父がいまでも性虐待をしているのではないかと気がっき、父 ダ ア がベビーシッタ 1 をしていて何人かの子どもにいたずらをしたという疑いがかけられてい 章るということを知り、勇気を出して自分の過去と、父が近所の子どもたちのことで疑われ 第ていることを児童保護局に報告しました。 109
が、数は減りそうにありません。こういう人たちは性的虐待の悪影響で日常の生活に支障 になるような問題をもっており、生きづらい人生を送っている人が多いのです。 智子の場合〕智子への性的虐待は、四歳のときからはじまりました。 彼女が最初に覚えているのは、、 父親に空気銃で脅されて、父親のペニスを口にくわ えさせられたことです。五歳になって性交渉がはじまり、性器がさけてひどく出血 し、痛くて痛くてどうしようもなかったと言います。子どもを守り育てるべき親が、 なにもわからない五歳になったばかりの子どもに性交渉を強いたのです。 ギャンプルとアルコ 1 ル依存症の父親は、残酷にも空気銃で猫を撃ち殺したり、智 子がセックスをいやがると空気銃の柄で気を失うほど殴りつけました。 父親がセックスをせまってくることを母親にいうと、「おまえが悪い。おまえがか わいくないからやられるんだ」「末っ子のくせにいじけているからそういう目にあう んだ」と智子のほうが責められました。こうして智子は誰にも守られず、性的虐待は 思春期になるまで続き、黙認されたのです。 そのうち智子は兄からも性的虐待を受けるようになりました。なにかにつけ父親か ら殴られても、家族全員から「おまえがプスだから殴られるんだ」「殴られてあたり
子どものときに性的虐待があった家族は、 ) しうまでもなく機能不全な家族です。加害者 は父親、継父、祖父、おじ、兄などが多いですが、ときには母親が加害者になることもあ ります。 ペドファイルといって、子どもでないと性的に興奮せず、自分はなにも悪いことをして いないと信じこんでいる男たちもいますが、なんらかの心理状態や、機会があったため に、ふつうは大人の女性とセックスをもてるのに、子どもにセックスを要求してしまう男 たちもいます。 私が出会ったペドファイルのある男性は「刑務所から出てきたら、政治運動を起こし て、大人と子どもがセックスしてもよいという法律をつくるよう努力したい」と堂々と一言 っていました。子どもがどんなに傷ついているかはまったく考えていないようでした。自 分の子どもだけでなく、だれかれかまわず暴行するような、こうしたタイプのペドファイ ルの治療は非常に難しくなります。 もう一方の、もともとペドファイルではないのに、子どもにセックスを要求してしまっ た加害者たちというのは、自分の子どもへの近親姦であることが多いものです。またその 理由も、妻との関係がうまくいっていなかったり、情緒が未発達で自分を制御する力が欠 【性的虐待】
ではここで、機能する家族をつくるうえで、親としてどのように子どもに接していった らいいのか、二、 三、ポイントを押さえておきましよう。 コミットメント ここでいうコミットメントとは、親としての自覚をもち、真剣に子育てに取り組むと ) う姿勢のことです。子育ては母親だけにまかせておかないで、父親も責任をもって自分の 子どもの人間形成に貢献していく必要があります。 「この子どもは、私たちの息子なんです」「私たちの娘なんですーと、自分の子どもであ ること自体に価値があることを自覚することです。子どもにとって、自分に安全な居場所 があるという所属意識は、なくてはならないものなのです。親に無条件に認められ、愛さ とれ、受け入れられているという感じを抱くことは、健全な人間性をつくりあげていくため 家の基本的な条件です。 る す 「男の子だったらよかったのに」などという一一 = ロ葉が自分の口から出て、子どもをあるがま 匕ヒ ム月 機まに受け入れられない自分を見つけたら、もう一度自分の子どもに対するコミットメント 章を考え直して見てください。 第 自分にとってこの子どもは自分の大きな課題であるという心がまえと、どのように子ど 193
で聞いてもらった後、また少し気持ちが和らいだでしよう。記憶をノ 1 トに書いていった とき、肩の荷が降りたような気がしたでしよう。 癒しのはじまりというのは、こういうことなの。とくに、性的虐待は、暗い秘密の部分 が大きいから、その秘密の詳細を、なるべく完全なかたちで表に出すということが、大切 なステップになるの。こういう問題で悩んでいる人は、あなた一人じゃないことを忘れな 私はそういって、先週のつづきを話してくれるようにうながしました。 彼女は今度は母親と妹との間にあったことを話してくれました。 「私はいつも母から″おまえがお父さんのところへ行かないと私がひどい目にあうから、 と頼まれて、しかたなく父のところ お願いだからお父さんのところへ行ってちょうだい〃 に行っていました。 私がとても耐えられなくなって自分のべッドから出ていかなかったときは、両親の寝室 からものすごい父の怒鳴り声と、母をぶっている音が夜通し聞こえました。 次の日の朝、あざで真っ黒にはれあがった母の顔を見るとかわいそうで、そういう日の 夜は、しかたなく父のべッドに行きました。 ほとんど毎日つづくこともあれば、一カ月ぐらいなにもないときもありました。週に
だめなことがわかっています。ギィーツという扉の開く音とともに、母親が部屋へ入って きて、プレンダのべッドカバーをはぎ取り、「プレンダ、プレンダ。お父さんがお呼びだ よ。すぐにこちらへおいで」とゆすり起こします。 プレンダはしぶしぶ起きあがって両親の寝室に母といっしょに歩いていきます。母はま るで能面のような表情のない顔で、操り人形のようにふらふらとした足取りで音も立てず に歩き、プレンダが部屋に入ったのを見届けます。そして、自分は台所のほうへ行ってし まいます。 父カ裸になってべッドのうえに座っています。プレンダがためらって 部屋のなかには、、、ゝ いると、父は「ぐずぐずしないで早く来い ! 」と怒鳴ります。プレンダがべッドに近寄る とぐいっと引き寄せ、いやな口臭のするロで気持ちの悪いキスをはじめます。耳や首にも キスをしながら、パジャマを脱がせ、からだをなめまわします。そしていつものように、 父の固くなったペニスをプレンダのロに無理矢理押しこめます。 ) 。いやだ」と答えると気を失 「どうだ、おいしいか」と、父が聞きます。「おいしくなし うほど殴られることがわかっているので、「おいしい」とプレンダは答え、ビクビクしな がらオーラルセックスのやり方をいろいろ工夫します。うまくやれなければまた殴られる のです。