つくこともあるし、相当ひどい虐待でも、本人の生まれもった気質のおかげで、たいした 傷にならないこともあるでしよう。また、本人が何の心の傷も受けなかったと思いこんで いても、他人から見ると心の傷のために日常生活に支障をきたしているように見える場合 や、その人のまわりでいろんな問題が起こっている場合もあります。 将来の人生の生き方に問題が起こってくるような精神的虐待や言語的虐待がある機能不 全家族とはどういうものかをはっきり定義することは難しいことです。しかし、これから あげていく例を見れば、子どもの人格の成長が支えられていないことがわかり、子どもの の 心を傷つけるような家庭があるということを納得する人は多いでしよう。 具体的な虐待ではなくても、親の仲が悪くていつもけんかをしていたり、怒りが爆発し つやすい家族、愛がなくて冷たかったり、憎しみに満ちている家族、他人や兄弟姉妹と比べ 起られたりえこひいきがあったり、親の期待が大きすぎる家族のなかでは、子どもは精神的 、カ に傷ついていきます。 な こ 親からのコントロールや抑圧がある家族や、その反対に過度に子どもを甘やかし、溺愛 家する家族や、他人の目を気にして表面的にだけよく振る舞う家族、いつも親が不在な家 章族、あまりにも秘密がありすぎる家族や、親になんらかのアディクション ( 依存症 ) があ 親と子どもの関係が逆になっているような家族といったものも、子どもへの精神 第ったり、
など、自分を傷つけてくることにばかり注目し、大きな自分たちがどんなに小さな子ども たちを傷つけているかには気がっきません。力のバランスから見れば、子どもが親を傷つ けるより、親が子どもを傷つけるほうがずっと多いはずなのですが。 家庭内暴力で、子どもが親に暴力を振るう場合でも、よくみてみると、親が身体的、精 神的に子どもを傷つけていた場合や、極端に甘やかしていた場合など、理由がある場合が 多いのです。 身体的、性的、精神的、一一 = ロ語的虐待は、ひとつずつはっきり独立して起こるものではな く、いろんなものがミックスされて起こるのが一般的ですが、ここでは、身体的虐待があ る家族、性的虐待がある家族、そして、精神的、一一 = ロ語的虐待がある家族を見ていきましょ 「あなたは親や保護者から、身体的な虐待を受けたことがありますかーと聞くと、多くの 人は「いい え、そんなことはありません、と答えます。けれども、「あなたは、親や保護 者から叩かれたり押されたりしたことがありますか」と聞くと、「ええ、そのぐらいはあ りますよーと答える人が多いものです。 【身体的虐待】
アメリカでアダルト・チルドレンというコンセプトに出会って、サイコセラピスト ( 精 神療法家 ) としての私の治療方法が大きく変わりはじめたのは、一九八〇年代に入ってか らでした。 アディクション ( 依存症 ) と共依存 ( コ・デイベンデンシー ) という考え方とともに、理 論ではなく実践の場から広がりはじめたこの草の根的な運動は、私だけでなく、多くのア メリカの精神療法家に、画期的な影響をおよばしています。いままであまりはやく治らな かったかなりの精神病や心の問題をもった人たちが、急速に回復をはじめたのです。 あちこちの町で、 < ( アルコホリック・アノニマス ) をはじめとする各種のセルフヘル プグループ ( 自助グル 1 プ ) がつくられ、何百万人ものアメリカ人が毎週ミーティングに 出席し、自分の心理的な問題に真剣に取り組むようになりました。 まえかき
の て っ 起 、カ な 家庭のなかに、ひどい精神的な虐待や言葉の虐待がある機能不全家族もあります。たい 家ていの親は、子どもを罵ったり、馬鹿にしたり、コントロ 1 ルしてしまったことがあるで 章しよう。ぐずる子どもに「もう置いてくからね」と置いてきばりにしたとか、愚痴をきか 第せる、批判するなど、するつもりはなくてもある程度の虐待の経験があるはずです。 まえだ」と言われ、とりあってもらえませんでした。 セックスと暴力のなかで、家族といっしょにいるのが恐ろしく、いつも悪夢にうな され、心臓がどきどきし、汗びっしよりになることが多かったと一言います。 母からは、「お父さんが子どもとセックスしたなんて、誰にも一言うんじゃないよ。 おまえの頭が変たと思われるからね」と言われました。だんだん智子は本当に自分の 頭がおかしいのではないかと疑いはじめ、あまりの苦しさに、これは絵本のなかの出 来事で、本当に自分には起こっていないのだと思いこもうとするようになりました。 このケ 1 スのように、一人だけでなく父親にも兄にも強姦されたりなど、複数の保護者 から性的虐待を受けているアダルト・チルドレンは何人もいます。 【精神的、言葉の虐待】
心を癒す仕事 私のところへ相談にくる人たちは、弁護士、警察官や医者から、カウンセラー、主婦、 作家、自営業者まで、ありとあらゆる職種の人々です。年齢も三歳から八五歳までと幅広 く、日本人も含めて、さまざまな人種の人たちがやってきますし、彼らの出身国は数え切 れません。 相談にくる問題では、圧倒的に多いのが人間関係や家族の問題です。各種の精神的な病 い、たとえばうつ病、不安症、アルコールや薬物依存症、摂食障害などで治療にやってく る人たちも、よく家族関係を調べてみると、子どものときに家族から心の傷を受けて育 ち、それがいまでも影響していたり、そのために現在の人間関係がうまくいっていない場 合がかなりあります。 彼らに対して私が行っているような精神療法 ( サイコセラピー ) やカウンセリングは、ア メリカではその効果が認められ、一般的に広く受け入れられており、健康保険もききま す。 サイコセラピストの訓練された耳で聞いてもらうのは、友だちや家族に話を聞いてもら うのとはまったく違います。サイコセラピストは、どんな相談でも受け入れてくれ、その
私がアメリカへ来て、かれこれもう二五年ほどになろうとしています。この間、臨床心 理学を勉強し、精神療法家 ( サイコセラピスト ) としてカリフォルニア州で仕事をしてきま したが、日本との橋渡しをするときが来ました。 この橋渡しをする活動を可能にしてくださった二人の先生に感謝の意をここであらわし たいと思います。一人は慶応大学の小此木啓吾先生で、もう一人は、家族機能研究所の斎 藤学先生です。私は一九八〇年に、博士論文を書きはじめましたが、テ 1 マは日本とアメ リカの精神療法 ( サイコセラピー ) との比較で、文化的な問題が、日本にいる日本人と、ア メリカにいる日本人との間でどのように違うかについての研究でした。その際、日本側の データを集めていただいたのが小此木啓吾先生でした。小此木先生には、それ以来おっき あいしていただいておりますが、なにかと日本とアメリカの私の仕事の支援をしていただ 亠のとが」 203
リプロセス・リトリートとはなにか 長い間私がアダルト・チルドレンの精神療法にあたっていて気がついたことは、たとえ どんな症状でわたしのところへ治療にきている人でも、なんらかのかたちで、育った家族 のなかで心の傷を受けており、その傷の癒しに焦点をおいて治療すると、その人たちのい ろいろな症状が消えてしまうということです。 一九八〇年代になって摂食障害の人たちゃ、共依存の人、性的虐待を受けて育った人た ちが続々と私のところへやってくるようになりましたが、こういう人たちの多くは、子ど ものとき機能不全な家族で相当な心の傷を受けて育っており、一対一の話をするトークセ ラピ 1 だけでは、なかなか回復しないことがわかりました。 そこで、もっと効果的な方法としてつくりあげたのが、リプロセス・リトリートです。 これは、さまざまな精神療法のなかで、とくに効果のあったやり方を組み合わせたグル 1 プワ 1 クで、以下のような内容から成り立っています。 リチュアル〕セレモニ 1 、儀式。たとえば離婚式をやってみるなど、自分の問題に決 着をつける機会として行います。また、ワ 1 クショップのはじまりに行うリチュアルは、 128
いることが多く、機能不全な家族から学んだ行動、言葉、思考、コミュニケーションの方 法は、自分と自分のまわりの人をみじめにしていきます。ときには、自分がどんなにみじ めな状態にあるのかわからない人もいます。 アダルト・チルドレンの抱える問題にはさまざまなものがあります。 さまざまな精神病 アダルト・チルドレンは各種の精神病ーーーうつ病や不安症、心身症になりやすいもので す。もちろんこうした病気の原因は、体質や環境、遺伝も関係するので、いちがいにアダ ルト・チルドレンはみんなこうした病気になるとはいえないし、こうした病気になる人が 病すべてアダルト・チルドレンであるともいえませんが、こうした病気になった人の背景を 出みると、やはりアダルト・チルドレンである場合が多いのです。 み 生 三五歳の綾子は、父が訪ねてくるたびにからだの具合が悪くなって入院してしまいま 傷す。綾子は一年に三回ぐらい入院しますが、必ずといっていいほど、父親が訪ねてきたと の きでした。 ひどい頭痛や嘔吐、下痢、冷や汗、吐き気、ふるえ、胸がどきどきして不安になるなど 章 第の症状が出て止まらず、食欲もなくなって結局入院ということになります。通常も、肩が
てしまゝ、ほかの子どもが必要としている具体的な愛情表現が与えられなかった場合も、 子どもは傷つきます。 もちろんどんな家でも病人が出る可能性はありますし、ある程度の留守はしかたのない ものです。しかし、長い間親のかわりになる人がいなかったり、子どもの身体的、精神的 なケアを放っておいてしまうことは非常に問題です。 度を越した親の不在、ふれあいのなさは、子どもに見捨てられた感じゃ、不安を与えて しまうのです。また、永遠に帰ってくることのない親の死や自殺も、子どもの心に大きな 傷を残します。 親の期待が大きすきる家族 親の期待が大きすぎるために、何をやっても親に満足してもらえないという家庭も機能 不全家族です。 夢中になって自分のできる範囲を超えてまでがんばりテストでいい点をとっても、親か ら「どうしてここのところを間違えたの」と、小さなミスを見つけられて、悪いところだ けを指摘される。「よくやった」とは一言ってもらえず「こんなことあたりまえでしよう」 「そんなこと、誰だってできるわーとぜんぜんほめてもらえなければ、子どもは無理をし
どんなに子どもを愛そうとしている親でも、子どもが言うことを聞かなかったり、自分 がなにをやってもうまくいかずフラストレ 1 ションがたまったときは、子どもに八つ当た りしてしまったりします。夫や妻、そのほかの人に批判されたときなども、つい弱い子と もにしわよせがいってしまいがちです。子どもを育てることは並大抵のことではありませ んし、どんなに努力しても誰だって完璧な親にはなれません。子どもにもよりますが、あ まり度がひど過ぎず、回数がそれほどでもなかった場合には、愛情さえ伝わっていれば、 子どもは柔軟なので取り返しのつかないような心の傷がつくことは少ないものです。 ただ、小さいことでも、回数が重なってパタ 1 ンになっていたり、強度が強かったりす ると、大きな心の傷となります。 子どもをほめることができず批判ばかりし、ロ答えを許さなかったり、他人や兄弟姉妹 と比べて悪い待遇しか与えられなかったりすると、子どもは自分を肯定的に見ることがで きなくなります。 仲が悪く、怒りの爆発する家族 具体的な虐待ではなくても、家族のつくりだす関係性によって、子どもが精神的に傷つ く場合があります。