が、数は減りそうにありません。こういう人たちは性的虐待の悪影響で日常の生活に支障 になるような問題をもっており、生きづらい人生を送っている人が多いのです。 智子の場合〕智子への性的虐待は、四歳のときからはじまりました。 彼女が最初に覚えているのは、、 父親に空気銃で脅されて、父親のペニスを口にくわ えさせられたことです。五歳になって性交渉がはじまり、性器がさけてひどく出血 し、痛くて痛くてどうしようもなかったと言います。子どもを守り育てるべき親が、 なにもわからない五歳になったばかりの子どもに性交渉を強いたのです。 ギャンプルとアルコ 1 ル依存症の父親は、残酷にも空気銃で猫を撃ち殺したり、智 子がセックスをいやがると空気銃の柄で気を失うほど殴りつけました。 父親がセックスをせまってくることを母親にいうと、「おまえが悪い。おまえがか わいくないからやられるんだ」「末っ子のくせにいじけているからそういう目にあう んだ」と智子のほうが責められました。こうして智子は誰にも守られず、性的虐待は 思春期になるまで続き、黙認されたのです。 そのうち智子は兄からも性的虐待を受けるようになりました。なにかにつけ父親か ら殴られても、家族全員から「おまえがプスだから殴られるんだ」「殴られてあたり
忘れないでください。そんなときこそ、健全なコミュニケーションの技術を提供するチャ ンスなのです。 子どもの話を途中で切ってしまったり、自分の話に切り替えてしまわないよう気をつけ てください。かといって黙ったまま聞くのではなく、ときどきはあいづちをうち、話にち ゃんと耳を傾けてるよということを態度で示してあげましよう。こういう小さな基本的な ことが大切なのです。 次に、適当にリフレクト ( 反映 ) することを学びましよう。聞いたことに対して「こう いうことを言っているんだね」と、子どもが言ったことを繰り返して言ってあげることで す。繰り返しができること自体が子どもの話をよく聞いていたという証明になり、子ども は理解してもらえたと思うのです。もし間違って聞いていた場合には、子どもは「そうじ ゃないよ」と訂正することができるわけです。 子どもから、自分がリフレクトして言ったことの間違いを指摘されても、論争をして子 どもを圧倒したりせず、受け入れてあげましよう。といって、子どもにこびて、なんでも かんでも同調する必要はありません。その子の言っていること自体をそのまま「こう言っ たんだね」とリフレクトしてやるだけでいいのです。 話をするということは、その目的も大切ですが、話をするプロセス自体が重要なので 200
第 2 章家族になにが起こっていたのか ウエンティーの場合【ウエンディーの両親はなにかにつけて言い争いが絶えません でした。父は「もうこれ以上がまんできない」といって、ある日突然家を出ていって しまいました。 母は半狂乱になって父を捜し回りましたが、「おまえのせいだ。おまえが一一 = ロうこと を聞いていれば大声を出さなかったのに、おまえのせいでお父さんは出ていってしま ったんだよ。どうしてくれる」と、八歳のウエンディーのせいにするのです。 しばらくして、父は電話をかけてきて、「居所は教えられないが、ポケベルをふた りに渡したい。 もし緊急なことがあったら呼び出してくれ」と、ふたりにひとつずつ ポケベルを渡しました。 母は朝から晩まで父をポケベルで呼び出すので、父は母の呼び出しには答えなくな りました。ところがウエンディーの呼び出しには応じるので、母はウエンディーに嫉 妬するようになりました。 「どうしておまえだけにお父さんから電話がくるの。おまえは私なんてどうでもよく て、お父さんを奪い取ろうとしてるんでしよう。お父さんに私のところに帰ってくる ようにどうして言ってくれないの。お願いだから私を置いてお父さんに会いに行かな いで」と、母はウエンディ 1 を自分の娘として扱うのではなく、父を取り合う競争相
かを覚えていないのは、たぶん、解離の症状で、ひどいトラウマに遭遇したとき、まるで 自分とは分離してしまって自分ではないかのように感じたり、記憶がなくなったりする現 象の一つだろうと考えられました。 「大変な経験をしましたね。病院で目がさめたときには、自分でもどこにいるかわからな くてびつくりしたでしよう。こういう現象がある人は、とても大きく心が傷つけられる出 来事にあってしまった人であることが多いの。あなたの場合はどうなの ? 」 私が聞くと、彼女は突然大きくしやくりあげ始めました。 「先生、もう耐えられません。私は強い女として、まわりの人みんなの世話をして生きて きました。でも、この一、二年、どういうわけか弱くなってしまったんです : : : 」 大粒の涙が彼女のほほを伝いました。 「なにか耐えられないことがあったんでしよう。ゆっくりでいいから一言葉にしてくださ 私が言うと、彼女は泣きながらしばらくの間躊躇していました。 「いままで誰にも話したことがないんです。実は私は子どものとき、父に長い間犯されて いたんです。こんなことを言うのは恥ずかしくて : 彼女の声は小さくなり、自分の腕で自分のからだを抱くようにしました。
権威者を恐れる 地位のある相手、権威のある相手、恐そうな相手ーーたとえば先生、上司、警察官、役 人、怒鳴る男などの前に出ると小さくなってしまって声も出なくなるなど、ビクビクして いる。とくにこういう相手から批判されたり、認められないのではないかと恐れる。 慴理想論、ファンタジー ( 空想 ) 、社会のおきてにとらわれる 「相手はこうすべきだ」「ああするのが当たり前だ」「—するのが普通だ」という建前的な 理想論や道徳論にとらわれたり、「相手はきっと 5 するだろう」「こうなるはずだ」という ファンタジーや、「社会がこうだからー「みんながああ言うからーと、社会のおきてやまわ りの人のせいにしたりする。 囲相手の気分を敏感に察して、先へ先へと頭を働かせる 常に相手の顔色をうかがって、すばやく相手のムードを読みとり、先回りして次にどう したらいいのかと心配するのににしくて、いま現在起こっていることがっかめなかった いまこのときの人生を楽しむことができない。
目を閉じて、からだをゆったりさせます。ソフアにもたれかかってもいいし、横になっ てもいいし、一番ラクな姿勢をとります。 大きく、二、三回息を吐いたり吸ったりします。次にゆっくりと静かに呼吸をし、空気 が鼻から出たり入ったりするのに注目します。 からだと心がリラックスしたら、胸のなかに自分自身が子どもである姿を思い浮かべま す。何歳ぐらいか。どんな服装をしているか。どんな髪のかたちか。どんな表情をしてい るか。悲しそうか、楽しそうか。太っているか、それともやせているか。しばらくこの子 どもを見守ってみます。 それからこの子どもにゆっくり、安全に、近寄ってやさしく声をかけてみます。この子 どもがいつも言いたくても一言えなかったことがあったら聞いてやります。 「どんなことがあっても、あなたを見捨てたりしませんからね」と、無条件に愛を与えて やり、なにかこのインナーチャイルドが、一緒にしたいことがあるかどうか聞いてみま す。しばらくいっしょに遊んだり、話をしたりしてみます。 「あなたは存在するに値する人間なのですよ」 「あなたは心が傷ついて悲しかったけど、もう大丈夫。自分のなかにある力を信じてね。 これからは一人でなくいっしょに成長しようねーなど、この子どもの存在を認め、受け入 100
なにかすると平手打ちがとんできたり、おしりを叩かれたり、蹴られたり、からだをひ どく揺さぶられたり、プロレスのようにして押さえこまれたり、首をしめられそうになっ たりというようなものから、かみつく、ひっかく、つねる、たばこの火やアイロンを押し つける、縛る、ロになにかを入れる、あるいはむやみに浣腸したり、病気やけがをしても 手当てしなかったり、食事をさせなかったり、何時間も立たせたり座らせたり掃除をさせ 寒いのに裸にするなど、身体的虐待はさまざまなかたちをとります。 こういうことが、何度も起こっていたり、また、一回だけであってもとてもひどい虐待 の があったりすると、からだの傷ばかりでなく、心の傷となり、後遺症が出たりします。 こういった身体的虐待は、ほとんどの場合、精神的な、または言葉の虐待をともないま っす。たとえば、「へたなことを言うと殺してやる」「もっと殴ってほしいか」「おまえみた これでも泣かないか」などと言葉の罵 いなろくでなしは俺の子じゃない」「バカヤロー 起 に倒がっきまとうものです。 な そのほか、自分の大切にしていたものを壊されたり、大事なペットを殺されたりけがを 家負わせたりして、「一一 = ロうことを聞かないとおまえもこういう目にあうぞ」と脅されたりす 章る場合もあります。自分に向かって投げつけられたのではなくても、ものを投げられた 第り、かべを叩いて壊したりなど、間接的な暴力も人を脅かすものです。
今度実家に帰ったとき、お父さんと特別に楽しい時間をとって過ごしたいと思っていま す。お父さんの健康と心の安らぎを祈っています。ーーー愛する娘より」 という手紙をメアリ 1 は書きました。この手紙を、私に読んで聞かせたとき、また大粒 の涙が彼女のほほを伝いました。 , 彼女は、思い切ってこの手紙を父に出すことにしまし た。もしこれでも父の虐待がすこしも止まらない場合には、なるべく接触をさけることに しました。私のカンでは、父の心の扉が少しだけ開くような気がしていました。 思ったとおり、メアリーがクリスマスに実家を訪れたとき、メアリーの父は一度も怒鳴 ったり、怒りが爆発することはありませんでした。母からは「手紙を出してくれてありが とう。お父さんはあれ以来、一生懸命、自分の一一 = ロ葉に気をつけているようなのーと感謝さ れました。 メアリーは、もっとはやく気がついて勇気を出して父に向かい合うべきだったとほっと し、恐れでいつばいだった過去を笑って振り返ることができるようになりました。 メアリーはその後、子どもたちが苦しんでいたことに気がっかなかったという母にも、 手紙を書きたいと言っています。こうして、彼女の癒しは、一コマずつ適切なかたちで起 こっています。メアリ 1 が、仕事上、ほかの医者のことを、ビクビク恐れたりまわりを必 要以上に心配したりしなくなるのは、もうすぐのことでしよう。 126
オアシスというセンターで行うのですが、カリフォルニアの抜けるような青空と、広大な 自然のなかでやると、もうそれだけで癒されたような気がするから不思議です。 普通、リプロセス・リトリートは、一〇人から三〇人ぐらいのグループで行います。年 齢は一八歳から七〇歳ぐらいまでの人が参加しています。男女混合で行うものと、女性だ けでやる場合があり、小さなグループなら一泊二日、大きなグループでは、三泊四日かけ て行います。 このリプロセス・リトリートによって、具体的にどのように癒しが起こっていくのか、 リプロセス・リトリートに参加しているある女性の話を紹介しましよう。 リプロセスに取り組む 加代子が自分がうつになって落ちこみ、行き詰まって自分の子どもを虐待していること に気がついたのは、斎藤学先生の本を読んだときでした。 子どもの正夫は登校拒否をしており、加代子はそのフラストレーションでイライラしな がら暮らしていました。毎日、夫が仕事で出かけたあと、一人でどうしたらいいかわから ず、正夫が言うことを聞かなかったり、部屋を汚したり、さわってはいけないものにさわ ったりすると、思わず逆上してしまいます。何かをこばしたといっては殴りつけ、言われ 1 3 2
私が「あなたのお金はたぶんもどってこないでしよう。クレジットカードは返してもら ったほうがいいわよ。彼がギャンプル依存症になっているのがわかっていて、いっしょに ギャンプルに行ったり、お金を貸してあげているあなたは、立派な共依存者ですね」と言 うと、「そんなことはありません。私は本当に彼を心から愛しているんだもの。彼はお金 は必ず返すって言ってるから大丈夫」と言います。 その後も、ミッシェルはギルバ ートがガールフレンドのところへ行ったといっては怒 り、ギャンプルでまたお金をすったといってはあきれかえりました。 ートにお金を使わせないように工夫したり、お説教をしたり、集金屋に払うお金 を立て替えたり、いろいろなサイコセラピストのところへ彼を連れていったり、彼のガー ルフレンドのところへ行って彼に会わないように頼んだり、ミッシェルの世界はギルバー トの尻拭いで忙しくなり、市議会議員の仕事はおざなりになってしまいました。 ミッシェルのように、市議会議員であったり、相手よりも力量も財力も学歴もあるよう な女生たちが、こうして相手の問題に引きこまれ、コントロールしようと必死になること がままあります。 ミッシェルは子どものとき、なんの苦労も問題もなく育ったと思いこんでいましたが、 調べてみると、両親のけんかが絶えない家庭で、暴力もあり、結局両親は離婚していまし