聞い - みる会図書館


検索対象: キッチン
156件見つかりました。

1. キッチン

よしもとばなな著 よしもとばなな著 突然知らされた私自身の出来事。自分の人生 ミルクチャンのような日々、 の時間を守るには ? 友達の大切さを痛感し、 そして妊娠 からだの声も聞いた。公式本第一一弾ー ¯yoshimotobanana. com2¯ 胎児に感動したり、日本に絶望したり。涙と怒 よしもとばなな著子供かで一ましたりと希望が目まぐるしく入れ替わる日々。心 とからだの声でいつばいの公式本第三弾。 ー・ yoshlmotobanana. com3— いよいよ予定日が近づいた。つつばる腹、息 よしもとばなな著こんにちわ ! 赤ちゃん切れ、ぎつくり腰。終わってみれば、しゃれ にならない立派な難産。涙と感動の第四弾。 ¯yoshimotobanana. C0m4・ー 子育ては重労働。おつばいは痛むし、寝不足も よしもとばなな著赤ちゃんのいる日々続く。仕事には今までの何倍も時間がかかる。 でも、これこそが人生だと深く感じる日々。 —yoshimotobanana. com5¯ わが子は一歳。育児生活にもひと息という頃、 よしもとばなな著さよ、つなら、ラブ子身近な人が次々と倒れた。そして、長年連れ 添った名大ラブ子の、最後の日が近づいた。 —yoshimotobanana. com6¯ 難問が押し寄せ忙殺されるなかで、子供は商 っこしはつらいよ店街のある街で育てたいと引っ越し計画を実 行。四十歳を迎えた著者の真情溢るる日記。 ¯yoshimotobanana. com7 ・ー

2. キッチン

バスはとても混んでいた。暮れる空がはるかビルの向こうへ消えてゆくのを、吊り革 につかまった手にもたれかかるようにして見つめていた。 まだ若い月が、そうっと空を渡ってゆこうとしているのが目に止まった時、バスが発 車した。 がくん、と止まる度にムッとするのは自分がくたびれている証拠である。何度もムツ としながらもふと外を見ると、遠くの空に飛行船が浮かんでいた。 風を押して、ゆっくりと移動してゆく。 うれ 私は嬉しくなって、じっと見つめていた。小さなライトを点滅させて、飛行船は、淡 い月影のように空をゆくのだった。 と、私の前あたりにすわっている小さな女の子にすぐうしろの席のおばあさんが小声 で話しかけた。 「ほら、ゆきちゃん飛行船。見てごらんなさい。 きれいだよ。」 顔がそっくりなので孫らしい彼女は、道もバスも混んでいるのでむちゃくちゃに機嫌 が悪いらしく、身をよじらせて怒って言った。 「知らない。あれ飛行船じゃないもん。」 「そうだったかねえ。」 おばあさんは全然動じずに、にこにこして答えた。

3. キッチン

194 この小説がたくさん売れたことを、息苦しく思うこともあった。 あの時代のものすごい波に飲まれてしまって、なんとなく自分の生き方までが翻弄さ れるような感じがした。 私の実感していた「感受性の強さからくる苦悩と孤独にはほとんど耐えがたいくらい にきつい側面がある。それでも生きてさえいれば人生はよどみなくすすんでいき、きっ とそれはさほど悪いことではないに違いない。 もしも感じやすくても、それをうまく生 かしておもしろおかしく生きていくのは不可能ではない。そのためには井えをなくし、 ごうまん 多少の工夫で人は自分の思うように 傲慢さを自覚して、冷静さを身につけた方がいい 生きることができるに違いない」という信念を、日々苦しく切ない思いをしていること でいっしか乾燥してしまって、外部からのうるおいを求めている、そんな心を持つ人に 届けたい。 それだけが私のしたいことだった。 そののちのこと 文庫版あとがき ほんろう

4. キッチン

150 てかその後のその日一日をうまくやれる自信が全く持てなかったからだ。かなり切実に、 今の私にはその光景が必要だった。 その朝もなにか悪質な夢を見て、はっと目を覚ました。五時半だった。晴れそうな夜 明けに私はいつものように着替えて外へ走り出した。まだ暗く、誰も人がいない。空気 ぐんじよう がしんと冷えて、街がばんやりと白かった。空は農い群青で、東に向かってゆるやかに 赤いグラデーションになってゆく。 私は快活に走ろうとっとめた。息が苦しくなると時折、ろくに眠らずにこんなに走る のは自分の体をいじめているだけだという考えが浮かんだが、帰れば眠れるから、とば んやりした頭で打ち消した。あまりにも静まり返った街を抜けてゆく時、意識をはっき り保つのはむつかしかった。 川音が近づき、空が刻々と変化してゆく。青く透ける空を通して、美しく晴れた一日 がやってくる。 私は橋にたどり着くといつものように欄干にもたれて、ぼんやりと青い空気の底に沈 む淡くかすんだ街並みを見ていた。ざあざあと力強く川音が響き、なにもかもを白く泡 立てて押し流してゆく。汗がすうっと引いて、顔に冷たい川風が吹いてくる。まだまだ 寒い三月の中空に半月が冴えて映る。息が白い。私は川を見たまま水筒のふたにお茶を

5. キッチン

104 キ 「君とはいつもお茶をがぶ飲みしている記憶があるから、まさかと思ってたけど、言わ れてみるとそうだね。」 「ね ? 変でしよう。」 私は笑った。 「なにか、なにもかもビンとこないな。」雄一がきつい瞳で飾りスタンドの明かりを見 つめて言った。「きっと、すごく疲れてるんだな。」 「あたりまえよ、当然よ。」 いささか驚いて私は言った。 「みかげも、おばあちゃんが亡くなった頃、疲れてたもんな。今になると、よく思い出 せるんだ。 > とか観てて、今のってどういう意味かな、とか言ってソフアの上の君を 見上げると、なにも考えてない : ・つて顔をしてばんやりしてることがよくあったろ。 今は、よく理解できる。」 「雄一、私は。」私は言った。「雄一が私に対して落ち着いてきちんと話ができるくらい うれ に、しつかりしていることを、とても嬉しく思っているわ。誇っているというのに近し かもしれないくらいよ。」 「なんだ、その英文和訳のようなしゃべりは。」 雄一が、ライトに照らされてほほえむ。紺のセーターの肩が揺れる。 ひとみ

6. キッチン

キッチン 「母親は今、店をちょっと抜けてくるそうだから、よかったら家の中でも見てて。案内 しようか ? どこで判断するタイプ ? 」 お茶を淹れながら雄一が言った。 「なにを ? 」 私がその柔らかなソフアにすわって言うと、 「家と住人の好みを。トイレ見るとわかるとか、よく言うでしよ。 彼は淡々と笑いながら、落ち着いて話す人だった。 「台所。」 と私は言った。 「じゃ、ここだ。なんでも見てよ。」 彼は言った。 私は、彼がお茶を淹れているうしろへまわり込んで台所をよく見た。 マッー、 ッパの質の良さ 雄一のはいているスリ 板張りの床に敷かれた感じのいい スト 必要最小限のよく使い込まれた台所用品がきちんと並んでかかっている。シルバ ンのフライバンと、ドイツ製皮むきはうちにもあった。横着な祖母が、楽してするす る皮がむけると喜んだものだ。 小さな蛍光灯に照らされて、しんと出番を待っ食器類、光るグラス。ちょっと見ると

7. キッチン

191 ムーンライト・シャドウ ごい速さでそこを通過する。賛美歌のように祝福が降りそそぎ、私は祈る。 ″もっと、虫くなりたい″ 「これから、またどこかへ行くの ? 」 店を出て私はたずねた。 「うん。」彼女は笑って私の手を取った。「またいっか会いましよう。電話番号はずっと 忘れない。」 そして、朝の街の、人の波にまぎれて去っていった。見送りながら、私は思った。 私も忘れない。私にたくさんのものをくれたあなたを。 「ワタシ、この間見てしまったんですよ。」 と柊が言った。 遅れていた誕生日のプレゼントを渡しに、母校の昼休みを訪ねていった時のことだ。 グラウンドのべンチで、走る学生たちを見ながら待っていた私に向かって走ってきた彼 はセーラー服ではなかったので驚いていると、となりにすわるなりそう言った。 「なにを ? 」 と私は言った。 「ゆみこ。」

8. キッチン

口には出せずに、そう思った。 大切な大切なコップ。 翌日は、もとの家を正式に引き払う日だった。やっと、す。へてを片づけた。のろかっ よく晴れた午後で、風も雲もなく、金色の井い陽ざしがなにもない私の故郷であった 部屋をすかしていた。 のんびりした引っ越しのおわびのため、大家のおじさんを訪ねた。 子供の頃よく人った管理人室で、おじさんの淹れたほうじ茶を飲んで話をした。彼も 歳をとったなあ。と私はしみじみ思う。これじゃあおばあちゃんも死ぬはずだわ。 よく、祖母がこの小さい椅子にすわってお茶を飲んでいた時と同じように、今、私が この椅子にすわってお茶を飲み、天気やこの町の治安の話をしているのは、異様だった。 びんとこない。 ついこの間までのことすべてが、なぜかものすごい勢いでダッシュして私の前を 走り過ぎてしまった。ぽかんと取り残された私はのろのろと対応するのに精一杯だ。 断じて認めたくないので言うが、ダッシュしたのは私ではない。絶対違う。だって私 はそのすべてが心から悲しいもの。 す

9. キッチン

「あなたの、おばあちゃんにもかわいがってもらったんですってね。」 「ええ。おばあちゃんは雄一くんをとても好きでした。」 「あの子ね、かかりつきりで育ててないからいろいろ手落ちがあるのよ。」 「手落ち ? 」 私は笑った。 「そう。」お母さんらしいほほえみで彼女は言った。「情緒もめちゃくちゃだし、人間関 係にも妙にクールでね、いろいろとちゃんとしてないけど : : : やさしい子にしたくてね、 そこだけは必死に育てたの。あの子は、やさしい子なのよ。」 「ええ、わかります。」 「あなたもやさしい子ね。」 彼であるところの彼女は、にこにこしていた。よく > で観る Z のゲイたちの、あ の気弱な笑顔に似てはいた。しかし、そう言ってしまうには彼女は強すぎた。あまりに も深い魅力が輝いて、彼女をここまで運んでしまった。それは死んだ妻にも息子にも本 人にさえ止めることができなかった、そんな気がする。彼女には、そういうことが持つ、 さび しんとした淋しさがしみ込んでいた。 彼女はきゅうりをほりぼり食。へながら言った。 「よくね、こういうこと言って本当は違うこと考えてる人たくさんいるけど、本当に好

10. キッチン

142 キッチン 雄一は明るく言った。 部屋はあたたかく、わいたお湯の蒸気が満ちてゆく。私は、到着の時刻やホームの、 説明をはじめた。