ジョーダン - みる会図書館


検索対象: グレート・ギャツビー
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1. グレート・ギャツビー

いた「これじゃ堅くてやりきれやしない」 ばくたちは席を立った。ジョ 1 ダンは、これからご主人を探しに行くと言って、ばくがま だ主人公に会っておらす、そのためなんだかおちつかないと言うからと、弁解した。大学生 ゅううつ はうなずしたか、 、 : その様子は憂鬱そうでもあり、同時に、ほくたちを皮肉ってるようでもあ っ , 」 0 最初にのぞいたバーは、たてこんでいたが、ギャノビーはそこにはいなかった。ジョーダ ンが玄関先の石段の上から見渡してみても見あたらず、さりとてヴェランダにもいない。な ビにげなくほくたちは豪奢なっくりのドアを押してみた、と、中は高いゴシックふうの書斎に はいきょ なっていた。羽目板は彫刻を施した英国のオーク材、おそらくはどこか海外の廃墟からそっ くりそのまま移築したものであろう。 レふくろうを思わす大きな眼鏡をかけた中年のがっしりした男が一人、大テープルの端に腰 しょたな かけていた。いささか酔っているらしく、焦点の定まらぬ視線で書棚をにらんでいる。ほく たちがはいって行くと、勢いよく振りかえり、ジョーダンを頭のてつ。へんから足の先までじ ろじろ眺めまわした。 「きみたちはどう思うね ? ー男はいきなりそうたずねた。 「何をです ? 」 男は書棚のほうへさっと手を振って、 「あれだよ。実をいうと、きみたちがわざわざ確かめるには及ばん。わしが確かめた。あり ごうしゃ

2. グレート・ギャツビー

「こんばんは ! 」二人は声をそろえて呼びかけた「あんたが勝てなくて残念だったわ」 それはゴルフのト 1 ナメントの話だった。ジョーダンは前の週の決勝戦に敗れたのである。 「あたしたちのこと、あんたのほうではご存じないでしよう」と、一人の娘が言った「でも、 ここであんたにお会いしたのよ」 あたしたちは一月ほど前に、 「あんた、あれから髪を染めたでしよう」そうジョーダンが言ったので、ほくはびつくりし たが、そのときはもう娘たちはぶらぶらと先へ歩いて行ったため、ジョ 1 ダンの言葉は、 つの間に出ていたのか時はずれに早い宵空の月ーーータ食同様、仕出し屋の籠からとりだされ にむかって話しかけた形になった。ジョーダンのすんなりとし ビたとしか思えぬ宵空の月 た黄金の腕をかいこんで、ばくは石段をおり、庭の中をあちこちぶらついた。カクテルをの よいやみ せた盆が、宵闇に浮ぶようにしてばくたちの前にさしだされたので、ばくたちは例の黄衣の 娘二人とそれから三人の男たちとともにテープルに坐った。男たちはそれぞれがみんなミス グ タ・マンプルとばくたちにむかって紹介された。 ーティにはよく来るの ? と、ジョーダンが、隣に坐った娘にたずね 「あんた、こういうハ 「この前は、あんたにお会いした、あのとき」と娘は、臆する色もなく央活に答えた。彼女 ) 、レ、 / レワ・ 1 / 、 1 ノ はくるりと連れの娘を振りかえり「あんたもそうじゃなし ルシルもそのとおりだった。 「あたしは好きでくるの」と、ルシルは言った「自分の行動なんていちいち気にかけないの

3. グレート・ギャツビー

人といっしょにドイツで育ったんだそうですよ」と、彼は進んで確証を示した。 「あら、ちがうわ」と、最初の娘が一一一一口う「そんなはずないわよ。だって、あの人、戦時中は アメリカの軍隊にはいってたんだもの」ばくたちの信用が、ぐらりとまた彼女の側に変ると、 彼女は熱をこめて身をのりだしてきた「あんた、あの人がだれからも見られてないと思って いるときの様子を見てごらんなさいよ。だんぜん、人を殺したことのある男よ」 彼女は眼を細めて身ぶるいした。ルシルもぶるぶるっと身をふるわせた。ばくたちはみな、 振りかえって、あちこちギャッビーの姿を眼で探した。声をひそめて話し合う必要のあるも ささやき ピのなどこの世の中にほとんど認めぬ連中から、こうした私語を引きだしたというのは、ギャ ャッビーという人間が、人びとにロマンチックなものを考えさせる証拠であった。 最初の夕食が配られはじめたーー「最初の」というのは夜半過ぎにまたタ食が出ることに レなっているからだが ジョーダンがほくを招いて、自分たちの一座に加わらせた。その人 たちは庭のむこう端のテープルを囲んで坐っていた。三組の夫婦、それからジョーダンの護 衛者をもって任じているしつこい大学生が一人、これは粗野なあてこすりを好んでやる男で、 遠からずジョーダンは多かれ少なかれ自分に身をまかすものと思いこんでいるふうだった。 この一座は、方々ぶらっきもせずに、最初からみな一様な謹厳ぶりを保っていた。そして郊 外の実直な品位を代表するのをおのが任務と心得ていたーーーウエスト・エッグに歩調を合わ まも せながらも、その絢爛とした遊興的な空気には慎重に身を護るイースト・エッグの姿。 「ぬけ出さない ? 」半時間ほどもつまらぬ時間を浪費したころ、ジョーダンが小声にささや

4. グレート・ギャツビー

まゆね これは、 いかにも変な話だったから、みんな黙ってしまった。ディズイは、眉根を寄せて トムを見やった。そしてギャッビーの面上を、なんとも言いようのない表情がよぎった 言葉で描写するのを聞いたことがあるだけみたいで・ーーー見るのはいまがはじめてなのに、そ れでいてなんとなく見覚えがあるような気もする表情が。 「さあ行こう、ディズイ」トムはそう言って、彼女を手でギャッビーの車のほうへ押しやっ た。「おまえをこの巡回サ 1 カスの車で連れてってやろう」 彼はドアを開けた。が、彼女は彼の腕から抜けだした。 ビ「あなたはニックとジョーダンを乗せてらっしゃい。あたしたちはクーべであとを追うか ギ うわぎ そま 彼女は、ギャッビーの儀に歩いて行って、彼の上衣に手をふれた。ジョーダンとトムとほ レくとは、ギャッビーの車の運転席に乗りこんだ。トムが、はじめて握るギャを廩重に入れた。 グ そしてぼくたちは、むっとする暑熱の中に勢いよく飛びだし、あとに残った二人の姿は見え なくなってしまった。 「きみはあれを見たかね ? と、トムがたずねた。 「何を ? 」 彼は、ジョーダンもほくも最初から知っていたにちがいないと気がついて、鋭くばくをに らんだ。 「きみは、おれのことをとんだ間抜けと思ってんだろう」そう、彼は言った「おそらくその 167

5. グレート・ギャツビー

いことをやっているのだと考えていた。ないしは、そう考えているふりをした : その部屋は大きくうっとうしかった。もう四時だというのに、窓を開けても、公園から熱 した茂みのいきれがはいってくるばかりである。ディズイは鏡のそばに歩み寄り、ばくたち に背中をむけながら、髪を整えた。 「すばらしいお部屋ですわねえ」感に堪えたようにジョーダンが小声で言ったので、みんな 笑った。 「もう一つの窓を開けてよ」ディズイが、鏡の中をのぞいたままで、そう言った。 ビ「もう開ける窓はないよ」 「じゃあ、電話でつるはしでも注文したら 「要は暑さを忘れることだ」いらだたしげにトムが言った「文句を言ったって、十倍もつら レくなるだけだぜ」 グ 彼はタオルをほどいてウイスキーの瓶をとりだすと、テープルの上に置いた。 「奥さんはほっといてあげなさいよ、親友」と、ギャッビーが言った「ニューヨークへ出た がったのは、あなたでしよう」 くぎ ちょっと言葉がとぎれた。電話帳が釘からすべりぬけて、どさりと床に落ちた。とたんに が、このときはだれも笑わなかっ ジョーダンが「あら、すみません」と、小声に言った 「ばくが拾、つから」と、ばくは一一一一口った。 175 びん

6. グレート・ギャツビー

とおりだろうよ。しかしだ、おれは、そのーーーときどき、第 , ハ感みたいなものがひらめいて みち だな、こいつがおれにとるべき途を教えてくれることがあるんだ。きみは信じないだろうが、 しかし科学はだ 」と、言いかけて彼はロをつぐんだ。当面のできごとが彼をとらえ、理 ふち 論の淵に落ちこむ寸前で彼を引きもどした格好であった。 「おれは、あいつを少々調査してみたんだ」と、彼は言葉を続けた「こうと知ったらもっと 深いとこまで行けたんだがーーー」 ミーティアム 訳注ミーディアムによ 「つまり、霊媒 ( = 「中ほど」の意味もある -) のとこ ~ 行 0 てきた 0 てわけ ? 」と、ジョーダンは ピからかった。 「なんだって ? 」彼は、笑っているほくたちのほうをけげんそうに見つめながら言った「霊 1 媒だって ? 」 レ「ギャッビーのことでよ」 「ギャッビ 1 のことで ? いや、ちがう。おれは、あいつの過去を少々調査してみたと言っ たんだ」 「そしたら、あの人がオックスフォードの卒業生だということがわかった、というんでしょ う」と、ジョーダンはいたわるように言った。 「オックスフォードの卒業生だと ? 」彼は疑惑を露骨にあらわして「オックスフォードが聞 あき いて呆れるよ ! やっこさんはピンクの服を着てる男だぜ」 「それだって、オックスフォードの卒業には違いないさ」

7. グレート・ギャツビー

ま、気の毒なほど醒めかえった二人の男と、怒りに燃えたそれぞれの細君とが陣取っていた ひれき が、細君たちは、心持ち声を高めて、お互いに同情を披瀝し合っている。 「うちの主人は、わたしが楽しそうにしてるのを見ると、すぐもう帰ろう帰ろうって言うん ですよ」 「そんなわがままって、聞いたこともありませんわ」 「わたしどもは、いつだって、一番最初においとまするんですからね」 「うちもそうなのよ」 「いや、今晩はきみ、一番最後の組だよ」一人の男がおずおずと言う「オーケストラももう 三十分前に帰ったんだぜ」 ギ 双方の細君は、そんな意地悪なんて信じられないと一致して言い合ったが、言い合ってい レるうちにもみ合いになったと思うと、ほどなく、どちらの細君も、ばたばたもかくのを抱き 上げられるような格好で外へ連れだされてしまった。 ぼくが広間で帽子がくるのを待っていると、書斎のドアが開いて、ジョーダン・べイカー とギャッビーかいっしょに出てきた。彼は、何か最後のひとことを彼女に言おうとしていた あいさっ が、二、三の人が別れの挨拶をしに近寄ってくるのを見ると、きおいこんでいたその態度が すっと堅くなって、四角四面な儀礼に変った。 ジョーダンの相手の者たちは、玄関からやっきとなって彼女を呼んでいたが、彼女は握手 をかわすために、なおしばらく立ちどまっていた。

8. グレート・ギャツビー

199 れーーーほしかったらさ」そう言ってドアを開き、「はいれよ」 「いや、結構だ。しかし、タクシーを呼んでくれるなら、そいつはありがたいな で待ってるよ」 ジョ 1 ダンがほくの腕に手をかけた。 「中へはいらない、 「ああ」 ぼくはなんだかすこし気分が悪くて、一人になりたかった。しかし、ジョーダンは、まだ ビしばらくためらっていた。 「まだ九時半よ」と、彼女は言った。 ギ ほくは、金輪際、中にはいる気はなかった。一日で彼らみんなに食傷した気持だったが、 レ急にジョーダンまでもその一人になった。きっと彼女も、ばくの表情の中に、そうした気持 の動きを認めたのだろう。いきなりくびすを返すと、玄関先の段々を駆けあがって、家の中 にはいってしまった。ばくは、しばらく、両手に頭を埋めて腰をおろしていたが、そのうち に、家の中から、受話器をとりあげて、タクシーを呼ぶ執事の声が聞えてきた。それからほ にわみち くは、門のそばで待っていようと思いなから、庭径を表のほうへむかってゆっくりと歩いて 一丁っこ。 ′イ十 / 二十ャードも行かぬうちに、ばくは、自分の名を呼ぶ人声を耳にした。そして、二つの茂 みのあいだから庭径の上にギャッビーがとびだしてきた。そのときにはすでにほく自身も相

9. グレート・ギャツビー

ひもしさい 「いや、それには及びません」ギャッビーは、切れた紐を仔細に見ていたが「フム ! 」と、 感心したようにつぶやいて、その電話帳を、ひょいと椅子の上にほうりあげた。 「ごたいそうな言葉を使うんだねえ、あんたは」トムが切りこむように言った。 「なんのことです ? 」 「『親友』とかなんとかいうやつですよ。どこで拾いました ? 」 「ねえ、トム、いい こと」ディズイが鏡から振りかえって言った「もしもあんたが、人身攻 撃をはじめるつもりなら、あたし、すぐにもここを出るわよ。電話してミント・ジューレッ たプの氷でも注文したら」 さくれつ ャ トムが受話器を取りあげたとき、圧縮された空気が炸裂して音になり、階下の舞踏室から ギ メンデルスゾーンの『結婚行進曲』のものものしい合奏が聞えてきた。 レ「こんなに暑いさなかに結婚か ! 」ジョーダンが考えただけでもうんざりというように言っ グ 「でもあんたーー、あたしが結婚したのも六月のなかばだったわ」ディズイが昔を思いみるよ うに「六月のルイヴィルー だれかが卒倒したつけ。だれだった、トム、卒倒したの ? 」 「ビロックスイ」ぶつりと、トムが答えた。 プロックス ポックス 「ビロックスイという人。鈍感覚派のビロックスイっていうの、そして箱をこさえてんのよ ほんとなんだからーーそして生れはテネシー州のビロックスイときてるんだ」 「それをあたしの家に運びこんだのよ」と、ジョーダンが補足して「というのはつまり、う 176

10. グレート・ギャツビー

うず もとから、かすかな白粉の渦が、ゆらゆらと舞いあがった。 「噂によると、あの電話の相手はトムのいい女なんだって」小声にジョーダンがささやいた。 ぼくたちはロをつぐんだ。広間の声が、やっかいなことでもあるか、急に高くなった「じ : きみに対してべつに責任があるわけじ ゃあ、いいよ。きみにあの車を売るのはやめだ。 ゃないんだからな、 それから、昼飯どきにそんなことでおれの邪魔をしたについては、 容赦しないから ! 」 「あれは受話器をかけたままで言ってるのよ。と、ディズイが皮肉を言った。 「いや、それはちがう」と、ばくは、彼女にむかって断言した「あれは本物の取引ですよ。 ャばくは偶然知ったんだ」 ふざ さっとドアが開き、一瞬、トムのがっしりした身体が戸口を塞ぐように立ちはだかったか レと思うと、すぐ彼は、いそいで中にはいってきた。 けんお グ 「ギャッビー君 ! 」彼は、巧みに嫌悪を隠しながら、大きな平たい手をさしだすと「よくい らしてくださった。 「冷たい飲み物をつくってよ」甲高い声でディズイが言った。 夫がまた部屋から出て行くと、彼女は立ちあがってギャッビーのかたわらに歩み寄り、彼 くちびる の顔を引きよせて唇に接吻した。 「あたしが愛してること、あんた知ってるわね」小さく彼女はささやいた。 「ここにご婦人がいるのを忘れてもらっちゃ困るよ」と、ジョーダンが言った。 159 ひと からた