マッキー - みる会図書館


検索対象: グレート・ギャツビー
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1. グレート・ギャツビー

「あんたのそのドレス、、、 しわね」マッキー夫人が言った「とてもすてきじゃない」 ウイルスンの細君は、つんと眉をあげて、こんなものがと言いたげに「変ちくりんな代物 、とごに、とごどご引っかけ・るだけ - よ」 よ」と、言った「格好なんかどうでもいし 「でも、あたしの一言う意味わかんないかな、それ、あんたにはすごく似合うのよ」マッキー 夫人はなおもそう言った「もしチェスタが、そのポーズのあんたを撮れたら、ちょっとした ものが作れるんじゃないかな」 ほくたちはみんな、黙ってウイルスンの細君を見やった。彼女は眼の上にたれた髪の房を かきあげると、輝く微笑を浮べてほくたちを見返した。マッキー氏は小首をかしげて、しげ ャしげと彼女を眺めた。それから自分の顔の前で片手をゆっくりと前後に動かした。 モデリング 「光線を変えなくちゃいかんな」しばらくして彼は言った「顔だちの肉付けをはっきり出し レたいからね。それから、なんとかしてうしろの髪をそっくりとらえてみたい 「光線を変えるなんていらないわよ」マッキー夫人が大きな声で言った「あたしはむしろ 彼女の夫が「シーツ 」と制したので、ばくたちみんなはまた被写体を見やった。そのとき トム・ビュキャナンが、みんなに聞えるようなあくびをして立ちあがった。 「マッキーさんご夫婦よ、何か飲みなさいよ」と、彼は言った「マートル、氷とミネラル・ ウォーターをもうすこし持ってこないか、ぐずぐずしてるとみなさん眠っちまうぜ」 「氷はあのボ 1 イにそう言ったのよ」マートルは、下層階級のだらしなさには匙を投げたと め しろもの

2. グレート・ギャツビー

くるんだってよ」 「ほんとですか ? 」 彼女はうなずいた。 「なんだか気味が悪い。あんなのを敵にまわすの、真っ平だな、あたし」 ばくの隣人に関するこの興味しんしんたる情報は、しかし、中断されてしまった。マッキ 1 夫人がいきなりキャサリンを指して言いだしたのである。 「チェスタ、あの人を使ったら、あんた、何かやれると思うわ」しかしマッキー氏は、それ ビには気がなさそうにうなずいただけで、注意をトムにむけた。 「素材さえ手にはいったら、もっとロング・アイランドで仕事をやりたいんですよ。ロ火を ギ 切ってもらいさえすればいいんです」 レ ートルに頼みたまえ」トムは、おりから盆を持ってはいってきたウイルスンの細君を見 て、ちょっと甲高く笑いだしながら言った「彼女が紹介状を書くさ、ねえ、マ 1 トル ? 「なんだって ? 」びつくりして、彼女はたずねた。 ていしゅ 「きみ、マッキーさんをご亭主に紹介する紹介状を書くだろう。きみのご亭主をモデルにし くちびる て習作を作りたいそうだ」彼は、しばらく考えながら黙って唇だけを動かしていたが「『ガ ソリン・ポンプを操るジョージ・・ウイルスン』とかなんとかいうやつだよ」 キャサリンが近々と身をかがめてきて、ほくの耳もとにささやいた。 「あの二人ね、どっちも自分がいま結婚してる相手にがまんならないのよ」

3. グレート・ギャツビー

つもりだった。彼は礼服を着てエナメル革の靴をはいてたけど、あたし、彼から眼がそらせ ないのよ。でも、彼がこっちを見るたびに、あたしは無理して、彼の頭の上の広告を見てる ふりなんかしちゃってさ。駅にはいると、彼はあたしのすぐ隣にいてね、白いワイシャツの 胸をあたしの腕に押しつけてくるの。それであたし、警官を呼ぶわよって言ったけど、彼に は嘘だってことがちゃんとわかってたのね。あたし、すっかり興奮しちまって、彼といっし ょにタクシーに乗りながら、ほんとうは地下鉄に乗らなきゃいけないのに、もう上の空なの よ。ただもう『おまえはいつまでも生きられるわけじゃないぞ、おまえはいつまでも生きら ビれるわけじゃないぞ』って、くりかえし、くりかえし、そればっかし考えてた」 ャ彼女はマッキー夫人をかえりみながら、わざとらしい笑いを部屋じゅうに響かせた。 「ねえ、あんた」と、彼女はうわずった声で「このドレス、脱いだらすぐあんたにあげるわ。 レ明日また、リ 男のを買わなくちゃならないんだ。そうだ。買わなくちゃならないものを全部リ ストに書きだしておこう。マッサージとウェーヴと、大の首輪と、バネ仕掛けになってるあ はいざら の可愛らしい灰皿を一つ、それから母さんのお墓に、夏じゅうもつような黒い絹のリポンの はなわ ついた花環。忘れないように、しなくちゃなんない用事はみんなリストに書いておかなくっ ちゃ」 これが九時だったーーーそれからほとんど間がないと思ったのに、時計を見ると、もう十時 こふしひざ になっている。マッキー氏は、握りしめた拳を膝にのせて、椅子の上で眠っていた。活動家 の肖像といったところだった。ばくは、自分のハンケチをとりだして、彼の頬から、午後じ かわ

4. グレート・ギャツビー

せつけんあわ ゅうずっと気にかかっていた石鹸泡のほっりと乾いたあとを拭きとった。 すわ 子大は、テープルの上に坐って、見えない眼で煙った部屋の中を見ていたが、ときどきか すかな唸り声をたてた。人びとの姿が消えたり、また現われたり、どこかへ行く計画をたて たり、かと思うとお互いを見失い、お互いに探し合って、数フィ 1 ト先に見つけ合ったりし た。真夜中近いころ、トム・ビュキャナンとウイルスンの細君とがむかい合って立ったまま、 ウイルスンの細君にディズイの名を口にする権利があるとかないとか、熱した声で、激論を たたかわしていた。 ディズイ ! ディズイ ! 」ウイルスンの細君が叫んだ「言いたいときには、 ピ「ディズイ , ャ つだって一一一一口うよ ! ディズイ , ディーーー」 ギ トム・ビュキャナンが器用にちょっと手を動かして、彼女の鼻に平手打ちをくらわした。 けんそう しか レ続いてバスルームの床に血のついたタオルが転がり、叱りつける女たちの声がし、喧噪を グ 圧してひときわ高く、苦痛を訴えるとぎれとぎれの泣き声がいつまでも聞えていた。マッキ ばうせん ー氏がうたたねから目をさまし、呆然とした格好で戸口のほうへ歩きだした。しかし半分行 ったところで振りかえると、その場の光景をまじまじと眺めまわした , ーー彼の妻とキャサリ ンが、叱ったりすかしたりしながら、ごったがえす家具の中を、救急具を持っておろおろ動 きまわっている。かと思うと、寝椅子の上では、望みを失ったマートルが、とめどなく血を 流しながらも、つづれ織りのヴェルサイユの情景の上に、『タウン・タトル』をひろげてか ぶせようとしている。マッキー氏はまた振りかえると、そのまま戸口から出て行った。ばく

5. グレート・ギャツビー

て出た。 も、シャンデリアにかかっていた帽子をとると、彼のあとから続い 「いっか昼食にきませんか」エレベーターのうなりを聞きながらいっしょに下へくだって行 く途中、彼が言いだした。 「場所は ? 」 「どこでも」 「レバーからお手をとってくださいきめつけるようにエレベーター・ポーイが言った。 「これは失礼」マッキー氏は威厳をくずさずそう言った「さわってるのに気がっかなかっ ギ「結構ですね」と、ほくは賛意を表した「喜んでうかがいます」 : ばくは彼のべッドのそばに立っていた。そして彼は、大きな折りかばんを両手に抱え、 レシャッ一枚の姿になって、毛布の下に脚をつつこんだままべッドの上に起きあがっていた。 グ 『オールド・クロサリー・ ホース』・ 『プルックリン 「『美女と野獣』・ そのつぎのばくは、ペンシルヴェニア・ステーションの下のホ 1 ムの吹きさらしのべンチ に横になり、半分眠ったような状態で『トリビューン』の朝刊に眼をすえながら、四時の列 車を待っていた。 め

6. グレート・ギャツビー

いうように眉をあげた。「しようかないな、あの連中はー まるで眼が離せやしない」 彼女はばくを見て、なんということもなく笑った。それから、さっと子大にかけよって、 夢中になって接吻すると、大勢のコックが自分の命令を待っているというような格好で、急 ぎ足に台所へはいって行った。 「ほく、ロング・アイランドでちょっといいものを作ってきましたよ」マッキー氏がそんな ことを言いだした。 トムは無表情に彼を見やった。 した ビ「うち一一枚は額縁に入れて、階下にあるんです」 「二枚のなんです ? 」と、トムがきいた。 ギ みさき かもめ 「習作ですな。一つには『モントーク岬ーー』という題をつけましてね、もう一つは『モ レントーク岬ーーー海』というんです」 グ ぼくとならんで寝椅子の上に腰をおろした。 妹のキャサリンが、 「あんたもロング・アイランドに住んでるの ? 」彼女はたずねた。 ェッグです」 「ええ、ウエスト・ 「ほんとう ? あたし、ひと月ばかし前に、あそこのパーティに行ったわ。ギャッビーって 人のとこ。知ってる、あんた ? 」 「ばくんとこはその隣ですよ」、 「そう。ウイルヘルム皇帝の甥だか従弟だかなんだって。あの人のお金はみんな、そこから せつぶん とこ

7. グレート・ギャツビー

グレート・ギャッピー 「つい去年よ。女の子と一一人で行ったの」 「長く行ってらした ? 」 「ううん。モンテ・カルロへ行って、帰ってきただけ。マルセーユ経由で行ったの。発っと きは、千二百ドル以上持ってたんだけど、カジノの特別室で二日のうちにうまいとこ巻きあ げられちまった。帰りはさんざんよ、えらい目にあっちゃった。ほんとにあんな贈らしい町 って、ありやしないわ ! 」 たそがれ 窓から見る黄昏ちかい空が光に映えて、一瞬青くとろりとした地中海の海の色を思わせた が、そのとき、マッキー夫人の甲高い声に、ぼくは、また部屋の中へ引きもどされた。 「あたしも、もうすこしでまちがいをおかすとこだったのよ」威勢よく彼女はそう言明する のである「チャチなユダ公に何年もおっかけまわされてさ、もうちょっとで結婚するとこだ った。あんな男じゃあたしがもったいないとは自分でも思ってたさ。みんなが、あたしにむ かって『ルシル、あんな男、あんたの足下にも及ばないじゃないの ! 』って、そう一一一〔うんだ もの。でもね、もしもチェスタに逢わなかったら、あの男に捕まってたと思うな」 「なるほどね」と、マートルはうなずきながら「しかし、なんといったって、あんたはその 人と結婚しなかったんだから」 「それがどうしたっていうの ? 」 「ところが、あたしは結婚したっていうのよ」マートルは焦点をばかしてそう言った「そこ 的か、あんたとあたしのちがうとこさ」

8. グレート・ギャツビー

「その大ですか ? その大は男の子です」 「牝だよ、そいつは」きめつけるようにトムが言った「金をやるぜ。これでまた十匹も買っ たらよかろう」 ほくたちは五番街まで車を走らせたが、夏の日曜の午後で、暖かく、柔らかく、牧歌的と いえるくらいだった。街角を曲って、白い羊の大群が現われても、ばくは驚かなかったかも しれない。 「ストップ」と、ばくは言った「ばくはここでお別れするよ」 ビ「いや、それはいかん」いそいでトムが口をはさんだ「きみがアパートまでいっしょにこな けりや、マートルが気を悪くするぜ。なあ、マートル ? 」 「いらっしゃいよと、彼女も誘いの言葉を吐いた「あたし、妹のキャサリンとこへ電話を レかける。眼のある人たちはあの子のことをすごい美人だって一一一一口うのよ」 グ 「いや、、つカかしたしか、しかしーーー」 ぼくたちは、セントラル・パ ークを抜けてふたたび西地区に出て、百何丁目というあたり へ車を走らせた。やがて車は百五十八丁目の、ア。ハートが長い白いケーキのように立ちなら まなざ んだその一切れの前で停車した。ウイルスンの細君は、王者の帰国といった眼差しを近隣に こうぜん 投けながら、大やその他の買物品を集め、傲然とかまえて中にはいって行った。 「あたし、マッキーさんご夫婦を呼んでやるわ」エレベーターであがる途中、彼女はそう一一一一口 った「それから、むろん、妹のとこにも電話するけど」 めす

9. グレート・ギャツビー

あいさっ 彼は、部屋の中の一同こ、 しいとも丁重な挨拶をした。「芸術畑の仕事」をしていると、ばく にはそう言ったが、 あとで推定したところでは写真師らしく、心霊体のように壁にちらつい ているマートルの母親のばやけた引き伸ばし写真も、彼が作ったものであった。彼の妻は、 金切り声の、無気力な、顔かたちの整った、いやな女だった。そして、ばくにむかって、結 婚以来夫は、自分の写真を百二十七回撮ったと、誇らしげに語って聞かせた。 ウイルスンの細君は、ちょっと前に衣裳を着替えてきていて、今度はクリーム色のシフォ ンの凝ったアフタヌーンといういでたちだったが、部屋の中を足早に歩くたびにそれが、い ひとがら ビつもさらさらと音をたてた。衣裳のおかげで、彼女の人柄まで変っている。整備工場の中で あれほど目立った強烈な精気が、いまでは忘れがたいほどの尊大な態度として感じられるの ギ だ。彼女の笑い方も彼女の身ぶりも自説をとおす彼女の言い方も、刻々激越な誇張をまして ほ・つちょう レゆき、彼女が膨脹するにつれて、部屋の空間が狭くなり、ついには彼女が、やかましくきし る軸の上で、煙った部屋の空気の中を回転しているような感じになった。 「あんた」と、彼女は、高い気どった声を張りあげて妹に話しかけた「ああいう手合いには いつはめられるかわかったもんじゃないよ。お金のことしか頭にないんだから。先週、足を みてもらおうと思って、ある女を呼んだんだけどさ、勘定書を見たら、まるで盲腸でも切っ たみたいなんだ」 「その人、なんていう名前 ? 」と、マッキ 1 夫人がたずねた。 「ミセス・エハ 1 ト。どこでも家まで出向いて足をみてくれるんだけどさ」

10. グレート・ギャツビー

くは、気をきかせて居間に腰をおちつけて、『ペテロと呼ばれしシモン』の一章を読んだ 本そのものが恐るべき代物だったのか、それともウイスキーによる錯乱か、とにかく、 なんのことやら意味はまったくわからなかった。 トムとマ 1 トルが ( というのは、最初の一杯を飲みかわしてからは、ウイルスンの細君も ほくも、互いに名前で呼び合うようになっていたのだ ) また姿を現わしたちょうどそのころ から、部屋の入口に仲間の者たちが到着しはじめた。 妹のキャサリンというのは、三十がらみのすらりとした世俗的な女で、赤い毛の断髪を油 おしろい ピで堅く固め、白粉をはいた顔の色は乳のように白かった。眉毛をいったん抜いた上に、もっ ャ といきな角度の描き眉が描かれていたが、もとの線を回復しようとする自然のカのために、 ギ 彼女の顔には何かばやけた感じがただよっている。彼女が動きまわると、両腕につけた無数 レの陶器のプレースレットがちゃらちゃらと揺れて、絶えずさやかな音をたてた。彼女が部屋 グ にはいってきたとき、その感じが、自分の部屋にでもはいるように無造作で、また家具を見 まわす態度も、いかにもわがものといった感じだったので、ほくは、彼女はここに住んでい るのかしらと思った。しかし、そのことを彼女にたずねると、彼女はとめどなく笑いこけて、 ぼくの質問をおうむ返しにくりかえし、ガ 1 ルフレンドといっしょにあるホテルに住んでい ると答えた。 マッキー氏というのは、同じアパ 1 トの下の階に部屋を借りている、蒼白い女性的な男だ せつけんあわ はおぼね った。顔を剃ったばかりのところとみえて、頬骨の上に石驗泡が白くほっりとついている。 あおじろ