ネに対して、もっと心底から怒りの声を上げなければいけないと。 * 1 放射線生物学者としてチェルノブイリ事故の汚染除去作業を指揮し、同僚一三人がすべてガン で亡くなり、自らも甲状腺ガンを二度患ったナタリア・マンズロヴァ氏は、福島原発事故後の取材に こう答えている。 ( ダイヤモンドオンライン特別レポート h ( ( p ミ d 一 amond.j 望 a 三 cles 〒言 1970 一一〇 一一年四月二〇日 ) チェルノブイリ事故の死者は四〇〇〇人と報じられているが、実際には一〇〇万人が死亡してい るとの報告書も出ている。どちらが正しいのか。 「どちらが真実に近いかと問われれば一〇〇万人の方だろう。当時、ロシア、ウクライナ、ペラルー シ各共和国では医療制度はモスクワ政府の管理下にあった。多くの医師は、患者が放射能汚染が原因 と思われる癌などで亡くなったにもかかわらず、死亡診断書にそれを書かなかったことがわかってい る」 機 危 る あ 今 章 明石同感です。大地震によって生じる原発事故を「原発震災」と呼び、僕も広瀬さんも これまで原発がいかに危険かということをさんざん世の中に発信してきました。原発事故第 やトラブルが起こるたびに現地に取材に飛び、隠蔽され、闇に葬り去られようとする事実 がん
の衝撃を打ち消そうと「チェルノブイリでもほとんど被害者がいなかったのだから、福島 ではます問題ない」という報告を出したのです。長瀧重信と、日本アイソトープ協会常務 理事の佐々木康人が監修者で、福島の被害者の賠償対象、賠償額をいかに減らすかという 目論見以外には考えられない。 これがあまりにひどいので、猛烈な批判を浴びてきました。 その内容を紹介しましよう。 チェルノブイリ事故の健康に対する影響は、二〇年目に、など八つの国 際機関と被害を受けた三共和国が合同で発表し、一一五年目の今年は国連科学委員会がま とめを発表した。これらの国際機関の発表と東電福島原発事故を比較する。 原発内で被ばくした方 * チェルノブイリでは、一三四名の急性放射線障害が確認され、三週間以内に二八名が 亡くなっている。その後現在までに一九名が亡くなっているが、放射線被ばくとの関係 は認められない。 * 福島では、原発作業者に急性放射線障害はゼロ。 170
実は僕自身も、日下さんに口説かれ、一九九九年の「臨界被曝事故」直後に放送さ れた同じ番組に出演したことがあるのです。 でも、日下氏亡き後、こうした「熱い思い」は果たして番組の制作現場に受け継がれて いるのでしようか。同じ「朝まで生テレビ」は二〇一一年三月二六日、福島原発震災事故 」じ・よ、つ を俎上に載せました。残念なことに僕は、福島事故の検証記事取材と執筆による過労が重 なって、体調を崩して直接見られなかったのですけど、後に確認したところ、反原発の立 場からは誰一人として出演しておらす、インターネット上には番組への「偏向」批判が氾 濫していました。「朝生」もまた、すでに報道番組としての使命を終えたのかもしれませ ん。 政府発表の「チェルノブイリとの比較」 広瀬首相官邸ホームページの災害対策ページに、原子力災害専門家グループによる「チ * 3 エルノブイリ事故との比較」という報告が四月一五日にアップされました。福島原発事故 は「レベル 7 」で、チェルノブイリ原発事故と同じ規模だったという発表の三日後に、そ 169 第二章原発事故の責任者たちを糾弾する
による砒素中毒 ) の被害消去説にも暗躍していた。この重松が、一九八一年から広島の放 射線影響研究所の理事長になりました。 今、なぜ福島県内の児童たちが猛烈な被曝状態に放置されているかを知るため、放影研 という無気味な組織を読者にきちんと紹介しておきましよう。 る 広島・長崎に原爆を投下した米軍が、被爆者をモルモットにして、核戦争によって原爆 が人間にどのような影響を与えるかを調査した組織がアメリカの <t200 ( 原爆傷害調査弾 を 委員会 ) でした。これが一九七五年に改組され、日本が受け継いで放射線影響研究所とな ち 者 り、一九八一年から重松が広島の放影研の理事長として君臨する。そして、一九八六年に 任 チェルノブイリ原発事故が起こって全世界に原発反対の嵐が吹き荒れると、日本原子力産責 十し力しし、つ 業会議 ( 原産会議。現・日本原子力産業協会 ) 会長の向坊隆らと組んで重松が動きだし、国事 原 際原子力機関が組織したチェルノブイリ原発事故の被害調査団の団長となる。 章 その時、重松が何を言ったと思いますか。チェルノブイリ汚染被曝現地を訪れながら、 第 「チェルノブイリでの放射能の害は成人には見られなかった。むしろ放射線ストレスの方 が深刻だった」とか、「放射能ではなくアルコール中毒で死んだほうが多かった」などと、
の原発震災の大惨事を起こした責任者の実名を挙げて糾弾し、彼らが原発を守るためにど んな汚いウソをついてきたかを暴いてきました。 でも、実名を挙げて悪事を暴こうとも、僕は単なるセンセーショナルな告発本にはした もち くはないと思ってきました。この本が出る頃も、福島の原発事故は収束していない。 ろん、今まで電力マネーでいい思いをしてきた推進派の人間たちには「事故を収束できな い責任」を問いたい。そしてきっちりけじめをつけて欲しいと思っています。だけど、今 この瞬間も、僕は福島の事故を終らせるにはどうしたらいいのか、それを考えたいと思っ ているのです。 東電が示す「工程表」など、国民を小ばかにした「安全アピール」にすぎません。残念 ですが、彼らが示したとおりに事が運ぶことはまず、ないでしよう。ですが、このまま福 島の人たちの故郷がなくなってしまうことは、、、 とうにも許しがたい。原発事故のおそろし さは、一九八六年四月に発生したチェルノブイリ原発事故の後から二四年間、原発事故や 核施設に関する取材をずっと続けてきたのでよく分っているつもりです。京大原子炉実験 所の小出先生は「最悪の事態という破局は、最後の一線でギリギリ食い止められている」 242
ら一〇〇年かかる可能性がある」という専門家の分析が載っています。原子炉が安定して おらず、さらに放射性物質が大量に放出される可能性が残っているので、そういう見方に なるそうです。またこの記事では「旧ソ連・チェルノブイリ原発では事故から約八〇年後 に当たる二〇六五年まで除染がおこなわれる予定」と書かれている。そんな長い時間を想 像できますか。福島で被曝した子供たちが大人になり、老人になってもなお放射能災害は 続くのですよ。現に、今年はチェルノブイリ原発事故から二五年だというのに、深刻な被 害が続いている。 東電は「六 5 九ヶ月で収束の見通しを立てる」という工程表を発表しましたが、今まで の泥縄式のやり方を見ていると、とてもスケジュール通りに収束できるとは思えない。能 まだらめ 天気な発言を繰り返していた班目春樹・原子力安全委員長は、高濃度の汚染水流出につい て記者から質問されて「どんな形で処理できるか知識を持ち合わせていない。保安院で指 導してまし、 。し」と言ってサジを投げたのですよ。今の日本に「無能」であることを罰する 法律がないのが悔しいです。
明石「福島の周辺住民の現在の被ばく線量は、二〇ミリシーベルト以下」だから影響は ないって、事故直後の高線量の被曝がまったく考慮されていない上に、福島県内で暮らし ている限り年々積算されていくのですよ。しかも、「二〇ミリシーベルト / 年」以上の高 線量の汚染地域から事故後二ヶ月が過ぎても避難していない住民も多いし、住民の内部被 曝を測ってもいないうちから「周辺住民の現在の被ばく量は、二〇ミリシーベルト以下に なっている」などと断定している。こう言い切ること自体に科学性がない。ひどいな。 広瀬チェルノブイリの被害報告は <t の数字を基にしているというが、— r--I.2 と いうのは原発を推進するために設立された国連機関だからね。国際放射線防護委員会 (— がん ) のリスクが高まり、確定的影響 ( 身体的障害 ) も起こり得る」としているが、各 論を具体的に検証してみると、上記の通りで福島とチェルノブイリの差異は明らかであ る。 * 3 http 】 //www.kantei.go.jp/saigai/、senmonka g3. html 172
事故直後から、のニュースに出ずつばりで「大丈夫」解説を繰り返していた関村 直人 ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) は、視聴者の不信を買ったのか、四月以降はすっ かり姿を消してしまいました。 広瀬関村は、東電から研究費を提供されてきた東京大学の原子力利権者、つまり福島第 とうして Z がこの男をニュース解説に使った 一原発事故の重大責任者だというのに : る す のか。おそらく、小出五郎という昔の原発担当の解説委員が今も生き残っていて、その引 弾 を きで登場したのだと思う。というのは、 Z ー (f) で「日めくりタイムトラベル」とい ち う番組があって、二〇一〇年一一月二七日には「一九八六年」っまりチェルノブイリ事故 者 の年の特集だったので、どのように放送するのだろうと思って見たのです。すると、小出責 故 五郎が出てきて、「あれはソ連政府が悪いから起こった原発事故だ」と、しゃあしゃあと 事 発 しゃべっていた。まだこんな素人解説者がで原発の権威なのかと思うと、寒気がし 原 章 ました。その三ヶ月半後に、福島原発事故が起こったのです。の視聴者は小出五郎 第 に尋ねるべきだね。「なぜソ連ではなく、日本で原発事故が起こったのですか。解説して ください」って。
このとき衣笠の上に立っていたのが、所長だった垣見俊弘だ。ほとんどすべての電力会 社の原発立地に関わり、原子力委員会の原子炉安全専門審査会の委員や通産省の顧問をつ とめ、全国で「 " 地質は安全。の保証人」と批判されてきた人物です。衣笠はその垣見と る 一緒に、柏崎刈羽原発の断層についての安全審査に関わって、東京電力が活断層を無視し す 弾 ていることを放任していた。これが、新潟県中越沖地震で大事故につながったのだ。 明石柏崎刈羽原発は、二〇〇七年七月一六日に起こったマグニチュード六・ 八の中越沖 者 地震で被災して、三号機では火災まで起こっています。僕も事故後三日目に取材で現地に 任 乗り込んだのですが、現場を見てゾッとしました。運よく暴走事故にまでつながらなかっ の 故 たからよかったものの、もしチェルノブイリのような暴走事故にまで至っていたら : 事 発 原 広瀬ひどい事故だった。あれが福島第一メルトダウンの予行演習だ。二〇〇四年にもマ 章 グニチュード六・ 八の新潟県中越地震が内陸で起こっていますが、あの時、観測史上最大 第 の二五一五ガルを記録した大地震でも、柏崎刈羽原発はタカをくくって運転を止めなかっ た。三年後の二〇〇七年の中越沖地震は内陸ではなく海側で、震源が原発からわずか一一三
広瀬あれは痛快な記事だったね。佐高さんが指摘したように、何の問題意識もなく電力 会社の手先になってきた文化人の罪は重い。ただ、原子力の旗振り役だった大前研一は事 故直後、週刊誌の連載などで、今回の福島事故の本質を正確に読み解いて、原子力に末来 がないことを論証していた。技術的にも群を抜いてすぐれた見識だった。彼は、柏崎刈羽 原発が損傷した事故のあと、はっきりと原発を見直すスタンスに切り替っていたらしく、 「東京電力も国も、原発関係者がいかに無能かということを思い知った」と言っていた。 ところが、今はまた「原子力の技術を放棄してはならない。より安全な原発に貢献した い」などと言い出して、元の推進論者に戻ってしまった。駄目人間だね。 明石東電をリーダーとして電力会社一〇社で構成される電事連という組織は、じつに巧 妙です。電力会社のあからさまな原発推進を目立たせないように、文化人を使って、原発 がいかに安全でクリーンなエネルギーかという世論形成をしてきたのですから。 広瀬電事連からは私も名誉の攻撃を受けたよ。チェルノブイリ事故の後、一九八七年に 放射能の危険を訴えた『危険な話』 ( 八月書館 ) という本を書いた。すると電事連が、私の 本には誤りがあるとするバンフレットを経産省所管の日本原子力文化振興財団につくらせ 122