判断 - みる会図書館


検索対象: 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント
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1. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

「情報を読む」ための一番の基本は、この「幹」と「枝葉」を区別し、ニュースの基本形を押 さえる、ということでしよう。これは「情報を伝える」場合の基本でもあります。まず要点と なる「幹」を伝え、それから「枝葉」を生い茂らせていく、というのが最もわかりやすい伝達 の方法です。 常に先手を打っ 第二の基本は、一面トップの記事も中面の「べた記事」も、必要にして十分なニュースの基 本形を備えている点では同じだということを理解することでしよう。ニュースは水もので、そ の日の品揃えによって扱いは大きく左右されます。一般の人にとっては関心が薄く、結果とし て「べた記事」になったとしても、人によっては死活的に重要な記事、発掘の仕方によっては む 特大級のニュースの萌芽となる記事もあるでしよう。大切なのは、ニュ 1 スの紙面上の扱い方よ にとらわれす、自分の目でニュースの価値を判断し、記事を手がかりに、背後に潜むものへと報 想像力を働かせ、能動的にニュースを掘り下げていくことです。 章 ちなみに、瞬時の判断で記事を差し替える場合に備えて、新聞制作の現場で行われているエ第 夫を、ここでいくつかご紹介しましよう。たとえば裁判の判決や米大統領の一般教書など、あ るニュースが飛び込んでくることが確実に予想される場合は、あらかじめそのスペースを確保

2. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

からないことになる。次の分析で精度を高めるには、自分の情報分析力の欠点を自覚する必要 がある。そのためには、無理とわかっても、自分で一定の結論を出しておいた方がいい」 田岡さんはそういいます。この場合、その結論を出すにあたって自分が判断した理由、論拠、 そのもとになる事実や情報を、箇条書きに列挙しておくことが大切だといいます。そうしてお かなければ、後で結論が間違っていた場合に、 1 「正しい情報はあったのに、見過ごしていた」 2 「正しい情報はあったのに、評価が誤っていた」 3 「間違った情報をもとに判断していた」 4 「そもそも情報が取れていなかった」 など、それぞれ判断を誤った理由が、わからなくなるからです。つまり、結論にいたる判断 のプロセスをあらかじめ記録し、あとで検証することが大切なのです。正しい情報があったな ら、分析や評価のレベルで欠陥があったわけですし、情報が誤っていたり、もともとなかった りした場合は、情報収集のレベルで問題があることがわかります。このように、次のステップ に向けて分析の精度をあげるには、どこに問題があるのかをまず把握することが近道になりま 132

3. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

固定観念・ : ・ ( 中略 ) 、記者の頭の中で考えた表現とか論理を相手の発言にしてしまう場合が 多いんじゃないか」。つまり、相手の心中を忖度するような「巧み」な文章よりも、自分の見 方を相手に押しつけず、相手の言葉を誠実に引き出すような文章が優れている、という考えで ー ) よ、つ。 新聞記者に限らず、人は経験を積めば積むほど、既知の事項から割り出したある種の推量や、 世故に倣った「常識」で物事を判断しがちです。多くの場合、そうした推量や「常識」は大局 を外していませんから、齢を重ねるほど人は常識に頼りがちです。しかしそうした「常識」は、 職業としてのジャーナリズムを選んだ人間にとっては、何よりの敵であり、陥穽なのです。先 入観や固定観念、自分の頭で考えた表現や論理を相手に押しつけてしまえば、記者は事実を発 見することなく、逆に事実を自分の見方や考えの鋳型にはめてしまうだけなのですから。 足立支局長が、「子豚がプウと鳴く」ことに感動した疋田さんの話をしてきかせたのも、「職 業としてのやじ馬」に徹することがいかに難しく、常識に頼りがちになるのかを知ってのこと だったのでしよう。子豚が実際に「プウ」と鳴くのを知るまで、予断をもたす、好奇心の炎を 燃え立たせ続けるのがいかに難しいのか、その後私も身をもって知るようになりました。 仮説を立てる

4. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

手のひらにキーワード : ・ 録音ではなく、メモが基本動作であるべきもう一つの理由は、録音ができない場合がしばし ばあるからです。最近は少なくなりましたが、以前は録音機が作動しなかったり、音声が小さ かったり、電池切れで動かなかったりということがしばしばありました。そうした時、メモを 取っていなければ、もうお手上げです。あるいは相手が録音を許さなかったり、オフ・ザ・レ コード ( オフレコ ) を条件に語る場合もしばしばあります。「オフレコ」は、記事にしないこ とを条件に話す約東ですが、その場合も、後で状況を判断するためには、メモに残しておかな ければいけない情報です。 たとえば警察幹部の自宅で歓談している最中に、進行中の捜査の話が出たとします。記者はむ しばらくしてトイレに入り、その内容を簡単なメモに書き付けておくことがしばしばあります。っ 報 この場合、概要は頭に記憶していますから、大切な情報は、「三カ所に家宅捜索に入る」とか、 情 「被害総額は三億円」といった数字や、「逮捕容疑は背任」とか、「証券取引法のインサイダー 章 疑惑」といったキ 1 ワードです。 第 法廷でメモを取ることが許されなかった当時、裁判所担当の記者は交代で傍聴席に入り、キ 1 ワ 1 ドを手のひらに書いては記者席に戻って原稿を書くというリレー取材を続け、判決がす

5. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

「英国軍」と呼んで当時のサッチャー首相の逆鱗に触れました。しかしこれも、客観的な立場 から冷静に事実を報じ、英国の視聴者の判断に供しようという報道姿勢のあらわれといえます。 次に重要なことは、報道機関が当局の要請を受ける場合には、必す「まず事実全てを明らか にすること」を前提にするということです。あらかじめ、当局が選んだ事実だけを明かすこと が慣行化すれば、当局は都合のよい情報しか流さなくなる危険性があるからです。さらに重要 なことは、現に差し迫った危険が去った後は、事後であってもそれを読者や視聴者に提供し、 判断の材料にするということです。湾岸戦争取材の後で、軍による検閲の問題について、 の著名なニュ 1 ス・キャスターであるウォルター・クロンカイト氏に話を聞いたことがあり ました。彼の答えも、「実際に、報道すれば、自国の兵士が危険にさらされるような情報は出 せない場合があるだろう。しかし、当局はその場合でも取材は認め、報道機関は後になって危 険が遠ざかったときに報道するべきだ」というものでした。 この危険度の判断でいうと、私も一度、厳しい判断を迫られたことがあります。二〇〇一年 九月一一日の米同時多発テロの後、米軍は、タリバン政権がアルカイダのビンラディン容疑者 らを匿っているとして、アフガニスタンへの攻撃の意思を固めました。東京にいた私は、ある 取材源からの情報をもとに、九月三〇日の朝刊一面で、「米、限定攻撃の準備完了。目標は軍 事拠点。救援物資投下も」という記事を書きました。この時点で、米軍の攻撃を報じた新聞は 176

6. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

るほどです。 第三は、自分の希望的観測を、情勢分析に投影しないようにすることです。分析官にとって も、「こうなれば望ましい」という主観的な偏りはつねにあります。対立する陣営が衝突して ほしくはない。何とか衝突は回避してほしい。 そう個人的に望むことと、現実に衝突を回避で きるのかという可能性との間には、残念なことに、深い断絶がしばしばあります。「衝突は避 けられない」と判断することと、分析官の個人的な信条は、あくまで分けて考えねばなりませ ん。逆にいえば、「衝突は避けられない」という情勢分析をしたからといって、分析官個人の 信条や心情の反映だと疑ってはいけないことになるでしよう。こう書けば当たり前のことのよ うに思えますが、分析官個人と、分析の結果とを切り離して見ることは、当の分析官にとって も、その分析結果を受け取る側にとっても、かなり難しいことがしばしばあります。 む よ 第四は、情報分析の結果は、つねにクロス・チェックしなくてはなりません。情報そのもの を の精度ばかりでなく、その評価をめぐっても、二重、三重の再評価が必要です。情報は、つね に「情報源秘匿」の原則を伴いますから、その根拠をめぐって、他人に簡単にソースを明かし 章 たり、その詳細を明らかにしたりできないことが多く起きるでしよう。しかし、その情報を客第 観的に証明したり、傍証できる副次情報がなければ、その情報を「客観的事実」として扱って はなりません。分析官は、いわば情報の「ゴール・キ ーパー」であり、事実かどうかを判定す

7. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

、発信者は「重要」という表題をつけるのですが、みんな同じことを思いつくのか、メール の大半に「重要」の表示が並び、結局は元の木阿弥です。情報に優先度がなくなれば、受信者 は、膨大な情報に目を通し、そこから自分で優先度を判断しなくてはなりません。 A 」い、つ単 第二は、「検索力」がいかに増大しても、「ない情報」を引き出すことはできない、 純な事実です。ウェップ上の情報蓄積が膨大になったために、人は「すべての情報がここにあ る」と誤解しがちですが、そんなことはありません。ウェップ情報の大半はいまだに英語です し、そもそもパソコンで入力できない人々の情報は蓄積されません。ウェップ情報は、いかに 無限大に近づいても、リアル・ワールドと比べれば偏りのある世界なのです。しかし、情報が 膨大になればなるほど、「存在する情報」の多様さ、複雑さに目を奪われ、そもそもウェップ る 上に「存在しない情報」を構想する力、発見する意欲は失われがちです。 え 第三は、情報に「実物」と「複製」の違いがなくなり、その加工も容易であるために、「情伝 報の真正さ」を見極めることが難しくなった、ということです。〇六年春に起きたライブドア報 をめぐる偽メ 1 ル事件を引き合いに出すまでもなく、外形だけで、ある情報が本物であるかど 章 うかを判断するのは困難になりました。また、加工が容易であるということは、「操作可能第 性」も高まるということにほかなりません。事実かどうかを検証することなく流された情報が、 途中で真偽をチェックされることなく流通していくようなことが、日常的に起きるようになり

8. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

ニスタンに潜行していると報じており、米軍当局者もその報道を否定していないことがわかり ました。特殊部隊が現地入りしているという情報は、すでに作戦が始まっていることを意味し ており、当然その情報は、アフガニスタンの当局者にも察知されているでしよう。結果として、 新聞で攻撃準備を報じても、取材源に危険が及ぶ可能性は低いと判断し、掲載に踏み切ること にしました。 178

9. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

4 人に会う 事前準備が欠かせない 何度か触れましたが、情報をつかむためには、まず現場に行くことです。あらかじめ聞いて いた情報や、本などで得ていた情報を現場で確認したり、情報と現実とのずれを認識するため には、実際に現場に行ってみるしかありません。これが、 基本原則四情報は現場や現物にあたり、判断にあたっては常に現場におろして考える。 という言葉の前半の意味です。ところで、「現場に行く」ということが、「人に会う」という 場合であることも、しばしばあります。渦中にあって核心となる情報を知っている人に会い ( 行く場合や、人に会ってその人となりや生き方をうかがったりする場合です。ここでは、まず そうしたインタビューの基本と工夫について、ご紹介してみたいと思います。

10. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

す。 ものごとが起きる場合、その理由や背景は複雑で理解しがたいものであっても、結果は単純 明白であることが多いものです。次の米大統領選挙でブッシュ候補が勝っか、ケリー候補が勝 つか。サッカーの杯決勝戦でイタリアが勝っか、フランスが勝っか。結論は二つに一つです。 もちろん、事前には予想のつかない不測の事態が起きますから、結果を正しく見通すのは至難 の業です。決勝戦でフランスのジダン選手が頭突きで退場を命じられることなど、だれが予想 できたでしよう。 かりにそうであっても、「田岡方式」は、分析力を高めるにはなお、有効でしよう。結果が 予想と反対であれば、すぐに自分の分析の誤りはわかります。結果がたまたま一致していても、 まぐれ当たりにすぎないこともあるでしよう。判断のプロセスを記録しておけば、その場合に も、分析力を高めるヒントになるでしよう。 133 第二章情報をよむ