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検索対象: 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント
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1. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

十三さん襲撃事件の記憶がおばろにあるだけで、実態は少しも知りません。ニューヨークとロ ンドンで勤務したことがあり、欧米の知識は人並みにあります。しかしタイは行ったことはあ るものの、国王やタクシン首相に関する知識は皆無。インドネシアに至っては、行ったことす らありません。 こういうと、今度は「そんなことで新聞は大丈夫か」と心配されたり、「よくもまあ大胆に ニュースを判断できるものだ」とあきれる方がいるかもしれません。 しかし、ご安心ください。私個人の知識に限りがあるのは当然ですが、新聞社総体としての 知識量、情報量には、 かなりの蓄積があります。それは、個々の記者が、どこに行けば正確な 情報を入手できるのか、日夜必死になって追い続けているからです。 学芸部の専門記者であれば、大きな遺物発見のニュースでコメントできる考古学者の顔が、 たちどころに何人も浮かんできます。科学医療部には、コンピュータ 1 技術に関する専門家の 友人を多くもっ記者がいます。社会部には、法律家を大勢知っている司法記者が裁判所クラブ報 におり、警視庁クラブには、暴力団を追う警察官や幹部と親しい専門記者がいます。 こうして、各記者はその道の情報のプロと直結し、正確な情報を聞き出したり、その意味づ第 けを確かめることができるのです。 このように、情報の中身ではなく、「どこに行けば、誰に聞けば確かな情報を得られるの

2. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

とつに、「すでに読者が知っていることを七割書け。ニュース部分は三割でいい」という一一一一口葉 がありました。記者は取材を進めるうちに、その分野での基本知識を身につけ、いつの間にか 普通の人よりも「通」になっていきます。しかし、その分野での真の情報のプロではなく、 「半可通」になっているにすぎません。いつばしの専門家を気取って記事を書けば、普通の読 者には理解が難しく、真の専門家にとっては物足りない読み物になってしまいがちです。すで に知っていることを書けば、読者は「ああ、あのことを書いているのか」と気楽に読み進み、 三割の部分のニュース性を自然に理解できる。それが疋田氏の教えでした。 編集長としての私の役割は、読者の立場にたって、個々の記者に質問することです。 「その意味がよくわかりません」 「もっと丁寧に説明してください」 「本当にそのニュースは確かですか。裏付けは何ですか。あなたの個人的な見立てに偏って、 本筋を見失ってはいませんか」 こう問い続けることで、個々の記者は再度情報のプロたちにあたって正確度を高め、読者に 理解しやすいかたちで記事を磨きあげることができると信じているからです。 そのためには、編集長はむしろ、生半可な専門知識をもっていないほうがいい。半ばは不勉 強な自分に都合のよい言い訳と感じながらも、そう思いながら仕事をしています。 23 第一章情報をつかむ

3. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

「情報」のインデックス さて、「インデックス情報」について、もう少し話を続けましよう。これまで、専門家に人 脈をもっことの大切さ、つまり「人のインデックス情報」の肝要さについて書いてきました。 当然、「インデックス情報」には、「情報に関するインデックス情報」があります。 たとえば、あなたが何か調べものをしてレポートにまとめるとします。今はインターネット の検索エンジンにキーワードを入れて調べるのが最も効率的です。しかし後で述べるように、 インターネット情報は手がかりにすぎす、そのままを切り貼りしてレポ 1 トを作成することは できません。関係者や専門家に話を聞くばかりでなく、現場を訪ね、いくつかの論文や文献、 一次資料にあたり、時には雑誌や新聞記事を読む必要があります。 たとえば書籍を読む場合、大切な箇所には折り目をつけたり、傍線を引いたりします。他人 や図書館から借りた本には色の違うポスト・イットを貼り付けます。これが「情報」のインデ ックスです。当たり前のことですが、その書籍情報のすべてが重要なのではなく、あなたが必 要だと思った箇所、直感やひらめき、勘所と感じた箇所が、あなたにとっての「情報」のイン デックスであるからです。 つまり、「インデックス情報」という手法は、不要な情報は捨て去り、自分にとって必要な

4. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

意見として各論点を整理し、それぞれの見方のどちらが説得力をもっかを比較考量してみるの が、この「 0 」と「 0 」の方法です。 この場合、注意すべき点がいくつかあります。箇条書きにしてみましよう。 各項目には、できるだけ「事実」や「情報」を書き、推測や憶測はまじえない 2 初めからどちらかの結論を立てて議論を誘導するのではなく、あくまで価値中立を厳守 する。 3 各論点ごとに対照できるように表をつくる。相手の論点に対する主張や事実がなければ、 空白のままにしておく。 このようにして「」と「」の論点表を作っておくと、情勢分析はより的確なも のになります。 大半の場合、それぞれの見方には一定の論拠や証拠があり、どちらかが正論で他が邪論とい う明快な線引きはできません。「。」の立場を主張する人 ( たとえば政府 ) もいれば、「 。」を主張する人 ( たとえば野党 ) もいるでしよう。専門家や有識者の中には、「。」の 立場に身を置きつつ、「。」の指摘の一部を支持したり、逆に「。」の側に立ちつつ、 121 第二章情報をよむ

5. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

な考え方、哲学、価値観の違う世代が共存していかねばならない時代に入るのです。 構想力と分析力が問われる では、以上のような問題点を踏まえて、これからの革命時代に際しては、どのような心 構えで情報を扱っていけばいいのでしよう力不ー : ムよ、革命の時代だからこそ、旧来のメデ ィアで記者が果たしていた役割は、強まりこそすれ、弱まることはないだろうと考えています。 最も大切なことは、情報量が膨大になるほど、何が必要で役に立つ情報かを選別し、情報の 優先度に重みをつける役割が求められるということです。検索エンジンがどれほど便利になっ ても、検索で引き出される情報は、すでにウェップ上に入力され、しかも自分の関心度や、他 の人々の関心度の高い情報ということが多いでしよう。今はさほど関心はないけれど、その人る え 伝 にとって実は必須だという情報や、いずれは役に立つ情報、警告となる情報などもあります。 を しかし、「伝達装置」に裏打ちされていたかってのようなマス・メディアの権威や影響力は、報 これからはどんどん低くなっていくでしよう。権威を重んじる人はいまだに、「ウェップ上の 章 意見や感想は、ゴミのようなものだ」といいます。たしかに経験や学殖を重ねた批評家や評論 第 家にくらべれば、一人一人の「素人」の意見は、他愛ない独り言が多いように見えるかもしれ ません。しかし、専門家の「玉」と、素人の「石」を比べるのでは公平とはいえません。素人

6. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

まず大切な心得は、「人は、聞き手が知っている程度に応じて話をする」、あるいは、「人は 相手が知らなければ、話をしない」という原則です。耐震の専門家なら、聞き手がある程度、 「耐震構造設計」の仕組みや耐震設計の歴史について基礎知識を持っていれば、その知識量に 応じて話をするでしよう。こちらがまったく基礎知識を持っていなければ、「こんなことも知 らないのか」と内心あきれるか、「これでは、正確に書いてくれないかもしれない」と不信感 を持ちかねません。 インタビューを受ける人が作家であれば、聞き手が自分の作品を読んだうえで質問している かどうかは、ただちに見抜くでしよう。映画監督であれば、自分の作品を見たことがあるかど うかは、質問の内容や仕方ですぐにわかります。最低限、その人の代表的な作品や最新作に目 を通しておくのは礼儀です。 む っ 今はインターネットの検索エンジンという便利な道具があります。相手の名前を入れて、ど を のような情報が流れているかをチェックすることも容易になりました。相手の履歴や家族構成、報 交遊関係、趣味などは、事前に頭に入れておくことができます。 章 インタビュ 1 の場合、多くは事前に質問項目を提出することが求められます。普通のインタ 第 ビュ 1 ならともかく、相手が答えにくい質問や嫌がる問題については、できるだけ表現を抽象 的にしておくのがコツです。

7. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

四つ目は「発信力」の増大です。かって個人が発信できる情報の量と範囲はごく身近に限ら れ、活字印刷であっても頒布するにはコストがかかりました。マス・メディアが力をもったの は、一定の情報を広く送達する装置を握っていたからで、個人のミニコミや対抗文化との大き な違いはここにありました。しかしデジタル革命が起きてから、個人や集団が数万単位の人に 同じ情報を送ることは、もう難しいことではなくなりました。 ZCO 、の登場は、こう した情報発信力の増大とは無縁ではありません。 コアジタル原住民」は社会を変えるか ほとんど無限の可能性を拓いたかに見える「デジタル革命」ですが、こうした変化は、い、 ことずくめとは限りません。いくつかの問題を列挙してみましよう。 第一は、「優先度の崩壊」です。マサチューセッツ工科大学のコンピュ 1 ター専門家に取材 , イカもたらした最大の変化は「緊急性の喪失」だといいまし した際に、その博士は、デジタレヒゞ た。以前は、電報が届けばそれだけで、近親者の不幸か変事があったのではないか、と身構え ました。夜中にかかってくる電話も異常事を告げました。つまり、メディア自体がメッセージ となって、「緊急性」を告げていました。今では、自分にとって最も重要なメッセージも、ジ ャンク・メ】ルも、即時に手元に届いてしまいます。多くのメールに埋没してしまわないよう 236

8. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

しかし、プレア政権も、この間の調査をめぐって大きな痛手を受けました。は、イラ ク政権内の高官から、「イラクは命令から四五分以内に、大量破壊兵器を実戦配備できる」と いう情報を得ていましたが、 その情報を傍証する物証や、他の筋からの裏付け情報は得ていま せんでした。この重大情報を政府報告書に盛り込むかどうかにあたっては、英軍情報部の大量 破壊兵器専門家からも懸念や疑問が表明されていたのに、結果としてこうした疑義を押し切っ て、政府が報告書を公開していたことも明らかになりました。また「四五分情報」は、イラク 領土内で使用する戦術兵器に関する情報でしたが、報告書ではこの点をあいまいにし、あたか もキプロス駐留軍など英軍そのものを脅かす戦略兵器と誤解されるような表現をとっていまし これらの点を考え合わせると、政府はのいうように、「意図的に情報を誇張した」と まではいえないにしても、「情報を政治化」した疑いは大きい、といわざるを得ません。イラ ク攻撃を是認する国連安保理決議が採択されなかったため、プレア政権は、この大量破壊兵器 の脅威を強調することで、米国とともに先制攻撃に踏み切りました。周知のように、戦争後、 イラクから大量破壊兵器が見つからなかったために、米英は戦争の正当性をめぐって守勢に立 たされ、国際社会から「情報の政治化」を非難されることになりました。報道の細部には間違 いはあったものの、は報道の「独立性」を保った点で、本来の使命を全うした、といえ 148

9. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

か」とい、つ情報を、かりに「インデックス情報」と呼びましよ、つ。インデックスとは「索引」 や「指針」を表す言葉です。日本語でいえば情報のありかをしめす「指示情報」とでもいえる でしよ、つか 個々の記者は、ある分野で正確な情報を提供してくれる専門家の「インデックス情報」をも っています。取材班のキャップは、チームのどの記者がどの分野に強く、今は何を追いかけて いるのかという「インデックス情報」を握っています。各部デスクはそれぞれ担当分野をもち、 自分が担当するいくつかの取材班の誰が、どんな情報を追いかけているのか、という「インデ ノソコンのアイコンをクリックして関連フォ ックス情報」を掌握しています。いってみれば、。、 ルダーを開き、そこからまた特定のファイルにつながる。その場合のアイコンやフォルダーが 「インデックス情報」にあたるといえるでしよう。 私の場合は、各部のだれが、どの方面に強いのかという「インデックス情報」があるのみで す。生半可な自分の知識や蓄積情報で判断するよりも、その分野に強い記者に質問し、その記 者がさらに「その道のプロ」から精確な情報を聞き出す方が、ずっと確かです。 これから何度も触れることになりますが、情報力に関する私の先生は、社会部での先輩記者 ひきたけいいちろう で、もう亡くなった疋田桂一郎さんでした。論説委員として一九七〇年から七三年にかけて朝 刊一面コラム「天声人語」を執筆し、その後も編集委員として活躍した方です。彼の教えのひ

10. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

てから、そのイメ 1 ジは一変しました。外国の報道記者は、現職の 0—< 職員に接触すること を禁じられ、 ージニア州ラングレーの本部にも立ち入ることはできません。けれど、おおら かといえばいえるのでしようが、退職後の 0—< 職員に取材するのは、比較的簡単です。彼ら 自身、元 0—< 職員や高官の肩書で本や論文を執筆し、寄稿することもあるくらいですから。 ただし彼らも退職時には、現職中の個別の作戦に関する証言や情報提供をしないことを文書で 誓約させられ、論文などの公表にあたっても、当局の検閲が課せられます。 海外で勤務する 0—< 職員は、他の国と同じく、多くは大使館で外交官の肩書をもってステ ーション ( 支局 ) を運営したり、特派員や会社員などの偽装のもとに活動しています。自らが 情報収集活動にあたることは少なく、公開情報を定期的に本部に送る以外は、国内に協力者を 養成して、間接的に情報を入手するのが一般的といわれます。 一般に秘密作戦や謀略を行うのは工作本部ですが、そのスタッフは 0—< 全体一一万一一〇〇〇 人のうち、約四〇〇〇人にすぎません。残りの大半は情報分析、科学技術に関する収集や支援、 行政部門などです。このうち最も充実しているのがスラブ・ユーラシア、欧州、東アジアなど の地域別、科学・武器、資源・通商などジャンル別に区分された情報本部です。私が取材した 0*< 元職員の多くはこの分析部門の出身者で、その実態は、地域の一一一口語や歴史などに詳しい 研究者や、科学技術などに明るい研究者などの専門家集団でした。大学や研究所に籍を置いて 140