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検索対象: 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント
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1. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

した条件をつけて取材に応じることがあります。このようなときには、取材上の約東は守らね ばなりません。しかし、匿名情報源が一般化すれば、「検証可能性」は損なわれますし、そも そも情報の信憑性そのものが疑われかねないことになってしまいます。 そこで多くの報道機関は、「匿名は必要最小限にとどめ、しかもその範囲をできるだけ限定 する」ことを原則にしています。たとえば同じ「政府高官」にしても、「機密情報に接する権 限のある政府高官によれば」と書けば、少なくとも「その高官は、直接、機密情報に接したう えで記者に話している」ことがわかり、情報の確度は高いことが読者に伝わるでしよう。「米 政府と直接、情報交換できる立場にいる外務省高官」と書けば、外務省でも交渉の局外にいる 人物ではなく、直接の担当部局か、かなり高位にいる幹部が情報源であることがわかります。 「この人物は、情報源が明らかになれば外交交渉に支障が出ることを恐れ、匿名を条件に語っ た」と書けば、なぜ匿名にするかがより明確になり、記事に対する信頼度も失わずに済みます。 ②当事者に反論の場を保証すること 情報が特定の個人や組織を批判したり、その不正を告発したりする場合には、その批判や告 発に客観的な根拠があることを示すのと同時に、相手当事者に「反論」の場を提供することが 欠かせない条件です。相手に反論の機会を与えないまま情報を流すことは、「言い掛かり」や 196

2. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

る情報源をもとに記事を書く記者などいないでしよう。「これはかなり確かな記事ですよ」と いいたいがために、品質保証代わりにつける空疎な枕詞。私は長く、そう疑っていました。 けれども英国で特派員をしていて、私は「信頼すべき筋」としかいいようのない情報源があ ることを、何度か実感することがありました。 英国の対外諜報機関や、防諜機関は、米国の 0—< や以上に、秘密に包 まれた存在です。現職はもちろん、引退後の職員も身分を明かすことはまずありませんし、雑 誌や書籍で回顧録を書くこともめったにありません。英外務省や英国防省は一定の情報を開一小 しますが、高官や官僚に直接あたって内部情報を知ることも、日米などと比べるとかなり困難 といっていいでしよ、つ。 仕方がないので私は、外務省や国防省といった「本丸」に接近することはあきらめ、周辺の シンクタンクに在籍する研究者や大学の学者らに多く取材を重ねました。 そのうち、数人の人物が、政府の内部情報を入手しつつ、的確な分析をもとに、外国の報道 機関向けに加工した情報を教えてくれることに気づきました。彼らも情報のプロですから、外 部に漏らしてはいけないナマの情報は取り除き、差し支えのない範囲内で教えてくれるだけで す。したがって、その情報源をもとにニュースを書くことはできませんが、情勢分析にあたっ ては欠かせない「信頼すべき筋」になりました。 150

3. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

情報を扱う専門家といえば、みなさんはどのような職業を思い浮かべるでしようか。筆頭に あがるかどうかは別として、「情報機関」が、そのかなり上位の一つを占めることは容易に想 像できます。 名称や肩書は別として、各国には情報を収集・分析する国家機関があるのがふつうです。米 国であれば O—< ( 米中央情報局 ) 、旧ソ連であれば ( 国家保安委員会 ) 、英国では 007 のジェームズ・ポンドで有名になったなどが、その代表例です。ふつう、こうした対外 諜報機関は、国内を舞台に外国からの情報収集を防ぐ防諜機関と、対になって活動しています。 たとえば米国では ( 米連邦捜査局 ) 、英国ではがその防諜機関です。 こうした情報機関の名前をあげると、多くの人は、映画や小説で活躍するスパイのイメージ を頭に浮かべるでしよう。ボンドのように華やかで行動的なタイプ、英国の作家ル・カレの 「スマイリー三部作」に出てくる旧ソ連のスパイ・マスタ 1 のように知的で孤独なタイプ、同よ 報 じく英国の作家フリーマントルのチャーリ 1 ・マフィンのように、人間味のあふれるタイプ。 情 人さまざまにイメージは違うでしようが、おしなべていえるスパイの印象は、探偵小説に出て 章 くるような「クロ 1 ク・アンド・ダガ 1 」 ( 外套と短剣 ) の陰謀色に彩られているようです。 第 実は私も以前は、情報機関の関係者に対して、おどろおどろしいイメージを抱いていました。 しかし九三年末にワシントンなどで 0—< の元長官一一人を含む一一十数人の情報関係者に取材し

4. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

る関門の守り手であるべきです。怪しげな球や、際どい球をはねのけなかったら、守護神とし ての能力を問われるのは必至です。 こうした基本原則が「情報のプロ」たちの気概を支えているといってもよいでしよう。 致命的な情報の「政治化」 以上の要諦のうち、最も注意すべきなのは「情報の政治化」です。これは、情報の受け取り 手 ( 顧客 ) がすでに方針を決めていて、その裏付けや補強となる情報だけを意図的に集め、不 利になる情報は否定したり無視したりすることを指します。これは一国の政府ばかりでなく、 身近な例では、会社の社長の経営方針に沿ったデ 1 タばかりを集め、不利になる情報を部下が 過小評価する、といった場合にも起こり得ることでしよう。あるいは地方空港を新設しようと する自治体が、民間のシンクタンクに依頼して乗客の利用数の推計をしてもらう際に、シンク タンク側が顧客 ( 自治体 ) に有利な数値をあげる、といった場合にも起きることです。情報分 析をする機関が民間であれば、どうしても顧客の要望に合わせた結果を出しがちになるのは避 けられません。 これは政府も同じことで、情報機関が政治化して、指導者の意向に合わせた情報だけを集め、 不利益な情報を封殺するようになったら、その政体は独裁化の傾向を強め、最終的には自壊す 144

5. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

自由に専門分野を研究する代わりに、国家のナマの情報をもとに国のために分析する。その表 情には、内心に何のやましさもないだけでなく、むしろ自分の仕事を誇りにする気概のような ものが読み取れました。 米国には 0—< をはじめ、一三にわたる情報機関が並立しているといわれます。予算や人員 で最も大きな比重を置いているのは、 0—< よりむしろ、通信の傍受や分析を担当する国家安 全保障局 (zn<) や、衛星などの上空情報活動を行う国家偵察局 (zxo) などの軍事部門 といわれています。しかし、通信や衛星写真などの通信・電子情報は、相手国の「能力」や 「技術」を知る上では威力を発揮するものの、「意図」を知るには十分とはいえません。相手権 力の中枢に浸透した関係者の情報や、歴史・地誌・一一一一口語などの知識を駆使した「人間」の分析 が介在する余地が、ここにあります。 O ー < 出身者が語った四つの基本原則 当時の私の取材テーマは、「冷戦後における情報機関の変質」というものでしたが、その取 材の前後に 0—< 出身者に、情報分析における要諦を聞いてみました。 共通していたことは、大きく分けると四つあります。第一は、政策決定や政策変更のために 情報を利用しない、 つまりは「情報を政治化しない」ということにつきます。あらかじめ政策 141 第二章情報をよむ

6. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

士気を保っている」といった情緒的な報道しかできなくなってしまうでしよう。 第二は、「利敵行為」を防ぐための「検閲」が、「自軍に不利な情報」を遮断するための手段 に使われがちだということです。たとえば味方による残虐行為や国際法違反行為があったとき、 「敵のキャンペーンに利用される」とか、「味方の士気低下を招く」といった拡大解釈によって、 事実を隠蔽する場合がこれにあたります。 第三は、「検閲」が「軍は報道機関に事実を知らせ、報道する側は特定の事項に限って報道 しない」という一般原則を超え、軍が「報道機関に対して事実そのものを知らせない」とか、 「事実の公開を制御する」といった報道統制につながりかねない、という問題です。 第四は、「検閲」が批判を受けないまま浸透すると、その原則が内在化し、報道する側が当 局にいわれないまま「自主規制」をしがちになる、という問題があります。 む よ を 報 事前規制の注意点 情 こうした弊害を防ぐために、報道する側はいくつかのことを念頭に置く必要があるでしよう。 章 最も大切な点は、自分が誰のために情報を収集し、発信するのかという姿勢の問題です。これ第 は、新聞であれば読者、放送であれば視聴者であり、軍や情報機関とは違って、政府や当局が 顧客ではありません。フォークランド戦争にあたっては、自国軍を「我が軍」と呼ばず、

7. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

例になっています。 その慣例を破る前代未聞の事件が、私が英国に滞在していた〇三年夏に起きました。その春 に米英軍が強行した対イラク戦争をめぐり、 ngao が同年五月末、「英政府は、イラクの大量 破壊兵器に関する情報を誇張していた」という疑惑を報道し、プレア政権と真っ向から対立し た事件です。この事件をめぐっては、報道の取材源だったケリ 1 博士が自殺したため波 紋が広がり、その死の責任をめぐって、ハットン卿を長とする独立調査委員会が発足し、 0 幹部や記者、政府高官ら関係者をすべて呼んで証言させるという異例の展開となりました。 この委員会は、ふだんはヴェールに包まれている対外諜報機関の長官まで呼んで証言さ せ、政府関係者の間で交わされた文書やメールまでが即時にインターネット上で公開されま した。政府と情報機関のやりとりや情報評価・公開のプロセスが、文字通り白日のもとにさら む よ されたことになります。 を ここでは詳細を省きます力ノ ゞ、、ツトン委員会で焦点になったのは、まさにここで問題にして報 きた「情報の政治化」でした。結果からいえば、放送で疑惑を報じたギリガン記者は、 章 ケリー博士から聞いた事実から逸脱する表現を使っていたことがわかり、は報道に欠陥第 があったことを認めざるを得ない立場に追い込まれました。その結果、は、報道内容を めぐって会長、経営委員長の両トップが辞任するという手痛い打撃を被りました。

8. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

九一年の湾岸戦争時、サウジアラビアの米軍取材で、まず報道陣として登録する際に、私は 「グラウンド・ルール」と呼ばれる誓約書に署名させられました。これは、「部隊の情報保全と 安全を確保する一方、報道陣に許され得る最大限の取材の自由を与える」とうたっていました が、実際には多くの制限を列挙していました。「発信地点は、サウジアラビア東部などとし、 地点を特定しない」、「情報源の保全のため、報道陣が行うすべてのインタビューを記録する」、 「部隊取材は、米軍当局者同行のもとで行い、その指示に従う」などが原則です。さらに報道 してはならない情報として、 〇部隊、飛行機、装備などの数 〇軍事施設の名前と地点 〇将来の作戦に関する情報 〇軍事施設の保存状況を示す写真。特に空中撮影や衛星写真 〇情報収集活動、進行中の作戦、特殊任務などに関する情報 といった項目をあげていました。「進行中」や、「将来」の作戦に触れる情報といえば、事実 上あらゆる内容が含まれてしまいます。さらに開戦にあたっては、米報道機関を中心に、部隊 173 第二章情報をよむ

9. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

「英国軍」と呼んで当時のサッチャー首相の逆鱗に触れました。しかしこれも、客観的な立場 から冷静に事実を報じ、英国の視聴者の判断に供しようという報道姿勢のあらわれといえます。 次に重要なことは、報道機関が当局の要請を受ける場合には、必す「まず事実全てを明らか にすること」を前提にするということです。あらかじめ、当局が選んだ事実だけを明かすこと が慣行化すれば、当局は都合のよい情報しか流さなくなる危険性があるからです。さらに重要 なことは、現に差し迫った危険が去った後は、事後であってもそれを読者や視聴者に提供し、 判断の材料にするということです。湾岸戦争取材の後で、軍による検閲の問題について、 の著名なニュ 1 ス・キャスターであるウォルター・クロンカイト氏に話を聞いたことがあり ました。彼の答えも、「実際に、報道すれば、自国の兵士が危険にさらされるような情報は出 せない場合があるだろう。しかし、当局はその場合でも取材は認め、報道機関は後になって危 険が遠ざかったときに報道するべきだ」というものでした。 この危険度の判断でいうと、私も一度、厳しい判断を迫られたことがあります。二〇〇一年 九月一一日の米同時多発テロの後、米軍は、タリバン政権がアルカイダのビンラディン容疑者 らを匿っているとして、アフガニスタンへの攻撃の意思を固めました。東京にいた私は、ある 取材源からの情報をもとに、九月三〇日の朝刊一面で、「米、限定攻撃の準備完了。目標は軍 事拠点。救援物資投下も」という記事を書きました。この時点で、米軍の攻撃を報じた新聞は 176

10. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

つまり、組織内におけるニュースの第一報は「事実の伝達」というより、「大きなニュース が来るかも知れないので、準備せよ」という「警戒警報」の役割を果たすのです。 会社の広報も同じ役割 新聞社では、誤った情報を「ガセネタ」と呼びますが、これは「騒がせネタ」という一一一一口葉に 由来しているといわれます。後で第一報が「ガセネタ」であるとわかっても、誰も非難しませ ん。初動で遅れをとるより、結果的に空振りであっても、いち早く警戒態勢を取った方がよい からです。もちろん、この情報を「ニュース」として外部に公表するかどうか、つまり記事と して掲載するかどうかは別の問題です。客観的な事実として報するには、後に述べるように厳 格な基準によるテストを経なくてはなりません。ここでいう第一報は、それ以前の、「組織内 情報」です。 こうした「組織内第一報」の重要さは、会社や官庁などにおける広報担当にも共通していま す。組織の帰趨にかかわる重要情報をつかんだらまず、「まだ噂にすぎませんが、念のためお 耳に入れておいた方がいいと思いまして」といって責任者に第一報を伝えるのが原則です。結 果として虚報であっても、「お騒がせしました。そそっかしい性格なもので。以後気をつけま す」といえば「空騒ぎ」で済むことです。 192