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検索対象: 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント
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1. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

外岡秀俊そとおか・ひでとし 朝日新聞東京本社編集局長 ()E = ゼネラル・エデイター ) 。 1953 年、札幌市生まれ。 1977 年、東京大学法学部卒、朝日新聞 社入社。学芸部、社会部、外報部、ニューヨーク特派員、アェ ラ編集部、編集委員、ヨーロッパ総局長などを経て 2006 年 4 月 から現職。著書に『地震と社会』など、共編著に『 9 月 11 日・ メディアが試された日』など。 新聞記者の実戦ヒント しんぶんきしやじっせん 情報のさばき方 じようほう 070 朝日新書 著者 発行人 編集人 カバー デザイン 印刷所 発行所 2006 年 10 月 30 日第 1 刷発行 外岡秀俊 一色清 岩田一平 アンスガー・フォルマー 凸版印刷株式会社 朝日新聞社 田嶋佳子 〒 104 - 11 東京都中央区築地 5 - 3 - 2 電話 03 ( 3545 ) 0131 ( 代表 ) 振替開 1 - 0 - 155414 @Sotooka Hidetoshi 2 Printed ⅲ Japan ISBN 4 - 02 - 273110 - 9 定価はカバーに表示してあります。

2. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

社会部デスクは、静岡を本拠としている暴力団後藤組の最近の動静、とりわけ民事介入暴力 が経済事犯に浸透している現状を説明します。他方、生活部デスクは、介護保険法の改正から 一カ月たって、ケアプランを作成してもらえないお年寄りが増えているという問題が深刻化し ていると訴えます。 朝日新聞は一、二、三面がその日の重要ニュース、後ろから社会、第二社会、第三社会面で、 身の回りの重要ニュースを扱い、残りのペ 1 ジは政治、経済、外報、生活、スポーツ、オピニ オン、文化など各部が作る面 ( 社内では固有面と呼ぶ ) から成り立っています。この午後のデ スク会は、ニュース面のメニューを決める場なのです。私はメニュ 1 をざっと見渡し、こう発 一言しました。 「メタポリック症候群は国民すべてにかかわる関心事なので、これで一面トップを作りましょ う。格差社会をテーマにする『分裂につほん』は看板企画記事なので、これも一面で扱います。 タイ総選挙は今日が節目なので、これも一面。スハルト氏は歴史に名を残す政治家なので、も し亡くなればこれも一面になるでしよう。今日の新聞づくりの不確定要素です。時時刻刻は、 今日のニュ 1 ス性を考えれば、後藤組でいくのが自然と思います。ただし、関心が東京に限ら れると地方のニュースになるので、暴力団が介入する民事暴力の事件例を大阪、名古屋、九州 でも探してみてください。介護保険法もみなさんの関心が高いので、今日は預かりますが、後

3. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

「のれん分け」をすることもあります。 ある時期にロンドン市長がユダヤ人問題で失言をして、大きな波紋を広げたことがあります。 その前には、ハ 丿ー英王子がナチス兵士の制服で仮装をして国際問題にもなりました。私は 「政治」のジャンルにあった「政治と一一一〔葉」のファイルから、「失一言」のファイルを「のれん分 け」し、そのファイルにロンドン市長と王子の仮装の記事を入れました。そうしてみると、こ れまでは見過ごしてきた関心領域がくつきりとした輪郭を結ぶようになり、それから後は、政 治家の失言に注目することが多くなったのです。政治家の発言は、社会のタブーに触れるから こそ、問題視されます。タブ 1 とは、ふだんは明示されず、その境を越えた時に初めてあらわ れる社会の禁忌といえます。外国人にはかんたんには見えません。だからこそ、特派員にとっ ては格好の素材であり、理解を深めるいい機会なのです。王室のスキャンダルを調べるうちに 私は、英国でも戦前、ヒトラーを賛美する貴族がおり、王室の一部にも、その動きを見せた人 物がいたことを知りました。そうした背景があったからこそ、英国王子の悪ふざけが欧州全体 に想像以上の波紋を広げたのです。 私がファイルを作った理由は三つありました。第一は、ファイルに記事を分類する場合、あ る程度は記事を読まざるを得ません。概要を把握しなければ、そもそも、どのファイルに入れ るか決められないからです。六紙を毎日読み続けるために、自分へのプレッシャーとして切り

4. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

誰に何を伝えるか 第一報はなせ大切か / 会社の広報も同じ役割 / 「事実」を見きわめる三 つの基準 / 「事」「理」「情」のバランス / 要約を冒頭に、結論はわかり やすく / 月並みな表現を避け、記述は具体的に / わかりやすさ、正確さ、 美しさ / メディアごとに「文体」が違う 2 書くためのヒント まず文章の設計図を / 設計図の作り方 / さまざまなタイプの職人たち / ノンフィクションとフィクションの境目 / 「三角測量」が可能にする克 明描写 / 「一一一点保持」によるスクリーニング 3 社会と情報 急速に進むデジタル化 / 物理的な制約を突破 / 「デジタル原住民」は社 会を変えるか / 構想力と分析力が問われる おわりに 241

5. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

情 9 7 8 4 0 2 2 7 5 1 1 0 4 の さ ば き 方 010 き さ」 報秀 月岡 新外 朝日新聞編集局長が、 記者生活年で鍛えた 「情報力」を公開する。 インタ 1 ネットの発達でケタ違いの情報が氾濫している今、 現代人は「情報力」を鍛えることが欠かせない。 情報を扱う場面を、 「つかむⅡ収集」「よむⅡ分析・加工」「伝えるⅡ発信」の 三つに切り分け、 豊富な事例をもとにそれぞれのポイントを解説し、 対処法へのヒントを紹介する。 1 9 2 0 2 3 6 0 0 7 2 0 0 0 1 外岡秀俊そとおか・ひでとし 朝日新聞東京本社編集局長 ( Ⅱゼネラル・エデイター ) 。 19 5 3 年、札幌市生まれ。行年、東京大学法学部卒、朝 日新聞社入社。学芸部、社会部、外報部、ニューヨーク特 派員、アエラ編集部、編集委員、ヨーロッパ総局長などを 経て 2006 年 4 月から現職。著書に『地震と社会』など、 共編著に『 9 月Ⅱ日・メディアが試された日』など。 I S B N 4 ー 0 2 ー 2 7 5 1 1 0 ー 9 C 0 2 5 6 \ 7 2 0 E 朝日新聞社 定価 : 本体 720 円 + 税 外岡秀俊 Asahi Shinsho 010 朝日新書

6. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

日しつかり扱っていきます。写真は一面に年老いた漁師。社会面で荒川静香」 ここで会議は終わり、デスクは各部に散っていきます。この間三〇分。午後四時からは、名 古屋、大阪、九州の各本社の局長室を結ぶ電話会議で、東京出稿のメニューを報告し、各本社 から出る全国ニュースを説明してもらいます。これが一〇分間。四時一〇分には翌朝の新聞の おおかたの骨格ができあがっています。いってみれば私は毎日、仲買人を前にニュースを競り にかける竸り人で、その競りの場がこのデスク会議ということになります。その後に大きなニ ュースが飛び込んでくれば、紙面を大胆に作り変えることはいうまでもありません。ただし、 大きなニュースには多くの場合、かすかな予兆があるのが普通です。その不確定要素をどこま で見越し、見切るのかが職人の技量といえます。 「インデックス情報」とは ここまで読んだ方は、私のことを、世の中の森羅万象に通じた情報のプロと錯覚なさるかも しれません。もちろん、そんなことはありません。旧学芸部で家庭面を担当していたので、生 活関連ニュ 1 スには多少の知識はあります。しかし、介護保険法の仕組みは自分では説明でき ませんし、メタポリック症候群などは言葉を聞いたのも初めてでした。社会部で働いたことが あるので、事件事故の取材には多少のカンも働きます。しかし後藤組は、映画監督の故・伊丹

7. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

抜きという作業を課しました。 第二は、何か大きな出来事が起きた時の補強材料です。記事は時系列に沿って放り込んでい ますから、とっさの事件でも、その類似の例や前例、統計などがすぐに取り出せます。出来事 の背景を、奥行きにまで視線が届くように、深く掘り下げることができます。 第三は、先ほど「失言」を例に書いたように、自分でも気づかなかった問題意識を顕在化さ せ、新しい視点で社会の動きを切り取ることができるためです。自分にしか見えない独自の観 点から、社会の動きを発掘する手段、といってもよいでしようか。 ロンドンでのファイルは日を追って増え続け、、 しくつかの書棚はたちまち埋め尽くされ、し まいには積み重ねたファイルの山が崩れ落ちるといったことが、よく起こりました。英国人助 む 手に、「またファイルの雪崩が起きた」とからかわれたものです。 帰国するにあたって、大半のファイルは捨てました。今度の職場では、切り抜きに時間を費っ やす余力はありません。そのときに、はたと気づいたことがあります。ロンドンでは割合に時報 間や自分の空間があった私は、情報を「物のかたち」で保管していましたが、考えてみれば一 章 つひとつのファイルは、私にとっては「情報のインデックス」の外在化にすぎません。ファイ 第 ルの中身がカラであっても、記憶の中にそのファイル名が残れば、「物のかたち」で保管する 必要はないのです。どこに行けば、だれに聞けば「情報」を入手できるのかさえわかっていれ

8. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

基本原則四情報は現場や現物にあたり、判断にあたっては常に現場におろして考える。 という原則にも重なっています。新聞記者は、一定の期間で次の場所に転勤しますから、最 初に情報の中枢に張り付いて居心地がよくなってしまえば、自分の任地すべてを回れないまま 離任の日を迎えてしまいます。その間、記者は現場のカンによって役所や警察の発表をチェッ クすることが本当にできたでしようか。さんの生き方は、そんな自戒をしてきた結果なのだ という気がします。こうした「現場主義」は、新聞記者に限らす、組織の中枢にいる人、将来 そうした立場を目指そうとする人には、特に心していただきたいことだと思います。 莅置情報」の基本は地理と歴史 私の社会部、雑誌アエラ編集部当時の先輩に田岡俊次さんがいます。定年後もテレビなどで 軍事評論家として活躍しておられますから、ご存じの方も多いでしよう。若いころから軍事専 門記者として辣腕をふるった田岡さんに、ある時、「軍事を学ぶ要諦は何でしようか」と伺っ たことがありました。 「それは、地理と歴史です」

9. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

て意識的に先入観や固定観念を抽象化して仮説モデルをつくり、その仮説が現場に裏切られる ことを「発見」する作業をしろ、ということなのです。 その例を二つ挙げましよう。いずれも一九五九年一〇月、疋田さんが社会面に書いて語り草 になったルポ記事です。 ケース ( ①伊台風の被害 一〇月九日にはフ黒い津波の跡を歩いて」という長文記事が第一一社会面に掲載されまし た。これは前月に起きた伊勢湾台風の後、一週間にわたって現場を歩いて書いた災害のルボで す。疋田さんはまず、東京で想像していたことと現場の実感の落差をさまざまに綴ります。名 古屋では流木で多数の人が死んだ。せいぜい電信柱くらいと想像してきてみたら、流木はとて つもない巨木で、直径一メートルから一メートル半、重さ何トンにもなる「小型戦車みたいな やっ」が何千本ともなく貯木場を飛び出し、高潮に乗ってまっくらな夜、密集した住宅地に暴 れ込んだという。 現場に行く前は、名古屋市の南部は、全体が水没していると思っていた。ところが埋め立て 地の大工場と工場敷地だけは、まるで島のように水の上にあり、まわりの工員住宅が、ほとん ど水の下なのだ。「つまり、人の住まないところはカラッとかわいており、人の住むところが

10. 情報のさばき方 : 新聞記者の実戦ヒント

十三さん襲撃事件の記憶がおばろにあるだけで、実態は少しも知りません。ニューヨークとロ ンドンで勤務したことがあり、欧米の知識は人並みにあります。しかしタイは行ったことはあ るものの、国王やタクシン首相に関する知識は皆無。インドネシアに至っては、行ったことす らありません。 こういうと、今度は「そんなことで新聞は大丈夫か」と心配されたり、「よくもまあ大胆に ニュースを判断できるものだ」とあきれる方がいるかもしれません。 しかし、ご安心ください。私個人の知識に限りがあるのは当然ですが、新聞社総体としての 知識量、情報量には、 かなりの蓄積があります。それは、個々の記者が、どこに行けば正確な 情報を入手できるのか、日夜必死になって追い続けているからです。 学芸部の専門記者であれば、大きな遺物発見のニュースでコメントできる考古学者の顔が、 たちどころに何人も浮かんできます。科学医療部には、コンピュータ 1 技術に関する専門家の 友人を多くもっ記者がいます。社会部には、法律家を大勢知っている司法記者が裁判所クラブ報 におり、警視庁クラブには、暴力団を追う警察官や幹部と親しい専門記者がいます。 こうして、各記者はその道の情報のプロと直結し、正確な情報を聞き出したり、その意味づ第 けを確かめることができるのです。 このように、情報の中身ではなく、「どこに行けば、誰に聞けば確かな情報を得られるの