ったり、次のパスのインターセプトや、相手パスレシー ハーがトラップする瞬間を狙っ て仕掛けていくアタックだったり、遠いサイドでフリーランニングする相手をしつかり と最後までケアーする忠実マーキングなど、ケースに応じて様々なものがある。 いく。同時 味方の一人が相手ポールホルダーへ全力でチェイス & チェックを仕掛けて しく。そ に周りの味方が、相手パスレシー ーに対して、スツ、スッと間合いを詰めて ) のことでパスが難しくなったポールホルダーは、仕方なくキープしようとするが、それ こそが思うッポ。そこへ味方のサポートが集中して協力プレスの輪を築いてしまう。 そうなったら、もう相手ポールホルダーは風前の灯火。そして、味方がポールを奪い 返すことを確信した周りのチームメイトたちは、次の素早いカウンター攻撃をイメージ し、タテのスペースをターゲットにしたフリーランニングのスタートに備える。ディフ エンスは、次の攻撃の準備なのだ。 大事なのは、守備の起点も含むそれらすべてのディフェンスプレーが同時に動きつづ けていること。もっといえば、アクションの基盤となるポール奪取イメージが、味方同 士でしつかりとシェアされ、シンクロしていることなのだ。 優れた守備コンビネーションに支えられた効果的なポール奪取勝負は、有機的な守備 ノノ 8
できたとき、ニアポストのゾーンに狙いを定めて強めのクロスポールを送り込むという 仕掛けの「大枠イメージ」を与えるのである。 イメージを共有していれば、仕掛けの起点になった選手は、迷わず、そのゾーンへ強 いクロスポールを送り込むだろう。また中央ゾーンで待っ味方にしても、少なくとも一 人は、そのニアポストゾーンへ飛び込んでいくに 違いない 大事なことは、この両方のアクション ( クロスとフリーランニング ) が同時にスター トしなければならないということだ。最終勝負のピンポイントには、まだ誰も人ってき ていないというタイミングで、唐突にコトを起こしていくのである。 クロスを送り込む方は、必ず味方の誰かがニアポストのスペースへ飛び込んでくるは ずだ : : : と確信し、受ける方は、ポールを持ってルックアップしたアイツは必ずオレが 走り込むニアポストのスペースへクロスを送り込んでくれるに違いない : ・ : と確信する。 そんな、期待感がべースになった「あうんの呼吸」。それこそまさに、有機的なイメ ジ連鎖ではないか ある大枠の戦術イメージを基盤にした自由な発想。そのなかで、リスクにもチャレン ジしていく勝負アクションが有機的に連鎖する。そこには、個人プレーとは次元の違う ノ 02
いた。そうか、ウリが相手ポールホルダーへ強烈なプレッシャーを掛けたことで相手の 動作が制限されたからこそ、パスコースが読めたんだ : 「何だ、いま頃そのことに気付いたのか。あのときオレが仕掛けていたプレッシャーは、 どちらかといったら、ポールを奪い返すよりも周りの味方にポールを奪い返させるため だったんだよ。一方のサイドを抑えてしまうことで、相手がパスできる方向をコントロ ールしたということだな」。ウリが、さも当然といった口調で言った。ナルホド : 「それだよ。ウリは、ポールを奪い返すメカニズムをよく分かっているからな。でもお 前がクレバーにプレッシャーを掛けたのは、オレが怒鳴ったこともモティベーションに なったんだろう ? 」と、我々の会話を聞いていたヘルベルトが横からロをはさんだ。 「それもあるかもしれないな。まあ : : : ウルせ—な、相手のポールホルダーをチェック すりや文句はネ—んだろってな思いもあったけれどな。とにかく、誰かが汗かきのプレ ッシャーを掛けなければ、相手の攻めをコントロールすることなんてできるはずがない からな。オレの価値を見直したかい ? 」と、胸を張るウリ。 「うん ウリは良いプレーをしているよ。オレがインターセプトできたのも、ペー 770
チャーを返すことで、ささやかな抵抗を試みるのがやっとだった。 それは、当時ボクが所属していたアマチュアクラブのトレーニングマッチで起きたワ ンシーン。 ハンスがポールを持ち、ドリプルで相手に突っ掛けていったとき、ボクは、 前方に走り込めるスペースがあったにもかかわらず、様子見になって足を止めてしまっ た。そのことでハンスはパスを出すことができず、そのままドリプルで勝負を仕掛けて いかざるを得なくなってしまったのだ。プレーの選択肢を奪われてしまったのだから、 相手に取り囲まれてポールを奪われてしまうのも当然の成りゆき。ハンスが怒るのはも っともだった。 そのときのボクは、前のスペースへ上がっていくことをイメージしながらも、結局は アクションを起こすのをためらった。そのときの心の動きはいまでも鮮明に思い出す。 スペースへ上がってパスを受ければ、確実に、最終勝負シーンの主役として仕掛けて いかなければならなくなる。それも、受けたポールを別の味方へ展開するのは難しいだ ろうから、そのままドリプルで、リスキーな最終勝負を仕掛けていかなければならない ただそこには、リスクへチャレンジしていくのをためらっている自分がいた。そして結 似 7 INTRODUCTION 勝負は、ポールがないところで決まる
まさにアタフタという感じになってしまっているのだ。そして、乱れた体勢から安易に ポール奪取アタックを仕掛けてしまう。これでは、周りの味方が「次の」ポール奪取勝 負へ向けたイメージをクリアに描けないのも当然だ。次にどこへボールが動くのか予想 できないのだから。 そして案の定、ヘルムートがアタックモーションの逆を取られ、そのまま置き去りに されてしまうのである。ウリがカバーリングに人っていたから ( ウリには、ヘルムート が抜き去られるのが見えていた ) 、その相手がドリプルで突進していけるというわけ ではなかったけれど、その前方に太平洋のような大きなスペースが空いていたことで問 題が発生する。そこへ相手のサイドバックが、まったくフリーな状態で走り込んでいっ ーラップ。それは、決定的ピンチにつながる危険な状 たのだ。ものすごい勢いのオー 況だった。 ーラップする相手サイドバックを最後 本来ならば、攻撃的ハーフのカールが、オー までマークしつづけなければならなかったけれど、相手のフェイントに振り回されるヘ ルムートの無様なマーキングに意識と視線を引きつけられてしまったカールは、一瞬、 サイドバックから目を離してしまったのだ。そして次の瞬間、そのサイドバックが、カ 第 3 章有機的なプレー連鎖の集合体 2
ムート 彼にとってそれは、厳しい学習機会だった。 ディフェンスは次の攻撃の準備 ディフェンスでは、 いかに効果的に「守備の起点」を演出するのかが決定的に重要な 意味をもつ。前に紹介したシーンでは、ウリは、味方による次のポール奪取をイメージ して相手にプレッシャーを掛けていた。だからこそ、ボクには「次のパス」が見えた。 それこそが、相手の攻撃を積極的にコントロールする守備のスタートラインなのだ。 守備の起点の演出。それは、ポールへの寄せとか、相手ポールホルダーに対する間合 いの詰めなどと表現されることもある。要は、ポールを持っ相手の前に立っことで、物 理的、精神的なプレッシャーを掛けるプレーのことである。 守備の起点がうまく機能すれば、その周りでポール奪取を狙っている味方のプレーに もクリアな輪郭ができてくる。逆に、守備の起点がうまく機能している状況では、周り の味方のサポりは決して許されないとも言える。「小さな」サポリや意識の空白が、そ れまでの努力を水の泡にしてしまうのだ。 守備の起点の周りにいる味方のプレーには、守備の起点をサポートする協力プレスだ 〃 7 第 3 章有機的なプレー連鎖の集合体 2
ある。だからこそ、どこにスペースが出来るのかを「事前に」予測できることが決定的 に重要な意味をもってくる。敵と味方の動きを観察することで予想するわけだけれど、 それは簡単なことではない。ポャポャしていると、観察するだけで足が止まり、仕掛け の流れから取り残されてしまう。 ただ「灯台」があることで、それがイメージ展開の支点になった。それがあることで ターゲットゾーンが定まり、より明確にスペースの出現を予測できるようになったのだ。 ペーターと同じ最前線に張っている味方が、ズバッと音がするくらいの鋭いダッシュ で戻り、タテパスを要求する。例の、パスを呼び込む動きだ。もちろん相手ストッパー が、ピタリとマークしつづける。その結果、その味方が最初にいたポジションにスペー スが出来るのだ。 ボクは、その最前線のチームメイトが「戻りの動き」をスタートする瞬間から、自然 と身体が動くようになっていた。狙うのはもちろん、そのチームメイトの動きによって ある時は、後方からのタテパスが、戻り気味に動いたチームメイトではなく、直接、 最前線にポジションするべーターへと出され、受けたペーターが、その横のゾーンに空 「出来つつあるスペース」である。 第 2 章有機的なプレー連鎖の集合体 1
「本物の守備意識」が、魅力的なサッカーを支える ボクは、サッカーに関わっているなかで、いろいろなキーワードやキーセンテンスを 編み出しているつもりだ。フリーランニング : : : クリエイテイプなムダ走り : : : 心理的 な悪魔のサイクル : : : 優れたサッカーは有機的なプレー連鎖の集合体 : : : 等々。その基 本的な発想コンセプトは、現場で監督やコーチが活用できるというものだ。 そのなかに、「互いに使い、使われるというメカニズムに対する理解こそが、本当の 意味でのサッカーのレベルアップを促進する : : : 」というものもある。どんな選手でも、 味方を使うだけではなく、味方に使われるものなのだ。まあ、世紀の大天才であるから こそ諸刃の剣でもあったマラドーナだけは別だけれど : 例えば、攻守にわたるポールがないところでのクリエイテイプなムダ走りなどが、使 われるプレーの典型例ではあるけれど、味方のミスでポールを奪われたとき、次の守備 に、必死の全力ダッシュで戻るといった目立たない守備プレーも、使われるプレーの典 型だ。そう、優れた守備意識。 またボクは、「攻守にわたって主体的に仕事を探しつづけるプレー姿勢こそがサッカ ー選手のあるべき姿だ : : 」などといったキーワードも作り出した。常に考えながら仕 ノ 58
からは、チームメイトと協力しようとする意志が感じられるようになっていった。パス を受けてからのプレー内容に、明らかな変化の兆しが感じ取れるようになったのである。 シンプルにパスを回したり、その直後にパス & ムープで次のスペースへ走ったり。も ちろんポールをキープする場面も多いけれど、それにしても、ドリプル突破チャレンジ というだけではなく、味方へのパスの準備という雰囲気も感じられるなど、以前とは大 きく様変わりした。そして、ペーターからパスが出てくることへの期待感が格段に高ま っていった。彼がポールを持っているときでもチームメイトの動きが止まらなくなった のは、自然の成りゆきだった。 またそれだけではなく、 ペーターのポールがないところでの動きも格段にアクテイプ になっていった。ボクは、その動きのことをフリーランニングと呼ぶ。それには、パス を受けるためだけではなく、味方にスペースを作り出す ( 相手ディフェンダーを引きっ ける ) などのミッションも内包されている。 あの、ポールを愛してやまなかったペーターが、ポールがないところでも大きく動い てパスを要求するようになったのだ。チームにとって、それにまさるポジテイプな刺激 はない。チーム全体のポールなしの動きがより活性化されるのも道理だった。
ホールの動きが止まれば周りの動きも止まる それからのトレーニングでは、ヘルベルトが積極的に動きつづけることになる。ペー ターのプレーに対して、よりアクテイプに意見をするようになったのだ。 : 」、「そこは。、 「そこは、シンプルにパスをつないで、次のスペースへ走らなくちゃ : ス & ムープで、もっと味方を使うようにしろよ : ・・・・」、「しつかり守備にも戻ろう : などなど。 でも最初の頃のペーターの反応は、以前からの「こだわり」を主張することがほとん どだった。自分のプレーイメージとヘルベルトの要求が、あまりにもかけ離れていたの である。 「ペーター そこでポールをこねくり回したら、パスを受けようとして動いていたこ っちの足が止まっちゃうよ」と、ヘルベルト。 「でも、ポールを取られたわけじゃないぜ。余裕でキープできていたし、そこで相手を 引きつけたから、逆サイドでフリーになった味方へポールを展開できたじゃないか」と、 いや、ホント、難しい 「そうじゃないんだよ。そこでポールの動きが止まっちゃったら、周りの動きも止まっ 第 1 章ポール周りだけで勝負を決めてしまう天才たち