ない。笑った顔、歪めた唇、怒って吊り上げた眉、すべてに命が吹き込まれている。それ はもう完全に芸術の域に達している。こういうことができるまんが家は本当に少ない。 吉村氏の台詞回しは、圧巻である。世の中の誰もがわかっているようで、実はまったく わかっていない真実が、ところどころに隠されている。それはある種の哲学と酷似してい る。そういう深い意味の言葉をなにげなく会話に挟めるテクニックは、真似しようったっ て真似できるものではない。 これは生まれながらの才なのだ。 吉村氏は、原稿を上げるのが遅くて、いつも担当さんを冷や冷やさせている、とご自分 のコミックスの中で書かれていたが、当たり前だと思う。あれだけの内容、あれだけの絵 をたった一月の中で描いて ( 書いて ) しまうなんて神業なのだ。一月が四〇日あったって 足りないだろう。しかしそれをやってのけて『薔薇のために』を通算六四話、コミックス にして一六巻も描いて下さったことを読者はきっと感謝している。かくいう私も今回、改 めて通しで読ませて頂いて、ものすごいパワーとインスピレーションを頂いてしまった。 久しぶりに大作にめぐりあったという感動だ。それはまんがを読んでいるというよりも、 上質の純文学を読むような、あるいは素晴らしい絵画を鑑賞するような、極上の時間を過 ごした幸福感と似ていた。お会いしたことはないが、今、全巻を読み終えて、吉村氏に感 謝の気持ちでいつばいだ。 ところで、この物語を読んで、私は小学校時代の同級生を思い出していた。 o ちゃんと ひとっき 325
薔薇のために 第 吉村明美 小学館文庫
I S B N 4 ー 0 9 ー 1 9 1 5 7 2 ー 5 C 0 1 7 9 \ 5 8 1 E 定価 . 本体 581 円 + 税 吉村明美作品 小学館文庫 麒麟館グラフィティー 今でも夢に見る 桜 moon 薔薇のために 海よりも深く あの窓 のら猫の話 フラワーコミックス スノーノヾラード 抱きしめたい 「夜へ・・・」 ラストメッセージ あなたがいれは 吉村明美 YOSHIMURA, ,AKEMI ろ月 5 日、長崎に生まれる。樹兵に育ち、 現在は札幌在住 , 角座の O 型。 1980 年、「プチコミック」にはちほうけ 花」てデビュー恋愛物語の傑作 鹿クラフィティー」、 94 年小学館 漫画賞を受賞した一薔 ) ために』「海 よリも深く』など窈弋表作がある 現在、「プチコミック」て冫崔中 9 7 8 4 0 9 1 9 1 3 7 2 2 薔薇のために 部様 2 の ~ 明 / 本 全 8 巻 全 1 巻 全 1 巻 全 9 巻 全 6 巻 全 1 巻 全 1 巻 全 1 巻 全 1 巻 全 1 巻 全 1 巻 1 ~ 5 巻 1 9 2 0 1 7 9 0 0 5 8 1 5 薔薇のために 2 恋多き母しよう子、ものぐさな姉の芙蓉、青い瞳の 兄・菫とバイセクシャルの弟・葵・・・ゆりの新しい家族 に共通するのは美貎とロの悪さとストレートな気性 だ。加えて家事能力もゼロなので、ゆりの立場は家 政婦同然。だが、ゆりは菫に恋してしまい、同じく菫 に想いを寄せる葵と家庭内恋敵の関係に ! ? そうし た暮らしのなか、ふとしたことから、ゆりは自分がしよ う子の娘ではないことを知ってしまう。 ・館 5 。 前田真三 ・吉村明美 ・・鈴木成ーデザイン室 カバー写真・ カバー・イラスト・・ カノ←・デザイン・
・エッセイ上質の純文学を読むように まんが家には、色々なタイプがあると思う。 展開でぐいぐい読者をひつばってゆく超文学派タイプ。②ストーリーはさ ①スト 1 リー ておき、その絵の類い稀な美しさ素晴らしさで読者を魅了してしまう超ビジュアル派。こ の二者には、たいてい熱烈なファンがつく。 一般のまんが家にはない、特殊な才能にあふれているからだ。 さて、ではその③、一般のまんが家というのは、どういうものかと一言うと、ストーリー 展開も絵の構図も揃って無難に平均点を越えるという職人派だ。この職人派が数としては 圧倒的に多い。そして最後のタイプが、④稀少価値派である。このタイプは神にも近い存 わざ 在である。ストーリー展開、絵の美しさ、その二つが揃いも揃って人間業を越えてしまっ ているのだ。こういうまんが家の作品に出逢うと、人生観すら変えられてしまうようなイ ー展開。 ンパクトを受ける。まさに吉村氏の作品がそうであった。予想すらしないストーリ 毎度毎度ハッとさせられる言葉の重さ、深さ。そして、その絵には脈々と命が宿っている。 登場人物の表情はまさに生きているのだ。吉村氏はただ綺麗に上手に描いているのでは 七海花音 324
小学館文庫 薔薇のために 2000 年 1 1 月 10 日初版第 1 刷発行 ( 検印廃止 ) 2005 年 2 月 1 日 著者 発行者 印刷所 発行所 第 8 刷発行 吉村明美 OAkemi Yoshimura 笹原博 大日本印刷株式会社 株式会社小学館 101 ー 8001 東京都千代田区ーツ橋 2 ー 3 ー 1 振替 ( 00180 ー 1 ー 200 ) TEL 販売 03-5281-3556 編集 03 ー 3230 ー 5456 2000 編集人 - ーー毛利和夫編集協力 小学館クリエイテイプ ・造本には十分注意しておりますが、落丁・乱丁 ( 本のべージの抜け落ちゃ順序の間 違い ) の場合はお取り替えいたします。購入された書店名を明記して「制作局」あて にお送りください。送料小社負担にて、お取り替えいたします。 制作局 TEL 0120 ー 336 ー 082 ・本書の全部または一部を無断で複製、転載、上演、放送などをすることは、法律で認め られた場合を除き、著作者及び出版者の権利の侵害となります。あらかしめ小社あて 許諾をお求めください。 囲く日本複写権センター委託出版物〉本書の全部または一部を無断で複写 ( コピー ) することは著作権法上での例外を除き禁じられています。本書からの複写を希望され る場合は、日本複写権センター (TEL 03 ー 3401 ー 2382 ) にご連絡ください。 ISBN 4-09-1 91 372-5