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検索対象: 薔薇のために 第3巻
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1. 薔薇のために 第3巻

なんて野心なぞかけらもなく、ただ、お芝居の世界に魅了されていた。新しい世界 で大いにもがき、自分自身のコンプレックスと否応なしに対峙させられた。女優の中に紛 れ込んでからも化粧前で綺麗な人と並ぶたびに、「私は女優になるべくしてなった女の子じ ない ! 」と自分に何度も言い聞かせた。そんな自分のコンプレックスがいつも知らぬ間 に、私の前に立ちはだかる。二〇代の頃はその繰り返しだった。スタイルのいい美しい女 の子の脇でいじける自分が、本当にいやでいやで仕方がなかった。 目に見える美しさを磨きようのない私は、目に見えない心を磨こうと決意する。温かさ や、細やかさや、安らぎや、目に見えない心の美しさが、いっしかどんな人の心の奥底ま で浸透し、癒し励ます事が出来る。本当の優しさの奥には強さしかない。そう、自分を信 じた。その時から、もう人と比較して小さな自分の殻に閉じこもるのはやめよう、嫌いな 自分から逃げないで大好きな自分をクリエイトしていこう ! と思ったのだ。その瞬間 お腹の奥でゴロゴロしていたコンプレックスという代物がパッチという音を立てて燃焼し だしたのだ。嫌いな自分に向けていた矛先が消え、大好きになる自分へと気持ちが変わっ ていったとき、こんな自分でも愛おしく大切に思えるようになった。私が、コンプレック スから解放された瞬間だ。 生まれたときから美しい容貌に恵まれ、自分で探し当てなくてもたくさんの愛情に恵ま れる人もいる。表面に見える美しさに滑れ、いっしか心の醜さに気がっかない不幸な女性 3 イイ

2. 薔薇のために 第3巻

中島唱子 ・エッセイコンプレックスが溶けるまで 『薔薇のために』が我が家に届いた頃、私は何度目かのダイエットに挑戦中で、ウォーキ ングに出掛けるところだった。着替えたスポーツウェアのままこの本に没頭し、三時間で 読了。読み終わった頃には、美しい異母兄弟と恋に揺れる「ゆりちゃん」になっていて、 とても、やさしい温かい気持ちになっていた。机の上にはチョコレートの屑が散乱。無意 識に大好物のチョコレートを食べながら「ゆりちゃん」と一緒に切なくなっていた。 またもや今日のダイエットも挫折、と思い切り現実の中に引き戻されていく。 この本の主人公のゆりちゃんと私、どこか似ている。私はゆりちゃんと違って、第二の 扉を開けたら信じられないほどの美しい異母兄弟が待っていたわけではない。私にとって の第二の扉、それは芝居だった。一七歳の頃、「容貌の不自由な人募集します。」というオ りんご ーディションに知らないまま連れていかれ、私は女優になった。『ふぞろいの林檎たち』か それである。小さな頃から、肉体的コンプレックスの塊のような女の子だった。恋愛も、 スポーツも学校の成績もなにひとっ取り柄のない子が芝居と出会った。最初は、対人恐怖 症で人の目を見てしゃべりたいと思い、治療のために演劇学校に行きだした。女優になろ 343

3. 薔薇のために 第3巻

もいる。私も、見た目の美しさを追い求めていた時は、自分が本当に惨めで孤独だった。 気がつくと妬みや恨みやみじめさで心が淋しさに包まれる。自分で自分のダイヤモンドを 奥に奥に深く押し沈めてきたように思う。 その後もたくさんの恋愛をし、痛い思いも幸福感も味わってきた。たくさんの人との出 会いもあり、ある時は大好きな恋人の中で、ある時は友人の中で、ある時は芝居の中で、 自分を探求してきたように思う。失望と希望の連続で今の自分がある。そしていっしか、 この心の癌である「コンプレックス」がダイヤモンドのようにキラキラと輝きだしたのだ。 誰の心の中にも、ダイヤモンドが宿っている。それに気づかず今まで、小さな自分をより 窮屈にしまい込んで、体からはみだした脂肪を押し込める事だけを考えてきた。いっしか、 三〇歳を過ぎて、美貌だけでは勝負出来ない年齢にきてつくづく思う。心を磨く事の大切 さを痛感する。小さい頃に両親に恵まれず、たくさんの別れも味わい、孤独と淋しさに打 ちひしがれたゆりちゃんだから、誰の心に対しても人間らしい優しさと温もりで包み込ん でいける。そして、ゆりちゃんは人の心の奥に沈んだ孤独や冷えきった心を癒せる輝きを 放つのだ。そのエネルギーはどんなにお金をつぎこんでも、一夜の泥棒が忍び込んでも手 にする事が出来ないダイヤモンドなのだから、これ以上の財産はない。 挫折感も疎外感も傷つく気持ちすら感じられない曇った心には、「気の強さ」が身につ く。その一方、同じ気持ちを何度も味わって自力で立ち上がった心にはどんな事も乗り越 がん わた さび 3 イ 5