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検索対象: 豆腐の如く : 融通無我のすすめ
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1. 豆腐の如く : 融通無我のすすめ

フロローグ世の中が脂っこいから、いま豆腐がうまい

2. 豆腐の如く : 融通無我のすすめ

を告げ、本土決戦なる悲壮な言葉も飛び交っていた頃である。一一度と豆腐の顔も拝 めないかもしれない。茫然自失するはど感極まったというのは、少しも大げさでは なかった。 「世の中に、こんなうまいものが存在したのかー 豆戦前には、みそ汁の具、冷や奴、湯豆腐、さらには卯の花や揚げとして、毎日の ように食べていながら、さしたる感慨もなしにロに入れていた豆腐 「あ、、これが豆腐だったのか , 舌の上のかすかにまろやかな感触を、消えていく淡雪を階しむように味わう。豆 ヒ日 腐というものを、生まれてはじめて食べた気がした。 中 現在のそれとくらべれば、あのときの豆腐は、とても豆腐と呼べるシロモノでは の 世 なかったかもしれない。 二つ並べて比較したら、間違いなく今どきの豆腐が格段に 一上だろう。しかし客観的な「味 , と、実感した「うまさ、とは別ものである。 あの日、配給の大豆でつくった豆腐を口に含みながら、「あ、、世の中にこんな うまいものがあったのか , と思った感動は、今も私の脳裡に染みついている。もっ と高級な豆腐、味のいい豆腐ならたくさん食べた。だが、あの「うまさ」を超える

3. 豆腐の如く : 融通無我のすすめ

プロローグ世の中が脂っこいから、 死の床で食べたいと思うもの 陸軍病院特製豆腐 四角四面の佛頂面だが : 目次 をとこ 「好く出來た漢」の条件 豆腐こそ、悟りきった達人の面影がある いま豆腐かうまい

4. 豆腐の如く : 融通無我のすすめ

23 プロローグ世の中が脂っこいから、いま豆腐がうまい 好き友人であり、更におでんに於ては蒟蒻や竹輪ど協調を保つ。 されば正月の重詰の中にも顔を出すし、佛事のお皿にも一役を 承らずには居ない。彼は實に融通がきく、自然に凡てに順應す る。蓋し、彼が偏執的なる小我を持たすして、いはば無我の境 ナに到り得て居るからである。金剛經に「應無所住而生其心 どある。これが自分の境地だど腰を据ゑておさまる心がなくし て、與へられたる所に從って生き、しかあるがままの時に即し て振舞ふ。此の自然にして自由なるものの姿、これが豆腐なの である。

5. 豆腐の如く : 融通無我のすすめ

をとこ 「好く出來た漢」の条件 井泉水は、〃好く出來た漢みと豆腐を呼ぶ。しかし〃好く出來た漢みとは、い たいどんな漢なのか。辞書には、「人格が優れている」「立派な人柄 , などとある。 しかし人格とか人柄といっても、ここでは抽象的すぎてあまりピンとこない 今風に一一一口えば、〃好く出来た〃というのは〃魅力的〃なことではないか。〃漢みと は、男より、大人と解釈しよう。つまり、魅力的な大人のことと、それを解釈して もいいのではないだろうか 世の中に魅力的な男女はたくさんいる。魅力の種類もさまざまだ。容姿の美しさ、 性的アピール度、知性や教養、匪格、ときには乗り回している車や、身にまとう衣 装、財布の厚さも大きな魅力になることがある。かと思うとあぶなっかしさや頼り なさ、暴力性に魅かれる人までいる。異性の醜ささえ、ある種の人には抵抗しがた い魅力なのだ。 っ

6. 豆腐の如く : 融通無我のすすめ

豆腐には、、 しまだに出合えすにいる。 戦後の日本は、欲望の一〇〇パーセント達成を目指してひた走ってきた。おかげ で、世界有数の金持ちにもなった。しかしこの頃、世間が妙 ( ノこ〃匕日っこく〃なって きたように田 5 うのは、私一人だけだろうか 満足を知らす、他人を押し退け踏みつけ、何がなんでも自分の欲望だけは満たそ うとする、脂ぎった世の中。エコノミック・アニマルとかセックス・アニマルとか、 不名誉なあだ名を項戴するに至ったこの国を思うと、五十年前の夏の抜けるような 青空とともに、あのときの豆腐の素朴な味わいが無生に製かしいものに思われてく るのである。 四角四面の佛頂面だが : おぎわらせいせんすい ところで、俳人の荻原井泉水に「豆腐」という随筆がある。 たねださんとうか お 0 きほ、つさい 井泉水は、放浪の詩人・種田山頭火や尾崎放哉の師で、大正から昭和にかけて盛

7. 豆腐の如く : 融通無我のすすめ

186 家庭にルールをつくるのは難しいことではない。失敗に学び、同しことは繰り返 すまいという気持ちさえあれは、〃わが家の憲法〃は自然にできあがる。問題は、 そういう建設的な気持ちを持てるかどうかである。 「ルールとか規則というのは、外の世界だけでたくさん。仕事で疲れて帰ってくる んだ、家庭ではくつろぎたい。〃失敗は繰り返さないみだの〃建設的〃だのと、し ち面倒臭いことは御免だ : 多くの日本人、とくに男性の正直な気持ちだろう。しかし私に言わせれば、くっ ろぎの場所だからこそルールが必要なのだ。 スポーツにルールがなかったら、試合がどうなるか想像するのは難しくない。す ぐケンカに発展するに違いないことは、ルールがあってもしはしば乱闘が起こるフ ロ野球をみても明らかだ。ケンカが起きたり、余計な協議でゲームを中断しなくて すむように、あらかじめルールが決められている。 世の中の決まりとか規則は、ものごとをスムーズに運ぶための工夫である。自由 を妨げるもののように見えるが、それがないと、かえって私たちは身動きのとれな い不自由な状態に陥ってしまう。

8. 豆腐の如く : 融通無我のすすめ

トかあったほ、つかいいたろ、つ 人の一生は、棺桶に片足突っ込んでみなければわからない。 死後四十年もたって、革命の英雄からヒトラー並みの独裁者に転落したスター ンのような例もある。 詩人のサトウ・ハチローは八つの中学を転々とした札つきの不良だったが、最後 には文部大臣賞を贈られるまでに変身した。近頃では、『塀の中の懲りない面々』 で鮮烈デピューを飾り、テレビでにこやかな笑顔を見せている作家の安部譲二氏。 若いときにはすいぶん〃ゃんちゃんだったというが、それが小説の題材になるのだ から世の中は本当にわからない。 十五や十六で、「あいつはダメだ」とか「この子はできが悪い , と思うことが、 そもそも間違っている。これから何十年も生きていく命、大きな可能性を孕んだ命 “は、つとく に対する、このうえない冒だろう。 四人の子供をそれなりに無事育て上げた今、あらためて思うのは、彼らを信じて やってよかったということ。息子や娘が優秀だから信しられたわけではない。私が 楽天家だったからでもなしオオ ) 。こご、長い目で見ることを心がけたからである。

9. 豆腐の如く : 融通無我のすすめ

境地は、到底私などのおよぶところではなさそうだ。 そもそも、いったいどれほどの人が「悟りきった達人」になれるものだろう。 つまでも語りきれすにあがき、達人になれなくて、昨日も今日ももがき苦しんでい るのが、むしろ大多数の人間のはすだ。 精神科医としての私の関心も当然ながら、後者のはうへ向かう。 著書や講演のたびに、「ストレス時代を幸せに生きる方法」などなどについて、 手を替え品を替えていろいろ話してきたのは、自分も明らかにその一人である〃達 人になれない人たちんへの、いわは共感を込めたエールなのだ。 ところが意外にも、私が常々語ってきたそれが、井泉水の豆腐、悟りきった達人 の生き方と、驚くはど奇妙に似ているのである。 一つ例を挙げれば、先程の「應無所住而生其心」の一節。 「これが自分の境地だ と腰を据ゑておさまる心がなくして、與へられたる所に從って生き、しかあるがま まの時に即して振舞ふ」というのは、この何十年か機会あるごとに述べてきた、 「 +Z-«O に従って行動する」こととまったく同じではないか。 達人の生き方と、達人にはなれないが、せめて世の中を楽しく暮らそうというつ

10. 豆腐の如く : 融通無我のすすめ

侍って最後に天下人となった徳川家康はこの性格の代表である。人づきあいが好き で、喜んで他人の面倒をみる。しかし浅く広い、八方美人的な交際になりがちだ。 陽気で開けっ広げな一面、苦労性で、取り越し苦労も多い。過去にとらわれす、考 え方が常に現実的なのも政治家には必要な条件だろう。 ④内閉性性格 ( 分裂性格 ) ひと言で言えば、非社交的で、自分のカラに閉しこもるタイプ。他人からはヘン ろ クツなやっと見られやすいが、特有な才能を発揮する天才肌で、山頭火や放哉のよ てうに昔の文士にはこのタイプが多かった。繊細で、空想的なために世の中を渡るの 娵はヘタである。金勘定のような世事にはウトいが、高い理想を抱き、まわりの評価 工など気に留めすに、そこへ向かってまっしぐらに邁進する。ある人には熱狂的に愛 章されるが、誤解されることも少なくない。芥川龍之介が島崎藤村を評して、「あい ろうかい 第つは老獪な偽善者だ」と言ったが、内閉性性格の天才同士の近親憎悪と言えるだろ